323 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その344 ストゥルの余裕
しおりを挟む「いやあ楽でいいね」
「"ついてくる”って憑いてくるって意味だったんですね!? こんなところ他の人に見られたら笑われちゃう……レイドさん達に追いついたら降りてくださいよ?」
「がう」
<まったくなんという男じゃ。ルーナ、わらわが祓ってやろうか?>
「あはは、ま、まあ害はないしそこまでは……」
ヘスペイトさんへ苦言を言う私。休憩した後、ヘスペイトさんは私の左肩に文字通り"憑いて来た”のだ。別に重さを感じないし、置いてけぼりにしないよう待たなくていいから楽なんだけど見た目がやばい。
私の肩を掴んでふよふよしているから、完全に幽霊に追いかけられている感じにしか見えないのよね……レジナがそれを不服に思っているのか、たまにヘスペイトさんへ飛び掛かっていた。
それはともかく、現在バベルの塔75階。
扉の向こうは部屋が無くて、なにやら木の幹のようなものがびっしりと生えていたのは驚いた。上を見ると、74階と76階をこの木のようなもので繋いでいるらしい。木のぼりは得意なので、私は今すいすいと登る。シルバ達も器用に木から木へ飛び移っていた。
「わんわん!」
と、遊んでいるみたいに吠えるシルバがかわいい。少し止まって上を見ると、ちょうど中間あたりのようだった。
「フロアが無いのはどうしてなんだろう……」
「レイド達が戦った時に何かあったのかもしれないね。元々白い空間が広がっていた部屋なんだけど、ここでセイラが連れて行かれたから、ここで何があったかは分からないんだ」
下にあった村やビューリックの闘技場はセイラに入っているアーティファさんから情報を得ていたから事情はそこそこ分かっている。
で、ここは白い部屋だったらしい。一体何がどうしたらこんなになるのか……考えても仕方がないので、木登りを再開すると、ラズベが尻尾を振りながら私を呼んでいた。
「きゅふーん」
「どうしたの? あれ、何か咥えてる」
「きゅふん」
私にくれるようなので手を出すと、宝石のような手の平サイズの赤い玉が渡される。キレイな石ね……まじまじと見ているとヘスペイトさんが不意に声を出した。
「……落とさないよう俺がカバンに入れておこう」
「あ、はい、お願いします」
ヘスペイトさんのカバンに玉を入れると、無言でカバンを見つめていた。ちょっと顔が険しい?
「それじゃ、行こうか」
「……登るのは私なんですけど……」
私が見ていたことに気付いたヘスペイトさんが笑顔でそんなことを言う。うーん、何か怪しい……とはいえ、レイドさんのお父さんだし何か考えがあるのかもしれない。
というかそろそろ合流できないかな……ヘスペイトさんはレイドさんに似ているけど、早くレイドさんの顔が見たいな……
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:80階>
「……で、私をどうするつもり?」
セイラは壁に磔にされた状態で目の前にいるホイット、そしてストゥルを睨みながら尋ねていた。攫われてから今まで気を失っており、ようやく目を覚ましたのだ。
「(一応、変なことはされていなさそうだけど油断はできないわね)」
セイラが体に異変が無いか動かせる範囲で確認しているとストゥルが嫌な笑いをしながらセイラに顔を近づけて口を開く。
「決まっているだろう、お前を妻に迎えるのだ」
「口臭っ!? ちょっと離れてくれないかしら!? 悪いけど私強引な人って嫌いだし、口が臭い人はもっと嫌いなのよね。あんたと結婚するくらいなら死んだ方がマシよ」
「減らず口を……!」
「よい、ホイット。気が強いのは私好みだ。そうでなくては調教のしがいもない」
「うわー……嫌なやつ……」
舌なめずりをするストゥルを見て、セイラは明らかに嫌そうな顔をする。しかし気にした風も無く話を続ける。
「余裕があるのは助けが来るのが分かっているからであろう? それこそ愛しのニールセンがな」
「な!? なにを言ってるのよ!」
セイラは焦るが、次に出た言葉でピタリと黙ってしまう。
「もちろんニールセンは殺す。それどころかここに来るものは全員だ。キメラの材料にするつもりだ。そうだ、ニールセンは半殺しにして、お前と私の行為でも見せてやろうか、なあホイット」
「良い提案かと思います。それで国王、カルエラートは……」
「分かっておる。それと胸の大きい僧侶はお前にやる。フフフ……女神と勇者、それに元魔王のキメラは強そうだ……楽しみだのう」
「お兄ちゃん達を倒せると思ってるの? 似たようなセリフを言ったやつらはみんな倒したわよ? あんたもその仲間入り決定ね」
「今までと同じと思ってもらっては困る。我等はすぐ膝元とも言える80階を任されているのだぞ? それくらい強いということだ」
妙な自信があるなとセイラは思い、何か情報が引き出せないか話を引き延ばすことにしてみることに。
「……下で戦ったキメラとかいう魔物のこと? あれはエクソリアが倒したし、そこに居るホイットもお兄ちゃんやニールセンに負けたから私をさらって逃げたのよ? とてもじゃないけど、強そうにはねえ?」
「確かに。あのキメラは強かったが騎士共を混ぜ込み過ぎたせいで、命令が無ければ動けない木偶だった。しかし――」
「国王、それくらいにしましょう。わざわざ秘密を話してやる必要はないかと」
「お? おお、それもそうだな。言わずともすぐ分かるか……」
自信たっぷりに話そうとするストゥルに、ホイットはそれを制した。
「(アホのくせに余計なことを……!!)ホイットがキメラならあんたもキメラなんでしょうね?」
「ククク……見てのお楽しみというところかな? どうやら、来たようだぞ」
バタン!
「セイラ居るか!」
「聖女様!」
「お兄ちゃん! ニールセン!」
蹴破られた扉から入ってきたのはレイドとニールセンだった。それに続き、カルエラート、カーム、そしてフレーレとカイムだった。
「くっ……」
「ユウリはじゃんけん弱いからね……フレーレさんが心配なのはわかるけど、カイムさんに任せましょう」
ユウリが魔法壁の向こうで歯ぎしりしているとアイリが首を振ってユウリに言う。レイドとヴィオーラのメンバーは最初から決定しており、残り2人分の枠をじゃんけんで争ったのだ。もちろん女神二人は参加する気がなかったが。
「カルエラートさんとニールセンさん、カームさんには因縁の相手ね。フレーレ、気を付けてね!」
「はい! 最初から全力でいきます!」
フレーレが笑顔で答えると、その様子を見ていたストゥルが手を叩きながらレイド達を迎える。その顔は愉快だと言わんばかりの表情だった。
「クックッ……ようこそ、いずれ世界の王になる私の階へ」
「ふざけるな! 聖女様を返してもらうぞ。そしてお前達二人はここで倒させてもらう」
ニールセンが剣で二人を指し激高する。
しかし、ストゥルとホイットはニヤニヤと笑いながら――
「威勢がいいことだが、ここまでだ。ホイット、必ず仕留めろ。いいな?」
「は! さっきは聖女をさらうためセーブしていたが、今度は全力でお相手しよう」
ボコ……ボコボコ……
<……本気でやらせてもらうのはこっちも同じだ>
カームが呟く中、ホイットの皮膚や体が変化を始めた。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。