パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
375 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その396 世界

しおりを挟む


 「終わりよズィクタトリア」

 私は駆け出しながら恐ろしく冷静に呟く。私達にやられた傷が癒えにくいのか、その場を動かず迎え撃つつもりのようだ。なら、そのまま立ち止まっていてもらいましょうか!

 「レジナ!」

 「ガォォォォン!」

 『うぐぉ……足に……!?』

 「はああああ!」

 渾身の力を込めて愛の剣を振り下ろす。ズィクタトリアは私の剣を光の刃で受けると、左手で魔法を撃つ構えをする。

 『”破滅の――”』

 「させませんよ!」

 カイムさんが私に向けようとした手を捻りあげ明後日の方向へ光が飛んでいく。捻りあげた腕を振りはらうと続けてレイドさんの剣が左の脇腹へ食い込んだ

 『ぐ、ぬぬうう! 消えろ消えろ消えろ! ”神ヘノ服従”』

 「うわ!?」

 「きゃあ!?」

 「動けない……!?」

 ズィクタトリアが放った赤い衝撃波がみんなを襲い、その場にくぎ付けにされる。これが本当の切り札のようで、追撃をすぐにせず肩で息をしていた。

 『はあ……はあ……おのれ……ここまでせねばならんとは……まあいい……一人ずつ――』

 「だから……させないっていってるでしょうが!!」

 『ぐああああああ!? ルーナだと!? なぜ動けるのだ!? 神の力ある言葉を!』

 「今の私はエクソリアさんと同義よ、女神の力<クライシスエンド>に私の魔王の血が神であるあんたと同等以上の力を発揮できているのよ!」

 ガン! カキィン! ドシュ!

 『馬鹿な……馬鹿なぁぁぁぁ! まだだ……まだ……!』

 「終わりよズィクタトリア!! この世界から消えろぉぉぉぉぉ!」

 パキィィィン……!

 『う……ぐ……』

 ドサッ……

 「はあ……はあ……!」

 剣をズィクタトリアの首を貫通させ薙ぎ払うように切り裂く。文字通り首の皮一枚で繋がっているそこから、大量の血があふれ出し前のめりの倒れた。

 「ルーナ!」

 「あ……レイドさん、動けるようになったのね……」

 「ああ、何とかな。ルーナの魔王の力と同じく、これも勇者の力のおかげだろう。大丈夫か? ……だが、やったな」

 「うん。これでこの世界は――」

 私が安堵していると、神裂の声が響く。

 「首を引きちぎれ! まだとどめを刺せていねぇぞ!」

 「なんだって……!?」

 『ぐ……ぐぐ……し、死ぬ……死んでしまう、神であるこの私が……』

 これでも死なないの!?  ぐちゃりと嫌な音を立てて首をくっつけるズィクタトリア。襲い掛かってくるかと思ったけど、後ずさりをはじめる。

 『く、くく……甘く見ていたのは詫びよう……だが、お前たちの力は見切った。い、今はこの世界を預けておくが私は必ずこの世界を滅ぼすために、帰ってくる……!』

 「逃げる気! この……!」

 『”破滅の光”! 離せ畜生がぁ!』

 「ぎゃん!?」

 「レジナ! くう……! まだこんな力を……!」

 『……ギリギリだよ。なるほど、神裂がルーナを欲していた理由が今なら分かる。だが、魔王であるお前とて寿命はある。私はお前たちが居なくなった後、ゆっくり滅ぼしてやることにしたよ……』

 汚い……! やっぱりここでこいつは倒しておくべきだと、私は近づく術を考える。するとズィクタトリアは水槽から飛び出て倒れていたアイリの近くへ行く。

 『さ、さすがの私も腹に据えかねたよ……神裂、お前の大事な子供の一人くらいは始末させてもらうぞ……!』

 「チッ……やれるもんならやってみやがれってんだ……」

 いつもの悪態をつく神裂だけど、冷や汗をかいているところをみると今度こそ策は無いらしい。今動けるのは私とレイドさんだけ、距離は十メートル、一気に駆け出してアイリを助けられれば……一回きりの大博打。失敗は許されない……!

 『……お前たちが一歩でも動けばこいつの頭はざくろうのようになる。水槽で治癒を促していたんだろう? 残念だったな。まあ、私が逃げた後、魂ごと消してやるがな!』

 ダメか、これはもう賭けるしかないと足を踏み出そうとしたその時だった。

 「……おい、女を盾とは俺みてぇなことをするんだな、神ってやつもよ……!」

 ザクン……!

