パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
357 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その378 続く悪夢

しおりを挟む

 <バベルの塔:92階>


 バステトとカイムさんに続き、カルエラートさんが居なくなった衝撃は大きかった。だけど、悲しんでいる暇は今の私達には無く、無言で階段を上り続けて92階の扉を開けた。

 「……大丈夫、のはずだ」

 あまり自信がない感じでノゾムが言うと、レイドさんとクラウスさんが頷いて扉を蹴破る。げえむと同じように見えて、実は違うというのはノゾムやユウリ達の思考を鈍らせているらしい。

 「ここは……デウスファンタジーとは関係ないフロアだ。警戒するのを見越してか? 父さん」

 ユウリが呟き、私とフレーレも後からフロアを見ると、そこには真っ白な空間が広がっていてひんやりとした空気を醸し出していた。そこへクラウスさんがユウリの頭に手を置いて笑いながら口を開いた。

 「あまり気にするなって。深く考えると野郎の思うつぼってやつじゃあねぇか?」

 「そうよ。次の階はまたそのげぇむとかいうのが待っているかもしれないし、仮にカンザキが何かを変えていても『変えてくる』可能性を視野に入れておけば役に立たないことはないでしょ?」

 「そう、ですね。シルキーさんのおっしゃる通りです。ユウリ、とりあえず私達はできることをやろ?」

 アイリが周囲を見ながら呟き一発ライフルから弾を発射。しばらくして『チュイン』と、何かに当たる音がした。

 「壁はあるみたいですね。後は落とし穴が無いか……」
 
 「カイムさんが居ればすぐなんだけどね……」

 私が矢で床を撃ちぬくか考えていると、レジナとシルバが飛び出してタントンと床の上を飛び跳ねはじめる。

 「がう!」

 「わんわん!」

 「何してるんですかね?」

 「恐らく自分たちが床に足を踏み入れて落ちないか確認しているんだよ。あいつら、賢いからな……」
 
 フレーレの言葉にレイドさんが返すが、万が一本当に落ちたらと思ってか浮かない表情をしている。二匹の脚力ならサッと戻ってこれそうだけどね。

 特に罠が無いと判断して歩き出す私達。相変わらずレジナとシルバがぴょんぴょん飛び跳ね、通った部分をなぞるように進んでいると、10分ほど経った辺りでソキウスが目だけをキョロキョロさせながら口を開いた。
 
 「……いくらなんでも静かすぎやしないか?」

 「そういうのは止めて欲しいです、ソキウス。そういうことを言うと、何かが起こるんですよ!」

 チェーリカが不機嫌そうにソキウスの背中を叩くと、ユウリが歩きながら言う。

 「確かに、僕達の世界では口にすると現実になるって言われることがあるけどね。ネタ切れな訳はないだろうからソキウスもそのまま慎重に警戒をしてくれ」

 「分かったよ。まだ死にたくないからなオレは。チェーリカも守らないといけないし」

 「まさかこんなところでのろけるとはね。……! レジナ、シルバ! 戻って!」

 「がうう!」

 「わぉん!」

 今、床が動いた! 

 気付いた私はレイジングムーンを手に持ち、魔力矢をとある床へと放つ。すると――

 ズブシュ!

 ギャァァァア!?

 「魔物か! ルーナ、よく分かったな!」

 とか言いながらレイドさんは床から盛り上がってきた人影を斬って絶命させる。直後、あちこちの床から斬り倒した魔物と同じものがぽこぽことタケノコのように出現する……! 
 固そうな青い鱗をした皮膚に物語で見るような悪魔の羽と爪をもった2メートル前後の魔物が立ちふさがるように前に躍り出てくる。

 「囲まれたら厄介だ、向こう側まで走るぞ!」

 「前はレイドさん、行ってくれ! 後ろは俺が引き受ける!」

 「じゃあオレも追っ手を切り捨てるぜ!」

 レイドさんとニールセンさんが前の魔物を片づけ進軍。追ってくる魔物はクラウスさんとソキウス、それとユウリが仕留めていた。

 ギェェェイ!?

 「よし!」

 「待ってレイドさん!」

 「え? ……何だと!?」

 シャァァァァ!

 ギシャァ!

 「嘘でしょ!? やああ!」

 「《マジックアロー》!」

 上半身と下半身を真っ二つにして切り捨てたはずの魔物が即座に、しかもそれぞれの部分を補って二体に分裂したのだ。咄嗟に斬り飛ばした腕とフレーレの放った魔法で足が吹き飛ぶ。

 「ええ!? あ、あそこから再生するんですか!?」

 「危ない!」

 ガキン、とフレーレに迫っていた魔物の攻撃を受け止め追い返す。だけど、すぐに立ちふさがってくる……!

 「まずい、中途半端に斬ると数が増えるのか! おい、クラウス!」

 レイドさんが魔物の攻撃をかわしながら振り返って叫ぶと、後ろはかなり数を増やしていた。

 「今、気づいたところだよ! どこか弱点はねぇのか!?」

 とりあえず斬り倒しながら前へと進む私達。数は増えていくけど、扉までいけば勝ちだと思っていると、

 「斬らなきゃいいのよね? 《ブリザーストーム》!」

 「……跡形も残さなければ問題ないはずだ”煉獄剣”」

 ギャァァァ……

 ギェェ!?

