パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その366 上下反転の意味

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 「はあ、ちょっと休憩ね……」

 「結局戻って来れなかったな。このまま85階へ行くのか?」

 「そうだな、ちょっと戻れそうにない。戻って矢印を踏むのもアリだが……」

 カルエラートさんが私達を見上げてぐいっと水を飲む。そう、逆さまになったパーティはそのまま扉をくぐることになり、今も逆さまになったまま話していたりする。

 「……シルバ、干し肉だぞ」

 「わん♪」

 不意にノゾムが干し肉を取り出し天井に張り付いているシルバ見せると、シルバは喜び勇んでノゾムの手に飛びつく。

 「……よっと……掴まえたこれで地上に――」

 「わん?」

 はむはむと干し肉を噛むシルバを掴まえて地上に降ろそうとしたが、シルバは凄い勢いでノゾムを引っ張ったまま、ぎゅん! と、戻ってくる。

 「……ぐあ……」

 「兄さん……」

 ボトリと燻られた蚊のように地面に落ちるノゾム。ホントにこの人は狼が好きだなあ……シルバとラズベの子供ができたら里親になってもらおうかしら?

 そんな軽いやりとりをしながら階段を上っていき、85階への扉の前に立つ私達。

 「……問題なく開けられます」

 「行こう……ニールセン、開けてくれるか?」

 カイムさんの言葉にレイドさんがニールセンさんに扉を開けるよう頼んでいた。開けられないことは無さそうだけど、地上から明けてもらった方が対応しやすいと考えたみたい。

 ゴゴゴゴ……

 開け放たれる扉の向こうはまさかの光景があった。

 「おいおい……」

 「マジか……」

 クラウスさんとソキウスがそれぞれぽかんと口を開けて呆れる。それも無理はない、なにせ部屋の床にはあちこち矢印床や壁が設置されているのだから。

 「……一応何も無い床もあるようだな。これを踏まなければ問題ないか」

 「そうね。ルーナ達、戻って来れる?」

 「はいはーい」

 天井にあった矢印を踏み、私達天井組も地上へと戻り合流を果たす。私は周囲を警戒しながら口を開く。

 「……中ボスっぽいのがいないわね……? このまま進んで大丈夫かしら?」

 「構わないだろ? オレ達は先に行くためここに来たんだしな!」

 ソキウスがそう言うと奥からさっきまで追いかけられていたバインドギャザーの群れが現れた。ええー、ここにも居るの!?

 「面倒だけど倒すしか――」

 じゅるり……

 「銃が……!」

 ユウリが銃を取り出すと空中から触手が伸びてきて、銃を弾き、からからと音を立ててバインドギャザーの群れの中へ紛れてしまう。

 「何!? 天井にも居るのか!?」

 「い、いえ、あれを……!」

 レイドさんが驚いて天井を見上げ、私達もそれに合わせて上を見た。そこには破壊兵器のような硬そうな鎧を纏った、他より少し大きいバインドギャザーが空を飛んでいた!

 「何よあれ! ずるくない!? 気持ち悪いし落ちなさい! ≪ブリザーストーム≫!」

 ゴォォォォ!

 「私もやります!!」

 ターン、ターン!

 セイラとアイリが攻撃を放ち、見事バインドギャザーにヒット! ……したのだけど、

 ドジュウウウウ……

 チュイン!

 「嘘、熱で溶かされた!」

 「それに弱点の目を強化ガラスみたいな装甲で覆っている……面倒な相手ですよこれは……くっ!」

 ターン! と、アイリのライフル弾が正確に目を狙うが、確かに直前でなにかに弾かれているようだった。さらにこいつは空を飛んでいるから間接攻撃を持たない人は不利……

 「……どうするか……」

 「抜けさせてくれる雰囲気でも無いですし、倒すしかなさそうですね。……来ます!」

 じゅるる!

