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1巻
1-3
しおりを挟む第三章
「よーしよし、きたきたきたー‼ アジ! まあまあ大きい!」
パーティを追い出されてから一週間、私はようやく冒険者稼業へと復帰することができた!
やる気がなかったのは追い出されてから二、三日だったけど、山の宴で働くもう一人の女の子のサリーが病気で休んでしまい、この一週間は一日中バイト漬けになってしまったのだった。
この度めでたくサリーが復帰したので、これを機に昼は冒険者稼業へ復帰!
一週間ぶりの冒険者稼業のため、リハビリとして簡単な依頼をと思い、選んだのが趣味と実益を兼ねた釣った魚の納品。
釣りは子供の頃から好きで、よくお父さんと川に行っていた。狙った魚を釣り上げた時の爽快感はクセになるし、その日の食費も浮く完璧な趣味なのである。
ちなみに私が今住んでいる、〝アルファの町〟は、海と繋がる湖があるのだが、湖とは名ばかりで水質は完全に海水。海の魚がいっぱいいる。
マグロやブリなどの大きい魚は船を出さないと無理だけど、海岸沿いからでもそれなりに釣れるのよね。
「〝強固なイシダイ〟ゲット! あ! またひいてる……やった! 今度は〝ハラノナカマックロダイ〟だ♪」
その後、他にもアジを十匹ほど確保した私。コツは餌に補助魔法をかけて活きを良くすること。餌がバタバタ暴れるので食いつきが良くなるようなのだ。補助魔法万歳‼
久しぶりだったけどそれなりに釣れ、お昼が近いこともあり、少し休憩することにした。
魚の種類と数は特に指定されていない依頼のため、持っていった分が私の報酬になる。
なので、釣った一匹をお昼ご飯として、その場で刺身にすることにした。
マジックバッグに簡易テーブルや調理器具一式を入れてきているので、早速調理開始だ!
このマジックバッグは私が冒険者になる時にお父さんがくれたもので、重宝している。どこで手に入れたんだろ?
「ふんふふーん♪ 内臓をとって三枚に~♪」
母親の居ない家庭に育ったので料理は得意なのだ。山育ちだけど魚を捌くことくらいなんてことない。
「頭は味噌汁のダシにしようかな」
海岸から少し離れた砂浜で石を積み上げて簡易かまどを作り、魔法で火をおこす。
スパッと刺身にして味噌汁も作り、朝おかみさんに握ってもらったおにぎりを取り出す。
「いただきまーす♪ んー美味しい、新鮮ー」
釣ってその場ですぐ食べる、これほどの贅沢はない!
だけど……
「やっぱりパーティを組んでないとお金は貯まらないなあ」
アントン達のパーティは、実力がアレだったけど人数は居たので、それなりにお金になる魔物を狩ることができていた。
「マンティスブリンガーは山分けで一人金貨五枚……ワイルドバッファローは素材込みで金貨三枚……デッドリーベアに至っては八枚……」
勇者パーティと組んでいた時の収入を考えると憂鬱になる。金貨二枚あれば贅沢をしなければ一か月は暮らせるので、今の手持ちは余裕があるんだけど、お父さんに仕送りしないといけないから十分だとは言い難い。お父さんを病院に行かせないといけないし、のんびりとはしていられないのよね。
常に貞操の危機に瀕していたため、追い出されたことは好都合だったけど、収入が激減してしまったのは痛い。この魚を全部持って行っても銀貨四枚がいいところだろう。
「ま、まあ明日から頑張ろう……」
出来の悪い学生のような独り言を言いながら味噌汁を飲んでいると、近くの草むらからなにかが飛び出してきた。
「ひゃ⁉ な、何!」
音のしたほうへ顔を向けると、そこにはとんでもなくガリッガリの狼と、その足元に二匹の子狼が立っていた。
子狼は今にも倒れそうにプルプルしている。恐らく味噌汁の匂いに釣られたのだと思う。
今にも飛び掛かってきそうな感じだが、魔物じゃない普通の狼なので私でも倒せる、けど……
「流石に子供連れを殺すのはねえ……」
私は味噌汁の鍋から魚のアラを取り出して狼達の前に置く。
ふんふんと母狼が匂いを嗅いだ後、子供達に食べさせ始めた。
自分もガリッガリなのに、子供を優先するとは親の鑑ね。蒸発したウチの母親にも見習ってほしい。
あっという間に骨だけにされた魚のアラだが、まだ足りないのか、鳴き声かおなかの音かわからない『きゅーん』という音が聞こえてきた。
毛もボロボロだし、可哀相になったので、売らずに少し取っておいたワイルドバッファローのお肉(霜降り)を焼いてあげることにした。うう、なにかのお祝いの時に食べようと思ったのに……
魚を食べて少し元気が出たのか、子狼が私のところへ歩いてきて頭突きをかましてくる。
早く食べさせろと言いたいのだろうか?
