310 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その331 遺恨か禍根か
しおりを挟む「くそ……まだ追ってくるか……!」
「この村、広いですけど階段が見つからないといずれ捕まりますよ!」
「分かっている! 一旦身を隠してやりすごそう、エクソリア結界を頼めるか? 夜まで待ってみよう」
『今回は私がやるわ。あの大きな建物なら全員いけそうよ』
村人が襲ってきた瞬間、レイド達がとった行動は退却だった。魔物やノゾム達のように武装して来る相手であれば反撃もやむなしだが、どうみても鍬や鋤を持ったただの村人相手に攻撃をするのは憚られたのだ。
「全員入ったか?」
ヴァイゼが最後に駆け込み、皆に尋ねるとカルエラートが頷きながら答えた。直後、建物の外では怒号と足跡が響いていた。
「……危なかった……全員いると思います」
と、思っていたがフレーレがきょろきょろと見渡してから声を上げた。
「カイムさんが居ませんよ!?」
「あいつは気配を消して外の様子を見ているから大丈夫だ。相手がただの村人なら、ニンジャのカイムを捉えることはできないだろうしね」
「な、なるほど……あ、危なくないですかね……」
「きっと大丈夫ですよ! ほら、ここ煙突もあるしここから戻ってきてくれますって!」
ユウリの説明に安堵しつつも困惑するフレーレ。それをアイリが励ましていた。レイドは少し口元を緩ませつつ、未だ青い顔をしたままのエリックへと問いかけた。
「村についてはさっき聞いたからいいが、あのデダイトという男は何者だ? どうしてお前を目の仇にしている?」
「……彼は……デダイトは、僕とライノスの友人だった男だよー。僕は元々、中流くらいの家柄だったんだけど、それほど厳しく育てられていなかった。そして僕の両親はこの『町の中にある歪な村』を何とかしたいと国王に進言していた」
エリックが語ったのは、視察で両親が村を訪れる際に、小さい頃のエリックも一緒に着いて行っていたのだそうだ。そこで同じ歳頃のライノスやエレナといった子供達と仲良くなった。
そして、その内の一人が――
「……デダイト、というわけか。でも友人なら話せば分かるんじゃないのか?」
ノゾムが壁に背を預けながら口を開くと、エリックは首を振って答える。
「それは……難しいねー……僕は彼を見捨てたようなものだからね」
<どういうことだにゃ?>
「うん。あれは僕達が14、5歳くらいの頃だったかな? このくらいになると一人で村へ行って遊んでいたんだけど、ある時、デダイトがふと町へ出てみたいと言い出したんだ。村には外へ出ることができる出口と、監視がある町への出口があってね。村の住人は外へ出るのは問題なかったけど、町へ行くのは許可が必要だったんだ」
「今どきそんなことが……」
「ニールセン君の国はどうか分からないけど、ビューリックは少し前までそんなことが現実にあったんだよー? で、僕が監視の注意を逸らしている内に、デダイトが町へ出た。ライノスと妹のエレナは怖がって町の外へ行くことは無かった」
エリックは深呼吸してから、言葉を続ける。
「……町へ戻った僕は、待っているはずのデダイトが居ないことに気付いた。道に迷ったのか、待ち合わせの場所を間違えたか……僕は探し歩いたけど見つけることはできなかった」
「そ、それでどうなったんですか!?」
「まあまあ、落ち着いてよアイリさん……で良かったっけ? 結局その日は見つけることができず、翌日になってからデダイトがとんでもないことをしでかしていたことを知ることになった」
「とんでもないこと?」
「うん。町を巡回している騎士を奇襲して剣を奪い、国王を殺しに城へ向かっていた。当然そんなことが出来る訳もなく、すぐに捕まったんだ」
後は分かるだろ? と肩を竦めてエリックは自嘲気味に口を開く。
「……広場で、国王を狙った賊として見せしめに殺されたよ。その時、見に行っていた僕は彼と目が合い……逃げた。僕は彼を見捨てたんだ。そしてその後すぐに、村の一部が焼き払われた……」
そこまで言うとエリックは黙り、俯いてしまう。しばらく沈黙した後、ユウリが口を開いた。
「でも、エリックを先に騙したのは向こうじゃないか? 死ぬかもしれない。その覚悟があって国王を狙ったと思うんだけど違うのかねえ?」
「どうだろうねー……当時は若かったし、ショックであまり考えたことも無いよ。ついでに言うと、焼き払い事件の後、僕の両親がそのことについて言及して二人とも殺されたんだ。憔悴なんて言葉じゃ片づけられないくらい、まいってたよ」
ははは、と力なく笑うエリックに、レイドが口をへの字に曲げてエリックへと言う。
「……それであのクーデターか?」
「ご名答さー。両親もそうだけど、デダイトや焼き払われた村人の無念を……いや、違うな。僕がみんなに許されたいがために起こしたんだよー」
「そうだったんですか……ルーナを誘拐した時はどうかと思いましたけど、必死だったんですね」
「ま、それでも悪いことだと自覚しているよ。さて、告白したら少し気が楽になったねー……それじゃ、この先の話をしようか。彼の標的は僕だ、村人も恐らくデダイトに先導されているならそうだと思う。だから、僕が囮になろう」
<……それではすぐに捕まってしまうぞ? 俺が着いて行くぞ>
空を飛べるカームなら、追いつめられても何とかなると言うが、エリックはそれをやんわりと断った。
「いや、僕一人でいい。幻か、偽物か分からないけど、これは僕が向かい合うべきところさー。皆は先へ進んでくれ。僕がいつまで経っても来なかったら――そうだね、エレナにごめんと伝えてくれるかな?」
「エリック、お前……」
レイドが声をかけようとするが、エリックはそれを遮るように早口で捲し立てた。
「ま、逃げ切れたらもちろん逃げるよー? 死にたくないからねー! だから夜まで待ってから行動するよ? さ、とりあえず夜まで何をして暇をつぶすー? あ、体力は使わない方がいいかなー? さっさとカイムが階段を見つけてくれるといいねー」
極めて明るく声をあげるエリックに、他の皆は困惑した顔で夜までの時間を過ごした――
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。