 空を飛んでいるバインドギャザーが触手を振ると、地上にいた部下たちが動き出してきた! うええ、気持ち悪い……

 「わ、私、レイジングムーンで戦うわね!」

 「あ、ずるいですよルーナ! フォルサさんのモーニングスターどこでしたっけ……」

 「まずい、こいつら矢印のないところを占拠しているぞ! チッ! うわっ!?」

 レイドさんがトントンと、白い部分だけを踏んで応戦するが、多勢に無勢なので突き飛ばされて天井へ飛ばされる。

 「思うようにうごけねぇな!? シルキー、気をつけろよ!」

 「そっちもねクラウス! この! なんでかスカート狙ってくるんだけど……!」

 「いやらしいです、この魔物! 成敗! せいばーい!」

 「オレの後ろに来いチェーリカ!」

 あちこちで乱戦が始まる中、苦戦を強いられる私達。だけど、それをものともしない頼もしい仲間がいた。

 「がう!」

 「わぉーん!」

 「きゅんきゅん」

 「きゅふん!」

 ズバッ! バシュ!

 うじゅるぅぅ……

 レジナ達、狼親子である。身軽な体を活かし、バインドギャザーの頭を踏み台にして矢印を踏まないよう一体ずつ弱点の目を潰していく。それともう一人、

 「はああああ!」

 ガキン! ザシュ!

 「大盾を壊すことはできないようだな! この闇の剣も防げないと見た!」

 「……なら俺はあなたの後ろからあいつらを片づけさせてもらう。すまない」

 「気にするな、味方を守るのが聖騎士の役目だ。どんどん行くぞ!」

 「おおー! いけいけー! 私はあの飛んでいるヤツを……!」

 じゅるる……!

 ボスっぽい鎧を着た生意気なバインドギャザーにシューティングスターを放つと、慌てて回避する。しかし、矢が少し鎧をかすめると、バキン! と、心地よい音を出して少しだけ砕けた。

 「アイリ!」

 「はい!」

 私とアイリは今の状況を見て即座に判断し、狙いをボスギャザーに狙いをつける!

 「「行け!」」

 ビシュ! ターン!

 あいつは思ったより動きが鈍い。なら先に外装を剥がして引きずりおろしてやろうと決めたのだ。そして矢と弾丸がやつに迫る。だが、その時だった。

 じゅる!

 「う! やるな……ひゃああん!?」

 「あ!」

 地上で立ちまわっていたカルエラートさんが押されて矢印床に踏みこんでしまい、可愛い声を上げて体が浮き上がる。そして――

 「うぐ……!?」

 「カルエラートさん!」

 私の矢と弾丸がカルエラートさんの背に突き刺さる。幸い鎧があるので致命傷ではないけど、反動で骨にひびくらいはいったかもしれない。

 「か、構わない! むしろ好機……!」

 ケガをしながらも攻撃を仕掛けるカルエラートさん。それを見てアイリは移動し、別の角度からライフルを撃つ!

 「この!」

 じゅるる……

 「いきなり力が強くなった……!? ぬあ!」

 ガキン!

 「あ、危なかった……カルエラート殿を見ていなければ頭に当たっていたかもしれない」

 ライフル弾は矢印床に押し込まれたニールセンさんを攻撃する形になり、かろうじて剣で弾き返して事無きを得る。

 じゅる……じゅるる……

 「きゃあ!? 矢印です!」

 「チッ、キリがねえな……どわ!?」

 混迷を極めてきた戦いは、こちらの仲間を上へ下へと揺さぶってくる。後ろで見ていると、どうにも私達に同士討ちをさせたり、ぶつけるような動きをしてきている。そこにお父さんが近づいてきた。


 「……気をつけろルーナ。こいつら見た目よりも賢いぞ」

 「そうみたいね……お父さん、何か策はありそう?」

 近づいてくるバインドギャザーを煉獄剣で燃えカスにするお父さんに尋ねてみると、意外なほどあっさり返事があった。

 「……無い訳ではない。ルーナ、手伝ってくれるか?」

 「もちろん!」

 お父さんと私による反撃が始まった!
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