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1巻
1-2
しおりを挟む◆ ◇ ◆
話は少し遡り、アントン達は朝食後、ギルドへ来ていた。
いつもどおり依頼を確認して受付で受理してもらうだけだが、この日はいつもと違っていた。
デッドリーベアの討伐依頼を受けに来たアントン達だが、受付に居たイルズが受理しなかったからである。
「今の君達にはこの依頼は厳しい。だから受理しかねるな。他の依頼を探してくれ」
イルズはそれだけ告げると次のお客さんが居ないのを確認し、新聞を読み始めた。
馬鹿にされたと感じたアントンは苛立たしげにイルズに食って掛かる。
「おい、依頼を受理できないってのはどういうことだ? 一昨日倒してきたんだから、厳しいってことはないはずだ」
イルズは「ふう」とため息をついて新聞を畳み、再度アントンに言い聞かせるように説明を始めた。
「いいか? デッドリーベアの討伐はパーティレベルが少なくとも75は必要だ。依頼書にも書いているだろう? 今のお前達のパーティレベルはいくつだ? ああ、いい。どうせギルドカードを見ていないだろうから教えてやるが、42だ。これで討伐なんて自殺しに行くようなものだ。そしてそれをわかっていて受理し、なにかあった場合、俺も処罰される。だから許可できない。わかったか?」
なるべくやんわり、苛立たしさを表に出さないようにイルズは一つひとつ『なぜ?』をアントンへ伝える。
気圧されたアントンを助けようと、ここでフィオナが横から口を挟む。
「なら、なんで前回は許可してくれたんだよ、何が違うってんだ?」
「ふむ、俺は今朝、ルーナちゃんの契約解除の書類を片づけたんだが、あれは幻だったのか? ルーナちゃんがパーティから抜けたんだからパーティレベルが下がるのは当たり前だろう? ルーナちゃんが居た頃は76で、ギリギリ条件をクリアしていたから許可したんだ。さらに言えば、先週お前達が倒してきた〝マンティスブリンガー〟あれも討伐レベルが60必要だからな?」
イルズが食ってかかるフィオナにも冷静に事実を突き付けて怯ませる。
「で、でもでも、ルーナはわたし達の中でも一番レベルが低かったはずですよ、なのになんで……」
「そうよ、あの子一人で34も上がるわけがないわ!」
フレーレが焦り、ディーザは明らかに怒っている口調でイルズへ問いかける。
すると、イルズは腕組みをしながら四人を見て言った。
「なるほど、お前達は『パーティ』について何も知らないんだな? いいか――」
イルズの説明はこうだった。
パーティを組むとパーティレベルがギルドカードに記載される。
これは各人の能力・装備などを総合的に考慮したものが表示され、このレベル内の魔物であれば「協力」すれば勝てるハズ、という目安になっているのだ。
ルーナが加入した時に高くなった理由は『補助魔法』の性能が、群を抜いていたからにほかならない。
アントンは現在、器用貧乏な成長をしているため、総合評価的に低かったりするが、フィオナ・ディーザ・フレーレはそれぞれ剣・属性魔法・回復魔法(プラス弱い攻撃魔法)を鍛えているためなんとか四人で42という数字が出ている。
ちなみにルーナの補助魔法がなぜ優秀なのか?
