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最終部:タワー・オブ・バベル

その361 目に見えない脅威

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 「きゅんきゅん」

 ふんふんと鼻を鳴らしてシロップが前を歩く。うっすら残る肉じゃがの匂いを嗅いで犯人を突き止めようという作戦である。ただ、時間の経過が早いのでゆっくりとしていられないのも事実。匂いが切れるまで進んだら後は二手に分かれるかと話し合っていた。

 シャァァァ!

 ゴォァァァァ!
 
 「パイロンスネークは俺とニールセンでやる。ユウリとアイリは的が大きいチャージホースを狙ってくれ」

 「了解です!」

 「余裕だねっと!」

 タンタン! ターン!

 ザシュ!

 シロップに迫っていた二匹の魔物をあっという間に倒し、私達はさらに駆け足で進む。しばらくすると、扉が見えてきた。

 「あれ、もしかして次の階段へ行く扉じゃない?」

 「恐らく。私が先行します」

 私が指さすと、カイムさんがサッと動き扉の前へ立ち鍵を確かめる。それを待っていると、レジナやシルバ、シロップが隅の方へ歩きだす。

 「どうしたんですかレジナ?」

 「がう?」

 「わん?」

 「きゅんきゅん」

 「きゅふん?」

 四匹はウロウロしながら鼻をふんふんさせていた。何かあるのかなと思っていたけど、狼達は終始頭に「?」を浮かべて尻尾を下げていた。

 「罠は無さそうです。急ぎましょう」

 ガチャリと扉が開き、レイドさん達前衛がなだれ込むように入り、続いて私達も入る。全員が階段の前へ集まったところでフレーレが時計を確認してくれた。

 「……うん、戻ったみたいです。針の動きが正常ですね」

 「ふう……まったく焦らせてくれるぜ。こんな仕掛けばっかりあんのか?」

 クラウスさんが肩を竦めて尋ねてくると、カイムさんが苦笑しながら答えていた。

 「そうですね。何もないフロアもあったので絶対ではないですけど、床にスイッチだとか壁に針の仕掛けなどはありましたね。正直言うと大人数での移動は頼もしい代わりに罠で一網打尽にされる可能性があるので、慎重に進みたいと思っています」

 「……確かに……針山に落とされて全滅したり、テレポーターで壁の中に入ったりして死ぬこともあるな……」

 「お兄ちゃん、それゲームの話よね?」

 ゲーム……? そんな罠が出て死んじゃうゲームがあるんだ……アイリにつっこまれているのを横目にぞっとしていると、エクソリアさんが口を開く。

 『時間が惜しいな。とりあえず登って83階がどうなっているか確認しよう。一人だけ扉をくぐって時間の流れがおかしくないかチェックだな』

 「いいわね、それでいきましょう。エクソリアさんお願いします!」

 『え!?』

 いい案だと思い私がそう言うと、階段を昇っていたエクソリアさんが驚いて振り返る。すると後ろからソキウスとチェーリカが笑いながら声を出した。

 「ははは、そりゃ言いだしっぺだから仕方ないぜ」

 「ですです! ルーナ、ナイスですよ!」

 「(ルーナイス……やりますね)」

 「神妙な顔をしてどうしたのフレーレ?」

 「え? な、なんでもありませんよ!?」

 『これは妹ちゃんの負けね。ま、死ぬことはないでしょ』

 『くう……!』

 エクソリアさんが神裂を歪めて呻くとみんなが笑い場が和む。しばらく階段をのぼっていると82階へと辿り着いた。カイムさんが扉を調べて特に問題が無いことを確認し、すっと横に移動しエクソリアさんに向き直る。

 「エクソリアさん、どうぞ」

 カイムさんがそう言い、私達がじっとエクソリアさんを見ると観念したように大声で扉を開ける。

 『わ、わかったよ! 行くよ! 行きますよ!』

 何故か半ギレ敬語でフロアへ出るエクソリアさん。そっと見送りつつ扉の中を見てみるが、82階と同じ迷路のような感じのような――

 『うぐあ!?』

 私が分析をしていると、少し前を歩いていたエクソリアさんが急に四つん這いになって呻き声を上げた。

 「どうした!?」

 「……待てレイド! 迂闊に出るな! エクソリア、何があった!」

 お父さんが尋ねるとエクソリアさんはぐぐぐ……と、やけに力強く立ち上がりながら振り向く。

 『くっ……このフロア……重力負荷が凄い……慣れれば歩けるだろうけど、これはきつい……』

 「重力?」

 シルキーさんが何のことだろうと眉を顰めて聞くと、アイリ達が代わりに説明をしてくれた。

 「重力はこの世界だと知識に無いんですね。重力は凄く簡単に言うと、地面に引き寄せられる力のことなんです。物を持ち上げた時に『重い』と感じるのは持ち上げた物が地面に引っ張られているからなんですよ」

