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最終部:タワー・オブ・バベル
その376 始動
しおりを挟むシュゥゥゥ……
箱形の機械は本当に、文字通り跡形もなく消え脅威は取り除かれた。でも、同時に大事な仲間が消えた瞬間でもあった。
その瞬間、私のつけているサークレットに命が吹き込まれたような感覚があった。
「バス、どうして……」
「バスちゃん……」
私とフレーレが項垂れていると、レイドさんが肩で息をしながら私の肩に手を乗せて言う。
「悔しいけど、バステトは身を挺して俺達を進ませてくれたんだ。この借りは神裂を倒すことで返させてもらおう」
「レイドさん……」
見れば、チェーリカやシルキーさんは泣いていて、クラウスさんとソキウスもやるせない表情だった。あの四人は拠点で一緒の時間が多かったのもあるみたい。
「クソ! 俺が、俺達がもっと早く片付けていれば……!」
「クラウス殿、終わったことを言っても仕方ありません。我々にできることは、早く神裂を止めること、そうですよね?」
「ニールセンの言う通りだ。見ろ、扉が開くぞ」
カルエラートさんがそういうと奥にある扉が消え、近くに転移陣が現れた。そうだ、泣いている暇はない。残り九階、早く行かないと。
「それじゃ、行きましょう」
「……大丈夫か? 今の戦い、六人という制限はなかったが苦しかった。恐らく一網打尽にする作戦だったんだろう。後は神裂のみ、ここで最後の休息をするべきだと俺は思う」
「でも、お父さん!」
『ヴァイゼの言う通りかもしれないよ、ルーナ達後衛はまだいいけど、レイド達は疲弊が厳しいはずだ』
『それに上級補助魔法の効果が切れるでしょ? 少し休憩して日をまたぐよう移動するのがいいと思うわね』
お父さんに反論をしようとしたところ、女神様二人に窘められ私は口ごもる。お父さんが珍しく私の頭を撫でながら続ける。
「怒るなとは言わん。忘れるなとも言わん。だが、冷静さを欠くな? ディクラインとアイディールが居なくなった時と同じ顔になっているぞ」
「あ……」
私は顔を手で触り思い直す。
「悔しいのはみんな同じだし、先に行きたい気持ちもあるが、ヴァイゼさんの言う通り少し休もう」
「う、うん……」
そう決まると、転移陣の近くで休もうと歩き始める。
◆ ◇ ◆
「……とんでもねぇな、あんなのと戦ってたのかあいつらは?」
「あまり喋らないで、気づかれるでしょ」
「にゃん……」
「ほっほ、同じ猫が居なくなって寂しいですかな? ほら、ごろごろ」
「師匠、気持ち悪いぞ……」
ガツン
「いてぇ!?」
「さて、言い方は悪いですがこちらの戦力は一人の犠牲で済みました。神裂のアテは外れたと思うべきでしょうか」
「今のキカイってやつが最後の切り札っぽかったし、迷宮に迷わなければ辿り着けるんじゃないかしら?」
「いてて……野郎をぶちのめすのは俺だ。覚悟しろよ神裂……あん? あいつら何か転移陣の前で話してるぞ、戻るつもりか?」
「食料などが少なくなってきたのかもしれませんね。外は激戦だと聞いていますが大丈夫でしょうか?」
「外の雑魚なら問題ないでしょ――え?」
「マジか!?」
◆ ◇ ◆
「残念でしたねバス……」
「うん……」
「きゅきゅーん……」
寂しそうに甘えてくるシロップを撫でているとフレーレが話しかけてきた。
<なあに、女神装備に意識が返ってくる。神裂との決戦までにはな>
「チェイシャ……あなたが死んだときも思ったけど、やっぱり目の前で死なれるのはショックよ? できれば犠牲無しが良かったわけだし」
チェイシャが口を挟んできたので、それに返すと、今度はファウダーからお声がかかる。
<ルーナの気持ちも分かるけど、これは世界を救うための戦いなんだ。オレ達みたいなもう居ない奴らはここで役に立てて嬉しいもんだよ。みんなを助けることができるなんてかっこいいじゃないか>