 セイラの魔法で凍り付き、お父さんの技で燃えて塵と化していく魔物。なるほど、それなら私でもいけるわね!

 「前に出るわ! ”煉獄剣” 後は足を速くしておくわね。初級で悪いけど《ムーブアシスト》」

 「行けそうだ! たありゃああ!」

 「わわ……ハッ! そうです!斬らなければいいんですよね! えい!」

 「腐ってしまいなさい!」

 フレーレのメイスが魔物の腹に叩きこまれ吹き飛んでいく。なるほど、打撃も有効なのね。そしてシルキーさんがセイラから受け取った杖で魔物を腐らせて動きを止めていくと、段々とこちらが有利になってきた。それでも、先に増やしてしまった数は多いので後から追いかけてくる。

 『下手に手を出せないのが面倒だね』

 『消し飛ばす技は私達は持ってないからね。それでも槍で刺してぶん投げれば足止めにはなるわ』

 アルモニアさんが器用に串刺しにした魔物を別の魔物へぶつけて下がらせている。倒せない、というのは地味に痛く、厳密には倒せなくは無いけど限られた人のみなので数を減らすのが難しいのだ。

 だが、それもそろそろ終わりを告げようとしていた。

 「そろそろ見えて欲しいわね……!」

 「しつこい……! ん? 壁だ、見えてきたぞ!」

 レイドさんが叫び急ぐ。そこでチェーリカが小さく「あ」と呟いた。

 「どうしたの!」

 「あいつ! あいつだけおかしくないです? 額に宝石のようなものがついています!」

 チェーリカが指さす先に、確かに一体だけ毛色の違う魔物が居た。形は同じだけど、額の宝石はこいつにしかない。

 「グググ……グァァァァァ! キヅイタカ!」

 喋った!?

 「もしかしてこいつを倒したら全部消えるんじゃないか?」

 ソキウスがそういうも、レイドさんは首を振る。

 「構うな! それが狙いかもしれん。どうしてもやるならルーナの弓か銃で狙い撃つしかない」

 「やってみます」

 「ムダダ」

 ターン!

 アイリが下がりながら構えて発射するも、別の魔物を盾にして弾を防いだ。伊達に喋れるわけではないらしいわね。

 「見えました! 扉です!」

 ニールセンさんが扉を発見し、声を上げる。扉に入りさえすればこいつらも手出しはできないはずよね。

 「チッ。ダガ、タダデトオスワケニハイカンゾ」

 「飛んだ……! 気を付けてみんな!」

 セイラが度重なる魔法で出た汗を拭きながら見上げると、喋る個体が空を飛び、ものすごい速度でこちらへ向かってきた!

 「回り込まれる!」

 「イイヤ」

 「……しまった!」

 「きゃあ!?」

 「チェーリカ!」

 何と魔物は急降下したかと思うとチェーリカを攫って空へと飛んで行き、見下ろしながら口を開く。

 「ツウコウリョウハ、コノムスメデイイダロウ」

 「どういうことよ!」

 「コウイウコトダ! コノフロアガオマエタチノサイゴダ!」

 「え!?」

 そういうと魔物は自分から額の宝石を砕いた。

 そして――

 ゴゴゴ……

 「なんだ? 壁と床が光っている……?」

 「レイドさんあれ!」

 私達が通ってきた道が少しずつ消えていき、またしても暗く深い穴へと変貌を遂げる。空に居た魔物も光り出し、笑いながら消えていく。

 「クハハハ! ドウアガイテモコノムスメハシヌ! ハハハ……ハハハハ……!」

 「あ……」

 「チェーリカァァァ!」

 「ソキウス、無理よ!?」

 シルキーさんの横を通り抜け、チェーリカの元へ駆け出し見事キャッチした。けど――

 「ご、ごめんなさい! チェーリカのせいでまた……!」

 「気にすんな! お前が死んだらオレも生きていられないしな! レイド、ルーナ姉ちゃん! すまね――」

 「生まれ変わってもずっと一緒にいたい、です……」

 ――チェーリカをキャッチした瞬間、ソキウスの足元の床が崩れ、二人の姿は穴の底へと消えていった――



 ◆ ◇ ◆


 「くそったれ! 間に合わなかったじゃねぇか、猫ぉ!」

 「にゃーん……」

 「無理よ、三人乗せているリンちゃんじゃ間に合わないわ……」

 「恐ろしく狡猾。それが神崎という男です。ここの仕掛けも恐らく全滅を狙っていないのでしょう。恐怖を植え付ける目的もあるのでしょう」

 「ちくしょうが……!」

 「(もしかして本当にルーナと異世界人以外は消すつもり……? でもルーナが無茶をしたらその計画は無効になる……そんな危険な賭けをしているとは思えないけど……?)」
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。