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最終部:タワー・オブ・バベル
その378 続く悪夢
しおりを挟む<バベルの塔:92階>
バステトとカイムさんに続き、カルエラートさんが居なくなった衝撃は大きかった。だけど、悲しんでいる暇は今の私達には無く、無言で階段を上り続けて92階の扉を開けた。
「……大丈夫、のはずだ」
あまり自信がない感じでノゾムが言うと、レイドさんとクラウスさんが頷いて扉を蹴破る。げえむと同じように見えて、実は違うというのはノゾムやユウリ達の思考を鈍らせているらしい。
「ここは……デウスファンタジーとは関係ないフロアだ。警戒するのを見越してか? 父さん」
ユウリが呟き、私とフレーレも後からフロアを見ると、そこには真っ白な空間が広がっていてひんやりとした空気を醸し出していた。そこへクラウスさんがユウリの頭に手を置いて笑いながら口を開いた。
「あまり気にするなって。深く考えると野郎の思うつぼってやつじゃあねぇか?」
「そうよ。次の階はまたそのげぇむとかいうのが待っているかもしれないし、仮にカンザキが何かを変えていても『変えてくる』可能性を視野に入れておけば役に立たないことはないでしょ?」
「そう、ですね。シルキーさんのおっしゃる通りです。ユウリ、とりあえず私達はできることをやろ?」
アイリが周囲を見ながら呟き一発ライフルから弾を発射。しばらくして『チュイン』と、何かに当たる音がした。
「壁はあるみたいですね。後は落とし穴が無いか……」
「カイムさんが居ればすぐなんだけどね……」
私が矢で床を撃ちぬくか考えていると、レジナとシルバが飛び出してタントンと床の上を飛び跳ねはじめる。
「がう!」
「わんわん!」
「何してるんですかね?」
「恐らく自分たちが床に足を踏み入れて落ちないか確認しているんだよ。あいつら、賢いからな……」
フレーレの言葉にレイドさんが返すが、万が一本当に落ちたらと思ってか浮かない表情をしている。二匹の脚力ならサッと戻ってこれそうだけどね。
特に罠が無いと判断して歩き出す私達。相変わらずレジナとシルバがぴょんぴょん飛び跳ね、通った部分をなぞるように進んでいると、10分ほど経った辺りでソキウスが目だけをキョロキョロさせながら口を開いた。
「……いくらなんでも静かすぎやしないか?」
「そういうのは止めて欲しいです、ソキウス。そういうことを言うと、何かが起こるんですよ!」
チェーリカが不機嫌そうにソキウスの背中を叩くと、ユウリが歩きながら言う。
「確かに、僕達の世界では口にすると現実になるって言われることがあるけどね。ネタ切れな訳はないだろうからソキウスもそのまま慎重に警戒をしてくれ」
「分かったよ。まだ死にたくないからなオレは。チェーリカも守らないといけないし」
「まさかこんなところでのろけるとはね。……! レジナ、シルバ! 戻って!」
「がうう!」
「わぉん!」
今、床が動いた!
気付いた私はレイジングムーンを手に持ち、魔力矢をとある床へと放つ。すると――
ズブシュ!
ギャァァァア!?
「魔物か! ルーナ、よく分かったな!」
とか言いながらレイドさんは床から盛り上がってきた人影を斬って絶命させる。直後、あちこちの床から斬り倒した魔物と同じものがぽこぽことタケノコのように出現する……!
固そうな青い鱗をした皮膚に物語で見るような悪魔の羽と爪をもった2メートル前後の魔物が立ちふさがるように前に躍り出てくる。
「囲まれたら厄介だ、向こう側まで走るぞ!」
「前はレイドさん、行ってくれ! 後ろは俺が引き受ける!」
「じゃあオレも追っ手を切り捨てるぜ!」
レイドさんとニールセンさんが前の魔物を片づけ進軍。追ってくる魔物はクラウスさんとソキウス、それとユウリが仕留めていた。
ギェェェイ!?
「よし!」
「待ってレイドさん!」
「え? ……何だと!?」
シャァァァァ!
ギシャァ!
「嘘でしょ!? やああ!」
「《マジックアロー》!」
上半身と下半身を真っ二つにして切り捨てたはずの魔物が即座に、しかもそれぞれの部分を補って二体に分裂したのだ。咄嗟に斬り飛ばした腕とフレーレの放った魔法で足が吹き飛ぶ。
「ええ!? あ、あそこから再生するんですか!?」
「危ない!」
ガキン、とフレーレに迫っていた魔物の攻撃を受け止め追い返す。だけど、すぐに立ちふさがってくる……!
