上 下
370 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その391 不屈

しおりを挟む
 
 「はあ!」

 「だぁりゃああ! 師匠の仇にもなるとはな神裂ぃ!」

 ガキン! ガキン!

 レイドとアントンが左右から斬りかかり、神裂はそれを両の腕で受け止めてから笑う。

 『ぎゃははは! いい気迫だ、そうこなくっちゃな!』

 「チッ、腹に剣を刺したまま何を言ってやがる……!」

 ガチンと受けた剣を振り払われたアントンは態勢を整えながら悪態をつく。逆にレイドはしっかりとした足取りのまま神裂へ猛攻を繰り出す。

 「お前に体を貸していたゲルスも殺したか! お前はなぜこんなことをする? 言え!」

 カカカカカ、と神裂に得意な間合いを取らせずに迫るレイド。全て防いでいるが、不利と見た神裂は攻撃範囲から逃れようと身を捻った。しかしレイドはその動きを見逃さなかった。

 「うおおおおお!」

 『おおおお!?』

 神裂の動きに合わせて右肩に剣を突き刺し、そのまま壁へと縫い付けた。顔を近づけてレイドはもう一度神裂へと問う。

 「……言う気になったか? 今のお前は剣でダメージは通るまい。しかし、手足を切断して行動不能にすることはできる」

 『ほう、いい面になったな。そうだ、その『なにが何でも』という強い意志が必要だ』

 「どういうことだ……?」

 目を細めてそんなことを言う神裂に、レイドが訝し気に聞き返す。しかし神裂はフッと笑ってグググ、と身体を動かし始める。

 『ぐ、ぐぐ……ははは、口が、滑っちまったなあ! まだまだ俺は元気だぜぇ!』

 「!? アントン!」

 「お、おう!」

 ぶちぶちと嫌な音を立てながら剣から肩を強引に引き抜こうとしていたので、レイドはアントンを呼ぶ。意図を理解したアントンは左肩へ剣を突き立てる。

 『うぐお!? 野郎、痛みはねぇが刺さった感触は気持ち悪ぃんだぞ?』

 「うるせぇ! おい、レイドさん、この後どうするんだ!?」

 「あそこにいるフォルサさんに来てもらう」
 
 レイドが目を向けると、小さく頷くフォルサが見えた。

 「このまま縫い付けて回復魔法をかければお前は終わりだ」

 『おめでたいな、このまま俺が大人しくすると思うか? はあ!』

 「うえ!?」

 「ぐっ、まだそんな力を……」

 神裂は両足でレイドとアントンを蹴り飛ばすと、肩から剣を抜いてふたりに投げる。そして首を鳴らしながら腕を回し、構えを取った。

 『さあ、来い』

 「なんなんだこいつ……」

 「楽しんでいるのか、それとも……。アントン、”ディスタントゼロ”を放て。あれなら吹き飛ばすこともできるだろう」

 「ど、どうやるんだよ」

 「剣に集中するんだ。お前も勇者の恩恵があるならできるはず。その間は任せろ」

 「無茶させやがる! ……こうか……」

 アントンがぐっと剣を握り込むと、蒼剣ディストラクションがほのかに光る。それを見届けたレイドは神裂へ駆け出す。

 「行くぞ!」

 『ひとりか? そんなんで大丈夫かねぇ!』

 「お前の目的を聞くためにはやるさ! ”竜咬牙”!」

 『速ぇ!?』

 ザン!

 レイドの技は神裂の目でも捉えられず、咄嗟にかばった左腕の肘から下が切断され床に落ちた。すかさずレイドは床に落ちた腕をフォルサの方へ蹴り飛ばす。

 『てめぇ、やりやがったな……! ”崩!!』

 メキィ! 

 「ぐは!? 鎧の上からなのにこの威力とは……!」

 『俺の世界にゃこういう技術もあるんだよ! おらぁ!』

 「なんの……!」

 レイドの剣に付き合わず、神裂も懐に飛び込んで攻撃をしてくる。片腕を失ったため、神裂の攻撃はかなり緩くなっていたが、それでも足を使ってそのハンデを補ってくることにレイドは感嘆していた。

 「どうしてそこまでするんだ! 自分の子供達を殺してまで、この世界に何を求めている! ……ぐうう!?」

 『がはっ……! 求めるものなんざ、ねえよ! ただ破壊するのみ!』

 「だが、それならば回りくどいことをしなくても済んだはずだ!」

 『……女神だけなら――』

 「なに?」

 少しだけ真顔になった神裂がポツリと呟いた瞬間、アントンが叫んだ。

 「で、できた……! レイドさん、どいてくれ! ”ディスタント……ゼロォオォ”!」

 蒼い衝撃波がディストラクションから放たれ、神裂とレイドめがけて飛んでいく!

 「これでしばらくは動けまい!」

 『てめぇもな!』

 「なんだと!?」

 離脱しようとしたレイドの腕を掴みにやりと笑う神裂。ディスタントゼロにレイドを巻き込むため拘束する。

 「お、おい!? レイドさん離脱しろよ!?」

 「離せ……!」

 『仲良くしようぜ! ――だ』

 「お前は!?」

 グァ!

 衝撃波はそのまま驚愕の表情を浮かべたレイドと不敵に笑う神裂を飲み込み爆発する。突き抜けた衝撃波は壁を破壊し穴を開けていた。

 「マジかよ!?」

 もうもうと立ち込める煙を見て焦るアントンがレイドの様子を見に行くため動こうとしたその時、

 「!?」

 ガン! と、煙の中から現れた神裂の拳を剣で受け止めていた。

 『今までのお前なら確実に殴られていたな! 成長したじゃねぇかアントンよぅ!』

 「か、神裂!?」

 全身血だらけの神裂がアントンを蹴り飛ばす。直後、みるみるうちに傷が消えていくのを見てアントンが喉を鳴らす。

 「ば、化け物かよ……」

 『神だっての。まあ、反転術を使っていなけりゃ死ぬだろうな。それに俺の意識が飛べば反転術は効果を発揮しなくなるから、少々危なかったぜ?』

 「意識を……ぐあ……!」

 強くなったアントンだったが、流石にここまでして動く神裂を前に震えあがってしまった。殴りかかってくる神裂に抵抗できずダメージを負う。

 『さて、レイドは俺の片腕を斬り飛ばしてくれた。中々の貢献だったがまだ届かねぇぞ? あとはお前だけだ。いや、あの姉ちゃんを縊り殺せばゲームオーバーか? とりあえず後ろから攻撃されるのも鬱陶しいから、死んでおけ』

 「う……!?」

 ひひひ、と嫌な笑いを浮かべて拳を振り上げ、アントンは庇うように腕をクロスさせた。無駄だとわかっていても生存本能がそうさせるのか。しかし、神裂の拳はいつまでも振り下ろされることは無かった。
 
 『……運が良かったなあアントン。本命が登場だ。……なあ、ルーナ?』

 「……よくも……レイドさんを!」

 
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。