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最終部:タワー・オブ・バベル

その354 父親と母親と息子と娘

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 「お父さん達、何を話してるんだろうね。おーよしよし」

 「きゅふん♪」

 構ってもらえていなかったラズベが甘えてきたので抱っこしてお腹を撫でると気持ち良さそうに鳴き、アーティファさんが少し困った顔で私達に言う。

 「まあ、父親って難しいからねぇ。おおかたヴァイゼさんがルーナちゃんとレイドのお付き合いについて話しているんじゃないかしら」

 「だといいけど……レイドさん、塔の探索はいつから行くの?」

 横を歩いていたレイドさんに声をかけると、ボーっとしていたのかビクッと慌てて声を出した。

 「んあ!? あ、ああ、塔、塔だね。そ、そうだな……80階まで来たとはいえまだ20階もあるし、明日には出立したんだけど、父さんが明日剣を鍛えるって言うからもう少しゆっくりしよう。カームが犠牲になってくれた、というのは正直言いたくないけど、おかげでみんな無事に帰って来れたからな」

 「……ルーナとのことが認められなかったらどうしようとか考えてたでしょ?」

 レイドさんがドキッと体を震わせたが、それには答えずセイラに反撃を試みるレイドさん。

 「お、お前もニールセンといい仲なんだろう? 母さん、父さんに言わなくていいのか?」

 「うーん、一応”旅立つ”前には言っておいた方がいいと思うわね。私はセイラが選んだ人なら気にしないわ。死にかけていたみたいだけど、良かったわね」

 にこっと笑うアーティファさんは、やっぱりセイラによく似ている気がする。性格はアーティファさんの方が砕けた感じがするけどね。

 「も、もう……お母さんったら……私、ちょっと用事があるから行くね」

 「ニールセンさんのところですか?」

 悪意のまったくないフレーレの言葉に顔を真っ赤にするセイラは何も言わず駆け出して行った。

 「あんなに慌てなくてもいいのに……」

 「うん、フレーレはいつか痛い目を見ると思うわ」

 「?」

 不思議そうな顔をするフレーレを尻目にため息をついていると、アーティファさんが私の肩に取りつき、話しかけてきた。

 「じゃあ今日はルーナちゃん、私とお散歩をしましょう! レイドとフレーレちゃんも一緒に! 拠点の中を色々案内して欲しいわ」

 「え? うん、いいですよ! お母さんとお話したいですし!」

 「お、おい、ルーナいいのか?」

 「もちろんよ! フレーレもいい?」

 するとフレーレは笑いながら首を振って答える。

 「わたしは遠慮しておきます、家族水入らずで……」

 遠慮しないでいいのに、と思っているとフレーレは舌を出しながら続けて話す。

 「……というのは建前で、80階に残ってくれたユウリさん達三人に食事を持っていく約束をしているんですよ! だから、また後でですね」

 「そっか、そういえば今回はお父さんが戻るって言ってたからあの三人を残してきたんだっけ」

 「一人で塔まで大丈夫かい?」

 「カイムさんが着いて来てくれるって言ってくれたので大丈夫ですよ。それじゃ準備してきますね」

 そう言ってフレーレは鼻歌を歌いながら調理場へと歩いていく。

 「カイムさんと一緒、かあ……あの子、いつかちゃんと答えを出すのかしらね……」

 「意外なところで決着がつくかもしれないわよ? 恋愛ってそういうものだから」

 「? そうなんですか」

 「そうそう。それじゃ、私達も行きましょう。おいでワンちゃん達」

 「わんわん♪」

 「わふ」

 「きゅんきゅん♪」




 ――私達はそのままアーティファさんとレイドさん、それと狼達を連れて拠点をのんびりうろうろしていた。こうやってゆっくり見たのは久しぶりだけど、よく見れば外壁はどんどん広がり、お家も増えていた。お店があればここは世界の中心の町になるんじゃないかしら? 魔王城という実家があるけど、全てが終わってからここに住むのも悪くないかもしれない。

 「あ、ここは畑にするんだ」

 「いいわね、農業。私も村に逃げ延びた時、村長さんの畑を少し手伝ったことがあるわ。まだレイドが小さかったころね。ヘスペイトか私がいないと嫌だって泣いて追いかけてきたのよ」

 「寂しん坊さんだったんだ」

 「お、覚えてないよ……」

 「わん!」

 レイドさんがそっぽを向いてシルバを抱き上げると、不意に声がかかった。

 「やあ、ルーナちゃん」

 「あ、ブラウンさん! ……やつれましたね!?」

 「はっはっは……いやあ、造るのが楽しすぎてつい徹夜が続いてね……」

 よく見れば少し離れたところにトマスさんが気絶するように眠っていた。

 「色々作ってくれてありがとうございます! でも、ちゃんと体を休めてくださいよ?」

 「あー、ありが、とう……」

 ブラウンさんは座りこんだかと思うと、そのまま寝てしまった。今日は天気がいいから大丈夫かな?

 「あ、ダメよシルバ穴を掘ったら!」

 「わん?」

 「ぷっ……シルバ、鼻が真っ黒だ!」

 「本当ね! ふふ」

 「わんわん!」

 楽しそうに笑う私達を見て、よく分かっていないのに嬉しそうに飛び跳ねるシルバが可愛い。その後も、イゴールさんの屋台で買い物をし、タークがレイドさんに拳骨をもらうのを見たり(私のスカートをめくったから)と、穏やかな一日が過ぎて行った。

 すっかり陽も暮れ、私達は広場のみんなで食べるテーブルに座って話していた。そこでレイドさんは私を気にしてか、口に出さなかったことを言う。

 「……ルーナ、ディクラインさん達のことは――」

 「うん、悲しくないって言ったら嘘になるけど、あの時は仕方が無かったのよ。私達が無事ここまでこれたのもパパとママのおかげ。帰ってくるかどうか分からないけど……もし帰って来たときのために、ちゃんと神裂を懲らしめておかないとね!」

 するとレイドさんが困った顔をしていたが、一度目を閉じた後フッと笑って言った。

 「……そうだな」

 「『そうだな』なんてカッコいいこと言うわね、レイドったら!」
 
 「からかうなよ母さん……今日は満足したかい?」

 「ええ、ばっちりよ。……ありがとうね、二人とも。あなた達なら大丈夫……きっと何とかなるわ。なんせ勇者と魔王ですもの」

 優しい顔でそんなことを言うアーティファさん。

 「あの――」

 「そろそろヘスペイトのところへ戻るわね。あの人もレイドに似て寂しん坊だから」

 私が声をかけようとしたところで、アーティファさんはふわっと風に溶けるように空へ舞い、そのまま工房の方へ飛んで行った。

 「……」

 「やれやれ、困った母さんだ……っと、ありがとうルーナ。一日つきあってくれて」

 「ううん、それはいいんだけど、何かお義母さんの様子、変じゃなかった?」

 「そうかな?」

 「気のせいだといいけど……」

 「がう」

 「わふん」

 「きゅんきゅん」

 「きゅっふん」

 レジナ達がご飯を出せとおねだりを始めたので、後ろ髪を引かれる思いを感じながらカルエラートさんの作った料理を食べるのだった。


 そして翌日――
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