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最終部:タワー・オブ・バベル
その379 命運
しおりを挟む<バベルの塔:93階>
「クソッタレ……シルキー、俺から離れるなよ」
「え、ええ……ぐす……」
イライラしながらシルキーさんの手を引いて歩くクラウスさんに、まだ涙が止まらないシルキーさん。この二人は拠点でソキウスとチェーリカと仲が良かったので悔しいようだ。
悔しいのはもちろん私も同じだけど、それ以上に――
「生きていて良かったと思っていたのに……」
「こんなことになるなんてな……」
元お父さん討伐としてパーティを組んでいたレイドさんとセイラが酷く落ち込んでいた。その姿を見ているといたたまれない。だけど、私達は立ち止まっていられないと93階へと足を踏み込んだのだ。
<手抜きじゃのう>
そういうチェイシャの言うことは分かる。このフロア、かなり狭く入った瞬間500メートルくらいの場所に螺旋階段が見えていたからだ。このまま真っすぐ進めば階段には辿り着ける。
「……臭いな」
「そう、ですね。汗と涙が止まりませんでしたし、ずっとお風呂入れていませんし……」
「違うわよフレーレ。あんな近くに階段があるのがおかしいって言ってるのよヴァイゼさんは。どうする? 絶対仕掛けがあると思うけど?」
セイラが睨みつけるようにそういうと、ノゾムが少し躊躇いがちに口を開いた。どうやらげえむというものに似ているらしい。
「ゲームと同じなら階段の直前で落とし穴がある。そこを避ければ問題ないが……」
「そうとは限らないってことね。レジナ、先に階段の前に飛び移れる?」
「がう!」
私が背中を撫でてレジナの耳に語り掛けると、耳をピクピクさせて大きく返事をし、ヒュっと駆け出した。シルバとシロップは万が一を考えて私とフレーレで抱っこしている。レジナだからいいって訳じゃないけど、身軽で賢いレジナなら偵察にはうってつけだからね。
「ふんふん……がう」
落とし穴と聞いてぺしぺしと床を叩いて回るレジナを緊張して見守る私達。
「……何も無さそうだな、俺から行く。付いて来い」
「う、うん」
お父さんがそういって前へ出ると、ニールセンさんが引き留めた。
「お待ちください。差し出がましい申し出ですが、ここはいくつかに分かれた方がいいかと思います。固まって移動すればまとめて全滅することも無いかと」
「一理あるか。よし、それぞれ付いて行きたいものと組んでくれ。大事な人と一緒でも構わない」
レイドさんの言葉に頷き、それぞれ組んで進んでいく。私はレイドさんとフレーレが一緒で、クラウスさんはシルキーさん、セイラはニールセンさんと言ったように後悔の無い形を取ったようだ。
「……どうして僕がアイリと……」
「文句あるの?」
「……ヴァイゼさんとなら心強いですね」
「……煽てても何も出らんぞ? 気を引き締めて行こう」
ノゾム達はノゾム達で組むと思っていたけど、お父さんが一人ノゾムと組んで歩いていた。なるべく横に並ぶように。何かあっても……その組み合わせだけが犠牲になるように、と。そして私達は奇麗な正方形で区切られた床へ足を踏み入れた。
「固そうに見えるけど、これが急に落とし穴に変わるんだよね……」
「落とし穴は原始的だけど、非常に有効だからね。獲物を捕まえる時でもいいし、争いで落とし穴のしたに杭を置いておくだけでも脅威だ。そしてここは落下したら助からない高さがある。おあつらえ向きな罠だよ、言いたくないけど」
「あと少しで94階……もう少し……もう少しです……」
「そうね……」
フレーレの呟きに適当に返し、半分ほど歩いたというところで……またも異変が起きた。
ぴちゃん……ぴちゃん……
「今の音は?」
セイラが立ち止まり、水滴が落ちるような音に怪訝な顔したその時、足元に浮遊感を覚える。そ
「浮いている!? 次の床に飛び移れ!」
レイドさんが叫び、慌てて次の床、次の床へと移る。その度に床はどんどん上へと昇って行き、足元は空洞へと変わっていく。一歩でも間違えたら地の底へと落ちる……! ぞっとしながら進んでいると、エクソリアさんが上を見上げて驚いていた。
『ちょ!? 急ぐんだ! このまま取り残されたら串刺しだぞ!』
エクソリアさんがライトを放り投げ、明るくなった上を見れば無数の針がギラリと待ち構えているのが見えた。そんな中、
「くっ……今度の標的は私達か……!」
何故か、セイラたちの乗った床の上昇が早く、飛び移った先もセイラたちが乗った直後に急上昇を始めたのだ。
「回りくどい真似をするわね! ルーナに補助魔法をかけてもらっているし、飛び移るわよ」
「ええ!」
「セイラ! ニールセンさん!」
階段まで到着した私が振り返ると、串刺しにされてはかなわないとばかりにセイラとニールセンさんが隣の床へ飛ぶ。
だけど――
「何!? あ、足が床にくっついてる!?」
「セイラ! こ、これは……!?」
次の床から飛び移ることができなかった!
