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最終部:タワー・オブ・バベル
その394 復活
しおりを挟む「ルーナ、わたしに補助魔法を!」
「え、ええ!」
面食らう私にフレーレの声が響き、慌てて上級補助魔法全てをフレーレとカイムさんに使う。直後、カイムさんの姿がゆらりとぶれた。
「流石はルーナさんの補助魔法。自力で使えないのが悔やまれますがこれならば……”朧影月”……」
「嘘!?」
カイムさんがなんと六人に分身した。天井、床、壁とあちこちに展開し、一斉にズィクタトリアへと襲い掛かる。するとアネモネさんが驚いたように声を出す。
<あいつ……極意を習得したんだ、やるねえ……>
「どういうこと?」
<あれは朧影月といって見ての通り分身の術なんだけど、一定以上の素早さ、それと魔力が無いと維持すらも難しいんだそれともう一つ――>
アネモネさんの解説を聞きながらもカイムさんの動きから目が離せない。ズィクタトリアも光の刃を振り回すが、それは掠りもせず切り刻まれていた。
『分身とは使い古された技を!』
「これは古いんじゃない、伝統というものです!」
『どうせ影がないのは偽物とかいうオチ……なに……全部に影があるだと!?』
<そう。あのカイムは全て本物と同じ肉体をもった分身なのさ。故に、どれが本物か判別するのは非常に難しい>
アネモネさんが楽しそうにそういうと、カイムさんがニヤリと笑い叫んだ。
「私も負けっぱなしは悔しいですからね。たあぁぁぁぁ!」
『ぐお!? おのれ、全て貫け”アークジャベリン”!』
「む!」
五人のカイムさんが持っていた刀を全身に突き刺し離脱する。だがズィクタトリアも反撃をし、指から白く輝く槍が飛び出てカイムさんへ向かう。槍がヒットするとカイムさんの姿がぶしゅると音を立てて霧散する。
「あ、あれ? 全部消えちゃったわよ!?」
<あいつ、極意の上を!?>
アネモネさんが驚愕の声をあげるとともに、カイムさんの声がどこからともなく聞こえてくる。
「フレーレさん!」
「はい! ”ファイナルインパクトぉ”!」
『ぐぉぁああぁぁぁ!?』
「えええ!?」
ビショップらしからぬ持っていたメイスを頭上で回転させていたフレーレがそれを一気に振り下ろす。ズィクタトリアはその一撃で床にめり込んだ。動かなくなったズィクタトリアを警戒しながらフレーレがこちらへやってきた。
「ルーナ!」
「フレーレ! ぶ、無事だったの? それにその恰好……」
そう、無事だったことも驚いたけどフレーレの服装が白一色だったのに、今は黒いローブを着ているのだ。すると、レイドさんも自分の影に向かって声をかける。
「それにカイム、お前もだ。一体なにがあったんだ?」
「流石レイドさん。私の位置を把握していましたか」
「わ、びっくりした」
影からカイムさんが飛び出し並び立つ。フォルサさんもエクソリアさんの治療を終えてこちらに来る。そして、フレーレがズィクタトリアに近づいていく神裂を見ながら口を開いた。
「あの人……神裂さんが仕組んだ神様を倒す計画は聞きましたか?」
「ええ。ちょっとびっくりしたけど、概ね聞いたわ」
「そうですよね……わたしも鎖で引き揚げられた後、気づいたらここの奥の部屋にいて、神裂さんに説明を受けました。で、わたしは……わたしたちは万が一ルーナがズィクタトリアを倒せなかった場合を考え、神に対抗できる力をもらったんです」
「そんなこと……できるの? あ、でも」
私は近くでのびているアントンを見て思い至る。そこでこちらを向いた神裂がニヤリと笑い、言う。
「そういうことだ。こいつは一筋縄じゃいかねぇ。だから戦える人数は多い方がいいと考えた俺は、今までかき集めた恩恵、それとアントンから回収した勇者の恩恵を使って改造したってわけだ」
「なるほどね……でも、フレーレはなんで黒いの?」
「あ、こ、これはその……わたしってビショップですよね? 神様に仕える職業です。でも、今ここで戦っている相手は神様そのものです。その決意として逆の色にしたんです!」
「あ、うん……」
力を込めてそんなことを言うが割とどうでもいい話だったので脱力する私だが、フレーレが生きていたことを喜ぶのはもちろんこの人もだ。
「フレーレ、良かったわ……」
「はい! ってフォルサさん!? どどどどうして生きているんですか!?」
「あなたがやられたと聞いて地獄の底から蘇ったのよ」
まったく悪びれた様子もなくそんなことを言う。
「絶対嘘です! でも生きていてくれて嬉しいです……」
「私もよ」
そう言って抱き合うと、私も少し涙ぐんでしまう。でもフレーレとカイムさんだけなのかしら? 他にも死んだ人はいるんだけど。そう思い神裂に声をかけようとすると、
「チッ、そう簡単にはいかねぇか! おい、お前等構えろ!」
ブオン!
