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最終部:タワー・オブ・バベル
その331 遺恨か禍根か
しおりを挟む「くそ……まだ追ってくるか……!」
「この村、広いですけど階段が見つからないといずれ捕まりますよ!」
「分かっている! 一旦身を隠してやりすごそう、エクソリア結界を頼めるか? 夜まで待ってみよう」
『今回は私がやるわ。あの大きな建物なら全員いけそうよ』
村人が襲ってきた瞬間、レイド達がとった行動は退却だった。魔物やノゾム達のように武装して来る相手であれば反撃もやむなしだが、どうみても鍬や鋤を持ったただの村人相手に攻撃をするのは憚られたのだ。
「全員入ったか?」
ヴァイゼが最後に駆け込み、皆に尋ねるとカルエラートが頷きながら答えた。直後、建物の外では怒号と足跡が響いていた。
「……危なかった……全員いると思います」
と、思っていたがフレーレがきょろきょろと見渡してから声を上げた。
「カイムさんが居ませんよ!?」
「あいつは気配を消して外の様子を見ているから大丈夫だ。相手がただの村人なら、ニンジャのカイムを捉えることはできないだろうしね」
「な、なるほど……あ、危なくないですかね……」
「きっと大丈夫ですよ! ほら、ここ煙突もあるしここから戻ってきてくれますって!」
ユウリの説明に安堵しつつも困惑するフレーレ。それをアイリが励ましていた。レイドは少し口元を緩ませつつ、未だ青い顔をしたままのエリックへと問いかけた。
「村についてはさっき聞いたからいいが、あのデダイトという男は何者だ? どうしてお前を目の仇にしている?」
「……彼は……デダイトは、僕とライノスの友人だった男だよー。僕は元々、中流くらいの家柄だったんだけど、それほど厳しく育てられていなかった。そして僕の両親はこの『町の中にある歪な村』を何とかしたいと国王に進言していた」
エリックが語ったのは、視察で両親が村を訪れる際に、小さい頃のエリックも一緒に着いて行っていたのだそうだ。そこで同じ歳頃のライノスやエレナといった子供達と仲良くなった。
そして、その内の一人が――
「……デダイト、というわけか。でも友人なら話せば分かるんじゃないのか?」
ノゾムが壁に背を預けながら口を開くと、エリックは首を振って答える。
「それは……難しいねー……僕は彼を見捨てたようなものだからね」
<どういうことだにゃ?>
「うん。あれは僕達が14、5歳くらいの頃だったかな? このくらいになると一人で村へ行って遊んでいたんだけど、ある時、デダイトがふと町へ出てみたいと言い出したんだ。村には外へ出ることができる出口と、監視がある町への出口があってね。村の住人は外へ出るのは問題なかったけど、町へ行くのは許可が必要だったんだ」
「今どきそんなことが……」
「ニールセン君の国はどうか分からないけど、ビューリックは少し前までそんなことが現実にあったんだよー? で、僕が監視の注意を逸らしている内に、デダイトが町へ出た。ライノスと妹のエレナは怖がって町の外へ行くことは無かった」
エリックは深呼吸してから、言葉を続ける。
「……町へ戻った僕は、待っているはずのデダイトが居ないことに気付いた。道に迷ったのか、待ち合わせの場所を間違えたか……僕は探し歩いたけど見つけることはできなかった」
「そ、それでどうなったんですか!?」
「まあまあ、落ち着いてよアイリさん……で良かったっけ? 結局その日は見つけることができず、翌日になってからデダイトがとんでもないことをしでかしていたことを知ることになった」
「とんでもないこと?」
「うん。町を巡回している騎士を奇襲して剣を奪い、国王を殺しに城へ向かっていた。当然そんなことが出来る訳もなく、すぐに捕まったんだ」
後は分かるだろ? と肩を竦めてエリックは自嘲気味に口を開く。
「……広場で、国王を狙った賊として見せしめに殺されたよ。その時、見に行っていた僕は彼と目が合い……逃げた。僕は彼を見捨てたんだ。そしてその後すぐに、村の一部が焼き払われた……」
そこまで言うとエリックは黙り、俯いてしまう。しばらく沈黙した後、ユウリが口を開いた。
「でも、エリックを先に騙したのは向こうじゃないか? 死ぬかもしれない。その覚悟があって国王を狙ったと思うんだけど違うのかねえ?」
「どうだろうねー……当時は若かったし、ショックであまり考えたことも無いよ。ついでに言うと、焼き払い事件の後、僕の両親がそのことについて言及して二人とも殺されたんだ。憔悴なんて言葉じゃ片づけられないくらい、まいってたよ」
ははは、と力なく笑うエリックに、レイドが口をへの字に曲げてエリックへと言う。
「……それであのクーデターか?」
「ご名答さー。両親もそうだけど、デダイトや焼き払われた村人の無念を……いや、違うな。僕がみんなに許されたいがために起こしたんだよー」
「そうだったんですか……ルーナを誘拐した時はどうかと思いましたけど、必死だったんですね」
「ま、それでも悪いことだと自覚しているよ。さて、告白したら少し気が楽になったねー……それじゃ、この先の話をしようか。彼の標的は僕だ、村人も恐らくデダイトに先導されているならそうだと思う。だから、僕が囮になろう」
<……それではすぐに捕まってしまうぞ? 俺が着いて行くぞ>
空を飛べるカームなら、追いつめられても何とかなると言うが、エリックはそれをやんわりと断った。
「いや、僕一人でいい。幻か、偽物か分からないけど、これは僕が向かい合うべきところさー。皆は先へ進んでくれ。僕がいつまで経っても来なかったら――そうだね、エレナにごめんと伝えてくれるかな?」
「エリック、お前……」
レイドが声をかけようとするが、エリックはそれを遮るように早口で捲し立てた。
「ま、逃げ切れたらもちろん逃げるよー? 死にたくないからねー! だから夜まで待ってから行動するよ? さ、とりあえず夜まで何をして暇をつぶすー? あ、体力は使わない方がいいかなー? さっさとカイムが階段を見つけてくれるといいねー」
極めて明るく声をあげるエリックに、他の皆は困惑した顔で夜までの時間を過ごした――
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