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最終部:タワー・オブ・バベル

その343 神を殺すために

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 「ふっ!」

 ガ! ガガ! ガキン!

 タン! タタン! チュイン!

 「当たりはしないぞ……」

 ベルダーの偽物はレイドとヴァイゼの二人を相手にものともせず、二人が一撃を出す間に、ベルダーは二撃繰り出してくる。さらに、ユウリのハンドガンの弾を避けるという芸当までやってのけている。
 通路の関係上、攻撃に参加できるのは三人までだが、レイドとヴァイゼの後ろにカルエラートが進ませないように大盾を構えていた。いざというときのため、ニールセンとノゾムはエクソリアの近くで待機している。

 「同時に行くぞ、レイド」

 「はい!」

 「何度やっても同じことだ、魔王、お前もここで消してやろう」

 神殺しの短剣を逆手に持ち替え、通常のダガーを腰から抜いて腰をかがめるベルダー。レイドが攻撃をするモーションに入ったのでそちらをダガーで受けようとした瞬間、レイドはバックステップをした!

 「む!?」

 打ち合うつもりだったベルダーがバランスを崩すと、壁を蹴ってカイムが仕掛けた! 同時にヴァイゼが逆サイドから剣を振り下ろす。

 「いいぞカイム、そのままとどめを頼む」

 「偽物はもう十分だ! 消えろ!」

 キィン!

 ヴァイゼの攻撃が一瞬早く到達し、神殺しの短剣で受け止める。カイムの攻撃は受けきれない状態だったが、ベルダーがボソリと呟いた。

 「……フッ、よく吠えたなカイム。木のぼりの訓練で泣きべそをかいていたお前が……」

 それを聞き逃さなかったフレーレが声を出した。

 「え、カイムさん泣き虫だったんですか?」

 「な!? 何故それを偽物のお前が……! ぐあ!?」

 ガキン!

 動揺してぶれた刀がベルダーに受けられ、カイムは蹴り飛ばされ、一緒にヴァイゼも壁に叩きつけられた。そのままベルダーは床に倒れたカイムにトドメをさそうとダガーを振り下ろす。
 
 「偽物とはいえ、やはり強いなベルダー! たああああ!」

 「チッ! カルエラート、お前か!」

 そこへ一旦下がったレイドの代わりに、カルエーラートがシールドバッシュでベルダーを吹き飛ばす! だが、ベルダーは自分から後ろへ飛び、バク転をしてから何事もなかったように首を鳴らした。

 「流石にこの人数相手では勝ち目が無さそうだ。だが、仕事だけはしておかねばならん」

 『誰がお前なんかにやられるものか! みんな、あいつは偽物だ、遠慮なく首を刎ねてくれ!』

 「……そんな遠くで虚勢を張らなくても……」

 シルキーが遥か後ろの方にある角から顔だけ出しているエクソリアを見て困惑していた。と、次の瞬間、シルキーとフレーレ、ニールセンがしゃがみ込み、レイド達が壁へ背を預ける。

 ターン!

 ビシッ!

 「うお!?」

 ベルダーの額にアイリが放った弾丸が命中する。

 『やったか!』

 「いえ! まだです!」

 アイリが叫んだ通り、ベルダーは大きくのけぞったものの、破れた額のバンダナから鉄板のようなものが顔を覗かせていた。これが弾丸を防いだのだ!

 「銃もお見通しとは! あ!? しまった!」

 「道を空けたのは失敗だったな……!」

 「くそ、速すぎる……!?」

 レイドが脇を抜けようとするベルダーの腕を掴もうとするが、あと一歩のところで空を切る! カイムが追うも、二人分の間合いから詰めることができなかった。エクソリアへ近づいていくベルダーを天井付近からカームが飛び掛かる。

 <うおお!>

 「僕も居るからな!」

 「狭い通路でご苦労なことだ!」

 タン! ブシュ!

 <チィ!? この狭さでは役に立てんか!? 主、逃げろ!>

 カームの影でハンドガンを撃つユウリだが、珍しく驚愕の表情を浮かべていた。

 「この近距離で全弾躱すのか!? うあ!?」

 「邪魔だ」

 ユウリが肩を刺され、膝をつくと、いよいよエクソリアだけになった。

 『逃げろったって間に合わないよ!? 姉さん、援護を――』

 『頑張れ、妹ちゃん! 狙いはあなたよ!』

 姉はさらに遠くへ逃げていた。

 『クソ姉貴が! ええい! ボクもあの時とは違うぞ!』

 ブゥウン……

 エクソリアが光の刃を生成し、迎撃態勢を取る。

 「今度こそ消えろ、エクソリア……!」

 ガギギギギギ……!