「まずい、中途半端に斬ると数が増えるのか! おい、クラウス!」
レイドさんが魔物の攻撃をかわしながら振り返って叫ぶと、後ろはかなり数を増やしていた。
「今、気づいたところだよ! どこか弱点はねぇのか!?」
とりあえず斬り倒しながら前へと進む私達。数は増えていくけど、扉までいけば勝ちだと思っていると、
「斬らなきゃいいのよね? 《ブリザーストーム》!」
「……跡形も残さなければ問題ないはずだ”煉獄剣”」
ギャァァァ……
ギェェ!?
セイラの魔法で凍り付き、お父さんの技で燃えて塵と化していく魔物。なるほど、それなら私でもいけるわね!
「前に出るわ! ”煉獄剣” 後は足を速くしておくわね。初級で悪いけど《ムーブアシスト》」
「行けそうだ! たありゃああ!」
「わわ……ハッ! そうです!斬らなければいいんですよね! えい!」
「腐ってしまいなさい!」
フレーレのメイスが魔物の腹に叩きこまれ吹き飛んでいく。なるほど、打撃も有効なのね。そしてシルキーさんがセイラから受け取った杖で魔物を腐らせて動きを止めていくと、段々とこちらが有利になってきた。それでも、先に増やしてしまった数は多いので後から追いかけてくる。
『下手に手を出せないのが面倒だね』
『消し飛ばす技は私達は持ってないからね。それでも槍で刺してぶん投げれば足止めにはなるわ』
アルモニアさんが器用に串刺しにした魔物を別の魔物へぶつけて下がらせている。倒せない、というのは地味に痛く、厳密には倒せなくは無いけど限られた人のみなので数を減らすのが難しいのだ。
だが、それもそろそろ終わりを告げようとしていた。
「そろそろ見えて欲しいわね……!」
「しつこい……! ん? 壁だ、見えてきたぞ!」
レイドさんが叫び急ぐ。そこでチェーリカが小さく「あ」と呟いた。
「どうしたの!」
「あいつ! あいつだけおかしくないです? 額に宝石のようなものがついています!」
チェーリカが指さす先に、確かに一体だけ毛色の違う魔物が居た。形は同じだけど、額の宝石はこいつにしかない。
「グググ……グァァァァァ! キヅイタカ!」
喋った!?
「もしかしてこいつを倒したら全部消えるんじゃないか?」
ソキウスがそういうも、レイドさんは首を振る。
「構うな! それが狙いかもしれん。どうしてもやるならルーナの弓か銃で狙い撃つしかない」
「やってみます」
「ムダダ」
ターン!
アイリが下がりながら構えて発射するも、別の魔物を盾にして弾を防いだ。伊達に喋れるわけではないらしいわね。
「見えました! 扉です!」
ニールセンさんが扉を発見し、声を上げる。扉に入りさえすればこいつらも手出しはできないはずよね。
「チッ。ダガ、タダデトオスワケニハイカンゾ」
「飛んだ……! 気を付けてみんな!」
セイラが度重なる魔法で出た汗を拭きながら見上げると、喋る個体が空を飛び、ものすごい速度でこちらへ向かってきた!
「回り込まれる!」
「イイヤ」
「……しまった!」
「きゃあ!?」
「チェーリカ!」
何と魔物は急降下したかと思うとチェーリカを攫って空へと飛んで行き、見下ろしながら口を開く。
「ツウコウリョウハ、コノムスメデイイダロウ」
「どういうことよ!」
「コウイウコトダ! コノフロアガオマエタチノサイゴダ!」
「え!?」
そういうと魔物は自分から額の宝石を砕いた。
そして――
ゴゴゴ……
「なんだ? 壁と床が光っている……?」
「レイドさんあれ!」
私達が通ってきた道が少しずつ消えていき、またしても暗く深い穴へと変貌を遂げる。空に居た魔物も光り出し、笑いながら消えていく。
「クハハハ! ドウアガイテモコノムスメハシヌ! ハハハ……ハハハハ……!」
「あ……」
「チェーリカァァァ!」
「ソキウス、無理よ!?」
シルキーさんの横を通り抜け、チェーリカの元へ駆け出し見事キャッチした。けど――
「ご、ごめんなさい! チェーリカのせいでまた……!」
「気にすんな! お前が死んだらオレも生きていられないしな! レイド、ルーナ姉ちゃん! すまね――」
「生まれ変わってもずっと一緒にいたい、です……」
――チェーリカをキャッチした瞬間、ソキウスの足元の床が崩れ、二人の姿は穴の底へと消えていった――
◆ ◇ ◆
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