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最終部:タワー・オブ・バベル

その377 神の掌

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 「う、うう……カイムさん、ごめんなさいわたしが迂闊だったばっかりに……」

 「カイムのやつ決着はついていないってのに勝手に死ぬんじゃない……」

 空いた大穴の前でフレーレとユウリが涙を流しながら呟き、私達もやるせない気持ちになっていた。バスに続きカイムさんが消えてしまったのだ、無理もないことだと思う。
 
 そこでレイドさんが呻くように口を開く。

 「……カイムは残念だった。あいつが居なくなったということはこれからが大変だ。すまないが悲しんでいる暇は無い。休んだら出発するぞ」

 「そんな……いえ、そうですね。すみませんカイムさん、仇は必ず取ります。あの世から見守っていてください」

 「泣いていても神裂は倒せない。それは最後に取っておくとしよう。食事の用意をする、フレーレ手伝ってくれ」

 「はい!」

 「私も手伝うわね」

 カイムさんの言葉にフレーレとカルエラートさんが奮起し、食事の用意を始めたので私もそれにのる。こういう時は動いていた方が考えなくて済むと思ってカルエラートさんが提案したのだと思う。

 「……索敵はできるが罠を見破る精度は高くないが、それでいいなら俺がやろう」

 「わんわん!」

 「シルバの鼻も役に立つかな? 前は俺とノゾム、シルバとクラウスかソキウスで固めるか」

 「後衛は私でいいでしょうか?」

 「ニールセンはそれでいい、セイラは――」

 と、カイムさんのことを気にしつつも、全員が先のことを話し合っていた。

 残り十階を無事に乗り切れるように、と。

 そして食事をして仮眠を取ってから私達は九十一階へと足を踏み入れた。


 <バベルの塔:91階>

 『どうだい?』

 「……多分大丈夫だ。俺が開けるから下がっていてくれ」

 ノゾムが九十一階の扉を蹴破り、レイドさんとクラウスさんと共に入っていく。後ろからそれを見ていた私達だが、レイドさんの合図で先へと進む。
 
 「また様相が変わったわね。何だっけ、あの箱形の機械みたいな感じ」

 「そう、ですね。ねえ、ユウリここって……」

 「分かってる。父さんがやっていたゲーム『デウスファンタジー』のラストダンジョンにそっくりだ」

 「何ですかそれ?」

 聞きなれない言葉を発するユウリにフレーレが訪ね、私も興味があったので会話に参加する。

 「テレビゲーム……と言ってもフレーレ達には分からなかったね。こっちの世界だと演劇とかで通じるかな? その架空の物語を体験するのをゲームって言うんだけど、その最終決戦場所にそっくりなんだよ」

 「ふうん。物語ってどんな話なの?」

 私が聞くとアイリが少し考えてから思い出したように話してくれた。

 「えっと、確か……『その昔世界を創った神様が居た。人間たちはそのことに感謝し神様を敬っていた。しかし年月が過ぎ、人間は神様を次第に忘れ、感謝することを捨ててしまう。そのことに激怒した神様は人間を見守ることをやめて眠りについた。何年か後、目が覚めて久しぶりに人間たちを観察すると地上は荒廃していた。それは神様が眠りについた時を見計らって、悪魔たちが地上を荒らしまわっていたから。神様は敬われなくなったとしても見捨てるべきではなかったと後悔し、人間と共に悪魔たちを倒すため地上へ降りて戦いを始める』とかそういう感じだったと思います」

 「地上に降りた神様ねえ……」

 『な、なんだい?』

 『どうして私達を見るのかしら!?』

 「いや、だって私達を亡ぼそうとしたギルティがあるしね」

 『ぐ……ボ、ボクは頑張ったと思うんだけど……』

 エクソリアさんは拳を握って何か言いたげだけど、シルキーさんが遮って話を続けた。

 「でも神裂がやっていることってそのゲームとは真逆よね。人間を亡ぼす為にこんなことをしているんでしょ?」

 「ええ。私達はこの世界の人間は一度消し去る必要がある、と聞かされていました。恩恵で格差を作った女神も同罪だとも」

 『……どういうつもりなのかしらね。私達は神裂の言う通り、自分勝手にやり過ぎた自覚はあるわ。でもあの男が神になったのなら人間達を救済することは可能だと思うんだけど……』

 「うーん……こうなった今、私達もお父さんが何を考えているか分からないんですよね……」

 腑に落ちないとアルモニアさんが眉を潜めて呟くと、アイリは申し訳なさそうに頭を下げ、その後は黙って足を進める。そういえば自分を憎めとか言ってたわね? あれもどういう意味かしら……

