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最終部:タワー・オブ・バベル
その344 ストゥルの余裕
しおりを挟む「いやあ楽でいいね」
「"ついてくる”って憑いてくるって意味だったんですね!? こんなところ他の人に見られたら笑われちゃう……レイドさん達に追いついたら降りてくださいよ?」
「がう」
<まったくなんという男じゃ。ルーナ、わらわが祓ってやろうか?>
「あはは、ま、まあ害はないしそこまでは……」
ヘスペイトさんへ苦言を言う私。休憩した後、ヘスペイトさんは私の左肩に文字通り"憑いて来た”のだ。別に重さを感じないし、置いてけぼりにしないよう待たなくていいから楽なんだけど見た目がやばい。
私の肩を掴んでふよふよしているから、完全に幽霊に追いかけられている感じにしか見えないのよね……レジナがそれを不服に思っているのか、たまにヘスペイトさんへ飛び掛かっていた。
それはともかく、現在バベルの塔75階。
扉の向こうは部屋が無くて、なにやら木の幹のようなものがびっしりと生えていたのは驚いた。上を見ると、74階と76階をこの木のようなもので繋いでいるらしい。木のぼりは得意なので、私は今すいすいと登る。シルバ達も器用に木から木へ飛び移っていた。
「わんわん!」
と、遊んでいるみたいに吠えるシルバがかわいい。少し止まって上を見ると、ちょうど中間あたりのようだった。
「フロアが無いのはどうしてなんだろう……」
「レイド達が戦った時に何かあったのかもしれないね。元々白い空間が広がっていた部屋なんだけど、ここでセイラが連れて行かれたから、ここで何があったかは分からないんだ」
下にあった村やビューリックの闘技場はセイラに入っているアーティファさんから情報を得ていたから事情はそこそこ分かっている。
で、ここは白い部屋だったらしい。一体何がどうしたらこんなになるのか……考えても仕方がないので、木登りを再開すると、ラズベが尻尾を振りながら私を呼んでいた。
「きゅふーん」
「どうしたの? あれ、何か咥えてる」
「きゅふん」
私にくれるようなので手を出すと、宝石のような手の平サイズの赤い玉が渡される。キレイな石ね……まじまじと見ているとヘスペイトさんが不意に声を出した。
「……落とさないよう俺がカバンに入れておこう」
「あ、はい、お願いします」
ヘスペイトさんのカバンに玉を入れると、無言でカバンを見つめていた。ちょっと顔が険しい?
「それじゃ、行こうか」
「……登るのは私なんですけど……」
私が見ていたことに気付いたヘスペイトさんが笑顔でそんなことを言う。うーん、何か怪しい……とはいえ、レイドさんのお父さんだし何か考えがあるのかもしれない。
というかそろそろ合流できないかな……ヘスペイトさんはレイドさんに似ているけど、早くレイドさんの顔が見たいな……
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:80階>
「……で、私をどうするつもり?」
セイラは壁に磔にされた状態で目の前にいるホイット、そしてストゥルを睨みながら尋ねていた。攫われてから今まで気を失っており、ようやく目を覚ましたのだ。
「(一応、変なことはされていなさそうだけど油断はできないわね)」
セイラが体に異変が無いか動かせる範囲で確認しているとストゥルが嫌な笑いをしながらセイラに顔を近づけて口を開く。
「決まっているだろう、お前を妻に迎えるのだ」
「口臭っ!? ちょっと離れてくれないかしら!? 悪いけど私強引な人って嫌いだし、口が臭い人はもっと嫌いなのよね。あんたと結婚するくらいなら死んだ方がマシよ」
「減らず口を……!」
「よい、ホイット。気が強いのは私好みだ。そうでなくては調教のしがいもない」
「うわー……嫌なやつ……」
舌なめずりをするストゥルを見て、セイラは明らかに嫌そうな顔をする。しかし気にした風も無く話を続ける。
「余裕があるのは助けが来るのが分かっているからであろう? それこそ愛しのニールセンがな」
「な!? なにを言ってるのよ!」
セイラは焦るが、次に出た言葉でピタリと黙ってしまう。
「もちろんニールセンは殺す。それどころかここに来るものは全員だ。キメラの材料にするつもりだ。そうだ、ニールセンは半殺しにして、お前と私の行為でも見せてやろうか、なあホイット」
「良い提案かと思います。それで国王、カルエラートは……」
「分かっておる。それと胸の大きい僧侶はお前にやる。フフフ……女神と勇者、それに元魔王のキメラは強そうだ……楽しみだのう」
「お兄ちゃん達を倒せると思ってるの? 似たようなセリフを言ったやつらはみんな倒したわよ? あんたもその仲間入り決定ね」
「今までと同じと思ってもらっては困る。我等はすぐ膝元とも言える80階を任されているのだぞ? それくらい強いということだ」
妙な自信があるなとセイラは思い、何か情報が引き出せないか話を引き延ばすことにしてみることに。
「……下で戦ったキメラとかいう魔物のこと? あれはエクソリアが倒したし、そこに居るホイットもお兄ちゃんやニールセンに負けたから私をさらって逃げたのよ? とてもじゃないけど、強そうにはねえ?」
「確かに。あのキメラは強かったが騎士共を混ぜ込み過ぎたせいで、命令が無ければ動けない木偶だった。しかし――」
「国王、それくらいにしましょう。わざわざ秘密を話してやる必要はないかと」
「お? おお、それもそうだな。言わずともすぐ分かるか……」
自信たっぷりに話そうとするストゥルに、ホイットはそれを制した。
「(アホのくせに余計なことを……!!)ホイットがキメラならあんたもキメラなんでしょうね?」
「ククク……見てのお楽しみというところかな? どうやら、来たようだぞ」
バタン!
「セイラ居るか!」
「聖女様!」
「お兄ちゃん! ニールセン!」
蹴破られた扉から入ってきたのはレイドとニールセンだった。それに続き、カルエラート、カーム、そしてフレーレとカイムだった。
「くっ……」
「ユウリはじゃんけん弱いからね……フレーレさんが心配なのはわかるけど、カイムさんに任せましょう」
ユウリが魔法壁の向こうで歯ぎしりしているとアイリが首を振ってユウリに言う。レイドとヴィオーラのメンバーは最初から決定しており、残り2人分の枠をじゃんけんで争ったのだ。もちろん女神二人は参加する気がなかったが。
「カルエラートさんとニールセンさん、カームさんには因縁の相手ね。フレーレ、気を付けてね!」
「はい! 最初から全力でいきます!」
フレーレが笑顔で答えると、その様子を見ていたストゥルが手を叩きながらレイド達を迎える。その顔は愉快だと言わんばかりの表情だった。
「クックッ……ようこそ、いずれ世界の王になる私の階へ」
「ふざけるな! 聖女様を返してもらうぞ。そしてお前達二人はここで倒させてもらう」
ニールセンが剣で二人を指し激高する。
しかし、ストゥルとホイットはニヤニヤと笑いながら――
「威勢がいいことだが、ここまでだ。ホイット、必ず仕留めろ。いいな?」
「は! さっきは聖女をさらうためセーブしていたが、今度は全力でお相手しよう」
ボコ……ボコボコ……
<……本気でやらせてもらうのはこっちも同じだ>
カームが呟く中、ホイットの皮膚や体が変化を始めた。
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