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最終部:タワー・オブ・バベル
その351 犯した罪と執行される罰
しおりを挟む<たぁ! ”ヘッドクラッシュ”」
【うおお!?】
「速い! カイムより速かったんじゃないか!?」
レイドさんが驚きながらカームさんの後を慌てて追い始める。騎士の姿に戻ったカームさんの猛攻は凄まじく、四本の腕を相手にしてもまるで意に介さない。
「すごい……」
私が感嘆していると、チェイシャが私に語りかけてきた。
<”人化の法”を使ってあの状態になると消滅する代わりに能力が飛躍的に向上するのじゃ。わらわのような”か弱い”姫と違って、アネモネやカームといった戦闘の恩恵を持った者が発動するとあのように相手が誰だろうと圧倒できる>
<誰がか弱いって? アタシがか弱くないみたいな言い方はやめてくれないかねぇ?>
『(全部言われた……)』
「まあまあ、アネモネさん……とりあえず消滅しても意識は装備に……ん? エクソリアさんどうしたんですか? あ、みんな回復したみたいね! レジナとシルバも頑張れ!」
指を立てたまま固まっているエクソリアさんはさておき、レイドさんも加わってストゥルは防戦一方になっていた。ニールセンさんとカイムさん、カルエラートさんも攻撃をするためじりじりと近づくが、カームさんの動きが速すぎて攻撃をしかける隙が無かった。
ガキィイン!
ザザザ……と、ストゥルはカームさんの一撃をガードし、大きく後退させられた。ブン、と剣を振り、ストゥルが忌々しいとばかりに口を開く。
【貴様、あのディファー家の者だというのか? 先代、先々代から聞いたことがある。およそ100年前、我等が王国を乗っ取ろうとした騎士がいたと――】
ストゥルが語り始めるが、カームさんは即座にそれを否定する言葉を放つ。
<違うな。俺が王国を乗っ取ろうとしたんじゃない。ヴィオーラが他国へ侵攻し、戦争を起こそうとしていたのを止めようとしていたんだ>
「そんなことが……」
<そうだ、カルエラート。お前の先祖も戦争を阻止する為、俺に力を貸してくれようとしていた。断ったがな。もし失敗すれば家は取り潰しになるのを恐れてのことだ。……そして俺は一人で当時の国王に進言したよ、戦争を起こせば最初に攻め入った国は取れるだろう、しかしその後、国同士が結託すれば、いくら聖騎士が強いとはいえヴィオーラだけで全世界を治めることなど不可能だとな>
ディストラクションを半身で構えて、カームさんは語る。でも進言をしたカームさんがこういう状態になっているということは……
<その場は諦めると、戦争を止めると言った。だが、国王はそんなつもりは毛頭なかった……! 仕事を終えて家へ帰ると……そこには冷たくなった妻と息子が居た……そして俺を亡き者にするため、暗殺者を潜ませていた>
「ど、どうなったんですか」
フレーレがごくりと唾を飲みこみ尋ねる。
<暗殺者は倒した。だが――>
『武器に仕込まれていた毒でカームは死にかけていたんだ。それをボクがたまたま通りかかったのさ』
<……謙虚に生きてきた俺は俺自身を恨んだよ。そして次に目覚めた時、俺はヴィオーラの城を一人で攻めた。今よりも弱い力だったが、国がしばらく戦争を起こさないようにするくらいは暴れることができたんだ。そうして俺はサンドクラッドで眠りについた>
『だからこそ『傲慢』の力なんだけどね』
そこまで黙って聞いていたストゥルが笑いながらカームさんに剣を向けた。
【くっく……なるほど、曲解して伝わっていたが、私が産まれる前に衰退していた原因はそれだったか……それに先祖も世界統一を成そうとしていたとは、血は争えないというところか。まあ、貴様の目論見はうまくいっていたよ、先代……私の父の代でようやく当時と同じくらいの規模にまで国が復興したからな】
<それで良しとは思えなかったのか?>
【当然だ。私には力がある! ヴィオーラの国王たる私は聖騎士の頂点! 他の国の騎士など吹けば飛ぶような者ばかりだ、これは私が管理してやらねばなるまい?】
「勝手なことを言うねーどっかの国王みたいじゃないか? ウチの騎士団は聖騎士にも負けないと思うよー? なんせ、現国王夫妻はそういうのが嫌いだしねー」
エリックが珍しく怒った声色でストゥルに言う。
<100年経っても変わらなかった、か。今度こそお前の血筋を絶やすまで>
【くく……知っているぞ、お前は時間が経てば消えるのだろう? そして私はコアを壊されなければ不死身だ。それまで逃げまわるのも面白いな】
「この人数から逃げられると思っているのか? 父さんと母さんの仇だ、ここで倒す」
「その通り、剣を託してくれた騎士のためにも」
「私の祖国、ヴィオーラのためにも」
レイドさんが、ニールセンさんが、カルエラートさんが取り囲み、最後にカームさんが吠えた。
<お前を生かしておく訳にはいかんということだ!>
【ふはははは! まともに相手などできんな!】
四方から同時に斬りかかる四人! ストゥルの腕がそれぞれ一人ずつを相手にするが、カームさん、レイドさんの剣捌きについてこれず、あっという間にズタズタになる。
【まだまだぁ! ”剛剣・血渋”!】
「なんの……!」
「ニールセン!? 今回復するわ!」
ストゥルが二本の剣で恐らく少し格下と認定したカルエラートさんとニールセンさんに対し技を放つ。肩の肉を抉られたのをみてセイラが悲鳴をあげる。一方のカルエラートさんはストゥルの意図を理解し、即座に斬り返していた。
「逃がすか! 闇の剣!」
ぶわっ!
