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最終部:タワー・オブ・バベル

その337 人間の欲と業

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 <拠点>

 ――翌朝、早起きした私はお風呂へ浸かり、寝ぼけた頭を戻してからレジナ達と拠点内を散歩していた。駆け足で塔と拠点を行き来していたけど、ゆっくり見て回るのは初めてかもしれない。

 壁も段々広がっているので、ここもかなり大きくなってきた。


 「あ、蒼希のサムライとビューリックの騎士で家を作ってるわね。こうやってみんな仲良くできればいいのにね」

 「わんわん」

 シルバが私の足に擦り寄ってきて一声鳴く。

 シルバやラズベみたいに、仲良くなれないものか……ヴィオーラの国王は塔へ行って世界を征服するつもりだし、エクセレティコとビューリックの国王は私の中にある女神の力を狙って、やはり国を間違った方へ導こうとしていた。
 授かる≪恩恵≫がそういうものだから王になる人間が決まってしまうのは仕方がない。けど――

 「がう」

 「……結局、人間は欲に勝てないのかなあ」

 レジナの首をわしゃわしゃすると、気持ち良さそうに目を細める。動物はシンプルでいい。その日の食べ物を探して、なわばり争いに勝つために強くなれるよう生き抜いている。
 それに引き換え人間ときたら、やれ、お金だ領地だのと声を高くして言う。それも権力がある人ほど欲にまみれている気もする。

 ヴィオーラの国王は世界を支配したいようだけど、神裂が人間を滅ぼすつもりなら人間が居ない世界を征服するのことの意味は見いだせない。

 「神裂は何考えているか分からないからねえ……」

 アイリやノゾムを私達と同行させ、一体何をさせようと言うのか? 仲間になった時期は短いけど、彼等が裏切るとは思えない。操られていたユウリはその汚点を払拭しようと無理をしているようにも見えるしね。
 
 「きゅんきゅん」

 「はいはい、抱っこ? 甘えん坊ねシロップは」

 「きゅふん!」

 「ラズベも? 仕方ないなあ」

 私は雌狼を二匹抱きかかえてあげると、シルバがズボンの裾を引っ張ってくる。どうやら自分も抱っこをして欲しいようだ。

 「シルバはだーめ。シルバはこの子達に比べて大きくなっちゃったから重いのよ? お兄ちゃんなんだから我慢しないと」

 「くぅーん」

 「がう」

 尻尾を下げたシルバにレジナが顔を舐めて慰めていた。かなり強くなったけど、まだまだシルバも甘えたいさかりなのかもしれないわね。
 
 「あ、そうだ。ヘスペイトさんのところへ行かないと」

 私は、成仏騒ぎの後から顔を見ていないので、ちょっと心配になり拠点の隅に作っているテントへと向かう。するとそこにはすでに半分くらい出来上がっている工房があった。

 「ちょ……早くない!?」

 「わん!」

 「おや、ルーナちゃん。朝早いね? 見てくれよ、もう外装はできつつあるよ!」

 ポンポンと壁を触るヘスペイトさん。うーん、こっちからは触れないのに、向こうから触れるのは違和感があるなあ……それはともかく、中を見てみる。

 「あ、牛君!?」

 「おや、姐さんじゃねぇですかい。塔に登ってるんじゃ?」

 「ちょっと今回はお留守番でね。何してるのよ?」

 「ドラゴンさんが居なくなったって聞きましてね。木材を運ぶのが難しいってんで手伝ってるんですよ。幸い、力仕事は得意なんでね」

 ニコッと目を細めながらぐっと力こぶを作る牛君こと、アルテリオス。彼はさらに言葉を続ける。

 「あのシノビってやつらも拠点で色々手伝ってますよ。さ、次の材料を持って来るんで、また!」

 「あ、うん」

 ……敵だった牛君もいつのまにやら拠点に馴染んでいた。歩いて外へ向かう彼に、騎士やモルトさん達が話しかけて笑っている。
 
 「魔物とでも仲良くできるんだから、人間同士ができないわけないよね。うん、まずは神裂のところまで辿り着く! 後はそれから考えよう! というかこの戦いが終わったらみんなどうするのかな? あなた達は私と来る?」

 「がう!」

 「わん!」

 「きゅんきゅん!」

 「きゅふん!」

 狼達に聞いてみるとさも当然といった感じで尻尾を振っていた。私はこのまま魔王の恩恵を持って生きていくなら、魔王城に帰るのが妥当なのかなあ。お父さんも一緒にね。

 「ま、今は考えても仕方が無いか……みんな早く帰ってこないかな……今何階にいるんだろう?」

 拠点から塔を見上げ、私は一人呟くのだった。やっぱり追いかけた方が良いかな?



