320 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その341 トラウマ
しおりを挟むこの階は近隣の森を模したこのフロアは、北の森や深淵の森の魔物が出てくるようで、パイロンスネークはおろか、クレイジーフォックスなども出てきており、今はマンティスブリンガーと相対していた。だけど、今の私達に勝てない相手ではない。
「≪麻痺弾≫よ!」
ギギギ……
マンティスブリンガーへチェイシャお得意の麻痺弾を撃ちこむと、途端に動きが鈍り自慢の鎌を振ることができなくなった。そこへすかさずレジナが首筋へと牙を立てる!
「ガウウウ!」
「そこね!」
「わおーん!」
私は鎌を二本切り落とすと、シルバが暴れるマンティスブリンガーへジャンプし、頭へ爪を振り降ろすとブシュっと音を立てて倒れた。
「起き上がって来ないように、と」
トドメとばかりに頭を鎚で何度も叩き、カバンに鎌を回収するヘスペイトさん。にこにこしながら結構えぐい。しかし、それをわざわざ言う必要もないので、先へ進むと木の間にある階段を見つけた。
「階段!」
「きゅんきゅん!」
「! シロップ!」
私とシロップが喜び走ると、木の影から殺気を感じて、シロップを抱いて一歩下がる。すると私が立っていた所に熊の剛腕が空振りしていた。
「危な!? え!?」
のそり……
出てきたのは何とデッドリーベア……! しかも、隻眼の!
「私が倒したはずじゃ……!?」
「アーティファが言うには、ここは……というよりここからいくつかのフロアはどうも侵入者の記憶を呼び起こしてトラウマや魔物を再現するみたいだね。レイド達が倒したみたいだけど、俺達はまた新しい侵入者として記録されたのかもしれないね」
記憶やトラウマ!? でも、そんなものに驚いていたら先には進めない。私は剣を構えて補助魔法を全員に使い、備える。すぐに襲いかかって来るかと思っていたけど、隻眼ベアは私達をじっと見たまま動こうとしない。
「……警戒しているのかしら。こっちから行く?」
「ガウ」
「わん」
ジリ……っと、間合いを詰めると隻眼ベアはビクッとして強張る。よく見れば耳を下げ、怯えているようにも見える?
「急いでるから、悪いけど倒させてもらうわね! たあああ!」
ガ、ガオウ!?
私が全力で踏み込むと、隻眼ベアは焦ったように四つん這いになり、踵を返してそのまま森の奥へと消えて行った。
「え、えー!? 逃げるんだ!? あ、レジナ、追わなくていいからね」
「わふ」
私が困惑していると、ヘスペイトさんが階段へ歩きながら今の状況を推測していた。
「さっきの熊。あれを倒したのはルーナちゃん?」
「え、ええ」
「多分なんだけど、前に入ったレイド達と違って、トドメを刺した張本人だから怯えていたのかもしれないね」
「言われてみれば……昔、追いかけられはしましたけど、フレーレみたいにケガをした訳でもないし、レイドさんみたいに瓦礫の下敷きにされたりしていないですから別に怖いってことはないんですよね。むしろアントンとディーザに突き飛ばされたから追いつかれたわけだし……」
「ははは、隻眼ベアにとってはルーナちゃんがトラウマだったってことだね。それじゃ、強敵も居なくなったし、行こうか」
「そうですね。まさかこんなところでまた会うなんて思わなかったなあ。今度は……お城?」
<妙な気配はないね。……ジャンナの気配がある。アタイの言うとおりに進みな>
「分かったわ! お願いねアネモネさん!」
久しぶりに出てきたアネモネさんが指定した場所はお城の中だった。
……森じゃないならいけるかしら? 私はフェンリルアクセラレータを使い、さらに速度を上げた。
◆ ◇ ◆
「ぶえっくしょん!?」
「ほっほ……風邪ですかな?」
「ああ、塔の外は寒かったし……じゃねぇよ! 誰か俺の噂をしているにちがいねえ」
「悪化すると大変ね。お姉さんが添い寝してあげましょうか?」
「お断りだ、おばさん」
「フッ!」
「ぐぼお!? ガクリ……」
フードの男が、フードの女にきついボディを食らって昏倒し、横を歩いていたリンの背中へそっと乗せた。ちょっと引いているリンが小さく鳴いた。
「にゃーん……」
「安静にしないとね♪ さて、ここは76階みたいね。もう少し上まで行きたかったけど……」
「ほっほっほ、まあ良いではありませんか。奇襲をするために、我々は隠れながら進みましょうぞ」
「そうね……この『隠匿のフード』がどこまで役に立っているか、だけどね」
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:77階>
レイド達は急ぎで先に進み、すでに77階へと足を運んでいた。80階まで各国を模したフロアが続くらしく、76と77階は蒼希に似たフロアだった。
「人の姿をしていますが、こいつらは魔物です! 斬ってください!」
シャァァァァ!
カイムが叫ぶと、ニンジャ装束の魔物が襲いかかってくる!
「魔物なら!」
「ここは手ごたえが無いな」
レイドとヴァイゼの剣がニンジャを真っ二つにし、他の魔物はユウリとアイリの銃による攻撃で近づけさせることなく終わらせていた。
「……まだだ!」
ノゾムの声で背後から奇襲をかけてきた二人のニンジャに気付くフレーレとニールセン。フレーレは後退しながらマジックアローを放ち、入れ替わるようにカルエラートとニールセンが撃滅した。
「助かったぞノゾム」
「……ああ」
「?」
そっぽを向くノゾムに首を傾げるカルエラートを尻目に、切り捨てられたニンジャを見てフレーレが呟いた。
「アンデッドでもキメラでも無さそうです。完全な魔物みたいですね。人の姿の魔物……ぞっとしませんね……町に紛れ込んでいても分からないかもしれません」
「こんなことも出来るのですね……神の力を制御しつつあるのでしょうか?」
ニールセンが剣についた血を払いながら言うと、エクソリアが答える。
『かもしれない……これはセイラのことだけじゃなく、急がないといけないかもしれないね。ボクの予想より成長が速い』
『どっちにしても進むしかないんだから、行きましょう……ほら、もたもたしているとお客さんが増えるわよ』
アルモニアが呟くと、天井や通路からニンジャ、サムライの魔物がぞろぞろと歩いてくる。それを蹴散らし、一行はさらに進む。するとレイドがカイムへ話しかけた。
「ここはトラウマになる記憶や敵を持つ人がいないから雑魚ばかりかな? カイムは蒼希で辛い目にあったりとかはないのか?」
「ええ、孤児ではありましたがみなさん良い人達ばかりでしたし、辛いのは修行くらいでしたよ」
「そう言えばみんな良い人たちばかりでしたよね」
フレーレがにこやかに言うと、カイムはすかさずフレーレの手を取って頷いた。
「ええ、きっと歓迎してくれると思います。この戦いが終わったら――」
「やめておけ」
ボコっとユウリにお尻を蹴られ飛び上がるカイム。
「な、何をするんだ!? さては嫉妬……」
「違う。最後まで口にしたら、フラグが立ってしまうから止めただけだ。ほら、階段だぞ」
「ぐぬぬ……意味が分からないけど何となくホッとしている自分がいる……」
カイムが悔しがりながら、階段を調べ始める。
――さて、本当に蒼希と関わってトラウマになった人物は居ないのだろうか?
そんなことはなく、まさかの人物が恐怖を覚える羽目になる――
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。