パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
358 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その379 命運

しおりを挟む

 <バベルの塔:93階>

 
 「クソッタレ……シルキー、俺から離れるなよ」

 「え、ええ……ぐす……」

 イライラしながらシルキーさんの手を引いて歩くクラウスさんに、まだ涙が止まらないシルキーさん。この二人は拠点でソキウスとチェーリカと仲が良かったので悔しいようだ。
 
 悔しいのはもちろん私も同じだけど、それ以上に――

 「生きていて良かったと思っていたのに……」

 「こんなことになるなんてな……」

 元お父さん討伐としてパーティを組んでいたレイドさんとセイラが酷く落ち込んでいた。その姿を見ているといたたまれない。だけど、私達は立ち止まっていられないと93階へと足を踏み込んだのだ。

 <手抜きじゃのう>

 そういうチェイシャの言うことは分かる。このフロア、かなり狭く入った瞬間500メートルくらいの場所に螺旋階段が見えていたからだ。このまま真っすぐ進めば階段には辿り着ける。

 「……臭いな」

 「そう、ですね。汗と涙が止まりませんでしたし、ずっとお風呂入れていませんし……」

 「違うわよフレーレ。あんな近くに階段があるのがおかしいって言ってるのよヴァイゼさんは。どうする? 絶対仕掛けがあると思うけど?」

 セイラが睨みつけるようにそういうと、ノゾムが少し躊躇いがちに口を開いた。どうやらげえむというものに似ているらしい。

 「ゲームと同じなら階段の直前で落とし穴がある。そこを避ければ問題ないが……」

 「そうとは限らないってことね。レジナ、先に階段の前に飛び移れる?」

 「がう!」

 私が背中を撫でてレジナの耳に語り掛けると、耳をピクピクさせて大きく返事をし、ヒュっと駆け出した。シルバとシロップは万が一を考えて私とフレーレで抱っこしている。レジナだからいいって訳じゃないけど、身軽で賢いレジナなら偵察にはうってつけだからね。

 「ふんふん……がう」

 落とし穴と聞いてぺしぺしと床を叩いて回るレジナを緊張して見守る私達。

 「……何も無さそうだな、俺から行く。付いて来い」

 「う、うん」

 お父さんがそういって前へ出ると、ニールセンさんが引き留めた。

 「お待ちください。差し出がましい申し出ですが、ここはいくつかに分かれた方がいいかと思います。固まって移動すればまとめて全滅することも無いかと」

 「一理あるか。よし、それぞれ付いて行きたいものと組んでくれ。大事な人と一緒でも構わない」

 レイドさんの言葉に頷き、それぞれ組んで進んでいく。私はレイドさんとフレーレが一緒で、クラウスさんはシルキーさん、セイラはニールセンさんと言ったように後悔の無い形を取ったようだ。

 「……どうして僕がアイリと……」

 「文句あるの?」

 「……ヴァイゼさんとなら心強いですね」

 「……煽てても何も出らんぞ? 気を引き締めて行こう」

 ノゾム達はノゾム達で組むと思っていたけど、お父さんが一人ノゾムと組んで歩いていた。なるべく横に並ぶように。何かあっても……その組み合わせだけが犠牲になるように、と。そして私達は奇麗な正方形で区切られた床へ足を踏み入れた。

 「固そうに見えるけど、これが急に落とし穴に変わるんだよね……」

 「落とし穴は原始的だけど、非常に有効だからね。獲物を捕まえる時でもいいし、争いで落とし穴のしたに杭を置いておくだけでも脅威だ。そしてここは落下したら助からない高さがある。おあつらえ向きな罠だよ、言いたくないけど」

 「あと少しで94階……もう少し……もう少しです……」

 「そうね……」

 フレーレの呟きに適当に返し、半分ほど歩いたというところで……またも異変が起きた。

 ぴちゃん……ぴちゃん……

 「今の音は?」

 セイラが立ち止まり、水滴が落ちるような音に怪訝な顔したその時、足元に浮遊感を覚える。そ

 「浮いている!? 次の床に飛び移れ!」

 レイドさんが叫び、慌てて次の床、次の床へと移る。その度に床はどんどん上へと昇って行き、足元は空洞へと変わっていく。一歩でも間違えたら地の底へと落ちる……! ぞっとしながら進んでいると、エクソリアさんが上を見上げて驚いていた。