魔法というのは使えば使うほど習熟度が上がり、より強力になるのが基本なのだが、攻撃魔法は標的がいないと上げにくく、回復魔法も怪我人を治療することで習熟度が上がるので、一般的に上げにくい。一方、補助魔法は自分にかけてもいいし、他人にかけてもいいという魔法なので、魔力さえあればいくらでも鍛えることができるのだ。
五歳の時に補助魔法の恩恵を授かったルーナは、毎朝父親に、学校で友達に、遅刻しそうな時の自分に、畑を耕すお供(牛)などにと、遊び半分で使いまくっていた。おかげで高レベルの補助魔法まで使えるようになってしまい、そのためアントン達のパーティがレベルが引き上げられていたというわけだ。
依頼書にはソロ討伐レベルも記載されており、いけるかどうかはギルド職員と応相談なので、ソロは不利にできていたりする。デッドリーベアであれば90以上はほしいところ。体力回復のポーションは忘れずに。
「話はわかったか? 今のお前達は〝エルダーフロッグ〟くらいがちょうどいいだろうな。どうだ、受けるか?」
一気に説明され、目を白黒させていた四人だったが、他のギルド職員や、冒険者が失笑しているのを見て『実力不足』というレッテルを貼られたということを理解した。
これ以上イルズと話しても仕方がないと判断し、渋々エルダーフロッグの依頼を受けるアントン。
「……わかったよ、とりあえずそれでいい」
睨みつけてくるアントンを見てやれやれと肩を竦め、イルズは依頼書に『受理』のスタンプを押したのだった。
◆ ◇ ◆
「さて、バイトも終わったしギルドでパーティ探しをしよっと……」
私は忙しさのピークを過ぎた山の宴を出て、再びギルドへとやってきた。目的はもちろんパーティを組んでくれる人を探すこと! お金を稼ぐなら魔物討伐が一番なんだけど、私一人だと採集や釣りといった収入が少ない依頼しかこなせない。それだとバイト代とそれほど変わらないので、冒険者になった意味がないのだ。
「あれ、また来たのかい?」
「えへへ……パーティメンバーを探しに来まして……」
私がそう言うと、イルズさんが苦笑しながら奥を指さす。そこにはイスとテーブルが用意されており、昼も過ぎると依頼を終わらせた冒険者が、依頼の話や魔物のこと、はたまた自慢話などをするため、よく集まっている。今なら声をかけるチャンスというわけなのだ。
「あのお、補助魔法とか興味ありませんか?」
「うわ、びっくりした⁉ ああ、あんた確かアントンのパーティの……」
私はにこっと笑いかけると、その場にいた冒険者に自分を売り込み始めるのだった。
せめて中級の魔物を倒せるパーティを……お金になるパーティを……!
◆ ◇ ◆
「くたばりやがれぇ‼」
ゲロッゲー⁉
アントンの突きが見事に脳天へヒットし、一匹が息絶える。
「はあ!」
「今ね! 《バーンニードル》!」
ゲッコゲコー……
ディーザの炎の魔法が二匹目のエルダーフロッグを串刺しにして、大きなカエルの魔物は絶命した。
「あ、フィオナ。ちょっと怪我してるみたいですね。《ヒール》」
依頼された二匹の討伐を終え、解体作業に入る四人。
「エルダーフロッグはもも肉とどこが売れるんだっけ?」
フィオナが解体の手を止めずにアントンへ聞く。
「確か舌がなんかの素材になるらしいから持っていこうぜ。他に使えるもんはねぇから埋めるか」
「そ、それにしてもルーナが居ないだけでパーティレベルがこんなに下がるなんてやっぱり信じられません……」
フレーレがギルドでのやり取りを思い出し、困惑したように呟く。ディーザも同じくイルズの選定した依頼や討伐レベルに納得がいっておらずこんなことを言い出した。
「あの子、色んな人と仲が良かったわよね。イルズも『ルーナちゃん』なんて呼んでいたし……もしかして、あちこちで体を売ってレベルを捏造してるんじゃないかしら……」
「あ、それあるかもしれねぇな。あいつ、この町に来た時は冒険者ですらなかったんだよな。今はレベル4か5だっけ? それで34もパーティレベルが上がるわけねぇもんな」
フィオナがディーザに同意し、アントンがそれを聞いて憤慨する。
「チッ、ちょっとかわいいからってとんでもないやつだったってことか。良かったぜ、お前達が追い出してくれて」
少し考えればそんなことができるはずもないと気づくのだが、四人は各々プライドを傷つけられたこともあり、ルーナを悪者に仕立てて結束を固めていた。しかし陰口くらいなら良かったのだが……
