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最終部:タワー・オブ・バベル

その362 ダンジョン特有の罠

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 「エクソリアさん大丈夫? とりあえずみんなに<ストレングス・アップ>を、と」

 「あ、いいですね!」

 重い足取りのエクソリアさんを回収して全員に初級補助魔法をかけると、わずかに足が軽くなったようでフレーレがぴょんと飛び跳ねていた。

 『うん、これならなんとか……。助かるよルーナ、とりあえず軽装組で来た感じだね?』

 「がうがう」

 『はいはい、レジナもね。さて、このフロアは時間か空間を操る何かがあるってことかな?』

 「……恐らく。時間を早めたり重力を操作できるならその可能性が高い。だが、そんなことが出来るやつは俺達が100階にいた頃は見ていない」

 「時間と重力って何か関係があるんだ?」

 ボスも気になるけど、重力が気になって聞いてみると、ユウリが用心深く周囲を見ながら口を開く。

 「僕も詳しく勉強したわけじゃないけど、物体が軽くなればなるほど時間はゆっくりになっていき、逆に重くなれば早くなる……だから下の階の時点で恐らく少しずつ空間の重力を増やされていたんだと思う。で、ここに来て一気にそれをあげた」

 『まあそんなところだろうね。急がないといけないのは、この早くなった時間が神裂にどう影響を与えるか何だ』

 ドスドスと大きな足を音を立てながらエクソリアさんが言う。私は影響が無いけど、体を動かすのはかなりぎこちないと思う。

 「静かに……これは……なんでしょうか」

 前を歩いていたカイムさんがT字路の角を曲がったところで少し進んで足元を指さす。

 「矢印?」

 「これは……アレだろうな……」

 「……ああ」

 フレーレが後を追いかけ、首を傾げて呟く。確かに言うとおり矢印である。ユウリとノゾムは何か知っているような口ぶりだけどどうしてこんなところに……? そう思っていたところで後ろから殺気を感じて振り返る。

 グッァオォォォ!

 「魔物!? 気配は無かったはず! すみません!」

 カイムさんが謝りながら振り向くがやはりいつもより鈍い。ならば!

 「私が行くわ!」

 唯一きちんと動ける私が、悪魔のような羽を持った灰色の魔物二体の前に立ちはだかる。


 グゴォォォ!

 『こいつらはガーゴイルか! 石像の化け物だから気配が無かったのかもしれない!』

 ゴウ!

 エクソリアさんが解説してくれていると、ガーゴイルが指先からフレイムストライクを飛ばしてきた! 魔法が使えるの!? 

 <アタシの盾なら防げるよ!>

 「了解!」

 フレイムストライクをアネモネさんの盾で打ち消していると、そこにフレーレの魔法が後方から援護で飛んできた!

 「≪マジックアロー≫!」

 ドウン!

 グゲ!?

 「怯んだ! てやああ!」

 素早く踏みこみ灰色の魔物を縦にばっさり斬ると一体目の魔物がボソリと砂になって崩れ消える。

 「……もう一体は俺が引き受けよう」

 もう一体へ攻撃を仕掛けようと態勢を変えている間に、いつの間にか迫ってきていたノゾムがガーゴイルの首にワイヤーを巻きつけて刎ねていた。

 グギャァァァ!?

 ボシュ!

 「あ!?」

 もう一体もあえなくダウンかと思われたが、死ぬ間際にフレイムストライクを放ち、一直線にフレーレに向かう!

 「きゃあ!」

 「ガウ!」

 「レジナ! ……ふう、良かった……」

 間一髪、レジナがフレーレを突き飛ばして転ばせたので直撃は免れた。

 「いたた……ありがとうございますレジナ。魔物はもう――」

 と、フレーレが言いかけたその時、フレーレが乗っている矢印が光り出した。

 「え? え? ……わあ!?」

 「が、がう!?」

 なんと次の瞬間、ぺたんち座り込んでいるフレーレとレジナが勝手に移動し始めた!? あの矢印ってそういうこと!?

 「やっぱりか! 追うぞ!」

 「はい! フレーレさん!」

 『あ! 罠かもしれないのに!』

 エクソリアさんが止める間もなくユウリとカイムさんが飛び乗りどんどん進んでいく。ここではぐれるのは良くないと思い、私も矢印に飛び乗る。

 「まともに動けないから固まって動かないと!」

 『ええい! 知らないぞ!』

 「……自分たちで走れば少し早く移動できそうだ、行こう」

 ノゾムの言葉に同意し全力で走ると、ユウリとカイムさんの背中が見えてきた。

 「カイムさーん! 大丈夫ー?」

 「はい! ですがどこへ行くんでしょうか」

 あと一息……! カイムさんが全力でフレーレに近づいていく。

 「あーれー」

 「がーうー」

 「……!? カイム急げ!」

 ユウリが焦って叫ぶ。その理由は追いついた私にも分かった。終着地点に大穴が開いていたからだ!

 「追いついてもこのままじゃ私達も落ちるんじゃない!?」

 「……だな。こういう時は回避策があるものだが……父さんならどこへ作るか……」

 ズズズ……と前へ進むので、抗ってみるがあまり効果は期待できない。するとノゾムが細めていた目を見開いて穴に向かってダッシュする!

 『何を!?』

 「……穴の手前にレバーがあった、あれを下げれば……!」

 「ノゾムさん!」

 カイムとフレーレを追い越し、凄いスピードで進むと確かに壁にレバーらしきものがあった。それをすれ違い様に下に降ろす。

 ガクン……

 「止ま……ってない!?」

 「大丈夫だ、問題ない」

 私が叫ぶとノゾムそのまま大穴に……は落ちず、直前で曲がった。

 「切り替えスイッチだな。どこに繋がっているか分かったもんじゃないな……」

 カーブのところで大穴を覗き込むユウリが愚痴をこぼす。矢印はその後、右やら左やらぐねぐね通路を曲がり、程なくして私達は矢印が無くなったところへ辿り着く。

 「はあ……怖かったです……」

 「がう……」

 レジナを抱きしめて少し涙目のフレーレが呟く。とりあえず何とかなったけど……

 「かなり迷わされたな……出口かこの重力を操っている敵を早く見つけないといけないな」

 「とりあえず進みましょう。マッピングはしているから、レイドさん達が居る方向へ歩けば帰れるかもしれないし」

 私は胸元からマッピング用の魔法板を取り出しそう言うと、みんなが頷き歩を進ませ始める。マップには辿ってきた一本道があったけど、かなり流されていたようで戻るのも一苦労かも……

 そんな中、次の分岐路で事態が好転する!
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