 『ちょ!? 急ぐんだ! このまま取り残されたら串刺しだぞ!』

 エクソリアさんがライトを放り投げ、明るくなった上を見れば無数の針がギラリと待ち構えているのが見えた。そんな中、

 「くっ……今度の標的は私達か……!」

 何故か、セイラたちの乗った床の上昇が早く、飛び移った先もセイラたちが乗った直後に急上昇を始めたのだ。

 「回りくどい真似をするわね! ルーナに補助魔法をかけてもらっているし、飛び移るわよ」

 「ええ!」

 「セイラ! ニールセンさん!」

 階段まで到着した私が振り返ると、串刺しにされてはかなわないとばかりにセイラとニールセンさんが隣の床へ飛ぶ。

 だけど――

 「何!? あ、足が床にくっついてる!?」

 「セイラ! こ、これは……!?」

 次の床から飛び移ることができなかった!

 <さっき落ちてきた雫、あれが原因では!?>

 チェイシャが叫ぶと、ノゾムが適当に落ちている雫を指にすくいとり匂いを嗅ぐ。

 「接着剤か……! しかも速乾性のやばいやつだ!」

 「セイラァァァァ! ニールセェェェン!」

 レイドさんは今までに聞いたことが無いほどの大声で叫んでいた。だけど、カルエラートさんやソキウス達と同じく――

 「ごめんお兄ちゃん、あとお願――」

 どちゅ、という嫌な音がした。

 そして落ちてきたのは、赤い雫……恐らく二人の血だった……


 「あ、あああ……」

 「レイドさん!」

 「ま、また俺は守ってやれなかったのか……! 俺は……!」

 膝を付いて涙を流すレイドさんが、ガンガンと床を叩きつけながら呟く。

 「きゅきゅうぅん……」

 それをシロップが慰めようとレイドさんにすり寄っていた。

 「……すまない……取り乱した……」

 「ううん。私もパパの時のことがあるから分かるわ……遺体、残っていると思うけど……」

 『あの高さは無理ね。空を飛びでもしない限り。残念だけど、全部が終わった後にした方が賢明だわ』

 「そんな……」

 「そんな言い方はないじゃないですか……! 女神様としても言っていいことと悪いことが……!」

 シルキーさんが激高して詰め寄ると、アルモニアさんは目を瞑って悲しげに言う。

 『分かっているわ。でも神裂を倒せば魂は助けられる……それまでは、我慢するしかないのよ』

 「……」

 そういわれて仕方なく引き下がるシルキーさんはクラウスさんの元へ行き階段を上り始める。犠牲者は尽きない。確実に数を減らしに、そして標的を定めている。

 「……次は俺達の番、ってところか? へっ、思い通りにいくかってんだ……!」

 怒りの表情でそういうクラウスさんだったけど――


 <バベルの塔:94階>

 「シルキー!?」

 「きゃあああ!」

 94階、そこにはフロアの壁にびっしりと並ぶ奇妙な像が入り口から階段まで続いていた。エクソリアさんが『アイアンメイデン』と言ったソレはとても気持ち悪いと思い、補助魔法をかけて一気に駆け抜けようとしたのだけど、その中の一体がカパリと開き、シルキーさんへ鎖が襲い掛かってきたのだ。

 「外れろよこの!」

 「クラウスさん、手伝うわ!」

 「俺もだ」

 パワフルオブベヒモスを使った私とレイドさん、それにクラウスさんなら鎖を引きちぎれるはず!

 ギギギ……

 「!? まずいクラウス後ろだ!」

 「んだって!? うお!?」

 私達が駆けつけようとしたのを見越したかのようにパカリと開いた像が閉じ始めた。クラウスさんは何とか押さえて耐えるが、とんでもない重さなのかみるみるうちに脂汗が浮かんできていた。中級の補助魔法はかけているのに……!

 「す、まねえ、シルキー……」

 「ううん。馬鹿ね、私を助けなければ良かったのに……」

 「そんなことできるわけ、ねえだ、ろ……!」

 「耐えて! すぐ行くから!」

 悲痛に叫ぶ私の声は届かず、クラウスさんはフッと笑い――

 ズゥゥゥン……

 「うわああああ!! クラウスさん! シルキーさん!」

 像は蓋を閉じた。

 スゥ、と隙間からどちらかのものかもわからない血が流れ出し、セイラたちに続き、二人も死んでしまったのだと私は膝から崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。