<そうよ? 最初は胡散臭い女神の封印を押し付けられたけど、今はルーナやフレーレに会えてよかったって思うしね。フォルサは残念だったけど、彼女も後悔はしていないと思うわ>
「ジャンナ……フォルサさんも草葉の陰で見てくれていますよね!」
良くはない、けど今はこうするしかないとチェイシャ達に言われ、私は頭を切り替える。
「よし! 残りは一気に駆け上がるくらいの勢いで行くわよ!」
「そうですね!」
と、空元気だけど何とかこらえた私達は転移陣に近づく。そこでまたフレーレが口を開く。
「そういえば、拠点はどうなったのか気になりますね。食料の補充を兼ねて様子を見に帰りませんか?」
『あと少しで最上階だよ? 今戻ってケガでもしたらことだと思うけど』
いつの間にか近づいてきていたのはエクソリアさんだった。私もそう思うけど、フレーレは続ける。
「そうですね……わたし、あまり魔力を消費していないからケガをしている人を助けられたらと思ったんですけど」
「なるほどね。帰って拠点が無くなっていても困るけど、心配は心配よね。エリックとか無茶しそうだし」
そこへクラウスさんが険しい顔で歩いてくる。
「なら俺が戻るか? さっきのやつ相手には役に立たなかったが、護衛くらいはできる。外の魔物は結構戦ったから余裕だしな」
「回復は私も居るし、それに食料の補充は必要かもね」
「しかし……」
レイドさんが考え込み、しばらく悩んでいると、
「……分かった。クラウスとシルキー、それとフレーレちゃんにカイムで戻ってくれ。ただあまり時間はかけられない。休憩が終わっても戻ってこなかったら先に行くぞ」
「はい。ありがとうございます! それじゃ行きましょう」
「気をつけろよ?」
選ばれなかったユウリが口を尖らせて言う。
「大丈夫ですよ! ふふ、一番乗りです!」
「無理しないでね」
「!? フレーレさん!」
私が最後に声をかけると、フレーレが転移陣に乗る。すると、カイムさんが慌ててフレーレを引っ張って体を入れ替える。
「きゃ!?」
フレーレがこちらに突き飛ばされた形になり、受け止めると、直後、とんでもない光景が――
フッ――
「やはり罠か! すみませんみなさ――」
「カイム……!」
転移陣があった場所の床が急に消えてしまい、フレーレと入れ違いになったカイムさんが漆黒の闇へと消えていった。突然のことにノゾムも反応できず、ワイヤーは空をきった。
「……え?」
「嘘だろ……?」
「カイムゥゥゥ!!」
私達が今起きた出来事に呆然としていると、どこからか声が聞こえてきた。
『あー、あー、テステス。お前等、元気かー? よくもまあアレを壊してくれたもんだ。一人死んだみたいだが、それで済んだのはすげぇよ。感服した。だから罠を用意したんだが、今も一人しか消えなかったか? まあ、あの忍者もどきが消えたのは僥倖だなあ! はははは!』
「神裂!」
『はは、良い顔だルーナ。憎いだろう、俺が? ならば上がってこい。お前たちを始末してこの世界を終わりにしよう』
「父さん! どうしてこんなことをするのよ! 口と態度は悪かったけど、人をむやみに殺すようなことはしなかったじゃない!」
アイリが本気で怒り、神裂に訪ねるも神裂はどこ吹く風で笑いながら答える。
『これが俺の本性だ。お前等も気をつけろ? そいつらに与するなら……消すぞ』
「クソ親父が……!」
『そうそう、ユウリくらい分かりやすい方がいい。忍者もどきが消えたんだ、この先何人生き残るか楽しみだぜ』
「待ちなさい! 話はまだ――」
『百階で待つ。せいぜいあがくんだな』
そう冷たく言い放つと、神裂の声は聞こえなくなった――
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