『くそ、魂は向こうへ連れて行かねば処理できん……うっとおしいやつめ……』
「神裂!」
「俺はこいつにやられることはねぇ、だけど俺もこいつをなんとかできねえ。だから任せるぜ!」
「あ、ちょっとどこ行くのよ!?」
神裂はフワッと宙に浮き、どこかへ飛び去って行く。答えが返ってくる前に、ズィクタトリアが私たちへと迫ってきていたのでそれを迎え撃つ。
「レジナ達は下がってなさい! たああああああ!」
「ルーナ、無理をするなよ! はあ!」
「《マジックランス》!」
『調子に乗るなよ人形どもが……!』
ガギン! と、私の剣を弾き、レイドさんを迎え撃つ。フレーレの新魔法は先ほどのアークジャベリンとかいう技で相殺をしていく。
だが、腕は二本しかない。こちらはそれを上回る人数で猛攻を仕掛ける。
「とぁぁぁぁぁ!」
「いいぞカイム! 真空烈破ぁ!」
『ぐぬ……!? 神裂め、よほど私を殺したいらしいな……! ”神の光”を見よ!』
カッ!
「いけない! 《シャインウォール》!」
「うおお!?」
ゴゴゴゴゴ……
『しつこいな……』
咄嗟に張ったフレーレの防御魔法で私達やエクソリアさんに直撃するはずだった魔法は大きく逸れ、壁に激突。その直後、完全に壁が崩れ去り外が丸見えになる。
「あんなの当たったらただじゃ済まないわ……ありがとうフレーレ」
「ふう……魔力をかなり持っていかれますけど、守りは完璧ですよ……!」
『ふん、肩で息をしているくせに生意気なことを言う娘だ。その様子だとすぐに防御魔法は使えないと見た。もう一度使うまでだ……!』
「こっちよ!」
「みんな散れ! 俺が斬り込む!」
レイドさんが阻止しようとズィクタトリアへ斬りかかる。だが、ズィクタトリアはそれを見越していたのか、不敵に笑いスッと手をレイドさんへ向けた。
『まずは勇者から死ぬか! ありがたいな!』
「どうかな……!」
強がるけどレイドさんの顔には焦りが浮かんでいる。間に合って……! しかし、私の願いは届かず、レイドさんの剣より速く、魔法が発動する。
「くっ……!」
「シュリケンでは弾けないか……!?」
もうダメかと誰もが思った瞬間、私は予感めいたものを感じて思わずとある人物の名前を叫んでいた。
「カルエラートさん!」
私の声が響いたその時――
シュルルルル……
『な!?』
ドゴン!
発動した魔法はレイドさんとズィクタトリアの間に飛んできた大きな盾に阻まれて消えた。やっぱり神裂は――
「呼んだか、ルーナ? 私の助けが必要なようだな!」
「カルエラートさん!」
するとその後ろから、
「お兄ちゃん苦戦中? ま、私が来たからもう安心よ! ね、ニールセン?」
「ええ。今度は足手まといには……なりません!」
セイラとニールセンさんが。さらに、
「おーおー、若いってのはいいねぇ」
「茶化さないの! ごめんね心配かけたけど、私たちも戦うわ!」
クラウスさんにシルキーさんが姿を現した! やっぱり全員助けていたんだ! すると神裂が額をぬぐいながら喋り出す。
「ガキンちょふたりはまだ調整中だ! だけど、これで十分だろ!」
<おお……みな生きておったか……!>
<オイラ達みたいにならなくて良かったよね>
この塔に入った子供っぽいふたりといえばソキウスとチェーリカのことに違いない。これで全員無事だということがわかり、私は気持ちが高揚する。
「覚悟を決めてもらうわよ、ズィクタトリア!」
『ぬかせ! ここで殺せばいいだけの話だ……!』
これが恐らく最後の攻撃になる。いや、そうするのだと、愛の剣を握り直し駆け出した!
応援ありがとうございます!
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