パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その334 過去の贖罪

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 ドシャ……

 エリックの一撃でデダイトが地面に倒れると、村人たちはべしゃっと泥のようなものに変わり果てて消えた。

 「終わったのか?」

 「……そのようだな。大丈夫かユウリ? 戻ったらフレーレに治療してもらわないとな」

 ワイヤーが食い込んで肉が斬り裂かれた皮膚を見ながらノゾムが声をかけていた。その言葉にユウリが機銃を地面に置きながら反論する。

 「どうしてフレーレ限定なんだよ!? セイラかシルキーさんだっていいだろう!?」

 <はっはっは、どうしてだろうなあ。……む、エリックがデダイトに……>

 カームの視線の先にはデダイトを起こすエリックの姿があった。デダイトは目を瞑ったまま満足そうに微笑み、口を開く。

 「……完敗だ。ライノスとエレナの子供の頃を見せたら動揺すると思ったんだがな」

 「動揺はしたさ。でも、僕にはそれを正してくれる人達がいたからねー。何とかなったよ。途中までは僕は君に殺される覚悟だったからね」

 「フン、お前の考えそうなことだ。……あの時、俺が処刑される時だ。あれでお前を恨んでいると思うか?」

 「……」

 エリックが顔を歪めて黙りこむと、デダイトが片目を開けてエリックを見る。

 「恨むわけないだろ。あれは俺がお前を騙して城へ乗り込んだ俺が悪いのさ」

 「でも、助けられたかもしれないじゃないか」

 「もしかしたら、はあったかもな。だけど、結末はこの通りだ。過去は変えられないんだ」

 「デダイト……」

 「ま、とりあえずビューリックは解放してくれたみたいだし、お前が強いことも分かった。満足だ」

 そこにユウリが歩いて来て、デダイトへと尋ねた。

 「あんたが満足したのはいいとして、こんなことをした理由は?」

 「……異世界人か。まったく、あんなのを使うとは汚いやつだぜ。……俺はメッセンジャーさ」

 <メッセンジャー?>

 「ああ。次の階はビューリックの国王が待ち受けている」

 「……!? まさか!? ……いや、あり得るか……下でエクセレティコの国王が復活していたんだ、あの男が生き帰っていても不思議じゃないねー……」

 「そういうことだ……神裂のやつはどうもお前達を試しているような感じがする……もちろん殺す気で俺達を寄越しているがな。何かさ、考えがあるんじゃ、ないか……」

 「デダイト!」

 「ここまで、か……久しぶりに話せて良かった……ぜ、気にするなよ? 元々死んでいた命だ……う、後ろを見てみろ」

 「!」

 エリックが振り返ると、今まで襲ってきていた村人がずらりと経っていた。ただし、今度は穏やかな顔をして。

 「僕は……」

 「あの時代は運が悪かったんだ……それはみんな分かっているさ……か、過去は変えら、れない……間違ったなら後でもいいから、正せば……いい……んだ……お前は、きちんとクーデターで、成し、遂げたんだ……よ……」

 「喋るな、きついんだろう」

 「いや、いい気分……だ――」

 フッと笑った後、パァっと光となり、デダイトと村人は消え去った。

 「過去は変えられない、か。父さんは何を思ってこんなことを……」

 <人々を犠牲にしたことを許して欲しい、とかではないか?>

 「……父さんがそんなタマかよ。ん、雨が止んだみたいだ」

 <行くか?>

 カームが立ちあがったエリックの背に声をかけると、エリックは無言で頷いた。



 ◆ ◇ ◆


 「まだ出てくるのか……! ん?」


 パァァァ……


 「村人が消えて行きます……!」

 カルエラートが村人の攻撃を受けながらぼやいていると、村人の体がスゥッと消えて行く。礼拝堂の前でエリック達が戻ってくるのを待ちながら戦っていたレイド達が拍子抜けしたように武器を降ろした。

 「どうしたんだ?」

 「エリック達が何かやってくれたんじゃないかしら?」

 レイドが呟き、セイラがパンと手を叩いて喜ぶと、礼拝堂からエクソリアが顔を覗かせて喋り始めた。

 『……終わったかい? 礼拝堂は特に怪しいところはなかったよ。ここは階段じゃなくて転移陣で移動するみたいだよ』

 『中は広いからエリックを待つなら中で休憩しましょう』

 「俺は外で待っておこう。みんなは中に入っていてくれ」
 
 レイドは剣を鞘におさめると、空を仰いで呟いた。それを尻目に礼拝堂へ入って行くカルエラートやセイラ達。そんな中、フレーレはエリック達の帰りを待つためレイドと共に残っていた。

 「戻ってきますかね……?」

 「カーム達も居るんだ、大丈夫だろう。……一時間経っても戻ってこない場合は、残念だが先へ進む」

 「はい……」

 しばらく立ち尽くしていると、フレーレが空を見上げて声を上げた。

 「あ! あれ! カームさんじゃありませんか!」

 「本当だ! おーい! こっちだ!」

 レイドが手を振りながら叫ぶと、カームが一直線に礼拝堂へ進路を変えて突っ込んできた。

 <終わったぞ>

 「ありがとう。ノゾムとユウリも、助かったよ。本来なら俺が行くべきところだったんだが……」

 「ふん、リーダーが率先して突っ込んで死んだらたまらないからな。これでいいんだ」
 
 悪態をつくユウリを見て、フレーレが悲鳴に近い声をあげる。

 「ちょっとユウリさん!? 何ですかこの傷だらけの腕!? 動かないでくださいよ……!」

 「う、分かったよ……」

 フレーレの剣幕に押され、渋々大人しく立っているとリザレクションがユウリの体を包み込み、血だらけ、傷だらけの腕や顔が治癒された。

 「これでよし! あんまり無茶はしないでくださいよ? いつでも回復出来る訳じゃないんですから……」

 「わ、分かったよ……」

 心底悲しそうな顔をしたフレーレに焦り、とりあえずの返事をすると、エリックがそろそろかと口を開く。

 「レイドさん、次の階について話がある。中へ入ろう?」

 「? そうだな。ここで立っていても仕方がないか」

 カームは小さくなり、礼拝堂へ入る一行。少しお茶を飲むなどの休憩を経て、エリックがみんなに告げる。

 「次の階は僕の故郷、ビューリックの国王が復活しているらしい。エクセレティコの国王の時と同じく強化されていると思うから、心して欲しいかなー」

 「あの王か……陰湿そうだったしな」

 「それに、へ、変態でしたし!」

 フレーレが思い出したくないと頭をぷるぷると振り、思い出さないようにしていた。

 「……何にせよ、聞く限り外道のようだ。遠慮をしないでよさそうだ」

 「うん。今度こそ、地獄へ送ってあげるよ」

 決意に満ちたエリックの目を見ながら、レイドは深く頷いた。前回の戦いではエリックに国王、ゴナティソにトドメを刺した。戦闘ができるような男ではなかったが、待ち受けているほどの自信があるので油断はできないと、考え込む。

 ――そして、一行は74階へと足を踏み入れた。

 
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