パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その385 到達

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 <バベルの塔:99階>

 ――お父さんとお母さんは消えた。

 お母さんは元々死んでいたし、お父さんもアンデッドだ。こういう時が来ることも頭ではわかっていたけど、ぽっかりと胸に穴が開いたような虚無感が去来する。

 だけど――

 「わんわん!」

 「きゅきゅん!」

 「きゅふん」

 「がう!」

 「ルーナ、落ち着いたか?」

 私にはまだ、大事な人達が居る。ここでふさぎ込んでいる暇は無い。ひとしきり泣いた私は、顔を上げてレイドさんへ話す。

 「……うん。ありがとうレイドさん。時間がないのに……」

 「気にすることは無いさ。両親の最後、立ちあえて良かったな」

 そう言って笑うレイドさんに、私は泣き笑いの顔で頷く。そう、どこか知らないところでいつの間にか消えてしまうより、死んだはずのお母さんと話すことができ、お父さんを看取ることができたのは、恐らく幸せなのだ。

 涙を拭いて立ち上がると、それまで黙っていたアイリが私の元へ来て肩を支えてくれた。

 「お疲れ様、ルーナ。というかそれしか言えなくてごめんね……」

 「ありがとう、アイリ。そう言ってくれるだけでも嬉しいよ」

 「……済まないな、父さんのせいで……」

 ノゾムも申し訳なさそうに口を開くので、私は首を振って答える。

 「いいわよ。あなた達だって今から育ての親と対峙するんだもの」

 「僕達のことは気にしなくていいよ、ありがたいけどね。父さんは必ず後悔させて止める。それが子供として親にしてやれることだろう?」

 好きだったであろうフレーレを殺されたユウリは銃の調子と、ナイフを確かめながら目の前を過ぎていく。続いて女神姉妹もそれについていきながら喋る。

 『ルーナ、君には色々と借りを作ったからね。おかげで殆ど力を使わずにここまでこれた……ラストバトルは、ボク達に任せてくれていい。両親の魂もなるべくいい方向にしてあげるよ』

 『ズィクタトリアを取り込んだ神裂がどれくらい力を使えるかわからないけど、妹ちゃんと一緒なら力負けはしないはずだしね。……さて、いよいよかしら?』

 アルモニアさんが槍をトン、と地面に立てると、風景が歪みいつもの何もない空間へと変貌を遂げた。中央に一本柱があり、そこに扉がある。

 「わん……!」

 「がう」

 シルバとレジナが近づいて鼻を鳴らすが、特に罠はないようで、尻尾を振って私達を呼ぶ。扉に近づくと、ノゾムがポツリと呟いた。

 「……エレベーターか」

 「えれべーたー?」

 私が首を傾げて尋ねると、ユウリは扉の横にあるボタンを操作しながら答えてくれた。

 「これは階段よりも速く上に行ける、僕達の世界にあった人を運ぶ箱さ。罠っぽいけど、これを使うしか方法は無さそうだし、行くしかないね」

 「へえ……」

 話を聞いてもピンとこないので、生返事をしていると『チン』という音と共に扉が開いた。確かに箱っぽいな、と思っていると、レイドさんが最初に乗り込む。

 「大丈夫そうだな。さ、行こう」

 全員が頷き、えれべーたーへ乗り込むと、扉は自動的に閉じ、直後に浮遊感を感じる。

 「な、何かふわふわするわね……」

 「きゅきゅーん」

 抱っこをせがむシロップを抱き上げると、同じくせがんでいたラズベをアイリが抱っこする。扉が開けばいよいよ最後……フレーレ、みんな、もうすぐよ……!


 ◆ ◇ ◆


 ルーナ達がエレベーターへ乗り込んだ後、フードを被った三人組がエレベーターの前で会話をしていた。

 「……こいつを操作していたか?」

 「そうですね。その上の矢印を押すのでしょう」

 「相互行き来する乗り物、ってところかしら? ルーナ達が到着した後、箱が戻ってくる仕掛け?」

 「恐らく。しかし、これではタイムラグができてしまいますな……」

 「汚ねぇ野郎だから、追撃が無いようにそれを狙っているのかもしれねぇな。まあいい、ルーナが倒していればそれはそれだ。まだ生きていたらたたき斬る。それでいいだろ?」

 「あなたはまだ若い。刺し違えようだなんて考えたらダメよ? 待っている人もいるんでしょう」

 「……気にすんな、今更だ」

 三人の人物は、そんな話をしながらエレベーターが戻ってくるのを待つのだった。


 ◆ ◇ ◆


 ――どれくらい経っただろうか? 狭い箱の中で動いているのかわからない不安の中で、みんな無言でその時を待っていた。
 私はそういえばと、剣と鎧、そしてサークレットを触りぽつりと呟いた。

 「……そういえば、リリーにバス、カームさんは返ってこなかったわね……」

 <……うむ。わらわもここへ至るまでそれなりに時間がかかった。カームかリリーはそろそろ戻ってくる可能性は高いが、バステトは間に合わないかもしれんのう……>

 『大丈夫。さっきも言ったけど、ボク達で何とかするよ。全力で行けばすぐさ』

 <ぴー。大丈夫かしら……>

 <まあ、主がそう言ってるなら信じるしかないだろう? こう、サッと呼び戻したりはできないのかい?>

 アネモネさんがエクソリアさんに尋ねると、首を振って肩を竦める。

 『ここじゃ無理だね。だから――』

 ガクン……

 「お……?」

 エクソリアさんが話を続けようとしたところで、箱が一瞬揺れ、またも『チン』という音がして扉が開いた。ここじゃ無理、って言ってたような気がするけど、別の場所ならできるのだろうか?

 問いただしてみたいと思ったけど、扉が開いた瞬間、その思考は中断させられた。

 踏み入れた部屋はとても眩しく、広かった。赤い絨毯が敷き詰められ、天井には照明は見たこともない、貴族が好きそうな豪華なものだった。窓の外は暗く、月明かりが差し込んでいるところを見ると、どうやら夜らしい。

 幻想的なその部屋は、まるでお話に出てくるお城の舞踏会のような場所だな、と直感的に思った。


 「……来たぞ、父さん! 姿を見せろ」

 ノゾムが叫ぶが、シン……と、返事はなかった。仕方なく前へ進み警戒を強める。

 「わふん……」

 「ふかふかね……」

 絨毯は歩きづらいのか、シルバが不満そうな声を上げていた。周囲を見るが、階段もない。だが、神裂の姿も無かった。そこで、レイドさんが剣を振ってから叫んだ。

 「神裂ぃ! 今更かくれんぼか? 出てこい、みんなの無念を晴らすためにな!」

 そして、部屋の中央あたりへ辿り着いた時、ついに――


 『……ようこそ、バベルの塔の最上階へ! そんなに俺に会いたかったのかあ? ぎゃはははは! さあ、ショータイムだ!』

 パチン、と指を鳴らす音が聞こえ、次の瞬間、天井が開き、そこから玉座が降りてくる。


 そこにはもちろん――


 「神裂……!」


 不敵な笑みを浮かべて座る、神裂が、居た!
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