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第一章:轢いたと思ったら異世界だった
その6 再び一人
しおりを挟む「おお……なんだこれは……」
「で、でかい……鉄の塊か?」
アグリアスが助手席を開けたままにしているので一緒についてきたらしい人が数人、外で思い思いの言葉を口にしているのが聞こえてくる。
そんな人たちはよそに、アグリアスが柔らかく微笑みながら俺に言う。
「お父様に事情を話してきましたわ。とりあえずこの乗り物を町に入れてくださいますか? 場所は一緒に乗っていきますから」
「オッケー。おーい、近くに居る人達、トラックから離れてくれ! 門に向かう」
俺の言葉に慌てて離れていく人影……は15人くらいいた。野次馬根性がすげえな。
バックミラーや窓を開けて目視による安全を確認しながら切り返す。
「こいつ……動くぞ……!」
「こういう時、慌てた方が負けなのよね」
「震えながらなにいってんだお前」
さすがにこの鉄の塊が動くのはびびったのか雲の子を散らすように人影が離れて行く。
俺はさっさと移動させ、開いた門の向こうへ入ると、古めかしいような懐かしいような建物がヘッドライトに照らされ、俺は周囲に目をやりながらゆっくりと進む。
石畳がトラックの重量を耐えられるか分からないし、夜の町ってのもおつなものだと思ったからだ。
アグリアスに誘導されて町の中心に向かうトラック。
ちなみにこの町の名は『フレーシュ』というらしい。
『王都』と呼ばれるいわゆる王様がいる町ではないが、領主が居るのでそれなりに大きく、中央の時計塔から東西南北に分かれる大通りは商店や住宅街などに通じていて、やや北側にある丘に領主の屋敷……アグリアスの家がある。
今回はその屋敷にある木の傍で停車することになった。微妙に隠れないので目立つな……
「ここでいいのか? 目立たない?」
「ええ。今日は遅いので申し訳ありませんが明日お話の場を設けさせてもらってもいいでしょうか?」
「俺は構わないぜ。色々聞きたいこともあるけど……ふあ、緊張が解けて眠くなったから、そうして欲しいくらいだ」
「ふふ、そうですわよね。では、ヒサトラさんもお屋敷でお休みになられてください」
「あー……」
もはや急ぐ理由もないので、アグリアスの提案を受け入れることにした。
彼女は屋敷で寝泊りをと言ってくれたが、
「俺はトラックで寝るよ、こっちに来たばかりだし夜に離れるのもちょっとな」
「そうですか……では、わたくしとサリアは戻りますので朝、呼びに来ますわね」
「よろしく頼むよ。……って、サリア俺の寝床で寝るんじゃない!?」
「フッ、流石はヒサトラさん。目ざといですね」
「いや、すぐ横でごそごそされたら気づくだろう……」
「ほら、戻りますわよサリア」
「ええー……カムバック、ヒサトラさん!」
いやそれは出て行くお前だろと思いながら二人を見送り、俺は扉をロックしてから座席後ろの仮眠ベッドへ寝転がる。
先ほどまでサリアやルアンが騒いでいたので急に静かになると寂しいものがあるな。
バッテリーでは動いていないらしいがなんとなくバッテリーを気にして室内灯を消すと、月……でいいのか? その明かりが車内に差し込んでくる。
「この世界の月もキレイなもんだ。とりあえず言葉が通用するのが助かったな。これもルアンのおかげなんだろうか? あいつにはもう少し聞かないといけないことがあるが――」
これから母ちゃんが来るまで、いや来てからもこっちで生活をしないといけねえんだよな……少なくとも、生活基盤だけはしっかりして迎えないと……。
「癌か……」
たとえこっちに来たとしてもどれくらい生きられるのか?
ルアンが病気を治療してこっちへ連れてくるくらいはできないものか。
いや……ここは異世界だ、癌が治るエリクサーとか回復魔法みたいなものを探すのもいいかもしれない。
金はある。
移動手段は……目立つがトラックを使えば問題ないだろう。
「どうせ失うものはなにも無し、だな」
せめて俺を生んで良かったと思われるくらいの親孝行はしない……と、な……。
俺は疲れた体を休ませるためあっさりと意識を手放した――
◆ ◇ ◆
『さて、と、これから忙しくなるわね。まあ、いきなり異世界にぶっ飛ばされて怒らないヤツの方が珍しいけど』
私はカーナビに繋がっているパソコンのモニターを見ながらひとり呟く。
今はなにも写っていない真っ黒な画面。
実際、あれはギリギリだった。
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地球の神がそれとなく教えてくれたおかげで回避できたが、神協会においてグレーゾーンのやり取りなので少し背中に冷たいものが走ったのは事実だけどさ。
『ま、世界が壊れるよりいいしね。ヒサトラさんには申し訳ないけど、お母さんを含めてしっかりバックアップしてあげるから許してねー! さ、力を回復させるために寝るわよお♪』
魔王の脅威を退けた私は力の回復のため眠る。
念のため、ヒサトラさんの母親をモニターに映してから――
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