もう一匹は私の腕をモゴモゴと甘噛みしてくる。子犬みたいでかわいい‼
頭突きをしてくる子を抱っこして大人しくさせると、きゅーきゅーともがいていた。
母狼をちらっと見ると寝そべってこっちを見ていたので、私を無害だと認識したのだろう。
「ほーら、霜降り焼肉ですよ~♪」
ステーキサイズの肉を半分にして二匹に与え、もう一枚を母親に持って行ってあげると、ひと声「ウォン!」と鳴いてもくもくと食べ始めた。
私も残ったお刺身とステーキの切れ端をおかずにしておにぎりを食べていると、街道沿いを歩くレイドさんの姿を発見したので声をかけてみる。
「レイドさーん! 魔物退治ですかー!」
「おや、ルーナちゃん? お、狼! 危ない‼」
私の近くに居る狼を見て剣を抜いて走ってくるレイドさん。
「だ、大丈夫です! この子達、おなかがすいていたみたいで食べ物をあげたところなんです」
「な、なんだびっくりしたなあ。確かによく見ればガリッガリだな……」
「でしょう? なんか可哀相になっちゃって。レイドさんは何していたんですか?」
「今日は近くの森で〝マンティスブリンガー〟が出たという情報があってね、調査依頼をしていたんだよ」
マンティスブリンガーがどうして町の近くの森に? あれは北の森が生息地域のはずだけど……
「実際行ってみて驚いたよ、本当にいたんだ。森の奥のほうだったけどね。他にもやけに動物が多かった気がする。それこそ、そこにいる狼みたいな普通の動物がね。魔物についてはやっぱり北の森にしか居ない〝パイロンスネーク〟も見た」
それが本当なら、かなりやばい事態なんじゃないだろうか?
町近くの森は私が一人でも狩れる魔物が多く、初心者がよく入る。もしそんな強力な魔物が徘徊しているなら、犠牲者がいつ出てもおかしくない。
ブルリと震える私を見て気を使ってくれたのか、レイドさんは「ギルドに対策と調査を改めて進言するよ」と言うと、お刺身をひと切れ口に入れて、町へ戻って行った。
一人砂浜にポツンと残された私は、急に不安になり早く帰ろうと思って片づけを始める。
その間も子狼は甘噛みをするわ、頭突きをしてくるわで忙しかった。その内、母狼が鼻をこすりつけるくらいの勢いで私の匂いを嗅ぎまくった後、ひと鳴きして子狼を連れてどこかへ行ってしまった。
元気になって狩りができるならいいなと思いながら見送った。
それにしても北の森の魔物が近くの森に集まっているのが気になるわね……
魔物暴走が起こる予兆、とかじゃないわよね?
しかし、悪い予感は的中するもので、この後、私は山の宴でアルバイト中に恐ろしい噂を聞くことになる。
魚釣りの依頼を終わらせて町へ戻った私は、ウェイトレスのバイトへシフトチェンジ!
ちなみに昼間に釣った魚は全部で銀貨七枚になり、少しだけ懐が温かくなった。
お客さんもだいぶ少なくなってきた頃、あるテーブルの二人組が深刻な顔で会話をしているのを見かける。
「北の森近くの街道で、商人の馬車がデッドリーベアに襲われたらしいぞ」
「マジか? 被害は?」
二人組の近くのテーブルを片づけていると、物騒な話が聞こえてきた。
こういうところで情報収集するのも冒険者のお仕事なので、そのまま二人のお客さんの話に耳を傾けてみると……
「幸い護衛に高レベルの冒険者がついていたから大事にはならなかったが、もう少しで富豪のお嬢さんが大怪我をするところだったらしい」
「怖いな。そもそもデッドリーベアが街道まで出てくること自体おかしい……森からそれほど出ない魔物だろう? 増えすぎるのを防ぐために討伐依頼は定期的に出るけど」
「恐ろしく興奮状態で、お嬢さんに狙いを定めていたそうだ。しかも片目が潰れていたらしい」
「なんだって? 手負いか?」
「聞いた話だとそうらしいが、実際はわからねえ。それよりもお嬢さんに狙いを定めていたということは、その個体、女が弱いと本能的にわかっているのかもしれん……」
「厄介だな……女連れのパーティが中途半端に手を出した可能性も高いな。で、倒せず逃げたか、逃がしたか……ギルドは――」
そこまで聞いた私はその場を離れ、今の話について考える。
デッドリーベアはアントン達と一緒の時に一度倒したけど、そんなに凶暴じゃなかったんだけどなあ。補助魔法をかけていたから咆哮も怖くなかったし……。でも今の話を聞く限り、もしかしたらすごく怖いのかも……?
