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最終部:タワー・オブ・バベル
その386 平行線
しおりを挟む『さて――』
ターン!
キィィン!
「!」
神裂が何かを喋ろうと口を開けた瞬間、神裂の目の前で乾いた音と火花が散る。私が慌てて振り返ると、銃を構えたユウリが舌打ちをしていた。
「チッ、流石に油断がないな……」
『はっはっは! いきなり発砲するとは伊達に俺の息子じゃねぇな、おい! ま、見ての通り防弾ガラスだからそんなのじゃ割れないぜ?』
いきなりのことでびっくりした……! どうやら神裂の言うことは本当のようで、ユウリは渋々銃を下げる。私は一息ついてから神裂へ話しかけた。
「あんたの目論見通りここまで来たわ。世界を滅ぼすのを止めて、降参してもらえないかしら」
『おいおい、本気で言ってんのか? 今の俺は神だが極悪人だぞ? お前達の仲間はほぼ消してやったことを忘れたか?』
神裂は腕を組み、呆れたように私へ返す。フレーレ達の顔を思い浮かべ、私は泣きそうになるけど、ぐっとこらえて続ける。
「……わかってる。あんたは最低最悪の男よ。ここで倒してしまいたい……でも、倒して世界の崩壊が止まる保障は無いわよね? あんたが死ぬと同時に世界を崩壊させるかもしれないじゃない」
『くく……俺と話し合いをするとか言っていたが、なかなかどうして考えているじゃねぇか。それは聡明な考えだ、俺もそっちの立場ならそう思うぜ? 安心しな、俺を倒……殺せば崩壊は止まる」
私が無言でその言葉を聞いていると、アイリが前に出て喋り出す。
「ねえ、お父さん。もうやめよう? 私達異世界の人間がこの世界をどうにかするなんて間違ってるよ。お父さんのやったことは許されないけど……」
「……罪を償うなら俺も手伝う。なんとか手を引けないか、父さん?」
ノゾムも腕を組んだまま神裂へ言う。だが――
『ぎゃっはっは! ユウリと違ってお前等ふたりはおめでたいな! ここまでやらかして、はいそうですかと止められるわけがねぇだろうが。ゲルスを狂わせ、アントンを苦しめ、恩恵の実験と称してあらゆる人間を食い物にしてきたんだぜ俺は? そしてお前等の仲間はここで死んだ。もはや俺が死ぬか、お前らが諦めるか。そういう段階なんだよ』
神裂が玉座から立ち上がり、バサッとローブを脱ぐ。ローブの下は、ノゾムと似たような真っ黒の服を着ていて、腰にダガー、左脇の下にユウリのような銃を入れるホルダー。さらに両手にはごついガントレットを装備している。ニヤリと笑う神裂に背筋が寒くなる思いがした。
「……やっぱりダメなの……」
「がううう……」
「わぅぅ!」
私が剣を握ると、レジナとシルバが姿勢を低くして唸り声を上げる。そして黙って聞いていたレイドさんが前に出た。
「……いいだろう。これが最後だ、必ず倒す!」
「シロップとラズベはあっちへ行ってなさい」
「きゅんきゅん!」
「きゅふん!」
二匹は大人しく端へ寄ってくれ、安堵する。そこでエクソリアさんが神裂へ問いかける。
『……ここまで長かったよ。余力は残してきた。ズィクタトリアの力はどのくらいだい?』
『ぎゃははは! 覚えていたか。……八十%ってところだな。今ならお前等姉妹が全力出せば勝てるかもな? ここまでよく耐えたよお前達も。俺を倒したあと、この世界の実権を握るチャンスだしなあ? またルーナ達の世界の人間を弄べるもんなあ』
『そ、そんなことするわけないでしょ! 適当なことを言わないで! 妹ちゃん、一気に叩くわよ!』
アルモニアさんが槍を構えて激高する。だが神裂は続ける。
『お前等もズィクタトリアに使われた哀れな操り人形だ、同情はするぜ。だが、この世界をもう一度構築したい、そう思ってるんじゃないか?』
『……!?』
「エクソリアさん?」
『ボ、ボクはそんなことを考えていない……! そこから出てこい、決着をつけてやる!』
『女神の私達に言ってくれるわね。あなた達は下がって。すぐに片づけてやるわ』
苦い顔をしたエクソリアさんとアルモニアさんが神裂を睨みつけると、パチパチと手を叩いて玉座にあったらしいスイッチを押す。
ウィィィン……
透明なガラスが段々と上に上がっていく。その様子を見ながら、神裂は一歩ずつこちらへ近づいてくる。
「僕達をこの世界に生きさせるつもりだったのかい? 元の世界の人間を排除して世界を変えてその世界で僕達が生きる」
『……』
「なら、僕達をルーナ達に会わせたのは失敗だった。僕は……僕達は父さんの敵に回る!」
ガラスが半分を過ぎたか、というあたりでユウリが駆け出し、足を狙って銃を発砲した!
「ユウリ!」
『あ、ちょ!? ボク達が行くって言ったのに飛び出すのかい!?』
エクソリアさんが躊躇している中、神裂は肩を竦めながら大声で叫んだ。
『はっ! やっぱり最初はお前かユウリ! そうだよな、大好きなフレーレが死んじまったもんな! あいつの死にざまは凄かったぜ、首が――』
「その口を閉じろクソ親父ぃぃぃぃ!!」
タンタンタン!
片手で銃を連射し、左手は腰のダガーに置いていた。いつでも抜けるように。神裂は最小限の動きで弾を避けると、まばたきをする間の時間でユウリの真横に立っていた。
「な!?」
『おせぇぞユウリ!』
直後、神裂の右腕がユウリの顔に迫る。
「まだまだぁ!」
ユウリは無理やり体をひねってダガーを引き抜き、拳をガード。だが、それを見越した神裂の足払いがあっさりユウリを地面に転がした。
「ぐっ……」
『まずは一人、と』
容赦なく頭を踏みつけようと足を上げたところで、銃声が響く。
「ユウリ! 早く起き上がって!」
『おっと。アイリか! 反抗期はとっくに終わったろうになあ! ぎゃははは!』
間一髪、神裂が後ろに下がると、ユウリは転がるように立ち上がりさらに発砲。だけど、ガントレットで簡単に弾かれてしまう。
「チッ……」
『そら、どうした? 俺を殺すんじゃなかったのか?』
『ボクはそのつもりだよ! その首を貰う! ”女神の光剣”フルパワーだ!』
『はっ!』
エクソリアさんがいつも出す光の刃を肥大化させ神裂へ斬りかかる。ガキンという音がガードしたことを告げると、エクソリアさんの背後から槍が飛び出す。
『あぶねぇあぶねぇ』
『当たらない……!?』
『見え空いてるんだよ! ……なあ、ノゾム!』
「……!? ぐあ!」
さらに背後へ回り込んでいたノゾムが神裂に蹴られ玉座に叩きつけられた。四人がかりをものともしないなんて……!?
「本気で強いな……俺達も行こう!」
「うん!」
私は上級補助魔法を全て使い強化する。制限時間は一時間……あの偽神を倒すため、私とレイドさんは駆けだした!
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