 「……俺達がこうやって立っていられるのは重力のおかげだ。しかしそれが強くなるとああいう風に押しつぶされると言う訳だな」

 『ぐぐぐ……のんきに解説していないで何とかしてくれないかな……!? じ、時間はふ、普通みたいだよ』

 怒るエクソリアさんが口を開くが――

 「なんとかと言われても……」

 「仕掛けを破れそうなものはありませんよ? このまま進むしかないのかも」

 フレーレと私が口を揃えて言うと、きょろきょろしていたカイムさんが困惑顔で告げてきた。

 「……ですね。もしかしたら通路の先にあるのかもしれません」

 「行くしかないってことか。よし!」

 「あ、レイドさん待つんだ!」

 グシャ!

 ノゾムが止めるも、レイドさんが一歩前へ踏み出す、するとレイドさんはあっさりと潰れた。

 「ぐああああ!」

 「……やっぱりか……鎧を着ているからモロに影響を受けるんだ。ニールセンさんとカルエラートさんも踏み入れない方がいい」

 「え、ええ……だ、大丈夫ですかレイド殿!」

 ノゾムとニールセンさんがレイドさんを引っ張り何とかこちら側へ帰ってくると、お父さんが一歩前へ出る。

 「……なるほど。装備が軽い方がいいなら俺が適任か」

 「お父さん?」

 確かにお父さんは装備品が少ないのでいけるかもしれないわね! ――だが、そんな期待はすぐに裏切られた。

 ペキポキパキパキ

 「うぐあ!?」

 「きゃああああ!? お父さん!?」

 やはりグシャッとお父さんは潰されたのだ。そこへアルモニアさんが頭を掻き、お父さんを引っ張り出しながら言う。

 『あーあ……ヴァイゼは元々アンデッド、それもスケルトンに近いんでしょ? 魔力で姿を戻しているだけなんだから筋肉とか無いんだから骨だけで踏ん張れるわけないでしょ? はい、魔力」

 「む、むう……」

 魔力で回復しつつあるお父さんが苦い顔をして呻いていた。でも、これじゃ先に進めない……

 「ふう……仕方ないか。おい、カイム行くぞ」

 横でため息をついたユウリが銃をアイリに預けながらカイムさんに目を向け、カイムさんがそれに答える。

 「む。そうか、私達のように軽い装備なら歩けるか……分かった」

 「そういうことだ。剣士組はここで待機していてくれ、ノゾムはこれるよな?」

 「……そうだな。アイリはライフルが必要だろうから待つんだ」

 「うん」

 「三人で行くの? それは危なくない?」

 私がそう言うと、ユウリが首を振ってから肩を竦める。

 「この大人数で動きにくい人間が多い方が危ないさ。あの女神はなんとか行けそうだし、早めに終わらせる」

 「なら、わたしも行きますよ! 回復魔法は必要ですし、ローブくらいしかありませんしね」

 フレーレが手を上げて同行すると言う。

 「フレーレは隻眼ベアの胸当てを装備しているからダメじゃない?」
 
 「そうですか? えい!」

 「お、おい!?」

 フレーレはフロアへ飛び込むと、ぐっと踏ん張り耐えることができていた。

 「う、うん、確かにすごいです。でも、メイスを置いているから行けそうです……!」

 「す、凄いわね……私は女神装備が結構な重装備だし難しいかな……」

 「よし、早い方がいい。行こう」

 ユウリ、ノゾム、カイムさんがフレーレの横に立ちエクソリアさんを回収していた。うーむ、大丈夫かな? 補助魔法が使える私が行った方がいいかも……いっそ装備を捨ててついて行こうか。ドラゴニックアーマーがあれば鎧は無くても――

 と、考えていると女神装備から声が聞こえてきた。

 <オイラのリングの力を使っていいよ! 魔力を込めたらルーナの周囲に氷のバリアを張れるから、それで重力を遮断できると思う>

 「ファウダー! えっと、こうかな?」

 ふわ……

 寛容のリングに魔力を込めると、私の周りが冷気に覆われる。そのまま扉の中へ入ると……

 「る、ルーナ!?」

 「……大丈夫みたい!」

 レイドさんが慌てて叫ぶが、私は何ともなく動き回れた。

 「それじゃ私も行くわ! すぐ戻って来るから待っててね!」

 「くっ、仕方ないか……気を付けてな!」

 「がう」

 「あれ、レジナも行くの?」

 「がうがう」

 見ればシルバ達はグシャッと潰れていたけどレジナは立って歩くことができており、私の横につく。レイドさん達に見送られながら、私達五人は奥へと進むのだった。
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