パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
312 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その333 どんな覚悟で

しおりを挟む
 「俺達も追うぞ!」

 『ダメだ、追手が居ない今がチャンスってのが分からないかい? エリックが作ってくれた隙だ、ここを逃す手は無い!』

 「ま、まだ来ますよ! 戦うんですか!?」

 フレーレがおろおろしながら叫ぶと、カルエラートがレイドの肩を掴んで言う。

 「レイド、ここはエクソリアの言うとおりだ。礼拝堂へ行くぞ! こういうことが有り得なくないことは分かっていたはずだ、私達のやることはなんだ?」

 「……分かったよ……行こう……!」

 <にゃ! 早く早く! 近づいてくるにゃ! あの目はやばいやつにゃ!>

 バステトが先行して待ち受けていた村人を転ばせながら手招きをする。口から泡を吹き、目が虚ろでどこを見ているかさえ分からない。

 「予想通りか、ならば前から来るやつらには応戦するぞ! 動きを止められればそれでいい」

 「分かりました! ……くっ、力が強い!?」

 「死ぬんじゃないわよ四人とも……生きていれば回復はできるんだから……」

 シルキーが後ろをチラリと見て走る。カームの姿が段々と小さくなっていくのが見えていた。



 ◆ ◇ ◆



 「僕はこっちだよー! ……少し向こうへ行っちゃったか、でもこれだけ引きつければ……!」

 エリックはレイド達と別れた後、一定の距離を取りつつ逃走を続けていた。村人だということで攻撃をためらっていたが、追ってくる村人は理性がない魔物のような目をしている。

 「(やはりアンデッド、か。これは僕がやらないとね)」

 雨の中アテもなく逃げ続けるエリック。数十分ほど走っていると、前方から村人の集団がが行く手を塞いできた。

 「ぐう……ううう……」

 「ぐるぅぅ……」

 「正気じゃないねー。胸糞悪いことをしてくれるよ、まったく」

 追いつめられたエリックは建物を背にすると――

 シャキン……

 剣を抜いた。

 直後、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 「おいおい、自国の民に剣を向けるとは、そっちこそ正気か?」

 抜いた剣を、声のする方向で構えると、追いついて来たデダイトがいた。斧を片手にエリックの前へと歩き出す。

 「君もアンデッド、なんだろう?」

 「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。逃げ出したお前はあの後、俺の生死を確認していないんだからな?」

 「ハッタリだね」

 「なんとでも言え」

 ゴロゴロゴロ……

 睨みあう中、雨音に加え、雷の音が響く。デダイトは一瞬息を吸ってから村人へ号令をかけた。

 「……ここまでだエリック。みんな、やれ!」

 グォァァァァ!

 デダイトが手をかざすと、村人が一斉に動き出す! この数相手ではエリックの腕がかなり立つとしても、無事では済まないであろうことが容易にわかる。

 「いいさ、僕一人の命でレイド達が先に進めるならねー。でも、ただじゃやられない……よ!」

 ザシュ! ガキン! ドッ!

 襲ってくる村人を切り伏せていくエリック。

 「ごめんよ、一度ならず二度までも……今度こそゆっくり眠っておくれ」

 「……」

 切り伏せられた村人を見て、集団が一瞬躊躇する。

 「何をしている! エリックに攻撃を仕掛け――」

 
 ダララララララララ!


 「ギャ!?」

 「グァァァァ!?」

 「ウガァァァァ……」

 「何だ!?」

 デダイトが号令をかけようとしたところで、銃撃の音と共に村人が次々と倒れていく! デダイトが慌てて家屋の影に隠れると、エリックが空を仰いで叫ぶ。

 「あれはカームさん!? それにユウリ君とノゾム君か!」

 
 「う、お、おおお!! カームさん、少し斜めに向いてくれ!」

 <承知!>

 ダラララ!

 ビシュビシュ!