だけど北の森にしか居ないし、一人でそこへ行くこともないから出会うことはないかな。
「ルーナちゃん、五番テーブルにビールと軟骨のからあげ持って行ってー」
「あ、はーい!」
◆ ◇ ◆
ルーナが酒場で男達の話を聞いていた同時刻、ギルドでも隻眼のデッドリーベアの話で持ちきりだった。
実際に隻眼ベアに襲われた護衛の冒険者が報告を行い、ギルドマスターが依頼に来た冒険者達へ警戒と注意を呼びかけるようギルド職員に指示していた。
そんな中、近隣の森を調査していたレイドも、本来いない魔物を近隣の森で見かけることが多くなってきたとの話を持ってくる。
「レイド、ちょっといいか?」
「? どうした?」
報告を終え、移動しようとしていたレイドをイルズが引き止め、話しかけた。
ちょうどその時、レイドの報告を聞いたギルドマスターが近隣の森にも注意を向けるようにと、追加で全員に注意を促し、一連の話が終わる。
冒険者達は「おいおい、マジかよ」「手負いの魔物は戦いたくねぇな」と、隻眼のデッドリーベアの話題を口にしながら、バラバラと解散し始めていく。
――あの日アントン達は、馬車の中でルーナが置いていったハイポーションとフレーレの中級回復魔法《シニアヒール》を駆使し、命からがら、なんとか町まで戻ることに成功。
アントンは、一旦宿に戻り依頼の報告と素材売却へ行こうと言うが、顔に傷を負ったディーザは外に出たくないとそれを拒否。フィオナは安静のためベッドで休んでいた。
エルダーフロッグの依頼完了報告と素材を売却したアントンとフレーレは、明らかに少なくなった報酬に落胆。
また、しばらく依頼ができなくなったため、〝ダンデライオン〟に泊まり続けられないとフレーレが進言し、次の日には安宿へ移動していた。
フィオナは怪我、ディーザは部屋に引きこもったため、夜の相手をフレーレに求めるアントンだったが、フレーレはそれを拒否した。
実はフレーレはルーナに『アントンと体の関係がある』と見栄を張ったものの、ビショップという聖職に就いているため、確実に結婚する相手としか夜を共にするつもりはなかったのである。
フレーレは酒に酔っていたアントンに無理矢理押し倒されたが、間一髪手元にあったメイスで彼を殴って気絶させ、ことなきを得ていた。
「ルーナに謝らないといけないですね……」
彼女をないがしろにした罰が当たったのだと、フレーレは部屋の隅で泣いていた。
そしてアントン達がデッドリーベアと交戦した日から一週間が過ぎ、ギルドマスターの注意を、ちょうど依頼を受けにきたアントン達も聞いていた。青ざめた顔でフィオナがアントンに尋ねる。
「……な、なあアントン、隻眼のデッドリーベアってまさか……」
噛まれた時の恐怖が蘇りフィオナが震え出す。
ディーザも青い顔で自分を抱きしめるようにしながら、アントンへ質問した。
「北の森だし、だ、大丈夫よね……私達がやったってバレないわよね?」
ディーザの顔の傷はフレーレの回復魔法とハイポーションで薄くなっていたが、化粧でごまかす必要がある程度には残っていた。
「俺達は何も知らねぇ……いいか? 何も知らないんだ。俺達が言わなければバレることはない……」
ディーザの質問に、呻くように呟き、早足でギルドを去って行くアントン。それを慌ててディーザとフィオナが追う。だが、フレーレが追いかけながら叫んだ。
「え⁉ い、言わないんですか⁉ 後から知られたらどんな罰があるかわかりませんよ!」
「うるさい! 黙ってついてこい!」