 そんな感じで通路を進んでいると、やはりというか機械が次々と出てくる。

 チュイーン……

 ピピピ……

 「一気に破壊するぞ」
 
 「ええ」

 「わん!」

 「がう」

 シルバとレジナが床を動く丸い奴を押さえて、爆発する直前に離脱し、空中に浮いている機械はレイドさんの剣撃とアイリとユウリ、そして私の射撃で確実に撃ち落としていく。

 背後から忍び寄ってきた機械については、

 「みんな私の後ろへ、爆発はこれで免れる。後は……闇の剣で叩き潰すだけだ!」

 と、カルエラートさんが大盾でガードしながら破壊していった。後ろはカルエラートさんが居てくれるから安心よね。

 しばらく足止めを受けたけどやがて静かになり私は呟く。

 「流石にもうネタ切れかしら? 同じのしか出てこないわね」

 「いや、代わりに……ハッ! ……電磁ネットか、ゲームにもあった罠だ」

 どうも道中にある仕掛けはゲームと同じらしく、ノゾムが何となく覚えているということで罠にも関わらず進めていた。カイムさんが居ればもう少し楽だったかな、と思えるような罠もあったので少し寂しかった。

 で、扉の中この迷路に入ってニ、三時間くらい経過しただろうか。あちこちの扉を開け放っていた私達はあっさりと階段を発見する。妙に広い部屋の奥に階段が直接見えているので少し違うなと思ったくらいで特に罠は無さそうだった。

 「あったぜ階段!」

 「……位置はゲームと同じみたいだな。これなら俺が迷わずに進めるかもしれない」

 「良かったです、あまり時間も経っていませんしこの調子ならすぐに百階へ行けるんじゃないです?」

 ソキウスとチェーリカが安堵しながらそういうと、カルエラートさんが言う。

 「あまり楽観しない方がいい。何があるか分からない――」


 ◆ ◇ ◆


 「やれやれ、今回は早かったな。先に扉の前で待つか」

 「ほっほ、そうですね。私達で開けられないのはやきもきしますが」

 「にゃあーん……」

 「もう少しで一緒に居られるから我慢してねリンちゃん?」

 「しかしあの転移陣はえげつなかったな……一人死んじまったみたいだし……」

 「残念ですが、冒険者ならいつ死んでもおかしくありません。特にこのような場所では」

 「そうね、私も色々見てきたけど―― あれは!?」


 ◆ ◇ ◆


 「ぐっ……」

 「カルエラートさん!」

 急に壁が動き出し、私達を挟もうと急速に迫ってきた。危うく押しつぶされるところだったけど、カルエラートさんの大盾をつっかえ棒にしてギリギリ助かっていた。

 「だ、大丈夫だ! 今のうちに駆けろ!」

 カルエラートさんの言葉に頷き、私は全員に補助魔法をかける。

 「《ムーブアシスト》!」

 私達はすぐに駆け出し圧迫してこない場所まで走り始めると、前方の床が崩れた!

 「陰険な罠だな、だけどこれくらいなら!」

 私達は次々に飛び越え、後はカルエラートさんだけと思い振り返ると、カルエラートさんは大盾をつっかえ棒にした場所に立ったままだった。

 「何やってるんですか! 床が抜けてしまいますよ! それに盾も軋みをあげているじゃないですか!」

 ニールセンさんが戻ろうとするが、すでに床は飛び越えられるような距離では無くなっていた。するとカルエラートさんはフッと笑い私達に告げる。

 「私のことは気にするな、行ってくれ。大盾を支えに踏ん張った時足をやられたからどうあがいてもそっちに行くことはできないんだ」

 「そんな……言ってくれれば回復したのに! ノゾム、ワイヤーは!」

 「ダメだ、この距離は流石に届かない……!」

 「きゅんきゅん!」

 シルキーさんやシロップが叫ぶも、

 「回復している間に床が落ちれば君もろとも真っ逆さまだっただろう。気持ちだけもらっておくよ。残ったのが私一人で良かった……必ず――」

 ガゴォォォン……

 「カルエラートさぁぁぁん!」
 
 最後まで言い切らないうちに大盾をぐしゃっと潰し、壁は完全に閉じてしまった……

 「そ、そんな……カルエラートさんまで……」

 「……本当に俺達を殺すつもりだな。ノゾムよ、この仕掛けは『げぇむ』とやらにあったのか?」

 お父さんノゾムに訪ねると、代わりにユウリが答える

 「こんなのは無かったよ。父さんのオリジナルだ……」

 「ノゾムやユウリ、アイリ達がゲームを知っているということを逆手に取った……?」

 セイラが冷や汗をかきながら言うと、お父さんが頷く。

 「……間違いなく。この先も確実に殺しに来る罠があるとみていいだろう。敵が弱かったのもカモフラージュなのかもしれん」

 あっという間に三人の犠牲者を出した私達は悲しむ間も無く92階へ行く。そしてお父さんの予想は的中することになる――
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