パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その341 トラウマ

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 この階は近隣の森を模したこのフロアは、北の森や深淵の森の魔物が出てくるようで、パイロンスネークはおろか、クレイジーフォックスなども出てきており、今はマンティスブリンガーと相対していた。だけど、今の私達に勝てない相手ではない。

 「≪麻痺弾≫よ!」

 ギギギ……

 マンティスブリンガーへチェイシャお得意の麻痺弾を撃ちこむと、途端に動きが鈍り自慢の鎌を振ることができなくなった。そこへすかさずレジナが首筋へと牙を立てる!

 「ガウウウ!」

 「そこね!」

 「わおーん!」

 私は鎌を二本切り落とすと、シルバが暴れるマンティスブリンガーへジャンプし、頭へ爪を振り降ろすとブシュっと音を立てて倒れた。

 「起き上がって来ないように、と」

 トドメとばかりに頭を鎚で何度も叩き、カバンに鎌を回収するヘスペイトさん。にこにこしながら結構えぐい。しかし、それをわざわざ言う必要もないので、先へ進むと木の間にある階段を見つけた。

 「階段!」

 「きゅんきゅん!」

 「! シロップ!」

 私とシロップが喜び走ると、木の影から殺気を感じて、シロップを抱いて一歩下がる。すると私が立っていた所に熊の剛腕が空振りしていた。

 「危な!? え!?」

 のそり……

 出てきたのは何とデッドリーベア……! しかも、隻眼の!

 「私が倒したはずじゃ……!?」

 「アーティファが言うには、ここは……というよりここからいくつかのフロアはどうも侵入者の記憶を呼び起こしてトラウマや魔物を再現するみたいだね。レイド達が倒したみたいだけど、俺達はまた新しい侵入者として記録されたのかもしれないね」

 記憶やトラウマ!? でも、そんなものに驚いていたら先には進めない。私は剣を構えて補助魔法を全員に使い、備える。すぐに襲いかかって来るかと思っていたけど、隻眼ベアは私達をじっと見たまま動こうとしない。

 「……警戒しているのかしら。こっちから行く?」

 「ガウ」

 「わん」

 ジリ……っと、間合いを詰めると隻眼ベアはビクッとして強張る。よく見れば耳を下げ、怯えているようにも見える? 

 「急いでるから、悪いけど倒させてもらうわね! たあああ!」

 ガ、ガオウ!?

 私が全力で踏み込むと、隻眼ベアは焦ったように四つん這いになり、踵を返してそのまま森の奥へと消えて行った。

 「え、えー!? 逃げるんだ!? あ、レジナ、追わなくていいからね」

 「わふ」

 私が困惑していると、ヘスペイトさんが階段へ歩きながら今の状況を推測していた。

 「さっきの熊。あれを倒したのはルーナちゃん?」

 「え、ええ」

 「多分なんだけど、前に入ったレイド達と違って、トドメを刺した張本人だから怯えていたのかもしれないね」

 「言われてみれば……昔、追いかけられはしましたけど、フレーレみたいにケガをした訳でもないし、レイドさんみたいに瓦礫の下敷きにされたりしていないですから別に怖いってことはないんですよね。むしろアントンとディーザに突き飛ばされたから追いつかれたわけだし……」