「そうだ、今から北の森へデッドリーベアを倒しに行こうぜ! そしたら俺達が正しかったって証明できるだろ?」
名案とばかりにアントンが三人へ向かって笑顔で言い放つ。
「そうね、ギルドの連中を土下座させてやりましょう!」
「へへ、そうこなくっちゃな。それでこそアタシが見込んだ男だ!」
「だ、大丈夫ですか? わたし達、徹夜で寝不足ですけど……」
フレーレだけは気乗りしないといった感じだったが、押し切られる形で北の森へ向かうことになる。
そしてこのパーティの行動が、町一つを巻き込む騒動の幕開けだった。
第二章
「いやあ、はは……今、ウチもいっぱいだし、余裕がないんだ。ごめんね」
「そう、ですか……ありがとうございます……」
私は最後のパーティにも断られ、とぼとぼと帰路に就く。ギルドでは最初の登録の時にいろいろな人と話して仲良くなってはいたけど、アントンのパーティに加入していたということで煙たがられてしまったようだ。なんでも高レベルの魔物を狩り羽振りが良くなってからは、嫌味を言ったり、取り巻きの女の子を自慢する言動が目立つようになったらしい。
そのため、抜けたとはいえ昨日までパーティに加入していた私もとばっちりを受けた、そういうことである。
「うぐぐ……これは予想外……前に声をかけてくれたパーティからも断られるとは……」
実を言うと、アントンのパーティに声をかけられた時、他のパーティに誘われたことがあるんだけど、その時は勇者の恩恵=お金が稼げるという幻想に囚われ、お断りしていたのだ。
「あの時は先見の明があったと思ったんだけどね。仕方ない、今日のところは夜のバイトに専念しよう。依頼なんてする気分じゃないわ……」
バイトの時間までふて寝をする私であった……
「おかみさーん! ワイルドバッファローのステーキ追加で!」
昼と違い、山の宴は酒場として盛り上がっている。注文からテーブルの片づけや配膳は基本的に私の仕事だった。
「お、あの子、昼間ギルドでパーティを探していた……」
「だよなあ。冒険者の稼ぎが少ないのか、よっぽど金がないのかわからねぇが、バイトまでやってるとはな」
ここにいると町の冒険者が集まってくるので、こういった噂話はよくされる。お金は大事なんだからね! 無視を決め込んでいると、そのうちの一人が大声で叫んだ。
「あんた、そんなに金がほしいなら一晩俺の相手をしてくれよ! そしたらたんまり弾むぜえ」
聞こえないふり聞こえないふり……私が心を無にして料理やお酒を運んでいると、酔っぱらった冒険者は私の前に立ち、にやにやと笑いながら私の手を掴んで言う。
「ひっく、なあ聞こえてたんだろう? どうだ、この後?」
「すみません、今お仕事中なので~」
私はできるだけ穏便に済ませようと笑顔で接したが、それがいけなかったらしい。男は私の腕をぐいっと引っ張り、声を荒らげる。
「俺の言うことがきけねぇってのか!」
「ちょっと! 他のお客様に迷惑……痛っ⁉」
私の手をひねり上げてくる冒険者の男。痛たた……⁉ こうなったら補助魔法をかけて……と、私が魔法を使おうとしたところで、私は男の手から解放され、たたらを踏む。すると今度は男が呻き声をあげ始めた。
「痛ぇ……だ、誰だ!」
「そこまでにしておけ。女の子相手に手をあげたのがギルドマスターに知られたらことだぞ? 店にも迷惑だ」
レイドさんだ!
いつの間にか店に入ってきたレイドさんが、酔っ払い冒険者をいなしてくれた。
「レ、レイドか……チッ……」
男はレイドさんを見ると舌打ちをし、そそくさと自分の席に戻って酒を飲み始める。それを見てレイドさんが少しだけ頷き、席を探し始めた。
「レイドさん、こっちですよー!」
「お、助かるよ」
「えへへ、こちらこそ助けてくださってありがとうございます!」
「別に大したことじゃないさ。いつもの頼むよ」
レイドさんは気にした様子もなく、頬杖をついて私にいつもの注文をする。無気力そうに見えるけど、さっきの冒険者の態度を見る限り、やはりレイドさんは強いのだろう。
「じー……」
「ど、どうしたんだい?」
「いえ……やっぱりレイドさんとパーティを組んだら稼げそうだなって……」
「は、はは……ルーナちゃんは本当にお金がほしいんだね……」
