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最終部:タワー・オブ・バベル
その353 親子
しおりを挟む「ふあ……よく寝たわ……」
「わふん……」
「きゅんきゅん」
「がう」
「きゅっふん」
一気に塔を駆け登った代償か、私とレジナ達はぐっすりお布団で眠った。すでにお昼を回っており、フレーレが腰に手を当てながら眉を吊り上げて私に言う。
「もう、ルーナは全然起きないんですから……レイドさんのお父さん、ヘスペイトさんでしたっけ? 何だか工房が出来たって顔を綻ばせながらウロウロしてましたよ。後、ヴァイゼさんがずっと舌打ちをしているんですけど何かあったんですか?」
ううむ、レイドさんとの交際を認めない発言は真面目に言ってたのかしら……? 顔を洗い、急かすフレーレと、あくびをするレジナ達と一緒に、ヘスペイトさんのテントが張ってあった辺りまで行く。すると、私が飛び出す時は骨組みしかなかったところに立派な煙突のついた建物ができていた。
「うわ、すご!? 相変わらず仕事が早いわね」
「ここは食事もそれなりに出ますし、集中してできるからじゃないですかね? あ、クラウスさんが出てきましたよ?」
「本当だ。クラウスさーん、どうしたんですかー!」
私が手を振って呼びとめると、ホクホク顔のクラウスさんが近寄ってきた。
「おう、ルーナちゃんにフレーレちゃんか! 見てくれよ俺の大剣。拠点周りで戦っててだいぶ切れ味が悪くなってたんだけど見事に復活したってわけよ!」
「あ、凄いですね」
フレーレが驚くのも無理はなく、クラウスさんが鞘から抜いたのはまるで新品……いえ、それ以上の剣だったからだ。
「さて、ちょっくら試し切りに行ってくるぜ! 食材は期待していてくれ――」
そう言って鼻歌を歌いながら立ち去って行くクラウスさん。
「やっぱりヘスペイトさんはすごい鍛冶師なのね。レイドさんの剣を鍛えるって言ってたけどもう始まってるのかな?」
「わんわん!」
「きゅんきゅん!」
「はいはい、行きましょうね」
早く早くとせがむシルバとシロップを追いかけて私とフレーレは工房へと入って行く。中には普段着のレイドさんにセイラと、剣を打つヘスペイトさんにセイラから抜け出ているアーティファさん。それに何故か――
「お父さん?」
「……む、ルーナか」
あまり機嫌が良くなさそうなお父さんの横に立つと、アーティファさんが声をかけてくる。
「ああ、ルーナちゃん! ようやくちゃんとお話が出来るわねー。ウチ息子がお世話になってます」
「い、いえいえ、こちらこそレイドさんには何度も助けられてまして……いや、ホント……」
「ははは、ルーナは無茶をするから目が離せないよ」
レイドさんは気にした風も無く笑うが、デッドリーベアの騒ぎから、ガンマの町のダンジョンに誘拐事件……思い返せばレイドさんとフレーレには頭が上がらないくらい色々迷惑をかけたなあ……そんなことを考えていると、矢継ぎ早にアーティファさんが言葉を放つ。
「もう、熱いわねぇ。雪山でルーナちゃんを追いかけているって聞いた時は感動したものよ……で、レイドの恋人になってくれたみたいだし、お義母さんって呼んでくれていいのよ?」
「あ、あはは、結婚してないですけど……」
<(こやつ雪山で散々レイドをいじっておったからな。ルーナも押される出ないぞ)>
無茶言わないでよチェイシャ……
私が対応に困っていると、セイラが助け船を出してくれた。
「ちょっとお母さん、ルーナが困っているでしょ? ごめんね、ちょっと浮かれちゃってて」
文字通り宙に浮いているアーティファさんを見て、セイラが呆れた調子で言う。その言葉が冗談か本気かはさておきお父さんが目を細めてからぼそりと呟いた。
「……母親、か……」
「どうしたのお父さん。さっきから変じゃない?」
「……コホン。と、とりあえず俺はまだ認めたわけではないぞレイド」
そこで黙ってことの成り行きを見ていたレイドさんが慌てて言う。
「え、いや、頼むぞって言ったじゃないですか……?」
「気が変わった。ヘスペイトよ、その作業は時間がかかるか?」
「えー……」
困るレイドさんを尻目にお父さんがスペイトさんへ質問すると、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「この剣は腕が鈍っていないか確認するために打っているだけだからすぐだな。時間が惜しいんだが、話は時間がかかるか?」
珍しく真面目な顔でそんなことを言うヘスペイトさんにお父さんがすぐに返答した。
「いや、すぐ終わるだろう。悪いが、二人だけにしてもらえるか?」
「……分かりました。ルーナ、セイラ、母さんにフレーレちゃん、行こう」
「え? あ、うん」
「何だか緊張しますね……」
レイドさんと一緒に、セイラとシルバ達と遊んでいたフレーレを伴い工房から出て行く私達。何の話があるんだろう? 気にはなったけど、アーティファさんの質問攻めが始まり、それどころではなくなったのだった……
◆ ◇ ◆
「……見事な剣だな」
「ありがとう。ルーナちゃんの父親だったんだな、失礼を詫びよう」
「いや、いい。あの時はちょっとムッとしただけだ」
「はは、素直な人だ。お互い死人ですがね」
「そうだな……それで話と言うのは、お前とお前の妻の目的だ。このままここで鍛冶をするつもりではあるまい?」
それを聞いたヘスペイトはピクッと眉を吊り上げてから静かに喋り始めた。
「……何に気付いたかは分からない。けど違和感がある。そうですね? ……そこは同じ父親ってことなのかなあ。ただ、私はまだ成仏するつもりはありませんよ」
「……」
黙って聞くヴァイゼを見て頷き、ヘスペイトは立ち上がってテーブルにある剣を手に取って語り始めた。
「この剣、セイクリッドセイバーはアーティファの、聖女の遺骸を使って作った聖なる剣。そして勇者であるレイド専用として鍛えた。だけど、これにはまだ続きがあってね」
「……"血魂融合”か」
ヴァイゼが呟くと、ヘスペイトは驚いて振り向く。
「そういえば魔王だったっけか? なら知らない訳は無いか。そう、そいつを使って最後の仕上げをするんだ。なるほど、俺を嫌っているのはそういうところかな?」
「それもある。が、折角一家が揃ったのに母親を材料にするというのがな」
「気遣いどうも。俺の見立てじゃ神裂ってやつに対抗するにはなんだってやる必要がある。なんせ本物の神を取りこんだ代物だからな。俺達はとっくに死んだ身だ、覚悟はできている」
「しかし――」
「恨まれるのは慣れている。そしてそれを受け止めるのは親父の役目だと思っている。だから神裂を倒すまではここいる」
「……」
そこまで言われては返す言葉も無いヴァイゼ。しばらく沈黙が続いた後、ヴァイゼがポツリと漏らした。
「お前の妻はルーナに『お義母さん』と呼んでと言っていた……だが、消えてしまう。ルーナはまた、母を失くすのか……」
「……悪いな……」
「いや、仕方がないことなのだ。ただ、俺達は子供から奪ってばかりだな、と思っただけだ」
「まったくだな。返す言葉も無い。だからこそ、俺はレイド達が生き残れるよう、完璧な剣を作るさ」
「……頼む」
そう言ってヴァイゼは頭を下げて工房を出て行き、その背を見ながらヘスペイトは胸中で呟いた。
「(まったくお互い不器用な父親だな……ま、子供達のために頑張ろうや。なあ?)」
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