 「ははは、隻眼ベアにとってはルーナちゃんがトラウマだったってことだね。それじゃ、強敵も居なくなったし、行こうか」

 「そうですね。まさかこんなところでまた会うなんて思わなかったなあ。今度は……お城?」

 <妙な気配はないね。……ジャンナの気配がある。アタイの言うとおりに進みな>

 「分かったわ! お願いねアネモネさん!」

 久しぶりに出てきたアネモネさんが指定した場所はお城の中だった。

 ……森じゃないならいけるかしら? 私はフェンリルアクセラレータを使い、さらに速度を上げた。



 ◆ ◇ ◆



 「ぶえっくしょん!?」

 「ほっほ……風邪ですかな?」

 「ああ、塔の外は寒かったし……じゃねぇよ! 誰か俺の噂をしているにちがいねえ」

 「悪化すると大変ね。お姉さんが添い寝してあげましょうか?」

 「お断りだ、おばさん」

 「フッ!」

 「ぐぼお!? ガクリ……」

 フードの男が、フードの女にきついボディを食らって昏倒し、横を歩いていたリンの背中へそっと乗せた。ちょっと引いているリンが小さく鳴いた。

 「にゃーん……」

 「安静にしないとね♪ さて、ここは76階みたいね。もう少し上まで行きたかったけど……」

 「ほっほっほ、まあ良いではありませんか。奇襲をするために、我々は隠れながら進みましょうぞ」

 「そうね……この『隠匿のフード』がどこまで役に立っているか、だけどね」



 ◆ ◇ ◆



 <バベルの塔:77階>

 レイド達は急ぎで先に進み、すでに77階へと足を運んでいた。80階まで各国を模したフロアが続くらしく、76と77階は蒼希に似たフロアだった。

 「人の姿をしていますが、こいつらは魔物です! 斬ってください!」

 シャァァァァ!

 カイムが叫ぶと、ニンジャ装束の魔物が襲いかかってくる!

 「魔物なら!」

 「ここは手ごたえが無いな」

 レイドとヴァイゼの剣がニンジャを真っ二つにし、他の魔物はユウリとアイリの銃による攻撃で近づけさせることなく終わらせていた。

 「……まだだ!」


 ノゾムの声で背後から奇襲をかけてきた二人のニンジャに気付くフレーレとニールセン。フレーレは後退しながらマジックアローを放ち、入れ替わるようにカルエラートとニールセンが撃滅した。

 「助かったぞノゾム」

 「……ああ」

 「?」

 そっぽを向くノゾムに首を傾げるカルエラートを尻目に、切り捨てられたニンジャを見てフレーレが呟いた。

 「アンデッドでもキメラでも無さそうです。完全な魔物みたいですね。人の姿の魔物……ぞっとしませんね……町に紛れ込んでいても分からないかもしれません」

 「こんなことも出来るのですね……神の力を制御しつつあるのでしょうか?」
 
 ニールセンが剣についた血を払いながら言うと、エクソリアが答える。
 
 『かもしれない……これはセイラのことだけじゃなく、急がないといけないかもしれないね。ボクの予想より成長が速い』

 『どっちにしても進むしかないんだから、行きましょう……ほら、もたもたしているとお客さんが増えるわよ』

 アルモニアが呟くと、天井や通路からニンジャ、サムライの魔物がぞろぞろと歩いてくる。それを蹴散らし、一行はさらに進む。するとレイドがカイムへ話しかけた。


 「ここはトラウマになる記憶や敵を持つ人がいないから雑魚ばかりかな? カイムは蒼希で辛い目にあったりとかはないのか?」

 「ええ、孤児ではありましたがみなさん良い人達ばかりでしたし、辛いのは修行くらいでしたよ」

 「そう言えばみんな良い人たちばかりでしたよね」

 フレーレがにこやかに言うと、カイムはすかさずフレーレの手を取って頷いた。

 「ええ、きっと歓迎してくれると思います。この戦いが終わったら――」

 「やめておけ」

 ボコっとユウリにお尻を蹴られ飛び上がるカイム。

 「な、何をするんだ!? さては嫉妬……」

 「違う。最後まで口にしたら、フラグが立ってしまうから止めただけだ。ほら、階段だぞ」

 「ぐぬぬ……意味が分からないけど何となくホッとしている自分がいる……」

 カイムが悔しがりながら、階段を調べ始める。


 ――さて、本当に蒼希と関わってトラウマになった人物は居ないのだろうか?

 
 そんなことはなく、まさかの人物が恐怖を覚える羽目になる――
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