「あ、ご、ごめんなさい、つい本音が……た、助けてくれたお礼に今日は私が奢りますね!」
「あ、ちょっと……」
恥ずかしさを隠すため、私は大慌てでその場を離れた。うう、守銭奴だと思われたに違いない……。しばらくパーティ探しは控えようかな……
◆ ◇ ◆
「居たぞ、デッドリーベアだ」
アントンが眼下のデッドリーベアを見て三人に声をかける。
四人はエルダーフロッグを倒した後、すぐにレンタル馬車を使って北の森へ向かったのだ。
街道沿いに馬車を止め、三十分ほど歩き、現在に至る。
運の良いことにアントン達は少し高い位置で魔物を発見することができ、向こうはこちらに気づいていないため、奇襲するにはうってつけの状態である。
「じゃあ私が魔法で攻撃してから、アントンとフィオナが追撃する感じでいいわね?」
「アタシはそれでいいぜ。アントンと一緒に攻撃すればすぐだろ!」
「それじゃあ、わたしは動きを止めるための攻撃魔法を撃ちますね。怪我をしたらすぐヒールを使いますから!」
ディーザを起点にして二人が遊撃。
さらにフレーレが回復とちょっとした牽制攻撃を行う形で決定し、四人が一斉に動き出す。
「《フレイムストライク》!」
ディーザの中級魔法の声が響くと、デッドリーベアの背中へ炎の塊がヒット。
突然の攻撃にベアが怯み、その隙にアントンとフィオナが斬りかかった。
「うおおおりゃぁぁぁ!」
「そら! 大人しくアタシ達の酒代になりな!」
アントンが腕、フィオナが腹へ攻撃するが、ベアの剛毛に阻まれて大きなダメージを与えることができなかった。
そこで、攻撃されたと気づいたデッドリーベアが立ち上がる。
デッドリーベアの毛は背中から腕にかけて灰色。そこからお腹へ向けて茶色の毛並みになっており、灰色部分は硬質な毛であるためダメージを与えにくい。
フィオナの攻撃は図らずも弱い部分である腹へヒットしたが、レベルが足りず中途半端なダメージになってしまい、デッドリーベアは逆上しパーティはピンチに陥ってしまう。
グオォォォォォォォ‼
デッドリーベアは両手を広げて、目の前の襲撃者達に咆哮を放った!
咆哮は威圧硬直の効果がある。高レベルの冒険者であればただの咆哮で済むところだが、アントン達のように低レベルのパーティにはとてつもない威力を発揮する。
前回はルーナの補助魔法《メンタルアップ》がかかっていたため、咆哮を受けても問題なかったのだが、今回は補助魔法がない。
その結果、ディーザは青い顔で震え、アントンとフィオナは近かったこともあり完全に動きが止まってしまう。さらに後衛にいたはずのフレーレも腰を抜かしていた。
動きが鈍くなったのを見たデッドリーベアは、その剛腕をアントンへ振り上げた。
「うぎゃ⁉」
まだ硬直が解けていなかったアントンは直撃を受け、軽々と吹っ飛ばされる。
デッドリーベアはそのままフィオナへ攻撃を仕掛ける。
アントンが吹っ飛んだことで、我に返りギリギリ剣で受け止めるも、腕力差でやはり後方へ転がされた。
「あ、あわわ……ヒ、《ヒール》! 《ヒール》です‼」
フレーレの近くに転がったのが幸いし、アントンは怪我を回復するが、装備していたプレートアーマーの一部は損傷し、防具としての機能を失っていた。
「げほっげっほ……畜生があ、ビビらせやがって……おい、ディーザ‼ 風魔法だ!」
「え、ええ! わかったわ! 《ウインドカッター》で」
ディーザが風の魔法でデッドリーベアを攻撃するが、少し腕を切り裂いただけであまり効いていないのは一目瞭然。
「な、なんでよ⁉ この前は腕を切断したじゃない⁉」
今度は攻撃してきたディーザに狙いを定めて、デッドリーベアが牙を剥き襲い掛かる。しかし間一髪で、アントンが剣で防いだ。
「あ、ありが……」
「いいから魔法を使え‼ さっさと片づけるぞ!」
「で、でもでも! この前のやつより強すぎますよ! に、逃げましょう⁉」
フィオナにヒールをかけているフレーレが悲鳴に近い声をあげ、目に涙を浮かべていた。
「いてて……やってくれたな!」
「あ! フィオナさん!」
回復したフィオナが後ろから斬りかかるも、やはり灰色の毛に弾かれてまるでダメージにならない。
ディーザも《フレイムストライク》や《アクアフォール》など今使える最大の魔法を使うが、やはり分厚い剛毛に阻まれてしまう。
「どうして⁉ どうしてなのよっ‼ 《フレイムストライク》、《フレイムストライク》ゥ!」