なんてことを叫び出すんだと、フレーレの髪を引っ張りながら、引きずるように宿へ戻って行く。
「きゃあ! い、痛い! や、やめてください!」
「いいか、お前も共犯だ。バレたらお前もタダじゃ済まねぇんだ、ヘタなことは言うんじゃないぞ!」
フレーレを床へ叩きつけながら怒声を浴びせ、アントンは自室へ戻って行く。
乱暴に叩きつけられたフレーレはその場で泣くしかなかった。
この時点で報告しておけば、人の味を知ったデッドリーベアということがギルドに伝わり、脅威に対して対策ができたかもしれなかった。
だが、保身のためアントンはそれをしなかった。
この選択が後にアントン達をさらなる恐怖へ陥れることになる。
◆ ◇ ◆
「……というわけだ、君への依頼は近隣の森で済むが、一人で行くなら奥までは行かないこと。危ないと思ったら町へ逃げ帰るんだぞ」
今日も昼の時間は依頼をこなすためにギルドへ来たんだけど、ギルド内はピリピリしていた。
昨日お客さんが話していたことがすでにギルドにも伝わっているらしく、依頼を受ける時にギルドの職員さんからいろいろと聞かされたのだ。
『北の森の魔物が近隣の森に出現している』と。
今のところ、魔物暴走に発展するほどの数は確認されていないので、深いところへ行かないという条件付きでキノコ狩りとホーンドラビットの狩猟を許可してもらえた。上級補助魔法のおかげね。
「うーん、物騒だなあ……一応、武器を手入れしてもらっておこうかな? 補助魔法があっても武器は強くならないからなあ……」
腕力や素早さは上がるが、武器自体の性能は上がらないので手入れはかかせない。
私の持っている鉄の剣はこの町に来て初めて買った武器で、結構なお値段だった。
しばらくはこれを使い続ける必要があるので、大切にしなければ。
そうと決まれば早速、武器防具屋へ向かおう!
「こんにちはー、ダックルさん居ますか?」
「おお? ルーナちゃんか、久しぶりだな。ダックルってことは剣の手入れかい? 少し待ってな、呼んできてやるよ」
私に声をかけてきた人は防具職人のフントさん。武器職人であるダックルさんと一緒に資金を出し合って作ったお店なんだとか。
腕はピカイチで、作る武器や防具はもちろん、手入れも手を抜かないので信頼できる。
ただ、店の名前がね……『フン・ダックルズ商店』という名前なんだよね……
もう少しマシな名前はなかっただろうか? 私が初めて来た時は高値をふっかけられるんじゃないかと、ドキドキしながら買い物をしたものだ。さっきも言ったけど結構なお値段だったしね。
「あ、ルーナさん。お久しぶりです。購入ですか? それともお手入れ?」
カウンターに出てきた線の細い男性がダックルさん。見た目から武器を作る人には見えないんだけどなあ。
「あはは、お手入れです。購入はまだまだですよ……」
「そうですか? 最近高レベルの魔物を倒していたって聞きましたよ?」
「あー……少し前にパーティを追い出されまして。今は一人なんですよ」
「あらら……まあ合う、合わないはありますからね。では剣をお預かりしてもいいですか?」
くそう、パーティを追い出されたのは事実だけど、なんか悔しい。
それをダックルさんに言っても仕方ないので、愛用の鉄の剣を渡し、手入れが終わるのを待つ。
「はい、終わりましたよ。少し刃こぼれしていたので砥いでおきましたよ」
銀貨五枚(痛い出費……)を渡し、挨拶をして店を出ていく。
フントさんに今度は防具もよろしくと言われたが、今はその余裕がないんです……すみません!