<さっき落ちてきた雫、あれが原因では!?>
チェイシャが叫ぶと、ノゾムが適当に落ちている雫を指にすくいとり匂いを嗅ぐ。
「接着剤か……! しかも速乾性のやばいやつだ!」
「セイラァァァァ! ニールセェェェン!」
レイドさんは今までに聞いたことが無いほどの大声で叫んでいた。だけど、カルエラートさんやソキウス達と同じく――
「ごめんお兄ちゃん、あとお願――」
どちゅ、という嫌な音がした。
そして落ちてきたのは、赤い雫……恐らく二人の血だった……
「あ、あああ……」
「レイドさん!」
「ま、また俺は守ってやれなかったのか……! 俺は……!」
膝を付いて涙を流すレイドさんが、ガンガンと床を叩きつけながら呟く。
「きゅきゅうぅん……」
それをシロップが慰めようとレイドさんにすり寄っていた。
「……すまない……取り乱した……」
「ううん。私もパパの時のことがあるから分かるわ……遺体、残っていると思うけど……」
『あの高さは無理ね。空を飛びでもしない限り。残念だけど、全部が終わった後にした方が賢明だわ』
「そんな……」
「そんな言い方はないじゃないですか……! 女神様としても言っていいことと悪いことが……!」
シルキーさんが激高して詰め寄ると、アルモニアさんは目を瞑って悲しげに言う。
『分かっているわ。でも神裂を倒せば魂は助けられる……それまでは、我慢するしかないのよ』
「……」
そういわれて仕方なく引き下がるシルキーさんはクラウスさんの元へ行き階段を上り始める。犠牲者は尽きない。確実に数を減らしに、そして標的を定めている。
「……次は俺達の番、ってところか? へっ、思い通りにいくかってんだ……!」
怒りの表情でそういうクラウスさんだったけど――
<バベルの塔:94階>
「シルキー!?」
「きゃあああ!」
94階、そこにはフロアの壁にびっしりと並ぶ奇妙な像が入り口から階段まで続いていた。エクソリアさんが『アイアンメイデン』と言ったソレはとても気持ち悪いと思い、補助魔法をかけて一気に駆け抜けようとしたのだけど、その中の一体がカパリと開き、シルキーさんへ鎖が襲い掛かってきたのだ。
「外れろよこの!」
「クラウスさん、手伝うわ!」
「俺もだ」
パワフルオブベヒモスを使った私とレイドさん、それにクラウスさんなら鎖を引きちぎれるはず!
ギギギ……
「!? まずいクラウス後ろだ!」
「んだって!? うお!?」
私達が駆けつけようとしたのを見越したかのようにパカリと開いた像が閉じ始めた。クラウスさんは何とか押さえて耐えるが、とんでもない重さなのかみるみるうちに脂汗が浮かんできていた。中級の補助魔法はかけているのに……!
「す、まねえ、シルキー……」
「ううん。馬鹿ね、私を助けなければ良かったのに……」
「そんなことできるわけ、ねえだ、ろ……!」
「耐えて! すぐ行くから!」
悲痛に叫ぶ私の声は届かず、クラウスさんはフッと笑い――
ズゥゥゥン……
「うわああああ!! クラウスさん! シルキーさん!」
像は蓋を閉じた。
スゥ、と隙間からどちらかのものかもわからない血が流れ出し、セイラたちに続き、二人も死んでしまったのだと私は膝から崩れ落ちた。
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