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最終部:タワー・オブ・バベル

その368 戦闘後の一息

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 <やったですにゃ!>

 とどめを刺したのを見て両手を上げて喜びながらこっちへ帰ってくるバス。倒したのはソキウスだけど、バスが伝達役をやってくれたから完全な勝利ができたのだ。

 「いい動きだったわバス!」

 <照れるのにゃ>

 にゃーんと頭をかくバスを抱きしめると、レジナ達が集まってきた。

 「がう」

 「わんわん!」

 「きゅんきゅん♪」

 「きゅふん!」

 「はいはい、お決まりだけどあなた達もね!」

 狼達を撫でてあげると、鼻息を荒くしたバスが腰に手を当てて立ち、口を開いた。

 <今日のは見事だったのにゃ! これからは私と一緒に作戦を立てるのにゃ!>

 「わーん!」

 「がう」

 シルバとレジナがバスを追い、なにやらわんわんにゃんにゃん始めたので、私達はまずフレーレの元へ行き、あられもない姿を何とかするべく奮闘する。


 その結果――


 「うーん……布面積が少なくなったわね……」

 「そうですね。でもローブはボロボロになりかけていたからスッキリしましたよ! 背中も隻眼ベアに裂かれたところを縫っていただけですし」

 そう笑顔で言うフレーレだが、肝心のローブがかなり溶かされていたのでスッキリどころではなかった。とりあえず残ったローブの部分と、霊峰へ行った時に買ったシロップの花柄毛布を少し貰ってから縫い直したのだけど、毛布は動きにくくなるから足周りはあまり手をかけなかった。その結果、ちょっとフレーレのおみ足が出てしまうことになったというわけだ。

 「ごめんね、シロップ。毛布いただいちゃいました」

 「きゅんきゅん♪」

 構わないとばかりに飛びつくシロップを抱っこしてフレーレは背中を撫でてあげていた。さて、フレーレはこれでいいけど問題は……

 「ハッ!? わ、私は気絶していたのか! あのボスはどうなった!」

 ……飛び起きたカルエラートさんだ。鎧を着こんでいるけど、ニールセンさんみたいに全身を覆うタイプではなく、胸とお腹、脛をガードする部分のみなので、お腹と胸の部分が少し露わになっている……あ、ちょっとそんなに派手に動いたら……私が声をかけようとする前にセイラが叫んでいた。

 「動いたらダメよカルエラート! 男性諸君は後ろを向きなさい!」

 「お、おう!」

 「クラウスは私がしっかり見張ってますからね」

 「ソキウスのだめですよ!」

 「分かってるよ……」

 「はーい、ユウリとノゾム兄さんも回れ右!」

 「……惜しい……シルバ、あっち向こう……」

 「そんなことを言うの珍しいね!?」

 何故か残念そうなノゾムにユウリがツッコミ、私はレイドさんを後ろに向かせた後、女性陣のみでカルエラートさんを囲み、議論する。

 「あの触手から出る体液で溶かされた感じね。よく見ると少し火傷してるわ」

 「う、うむ。そう皆で見られると恥ずかしいのだが……」

 カルエラートさんが胸を隠す仕草をするが、時は一刻を争うので私はすぐに準備に取り掛かった、

 「では材料はこれです」

 「あ、シルバのお肉毛布ですね」

 <シルバは欲深いにゃ>

 フレーレが手を合わせて微笑み、私は頷いた。これでカルエラートさんの肌の部分を作るのだ!

 「こ、これで作るのか……?」

 
 そして――


 「わんわん♪」

 「よし、手間をかけたな! 行こうみんな!」

 「結構いい感じに仕上がったわね! シルキーさんああいうの好きなの?」

 「うん。結構古着屋さんとかで買ってきて自分で仕立てたりするの。恩恵を持っている人に比べたら全然だけどね」

 そういうシルキーさんは得意気だった。もしかしたらカルエラートさんみたいに自分のお店を持ったりしたいのかもしれない。

 「そ、それじゃ行こう……ぷっ」

 「レ、レイド! 笑うとは酷いじゃ無いか!」

 「……俺はいいと思うけどな……ぷふ」

 「まあ、仕方ないよ。お腹に大きな骨付き肉の絵柄があったらさ」

 「戦いには関係ない! 行くぞ!」

 「あ、ちょっと待ってください! 私が前を行きますから!」

 カルエラートさんがぷんすかしながら先へ進み、カイムさんが慌ててそれを追う。私達は苦笑しながら85階を後にし、扉をくぐる。
 私がふいに時計を見ると、あれだけ激闘や迷路に迷っていたにも関わらずそれほど時間が経過していなかった。

 「あんまりお腹が空いていないのはこのせいかな」

 『そうだね、この階層は時間の流れが一定じゃないみたいだ。さっきの矢印床は重力を操っているけど、重力と時間は関係があるからね』

 「そうなんだ。たまにもの知りよね、エクソリアさん。アイリとかも知ってそうだけど……」

 『な!? ボクは女神だぞ! 人間とは違うんだって!』

 「でもその割に、神裂みたいなのに手が出せなかったじゃないか?」

 『それは……力が完全じゃないからだよ! 本来の力があれば神裂なんて千切っては投げ千切っては投げだよ!』

 「まあまあ」

 階段を上りながら憤慨するエクソリアさんを宥めていると、86階へと到着する。

 「着いたようだぞ」

 「扉は問題ありませんが……風の音が強いような……念のため、階段下に降りてください」

 カイムさんがエントランスへ上がろうとする私達を手で制して、一緒に歩いていたカルエラートさんも階段下に降ろすと、いつもは勢いよく開けるのに今回はそっと扉を押す。

 「……くっ……風が……!」

 「手伝おう」

 ゆっくり開けているのかと思ったら、どうも押し返されているようで、レイドさんも扉に手をかけて一緒に押す。

 「がんばってー!!」

 「お兄ちゃんファイット!」

 「わ、私も手伝いますよ!」

 「いや、これくらいなら……!」

 レイドさんがそう言うと、ギギギ……と、扉が開く。

 一度開いた後は壁に叩きつけられるように反対側の壁に張り付き、鎧を着ていないカイムさんが勢いで吹き飛んだ。

 「うわっ!?」

 「……危ない!」

 ノゾムがワイヤーを伸ばし、カイムさんがそれを掴んで引き戻されて元の場所に戻ってくる。何故ノゾムが『危ない』と叫んだのか――


 「何、これ?」

 「嘘だろ? ここまで来てこれは反則じゃねぇか」

 セイラとクラウスさんが顔を顰める。それも無理からぬことだろう。

 「床が無い?」

 私達が立っているところから数歩進んだ先には床が無く、暗い吹き抜けになっているだけだったのだ。
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