 神殺しの短剣が光の刃と交錯し、火花を散らす。

 「くっく……仲間が助けに来る前にその貧相な体はバラバラだ。遅いぞカイム」

 「ぐは!? 死角だったはずなのに……! 本物と遜色がない強さだ……!」

 『こいつ、本気で強い……!? ま、まずい……押し切られる……!? この武器だけはボクと姉さんが食らったらダメなやつなんだ……』

 遠くに逃げたのが仇となったか、レイド達はまだ来れない。エクソリアの顔近くまで刃が迫った時、ベルダーが呻いた。

 「ぐ!? な、何だ!?」

 <私を忘れてもらったら困るにゃ!>

 『バステト!』

 エクソリアの脇から飛び出したバステトがレイピアでベルダーの腹を突き刺し、ベルダーはよろけながら後退する。

 <にゃにゃ! 一応普通の人間と変わらないみたいね! ちょっと心が痛いけど、ここを通るためだから覚悟するにゃ!>

 「バステトさん! お手伝いします! はああ!」

 「カイム!」

 <ナイスだにゃ! このまま>
 カイムと挟み撃ち状態になり、ベルダーはカイムの刀を受け止める。バステトが勝機とみて襲いかかる! このままベルダーはカイムと打ち合うと思われていたが、次に取った行動は――

 ヒュ……!

 ドッ!

 <にゃ!?>

 「バスちゃん!?」

 何と神殺しの短剣を振り返らずにバステトの腹へ投げ、深々と刺さった。フレーレが悲鳴に近い声をあげるが、バステトは構わず後ろからベルダーの心臓をレイピアで貫いた。

 <フー……フー……これで終わりにゃ……!>

 「ぐ……!? フフフ、ここまでか。エクソリアは殺せなかったが、まあいいだろう。カイムよ、強くなったな。だが、お前はすぐに言葉や目で見たものに惑わされやすい。それではニンジャの極意には遠いぞ……師匠を、頼れ……この先は……ごぶ……」

 ドサッ……

 ベルダーは倒れると、砂となって崩れ、レイド達が到着し叫ぶ。

 「バステト! カイム! 大丈夫か!」

 「え、ええ、私は大丈夫ですが、バステトさんが!」

 <へ、平気だにゃ……今ので短剣も消えたから……こふ……>

 「しっかりしてください! わたしが治療します! ≪リザレクション≫」

 フレーレのリザレクションで傷口が塞がると、バステトは荒かった呼吸をただしていく。

 <ふー……ふう……た、助かったにゃ! フレーレ、ありがとうだにゃ!>

 「よ、良かったあ……ジャンナみたいに消えちゃうかと思いました」

 フレーレがバステトを抱きしめると、照れくさそうに抱きしめ返すバステト。

 <心配してくれる人がいるのはとても嬉しいにゃ。こうしてみんなに会えて、生贄になった甲斐があったのかもだにゃ♪>

 「……それは喜ぶべきところだろうか……?」
 
 「ノゾム兄さん、いいところだから水をささないの」


 「ともあれ、ベルダーを被害なしで倒せたのは良かった。もうすぐ80階だ、行こう」

 「バスちゃん、背中に乗ってください!」

 <だ、大丈夫だにゃ!? ……痛っ>

 「ほら、ダメですよ無理したら」

 <うう……暴食の異名を持つ私が情けないにゃ……>
 
 レイド達はさらに先へ進む――

 その背中を見ながらエクソリアは胸中で呟く。

 『(あの短剣が本物とは考えにくいけど、もしアレを一瞬でも再現しているのなら……バステトは――)』

 『なあに、妹ちゃん、真面目な顔をして。我慢しているの?』

 『何をだよ!? あ、そう言えば真っ先に逃げたね姉さんは。昔から面倒なことは人に押し付ける!』

 『や、やあねえ……冗談よ、冗談。次はちゃんと戦うから』

 そそくさと逃げるアルモニアをため息をついて見送るエクソリア。

 『(さて、キメラと今のベルダーでかなり魔力を減らされた……神裂め何を考えている……?)』
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