「くそ、固ぇ! ぐあ⁉」
「アントン! きゃああああ! フィオナぁ!」
デッドリーベアはディーザを庇ったアントンを吹き飛ばし、後ろから攻撃していたフィオナに顔を向けた瞬間、彼女の腕に噛みついたのだ。
「うわああああああ! 痛い! 痛いぃ! た、助けて!」
ミシミシと骨がきしむ音が響き、フィオナの腕は血で真っ赤に染まっていく。
「こ、この、フィオナを放しやがれ‼」
アントンが剣で顔を何度も斬りつけるが、デッドリーベアはその口を放そうとはしない。
「フィオナは……も、もうダメよ! フィオナを見捨てて逃げましょう⁉」
ディーザが恐慌状態になり、言ってはならない言葉を口にする。
「う、うう……た、助けてよ……うああああ!」
「あ、あああああ‼」
その時、闇雲に振っていたアントンの剣が偶然にもデッドリーベアの左目を切り裂いた。
流石に目までは頑丈ではなく、縦にざっくりと傷がつき、たまらずフィオナを解放する。
「か、顔です! 顔を集中的に狙うんです! 片目ならチャンスですよ‼ ええい、《マジックアロー》!」
意外にもこの状況で動いたのはフレーレだった。フィオナに駆け寄りながら、アントンとディーザへ叫び、デッドリーベアの顔面に魔法を放つ。
「お、おう! くらえ、くらえ、くらええええ!」
「わ、私も! 《フレイムストライク》‼」
グォォォォォ‼
片目になったデッドリーベアの顔へさらに猛攻をかける一行。だがベアは、めちゃくちゃに暴れ出す。
「がはっ⁉」
「きゃああああ! 顔が! 私の顔が!」
防具のなくなったアントンが吹き飛ばされ、腕とあばら骨が折れた。ディーザは自慢の顔に爪痕を刻まれる。
しかし、少ないながらもダメージが蓄積されてきたのか、フーフーと息が荒くなってきたデッドリーベアは、まだ呻いているフィオナへ目を向ける。
アントン達の中で一番ダメージを負っているフィオナを餌として捉えたのだ。
普段はハチミツや鹿、川魚を主食にしていたこの個体は、人間を食べたことがない。だが、襲われた怒りと、フィオナの血の味が、人間は餌だと認識させてしまったのだった。
「く、来るな! 来るなああ⁉」
噛まれていないほうの腕で剣を振り回すがベアは怯みもしない。
いよいよフィオナに噛みつこうとデッドリーベアが口を開けた瞬間、それは起きた!
「《マジックアロー》!」
ゴガァァァァァ⁉
フレーレの放ったマジックアローが、デッドリーベアの口内へ吸い込まれるように命中した!
これにはさしものデッドリーベアも悲鳴をあげる。
その悲鳴をあげている口へ二度、三度とマジックアローを撃ち続けるフレーレ。
「この! このぉ!」
そしてデッドリーベアは口の周りを血だらけにし、フレーレへ体当たりしつつ森の奥へ逃げて行った。
体当たりを受けた反動でフレーレは木にぶつかり頭から血を流す。それでも意識を失わず、アントン達に声をかける。
「あ、あうう……い、今の内に逃げましょう……」
フラフラとした足取りでフィオナへヒールをかけ、応急処置をしたアントン達は馬車へ戻ると、ルーナが置いていったハイポーションを使いながら悪態をついていた。
「くそ! なんだあの強さは! 異常種かなんかかよ!」
「そ、そうじゃないよ……ギルドのやつに言われたように、アタシ達じゃ無理なんだよきっと……」
「そ、そんな……そ、そうよ! 私達は寝不足で実力を発揮できなかったのよ! 次やれば……」
ディーザが慌てて取り繕うが、頭に包帯を巻いたフレーレがそれを大声で遮る。
「ま、まだそんなことを言ってるんですか‼ 明らかにわたし達はダメージを与えられなかったじゃないですか! イルズさんの言うとおり、この前はルーナが居たから勝てたんですよ‼ わたし達が強くなるかルーナをパーティに戻すまで、次なんて絶対にありえません‼」
フレーレは限界とばかりに大声で泣き始めた。
それを見た三人は口をつぐみ、やがて町へ馬車を走らせるのだった。
「次はない」とフレーレは言ったが、すぐに『次』は訪れることになる。
熊というのは実は相当賢く、執着心が強い。
あの時デッドリーベアは、フィオナを餌とみなした。それが何を意味するのか?
脅威が、すぐそこまで来ていた。
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