 
 ◆ ◇ ◆




 <バベルの塔:75階>

 
 「大丈夫、何も罠は無いようです」

 「よし、ここは中ボス部屋だろう。心してかかるぞ」

 休息を取ったレイド達はすぐに出発し、何事もなく75階へと到着した。カイムが扉を調べ、罠がないこと確認し、レイドが扉を蹴破った。


 「……行くぞ」

 レイドとカイム、そしてノゾムが躍り出るように先頭に立ち、続けてカルエラートとヴァイゼ、ニールセンが続く。

 「白い空間、か?」

 「何もいませんね……」

 武器を構えたまま警戒を解かずに周囲を見渡すレイド。目を細めて奥を見るカイムが首を振る。壁というものも存在しない奇妙な場所だった。

 「誰も居ないならラッキーじゃ無いか? さっさと行こうじゃないか」

 「とりあえず何か出るまでは調べさせてもらうか。何があるか分からん、離れるなよ」

 ユウリとヴァイゼもフレーレやセイラ達を庇うように動きながら辺りを探る。しばらく歩き続けてみたが、視界には白い空間が広がるばかりで出口はおろか入ってきた入り口さえも見失うほど何も無かった。

 「……一応ワイヤーは伸ばしているから戻れるが、戻ってみるか? 手ごたえはまだある。」

 「となるとループしている感じではないんですね。闇雲に進むのは危険かもしれませんね」

 フレーレがノゾムの言葉に続けると、カームが空へ飛びあがった。

 <……上からも何も見えないな。一旦戻……む、いかん! みんな足元だ!>

 「何!?」

 カームの言葉を受けて全員が足元を見ると、いつの間にか出てきていた影がぐん、と大きくなっていた。それがレイド達を取りこもうと浮き上がってきた!

 「逃げるぞ!」

 レイドの合図で一斉に走り出す。だが、影はやはり影なので、しっかりと足に張り付き距離を取ることも近づかれることもなかった。

 「に、逃げても追ってくるわよ!? これじゃ、体力が尽きたらどうなるか……きゃあ!?」

 「セイラ! あ!?」

 セイラが躓いてこけてしまい、影に覆い被さられた。セイラを助けようとしたシルキーも影に覆われてしまう。それを見たニールセンがセイラの元へ戻ろうと踵を返したところで取りこまれてしまった。

 「セイラさん! う、ぐ……!?」

 「くそ、動きが速い……!? ぐあ……!?」

 「きゃあ!? 気持ち悪いですよこれ!」

 「フレーレ! ……チッ、うご、けないだと……!」

 次々と影に捕まる一行。そんな中で、女神姉妹は影と戦うことにした。

 『ボク達にも襲いかかるのか! 光の刃よ!』

 ザシュ!

 『ヴァイゼ、しっかりしろ!』

 「む、助かった! ぬう……!?」

 エクソリアが自分に向かってきた影を斬り裂くと、霧散して消えた。だが、ヴァイゼにまとわりついた影は、斬ったにもかかわらず、再生をしてヴァイゼを拘束したのだ。

 『はあ! ……ダメね、私達以外は拘束されたわ』

 『どういう仕掛けなんだ……?』

 「くっ……特に体力が奪われたりするようなことはないが……まったく動けない……」

 レイドがもがくが、動けないでいる。

 結局、全員が捕まった後、動けるのはアルモニアとエクソリア、そして空中に逃れたカームだけだった。エクソリアがレイドの影を斬り裂くがやはりすぐに再生してしまう。

 『まいったね。原理が分からないや』

 『光が差している訳でもないし、影自体が罠かしらね?』

 <にゃ、にゃあ……冷静にし過ぎ――何か来る!>

 バステトの耳がピコピコ動き、緊張が走る。女神姉妹が警戒していると、ゆっくりと大きな影が歩いてくるのが見えた。

 『あれは……何……?』

 『どれ……なるほど、ボクも人のことは言えないけど、レイド達人間にとって胸糞悪いモノだよ、あれは』

 ズシン……ズシン……

 段々と近づいてくる影は、酷く大きく、そして、醜かった。それもそうだろう、その体躯には、人の顔がびっしりと張り付いていたのだから。

 「う、う……こ、ころしてくれぇ……」

 「痛い……いたいい……」

 その巨大な肉塊は、呻き声を上げていた――
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