その足で、入り口の門にいつも立っている衛兵さんに挨拶をして森へ出発する。
この調子なら夕方には戻ってこられそうだ。
待っていろ、ハルシメジにホーンドラビット‼ 今日の私の夕食を豪華にするために‼
◆ ◇ ◆
「今日は依頼どうするかな……」
「もうお昼近いわよ? ロクな依頼が残ってないんじゃないの?」
遅くに起きてきたアントンとディーザが宿屋の食堂で今日の予定を確認する。
ディーザの言うとおり、昼を過ぎるとロクな依頼が残っていないことが多い。
「金は必要だからな。今はいいが宿賃も馬鹿にならねぇ。適当なやつを探しに行こうぜ」
「そうだなぁ、アタシも酒を飲みたいし、いいぜ。ディーザはここで待ってりゃいいだろ? また置いて逃げようとされちゃたまらねぇからな……」
あれからディーザとフィオナの仲はさらに険悪になっていた。デッドリーベアとの戦いの際、フィオナはディーザが自分を置いて逃げようとしたことを忘れていない。
「あんたこそ、大怪我をして足手まといにならないでよ? 今度は置いていくからね‼」
売り言葉に買い言葉を続ける二人を見て、ため息をつきながらアントンがフレーレを引っ張って無言で出ていこうとする。
「痛いです! ギ、ギルドの話だと北の森の魔物が徘徊しているみたいですし、少し様子を見たほうがいいんじゃないですか?」
「ああん? そんなのにビビってたら勇者が笑われるだろうが。いいから行くぞ。二人も早く来いよ」
「……」
「い、今行くわ」
「ま、待ってくれアタシも……」
アントン達のパーティは昼過ぎにもかかわらず、ブルホーンという牛型の魔物を倒す依頼を受けることができた。
角と毛皮が高値で売れ、肉も食べて良し、売って良しという魔物で、さらにアントン達でも倒せる程度の強さなので人気の依頼なのだ。
「森の奥には近づかないこと、時間がかかるようなら一旦戻ってくるんだぞ?」
職員は重々注意したうえで許可をするも、舞い込んだ幸運に喜んだアントン達が注意を聞いていたかは怪しい。どうしてそんな割のいい依頼が残っていたのか、というところまでは考えが及ばなかった。
そう、他の冒険者達は様子を見ていたのだ。依頼を受ける冒険者が少ないため、残っていたのである。
もちろんルーナを含め、出かけている冒険者も居るので、今回に限ってはアントン達が無謀というわけではない。
ただし……
◆ ◇ ◆
「ハルシメジはこれくらいでいいかな。後はホーンドラビットね。でもその前に……」
煙で魔物が寄ってこないように、穴を掘ってその上に石を積み上げ、簡単なかまどを作る。
全部とはいかないがこれである程度煙が広がるのを防げるので、その辺の枯草を集めて火をおこし、手に入れたハルシメジを焼く。
ハルシメジは『ウメの木』という春幻の季節に花を咲かせる木の近くに生えることが多く、この時期にしか取れない。串に刺したハルシメジの焼ける香ばしい匂いが漂い始めた。
「今日はいっぱい採ってるし、少しくらいはね♪」
バッグからショーユという異国の調味料を取り出し、串焼きにかけると、ショーユの焦げた香りが食欲をそそる。
お昼は食べてきたけど、おやつということにしておこう。きのこは太らない! ハズ!
「いっただきまーす♪」
串焼きを手に持ったところで、木の陰からさっとなにかが飛び出してきた‼
え⁉ ま、魔物⁉
つい串を武器代わりに身構えたが、まるで役に立たないことに気づく。
そして飛び出してきたなにかが私の腕に噛みつく! やられた⁉
……と思ったが痛くない。そっと目を開けてみると……
「きゅきゅーん」
この前の子狼だ! 嬉しそうに尻尾を振りながら私の腕を甘噛みしている。
中腰気味で身構えていた私は安堵し、すとんと倒木へ腰をおろしながら子狼に話しかける。
「どうしたの? お母さんは?」
子狼を抱っこして前を向かせると、尻尾をパタパタ振りながらジタバタし始めた。あ、女の子だ。
そんな確認をしていると、髪の毛が引っ張られる。
「痛っ⁉」
「きゅん!」
そこにはもう一匹の子狼が居た。今日は私の髪の毛をおもちゃにしているようだ。
毛先がくしゃくしゃになったので女の子の狼を降ろし、もう一匹の子を抱きかかえると元気に暴れ始めた。こっちは男の子のようだ。するとゆっくりお母さん狼が現れる。
私に対して警戒していないのか、近くまで来て寝そべった。
「よく見たら少しふっくらしてるわね? ちゃんと狩りができたのかな?」
母狼も子狼も普通の狼よりは細いが、前に見た時よりもマシに見え、尻尾もふさふさになっている気がする。そっと母狼の背中を撫でるとあくびをした。
ハルシメジを狼親子にも分け与え、しっかりとたき火を消火してから、私はホーンドラビットを探しに歩き出す。
「バイバイ」
手を振って狼達にお別れを告げるが、なぜかついてきていた。
足元で二匹がぐるぐる回りながら走っているのはかわいいけど、目が回らないのかな?
邪魔しないならいいかなと思い、そのまま一緒に歩いていると、三十分ほどで一匹目のラビットを発見できた。
今日は三匹狩る必要があり、陽が暮れる前に帰るなら手早く終わらせたい。
「《ムーブアシスト》と《ストレングスアップ》。これで大丈夫かな」
ラビットの顔が後ろを向いた隙に一気に近づき、首の後ろに剣を一閃。
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