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最終部:タワー・オブ・バベル

その381 友達

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 <バベルの塔:98階>


 「暗いわね……」

 「がう……」

 今までのフロアと違い灯りが無く薄暗い通路が続き、フレーレのライトとレジナの目を頼りに進んでいく。どうやらここも『げえむ』と同じらしく、ノゾムがサクサクと歩いていく。相変わらず魔物が居ないは不気味だなと感じるけど、残り2階なのだ、せめてこのメンバーは残りたい。

 「……クリアだ。こっちに来てくれ」

 「どれくらい歩いた? 妙に長くないかい?」

 ユウリが壁をコンコンと叩きながらぼやくと、ノゾムが石を投げて床を確認しながら返事をした。

 「いや、ゲームだと分かりにくいけどこれくらいはあったと思う。こっちは慎重に慎重を重ねて移動しているからそう感じるだけだ。アイリ時間は?」

 「……えっと、うん、まだ2時間くらいよ」

 それほど経過はしていないけど、エクソリアさんが口を開く。

 『あまり時計は信用しない方がいいよ。下の階で妙に時間が進むフロアもあったんだから』

 「……まあ、それもあるか」

 エクソリアさんが珍しく前でノゾム達と一緒に警戒を強めてくれている。私はというと、レイドさんと共にフレーレを守るように歩いていた。

 「あ、あの、私なら大丈夫ですよ?」

 「何言ってるのよ、下の階で落ちそうになってたのに」

 「きゅんきゅん!」

 「ほら、シロップも怒ってるじゃない」

 「うう……」

 足元にはシルバとシロップが居て、鼻を鳴らしている。レイドさんもずっと剣を抜いたまま無言で集中しているようだった。私も剣を握ったまま、気になっていることを口にする。

 「ノゾム達は義理の子供だから簡単に殺さないというのは分かるけど、私やレイドさんが生き残っている理由も知りたいわね」

 「元々ルーナに子供を産ませようとしてる、とか言ってませんでしたっけ? だからじゃないですか? レイドさん怒っていいと思います」

 「はは、その時が来たら必ずね。そのためにもここは早く突破しないと」

 『……』

 「アルモニアさん?」

 『え?』

 「私の顔に何かついてます?」

 『な、何でもないわよ!』

 視線を感じて振り向くとアルモニアさんが私をじっと見ていることに気付き、声をかけると焦ったように上ずった声をあげた。何か隠しているような……?



 ◆ ◇ ◆


 「……」

 「どうしたの?」

 「いや、ルーナに子供を産ませるとか言ってたのかと思ってな。あんたは知っているかわからないけど、俺はルーナにモーションをかけていたことがある。初めて見た時、こいつが欲しいと直感が仕事をしたぜ」

 「ほっほ、それが何か?」

 「良く考えてみれば、俺の恩恵は『勇者』だろ? あそこにいるレイドも勇者だ。それに育ての親も勇者だったんだよな?」

 「……確かにそうね。ルーナと勇者に何かある? いえ、何かさせようとしている……?」

 「止めますか?」

 「ダメだと思うわ。今の仮説があっていると考えるならルーナが居ないと先には進めない気がする」

 「なるほど、では便乗しますか。餌みたいで心苦しいですがね」

 「その顔でやめてくれよ師匠」

 ゴツン!

 「痛ぇ!?」

 「にゃーん」

 「ほら、見失うわよ」



 ◆ ◇ ◆


 98階をさらに歩くこと1時間。私達は広い部屋に到着していた。向かいの壁には扉があり、99階に続く階段があることを予想させる。

 「このまま99階へ行けそうね。そういえば魔物とか機械も出てこないのはどうしてかしら」

 「もしかしたら最後の最後で出してくるんじゃないか? 95階まで虐殺をしてきたのに、ここにきて何もないなんてことは無いはずだ」

 床の具合を確かめつつゆっくり歩いていく。感触はしっかりした床だけど、いつ抜けるか分からないので怖い。補助魔法を使って進むのも考えたけど99階で強敵がいたらマズイと、緊急以外は使わないことで満場一致していたのだ。

 「ふう……何も無かったか」

 「良かったわね、さあ次へ行くわよ」

 ほどなくして扉の前に到着し、安堵するレイドさんに私が答えていると、ノゾムが扉に耳を当てて口に指を当てて扉の向こうに何かないか小さく叩いて調べていた。

 「……開けるぞ」

 キィ、と扉が開いていくのを見守っていると、隣でフレーレが両手に拳を作って言う。

 「みんなの想い、無駄にしないようにしないとですね」

 「ええ、そうね。大人しく言うことを聞いてくれるとは思えないけど、とっちめてやるんだから。それこそ後悔するくらいぼっこぼこにしてやるわ!」

 「わんわん!」

 「きゅきゅん!」

 「うふふ、シルバ達も頑張るって言ってますね。負けません――」

 ゴゥ!

 フレーレが扉から目を逸らしてそう言った瞬間、扉の向こうから鎖が飛び出してきてフレーレの首に巻き付いた!

 「やはり罠はあったか……!」

 「この!」

 レイドさんがすぐに鎖を断ち切ろうと剣を振り下ろす。だけど、それを予測してかフレーレに巻き付いた鎖が、意思を持ったかのようにフレーレを扉の向こうへ引っ込んでいく。

 「逃がすか! フレーレ!」

 「う……うう、ユウリさん……ルーナ、これを!」

 ユウリがフレーレに駆け寄るが階段を引きずっていく速度はそれを上回る。

 するとフレーレは胸元から十字架を取り出して私に投げた。足元に落ちたそれを拾うとフレーレはにこっと笑い、口を開いた。

 <フレーレ!>

 「い、今まで……ありがとうございました……うぐ……おかげで勇気をもらえま、した……」

 「諦めるには早いわ! <フェンリルアクセラレータ><パワフルオブベヒモス>」

 私とレイドさんにかけてダッシュする! フレーレの前に回り込んで鎖を掴み、これ以上進ませないよう力を籠める。諦めるわけにはいかない……!

 ガッ! ガキッ!

 「くそ、何でできてるんだこの鎖!? 全然切れないぞ!」

 「頑張っ……て、レイドさん! あまり、持たないかも……!」

 「……手伝うぞ!」

 『光の刃でも切れないだって……!? 神裂めまさか……!』

 ずるずると階段を引きずられる私達に、お父さんにエクソリアさんなど総出でフレーレの鎖を外そうと協力をする。今まで次の階へ行く階段で襲われたことが無かったのはまさかこのためか、と誰かが発し、

 「く、くるし……」

 「いかん、このままでは息ができず死んでしまう」

 「でも手を放したら死んじゃうでしょ!?」

 お父さんに怒鳴りつけるも、フレーレは最後の力を振り絞って――

 「す、すみませんわたしがどんくさくて……も、もういいですから……きっと神裂を……《シャイン……ウォール》」

 「あ!?」

 フレーレの防御魔法が発動した瞬間、その壁に弾かれて私達は階段を転がってしまう! しまった、手を……!

 ジャラララララ……

 「フレーレぇぇぇぇ!」

 最後に口元を緩ませたフレーレは暗い階段を引きずられ、闇へと消えていった……


 「く、う、うううううう!」

 「よせ、ルーナ!」

 「だってフレーレが! フレーレもこんなことに!」

 床をガンガン叩く私の手をレイドさんが止める。レイドさんの悲痛な顔を見た私は目から涙があふれ始めたのだった。
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