 空からカームの背に乗り、ユウリが固定した機銃を乱射し、村人をなぎ倒していく。しかし、ワイヤーで無理矢理固定しているため、ユウリの腕や足にワイヤーが食い込み、手足に血が滲む。

 「……カームさん、低空飛行を頼む。ユウリの負担を軽くできる」

 <突っ込むか! はははは! いいぞ!>

 「うわ!? ちょっと角度がきついって!」

 ぐん! 
 
 カームが急速旋回し、村人の群れへと突っ込んでいく。地面ギリギリで平行になり、機銃が目の前の村人の肉を引き裂いていった。その光景を呆然と見ていたエリックが我に返り声を出す。

 「君達! 無理をしなくていい! ここは僕が――」

 だが、それを遮るようにユウリが機銃を乱射しながら叫ぶ。

 「囮になって死ぬつもりなら聞けないね! 何を迷っているのか分からないけど、こいつらはすでに死んだんだろ? 過去がどうであったかは悔やめばいいし、忘れる必要はない。けど、エリック、あんたは生きてる。父さんを倒して世界を救うっていう、前を見ないといけないんじゃないのかい! ……くそ、しつこいなこいつら」

 すると、今度はカームの背からノゾムが降り、ダガーを手にエリックの元へと走ってくる。

 「……ユウリの言うとおりだ。俺達も向こうの世界じゃ色々、それこそ人を殺したりもしたことがある。だが、楽しんで殺した訳じゃない……エリックさんも、好きで見捨てたわけじゃない。そうだろ?」

 「あ、ああ……」

 「待っている人も居るんだろ? 終わった人間のために、あんたまで死ぬことがあるか? フッ……! はあ!」

 近くに迫っていた村人をダガーで倒すのを見て、エリックは一瞬強張る。だが、次の瞬間――


 「ふ、ふふふ……」

 「ん?」

 「そうだ……そうだねー。君の言うとおりだ。僕は彼等に償いをしないといけない、そう思っていた。だけど違うんだね……僕はこの人達に謝って、そして進まないといけないんだ。デダイト! 聞こえているだろ! 恐らく正気を保っている君がこの村のキーだね? 出てきて僕と戦え」

 エリックがそう言うと、パチンという音と共にデダイトが家屋の陰から姿を現す。同時に、村人たちの動きが止まり、ぞろぞろとどこかへ去って行った。

 「覚悟が決まったようだな?」

 「……そうだね」

 「いいだろう。その覚悟、見せてもらうぞ……」

 チャキ……

 エリックが半身で剣を構え、デダイトが両手で斧を握る。間合いと武器の差を考えればエリックが有利。

 「懐かしいな。よくお前と模擬戦をしたものだ……」

 「そうだね。6-4で僕が勝ってたかな?」

 ジリ……

 「よく言うぜ! 6は俺だろうが!」

 ジリ……

 「そうだったかな? 君はしつこかったからね」

 「ハッ! 二人で騎士になって、この国を救うんだって意気込んでたっけな」

 ジリ……

 「……そうだったね。僕は、騎士になることができたよ」

 「ああ、見りゃわかる。お前はすぐに降参するからな、心配だったよ……」

 ジリ……

 「かもね。でも、今日は負けられない――」

 ザッ……!

 間合いに入り、先に攻撃を仕掛けるエリック。初撃を斧で受け流し、そのまま斧をエリックの肩へと振りかざした。

 「もらった……!」

 「甘い……!」

 ガッ! ガキン! ザン……!

 「なに!? は、弾かれた後、そのまま突っ込んで来るとは……!?」

 「君の攻撃は変わってないね……僕の初撃を待って弾くのは君の癖だ」

 エリックは雨の中、涙を流しながら答える。デダイトと手合せをするため、考案していた動きだった。

 「強くなったな……うぐ……」

 ドサリと、優しい目をしたデダイトが地面に倒れるのだった。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。