【うお!?】
ストゥルがその場から逃れようとした瞬間、カルエラートさんの剣から魔法のような黒い刃が出てストゥルの腕を一本斬り裂き、ボトリと落ちる。転がるように包囲を脱出したストゥルの動きを予測していたシルバが飛び掛かった!
「わん!」
【犬っころが! ≪ゲイルスラッシュ≫!】
「きゃん!?」
「ガウウウ!」
【ぬう!?】
飛び掛かったシルバを風の魔法で追い返すが、今度はレジナが足元にタックルし転ばせた。そしてカイムさんがジャンプしてシュリケンを投げつけていた。
「これなら……!」
カカッ!
【目を……! だが、殺気は感じるぞ】
ガキン!
言葉通り、レイドさんの剣を受け止めて弾く。だけど正面からカームさんの剣をまともに受ける。
<浅かったか!>
【おのれ! ”ロッククラッシュ” ≪フレイムストライク≫!】
<くっ……まだ動けるのか>
「炎よ、散れ!」
カームさんの鎧を叩き、ヒビが入り、レイドさんが炎に巻き込まれた。だが、回復を終えたニールさんがもう一本の腕を切断する!
「あいつの腕だ、返してもらいますよ!」
【ニールセン!! この裏切り者が!】
「うぐ!? 裏切ったのはあなたです、国王! 戦争をして領土を広げて……血を流して得たものについてくるものなどいません! うおおおお!」
【な、なんだこの力は!?】
ニールセンさんは胸を浅く斬られながらもストゥルの腹に剣を刺し、そのまま押し切って近くの柱へと縫い付けた。
<終わりだ、ヘスペイト殿!>
「分かってるよ。レイド、コアを剥きだしにしてくれ、セイラこっちへ」
「任せてくれ」
「私も?」
いつのまにやらストゥルの前に出てきていたヘスペイトさんがダガーと赤い玉を持って二人に声をかけ、寄ってくる。
セイラが近づくとセイラの体から幽体みたいなものがふわっと出てきた――
【お、お前は……アーティファ……!】
「お久しぶりね、国王。あの時はお世話になったわ。おかげさまでこうして精霊になった」
【わ、私はお前を殺せと言ったつもりは無かったんだ! ホイットが勝手に……】
「それはどうでもいいのよ。この子達の成長した姿を見ることができたし。でもね、ケジメはつけなくちゃいけないの。わかる?」
冷ややかな目でそういうアーティファさん……セイラにそっくりだけど雰囲気が怖い!?
【ケジメ、だと……?】
「そう……ここであなたは死ぬの。あなたが殺そうとした人達の手で。レイド!」
「はあああああ!」
バシュ!
レイドさんの一撃で体に埋め込まれていたコアがむき出しになる。全て青色なのでどれが本物か分からない、そう思っていたけど、アーティファさんは右胸にあるコアを指差してヘスペイトさんへ告げる。
「これよ」
「……さらばだストゥル。いや、呪われた血筋の王家よ……カーム君、トドメを」
素早くダガーで半分にしたコア同士を融合させたヘスペイトさんがカームさんに言う。
<……すまない。唸れ、ディストラクション!>
【馬鹿な……こうもあっさり私のコアを……!? お、おおおおおおお!?】
ビキッ!
カームさんの一撃でコアに一筋のヒビがはいる。
そうなれば後は早いもので――
ビキッ……ビシビシ……カシャァァァァン……
【ど、どうせ神裂には勝てまい……あの男は貴様等が思っているより――】
ストゥルは最後まで言うことはなく、息絶える。
<終わった……>
カームさんが短く呟き、地面にはコロコロと無機質な青いコアが寂しく転がっているのだった。
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