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最終部:タワー・オブ・バベル
その357 最後の準備
しおりを挟む――アーティファさんが消えた翌日、私達は塔へ向かうための準備を進めていた。残り20階。残りはどんな強敵がいるか分からないし、神裂も私達を止めようと必死になるはず。入念な準備が必要だと、色々奔走している最中である。
「カルエラートさん、そっちの料理できました?」
「ああ、ルーナとセイラが手伝ってくれたおかげで一週間分の食糧が完成だな」
「わんわん!」
「シルバはさっき朝ごはん食べたでしょ? 最近食い意地がはってない?」
「くぅん……」
私が叱るとラズベと一緒にとぼとぼとレジナ達のところへ戻って行くシルバ。育ちざかりではあるけど、肥満は心配なのだ。初めて会った時はあんなにガリッガリだったのにね。
ひとまずこれで食料はオッケー。続けてイゴールさんの雑貨屋でハイポーションや毛布、水筒などを調達してカバンに詰めた。一通り終わったかなと思ったところで、あることに気付く。
「おっと、私も装備を変えておかないと」
「なら私も一緒に行こう。盾と鎧を何とかしてもらいたい」
エプロンを外したカルエラートさんが壊れた鎧と大盾を持って家から出てきて一緒に工房へ向かう。
ちなみに私達が道具類の調達をしている間、レイドさん、ニールセンさん達は、剣や鎧の調整と作成を日が昇る前からヘスペイトさんに工房で行っているので顔を合わせることになりそうだ。
「おはようございます! 調子はどうです……ふぁぁぁぁ!?」
「頼もう! ってどうしたんだルーナ……? ふわぁぁ!?」
工房に入るともわっとした空気の中、私とカルエラートさんは悲鳴を上げ、奥に居たヘスペイトさんが顔を上げて応対してくれる。
「よ、ルーナちゃんに……ヴィオーラの聖騎士の姉さんだな。見苦しい光景だが見逃してくれ」
はっはっはと笑うヘスペイトさんの足元にはレイドさんやニールセンさん、クラウスさんにソキウスと、防具を欲する面々が倒れていた。
「ど、どうしたんですか一体……?」
「なあに、武具の錬成には犠牲がつきものだ……」
「どうして遠い目をするんだ……」
ヘスペイトさん曰く、武具の調整をするのに本人たちに手伝ってもらったらしいんだけど、慣れない作業でへばってしまったのだそうだ。
「レイドさん、お水よ」
「あ、ああ……ありがとう……ぷは……」
「ほら、ソキウスにクラウスもしっかりしろ」
私がレイドさんを介抱し、カルエラートさんが二人を助け起こす。
「サンキュー姉ちゃん! 鍛冶師って大変なんだなぁ、レイドの父ちゃんはすげぇな!」
「俺の剣をあっさり研いじまうから簡単だと思ったんだけどな」
「うう……わ、私には……?」
「あ、ごめんなさい!? いつもセイラが一緒にいるから忘れてました!?」
慌ててニールセンさんにお水を渡して一息ついたので、今の状況を尋ねてみることにした。
「一応念のため出発を明日にしたけど間に合いそう?」
「武器はもう大丈夫だけど、防具関連が少しかかりそうかな。父さん、明日の朝までにはできるかい?」
「それだけあれば十分だ。姉さんはその鎧と盾を直せばいいか?」
「頼めるか? ストゥルは討ったが本命がまだだ。戦えるようにしておかないといけないからな」
カルエラートさんの防具を受け取ると無言で頷くヘスペイトさん。続いて私の装備を並べる。
「これ、強化ってできます?」
「……」
じっと愛の剣や節制の腕輪、謙譲の鎧といった女神装備を手に取っていじる。
<うひゃひゃ! くすぐったいのじゃ!>
「あれ?! そう言う感覚有るのチュイシャ!?」
<冗談じゃ。沈黙に耐えきれなくなっただけじゃ>
チェイシャの言葉にガクッとしているとヘスペイトさんが口を開く。
「――これは無理だな。女神の武具を鍛える技術は俺には無い。女神に頼む必要があるだろうな。ただ、この時点でかなり強力な装備だから必要があるとは思えないけど」
「そうですか。なら女神装備は私が装備して、この隻眼ベアの鎧はフレーレに使ってもらおうかな?」
ガントレットもカームさんが遺した鎧の付属でついているためワンセットで譲渡しようと思う。嫌がりそうだけど、フレーレも近接戦闘が多いからそれがいいと思ったのだ。
「で、レイドよ。剣の名前は決めたのか?」
「一応ね。”アーティファクトセイバー”ってね」
「母さんの名前をとった上で意味を持たせたか。良いと思う。母さんも喜ぶだろ」
「だといいけど。それじゃ、父さん残りは明日取りに来るからよろしく」
「任せておけ。残りは俺の仕事だからな」
そう言われて工房から追い出された私達。
「俺はチェーリカのところへ戻るかなぁ。どこいるんだろ」
「あ、セイラと一緒に家に居たわよ」
「お、そうか! サンキュー!」
ソキウスが駆け出し、その後をニールセンさんがそわそわしながら見つめるのをレイドさんが見逃さなかった。
「ニールセンも行ってくればいいじゃないか。セイラに会いたいんだろ?」
「はっ!? ……で、ではお言葉に甘えて……」
そそくさとソキウスの後を追いかけはじめるのを見て私達は声を出して笑うと、どこからか声が聞こえてきた――
『よう、元気そうだなお前達』
「この声……神裂!?」
『そうとも俺だよ! さて、いよいよ80階を攻略されたわけだが、まだ20階ある。こちらも悠長にしていられなくなったから全力で阻止させてもらう。万全を期してかかってくることだ。人数は多い方がいいかもな? ぎゃははは!』
ハッタリか虚勢かは分からないけど、このタイミングで話しかけてくるのはどうしてだろう? 考えていると、神裂は続けて言う。
『……女神姉妹にノゾム達。そしてルーナにレイドに魔王ヴァイゼ。お前達は絶対に上がってこい』
その言葉にレイドさんが返す。
「名指しとは光栄だな。俺達に用があるのか? いや、女神姉妹とルーナだけが狙いじゃなかったのか?」
『来れば分かる。もう一度言うぞ、この先は過酷な戦いになる。準備は怠らないことだ』
すると別のところからエクソリアさんが声に向かって喋りかけた。
『望むところだ。ズィクタトリアの力が完全にお前のものになるまえに辿り着いて見せるよ』
「……基本、何もしないのに……」
『……』
バツが悪い顔をして私の方を向くエクソリアさんを無視して神裂へ問う。
「随分親切ね。神になる余裕とでも言いたいのかしら?」
『そんなところだ。雑魚は消えた……後はお前達だけ。世界を救いたければどんな犠牲を払ってでも上がってこい……!!』
「どういうこと? 待ちなさい!」
神裂はそれだけ言うと、消えてしまった。
『大仰な忠告してくるとはね。不安の裏返しさ、きっと。ようやく焦り出したと見えるよ』
エクソリアさんが不敵に笑うのを見て、私は胸中で呟く。
「(焦る? 本当に? 部下が全員居なくなったのは分かるけど、あの男は部下に頼るタイプじゃないわよね? 犠牲を払ってでも……今までのは本当に遊びだったのかも……)」
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