パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その342 真実はいつもひとくせある

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 <バベルの塔:78階>

 
 「……問題ありません、開けます」

 カイムが78階の扉を開けてすかさず中へ入る。後を追うように、レイドとヴァイゼが入り、それぞれ武器を構えて立つ。特に魔物も居ないため、合図をして全員を招き入れると、アイリが口を開いた。
 
 「ここって……日本の家?」

 アイリが首を傾げてキョロキョロと見渡す。扉の向こうは庭園のような場所だが、ししおどしや鯉の居る池と言った様相がアイリをそう錯覚させる。そこにノゾムが答えた。

 「……どちらかと言えば古い『武家屋敷』に近いな。カイムがニンジャだとするなら、こういう和風な家もあっておかしくない」

 「ノゾムさん達の家もこういった感じなんですか?」

 「ええ、今はコンクリートや鉄筋でできているから、こういう木造な感じの家は減ってますけどね。それでも懐かしい感じがするなあ。もしこの世界に住むなら私、こういう家に住みたいかも」

 アイリがうんうんと頷くと、ユウリがボソリと呟いた。

 「カイムについていって結婚すればいいんじゃないか……?」

 「ちょっとユウリ、何言ってるのよ! カイムさんに迷惑でしょ? ごめんなさい、ユウリが変なことを言って」

 「い、いえ、大丈夫です!?」

 「カイムさんとアイリさんがそうなったら異世界の人と交流したって感じでなんかいいですね!」

 「フ、フレーレさん……」

 「あはは……」

 「ま、あいつはああいうやつだよ……」

 がっくしと肩を落とすカイムに、ちょっとだけ同情をするユウリ。そんな中、ニールセンが前へ出て少し語気を強めて言う。

 「のんびりしている暇はありませんよ! 早く聖女様を助けにいかないと、何をされるか分かりません」

 「……そうだな、先を急ごう」

 ヴァイゼがとりなして、一行は先に進む。屋敷内に入ると、ウグイス張りの床に、畳の部屋、掛け軸の裏にある隠し通路など『それっぽい』仕掛けが満載だった。しかし、屋敷に入ってから敵に遭遇することはなかった。

 <私が耳で気配を感じ取ろうとしているけど何も聞こえないにゃ>

 『静かだし、何も居ないんじゃないかな? 蒼希で敵になりそうなヤツの心当たりもないしね』

 「そうですね。サイゾウさんもザイチさんも拠点に居ますし、このまま階段を探しましょう!」

 フレーレが気合いを入れたその時、全員が廊下の角から異様な殺気を感じ取った。

 「……なんだ? しかしこの気配、知っている気がする」

 カルエラートが盾を構えてそう言うと、ユラリとしら影が角から現れる。ツンツン頭に覆面をし、手には……赤いダガーを握りしめていた。


 「あれは……!?」

 「ベルダーさん!?」

 レイドとカイムが驚き、目が虚ろなベルダーを見て叫ぶ。

 「……誰?」

 シルキーがフレーレに尋ねると、代わりにカルエラートが答えた。

 「元ディクラインのパーティだった、ベルダーと言うニンジャだ。今は蒼希で嫁と待っているはずだが……追いかけて来たのか?」

 「……いや、様子がおかしいぞ?」

 「ノゾムさん!?」

 ノゾムがおもむろにワイヤーでベルダーの首を狙い、フレーレが驚いて声を出す。そしてベルダーが一瞬小さく揺らいだように見えた後、ワイヤーは空を切る。
 
 目だけがニヤリとゆがんだすぐ後に、ベルダーは赤いダガーを構え、一直線にエクソリアを狙ってきた!

 『え、僕!?』

 ガキィィン!

 エクソリアは慌てて光の刃を出して応戦する。あまりの速さにカイムも目で追えておらず、音がした方をみたら、すでに交戦しているという状態だったのだ。

 「もしかして、ここはベルダーに対してのトラウマが呼び起こされているのか!? 俺は負けたことがあるけど、トラウマにはなっていないぞ……!?」

 レイドがベルダーに斬りかかると、天井に張り付き、再びエクソリアを頭上から襲う。

 『くそ、どうして僕ばかり……あ!?』

 ガキン!

 ベルダーを弾き返しながら、エクソリアは何かに思い当たり口に手を当てて驚く。

 「女神様、心当たりが?」

 <きっとロクでもないにゃ>

 心配するシルキーに、容赦ないバステトが声をかけると、エクソリアは冷や汗をかきながらギギギ……と首を振り返らせ、ニコッと笑った。

 『……チェイシャのダンジョンでこいつに殺されかけたこと、ある……えへ♪』

 「ベルダーを生み出したのはお前か!? いかん、来るぞ!?」

 「シッ! 女神よ、消え去れ……!」

 『わわ!?』

 『頑張って妹ちゃん!』

 『ボクが死んだら次は姉さんだからねってめちゃくちゃ遠くに逃げてる!? 薄情な姉めぇぇぇぇ……!』

 ベルダーの神殺しの短剣は文字通りエクソリア達に対し絶大な威力を誇る。今はあのダンジョンの時と違い、デッドエンドを回収しているため戦えなくはない。エクソリア自身も忘れていたくらいなので、平気だと思っていたが――

 『あ、あれ? あの短剣を見ると体が固まるよ……!?』

 「それトラウマですから! 危ない! えいえい!」

 天井から床へ着地し、喉元を狙うベルダーを、メイスで追い払うフレーレ。すかさずカイムが奇襲をかけるが、あっさりと躱されてしまった。

 「くっ、捉えられない……偽物でもベルダーさんはベルダーさんか!」

 「くっく……」

 じりじりと間合いを詰めてくるベルダー。カルエラートがエクソリアの前に立ち、アイリがかなり後ろでスナイプ状態に移行する。

 「銃で動きを限定的にする。そこを狙ってくれるかい?」

 タンタンタン!

 「チッ」

 ユウリがハンドガンを構え、躊躇なく発砲すると、ベルダーは最小限の動きで見切る。そこをニールセンとレイドが斬りかかって行った!



 ◆ ◇ ◆



 「よし、74階! 何か広い場所ね? あれってケルベロスってやつじゃない。もしかして、ビューリックの地下?」

 私はフロアを一気に駆け抜け、レジナ達の匂い追跡で迷わず階段を上っていた。補助魔法のおかげで休みなく進んでいるが、少し休憩を取ることにした。

 「がう」

 「わおん」

 「きゅんきゅん」

 「きゅふん」

 「はいはい、お水ね。はい、ゆっくり飲むのよ?」

 狼達に水を与えると、ごくごく美味しそうに飲み始め、私も水筒を取り出し喉を潤す。するとヘスペイトさんが話しかけてくる。

 「いやはや、すごいね。ここまで一気に駆け抜けて来るとは思わなかったよ」

 「急ぐに越したことはありませんからね! ヘスペイトさんは大丈夫なんですか?」

 「ああ、だけど俺のせいで遅れが出ている。次からは憑いて行くよ」

 「? 着いて来ているじゃないですか?」

 ヘスペイトさんがよく分からないことを言い、私は首を傾げていた。だけど、休憩が終わってからその意味を把握したのだった。
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