 『な!? ぐああああああああ!?』

 なんと、気絶していたはずのアントンが背後に回り、アイリの腕を掴んでいたズィクタトリアの腕を切断したのだ。直後、アイリを投げ飛ばし遠くへと離す。そうか、アントンも勇者の力があるから動けるのね!

 「返してもらったぜ! うお!?」

 『アントォォォン! 貴様のような小物にぃぃぃぃぃぃ!! ならば貴様の命を貰っていく!』

 ズィクタトリアは残った腕でアントンの首を掴み持ち上げ、そのまま崩れた壁の方へと走り出した。落とす気!?

 「へへ……神にワンパン入れてやったってあの世で自慢してやるぜ……!」

 『魂を消されてそんな戯言は言えんようにしてやる……! 死ね!』

 「いけない……! <クイックシルバ>!」

 「ルーナ!」

 重ね掛けの要領で私はさらに速度を上げ――

 『んなにぃ!?』

 「アントン!」

 「うおおお!? ……おいルーナ、てめぇ!」

 「みんなをよろしくね!」

 私はズィクタトリアに体当たりをし、アントンを掴むと塔の床へ投げ捨てた。体が入れ替わるようになった私はズィクタトリアと共に……落下を始めた。

 『馬鹿な!? あんなクズのために死ぬつもりか!?』

 眼前に迫るズィクタトリアが驚愕の表情にゆがみ私に問う。

 「最初はクズでどうしようもない奴だったけど、人間はやり直しができるのよ。アントンは立派にやり直した。だから、クズなんて言わせない……!」

 『は、はははは……人間め……どこまでも……』

 「あんたたちが作った人間が、今神を越えるわ!」

 『私は死なん……! たとえ地面に叩きつけられたとしても……!』

 ズィクタトリアはにやりと笑いそんなことを言う。風で目を開けるのが辛い。トドメはどうすればいいんだろうと考えていると――

 <心臓じゃ! 体ごと細切れにしてやれ!>

 「チェイシャ!?」

 <で、でも、愛の剣の真価が発揮できていないっぴょんよ!?>

 <ハッ! 大丈夫さね。女が馬鹿なら、男はもっと馬鹿だってこと>

 <耳が痛いよね……>

 どういうこと……? チェイシャたちが好き勝手に色々言っていると、上から聞きなれた声が聞こえてきた。

 「ルーナぁぁぁぁぁぁ!」

 「ええ!? レイドさん!?」

 ものすごい勢いでレイドさんが落ちてくるのが見えた! 装備が重いせいか私に追いつき、追い越しそうな勢いだ!

 「剣を構えろ!」

 「え!? こう!」

 直後、レイドさんが追いつき、私の剣を掴むと、ぐんと速度が伸びる。もレイドさんが私を抱きかかえるようにし、剣をズィクタトリアへ向けた。

 「お前だけ死なせるわけにいかないだろう?」

 「レイドさん……」

 『や、やめろ……!? 私は神――』

 <いけぇぇぇ!>

 <愛の力がマックスだっぴょん!>

 「「うわあああああああ!」」

 ドズン……

 『ぐぶ……』

 光り輝く愛の剣がズィクタトリアの心臓を捉えた。細切れにするには振り切るしかないと思っていたけど、その瞬間、ズィクタトリアの体が大きく膨れ上がった。

 『あ、ああああああああああ!?』

 ぶちゅ!

 そして、ズィクタトリアの体ははじけ飛び消滅した。

 「今度こそ終わりね……」

 「ああ……」

 地上まであとどのくらいだろう? まだ見えぬ地上を考えながら、私はレイドさんに話しかける。

 「ね。<ドラゴニックアーマー>で何とかならないかな?」

 「いや、無理だろう……。この高さだし……いや俺がクッションになればもしかしたら……?」

 「それは嫌よ? 私だけが残されてもショックで死んじゃいそう。だったらレイドさんを残すわよ! 魔王は勇者に倒されました、って」

 「……馬鹿いうな」

 「ごめんなさい……」

 それでもかばうように抱きしめてくれるレイドさん。ああ、この人とならと思っていると、陽が昇り始めるのが見えた。

 「……綺麗」

 「だな。俺達はこの世界を守った……それで、いいか……」

 「そう、だね……」

 私達はそのまま、意識を失った――
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。