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最終部:タワー・オブ・バベル
その329 女神の装備品
しおりを挟む――私達がお風呂から上がり、家に戻ろうとしたところで、ミトが慌てて走ってくるのが見えた。話を聞くと――
「ルーナお姉ちゃん、大変! 幽霊! 幽霊が出たよ! 拠点に知らない人がいるなあって思って近づいたらすり抜けたの!」
うん、間違いなくヘスペイトさんだ。
「あー、そういえば皆に紹介していなかったっけ。幽霊っぽいけど、ちゃんと話せるのよ。ちなみにレイドさんのお父さんで、鍛冶師なんだって」
「早速、私の武具を鍛えてもらうつもりでありますよ!」
私が微笑みながらミトの頭を撫で、ウェンディガ豪快に笑うと、ミトは驚いた顔で叫びだす。
「え!? レイドさんのお父さん!? わ、わたし、クレリックの人に成仏させてもらうようにお願いしちゃった!」
「え!? ミ、ミト、案内して!」
「うん!」
いや、すでに亡くなっているからいつかはそうなってしまうんだろうけど……あ、涙が出てきた……それは今じゃない。
ミトに連れられ、慌てて現場へと向かう私達。
すぐに到着すると、ヘスペイトさんが三人のクレリックに囲まれていて、クレリック達は呪文を唱えている最中だった。声をかけようとする前に魔法が発動。あ、マズイ! そう思ったけど――
「ぬう!? ディスペルが効かん!?」
クレリックの一人が驚愕していると、ヘスペイトさんが申し訳なさそうに頭をかいた。ヘスペイトさんは魔法を受けたにも関わらずどこ吹く風だ。
「ああ、これは申し訳ない。俺は未練があってまだ成仏できないんだ。だからそういうのはちょっと……」
「『そういうのはちょっと』ってなんだよ!? 強制的に消し去る魔法だぞ!? ええい、もう一度……!」
私はもう一度ディスペルをかけようとしたクレリックへ大声で叫んだ。
「すいませーん!! その人、私の知り合いなんです! だから大丈夫ですよー!」
「は? ……ああ、ルーナ様! お知り合い、ですか? 幽霊と?」
私の声に振り向いたクレリックが、複雑な表情で私を見る。
「ええ、レイドさんのお父様なんです。ここで帰りを待つためにお待ちいただいているんですよ。すいません、伝え忘れていて」
ぺこりと頭を下げると、クレリック達は「それならいいんだ、私達からみなに伝言をしておくよ」と、その場を後にした。
(しかし幽霊と知り合いとはなあ……)
(まあ、勇者に魔王……喋る獣に異世界人だ、もう何が起こっても驚かないぜ俺は)
(だな、分かるわ)
「……」
変人ご一行様みたいな言い方は止めて欲しい……いやいや、そんなことよりヘスペイトさんだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとうルーナさん」
「ご、ごめんなさい! わたしが幽霊がいるって教えちゃったの……」
「はは、いいよいいよ。別に間違っていないからね。俺はこの辺りでひっそりとしているから、もし用があったらいつでも来てくれ」
「レイドさんの家でもいいんですけど……」
「テント暮らしが性にあっていてね。あ、そうだ、用事といえば俺がルーナさんにあったんだ」
「え?」
テントに戻ろうとしたヘスペイトさんが思い出したとまた這い出てくる。
「昼間に持っていた装備でいくつか気になるのがあってね。見せてもらえないかと思っていたんだ。剣に腕輪、それと盾と鎧だね」
それって……チェイシャ達守護獣の女神装備……鍛冶師だけになにか感じる所があるのだろうか? 明日は盾に何か力がないか確かめる予定だったし、丁度いいかもしれない。
「分かりました! じゃあ明日ここに持ってきますね」
「よろしく頼むよ。鍛冶場はまだできないだろうしね」
ははは、と、ヘスペイトさんが笑うと、ウェンディが肩を落としていた。
「そうでありました……鍛冶場が無いと鍛えてもらえないのであります……」
「まあ焦らなくていいじゃない。腕を磨きましょ」
イリスが苦笑しながらポンポンと肩を叩き慰めていた。
そして翌日。
私は女神装備を持って、ヘスペイトさんのところへと出向いていた。
「おはようございますー」
「ガウー」
「わんわん!」
「きゅん!」「きゅふん!」
狼達も私にならい挨拶をすると、テントからヘスペイトさんが顔出してにっこりと笑う。
「おはよう、いやあ眠くならないから時間を潰すのが大変でね……寝ようとしてもすぐ起きちゃうし……お腹が空かないのはいいんだけどね」
「結構、幽霊も大変なんですね……」
「まあ、俺なんかは長いから慣れてくると面白いけど――さて、それじゃ早速で悪いけど見せてもらえるかな?」
適当に丸太を切った椅子に腰かけ、ヘスペイトさんが装備を要求する。私はヘスペイトさんの足元に一つずつ並べていった。
「……腕輪と盾、それと指輪はものすごい圧を感じる。剣とサークレット、それと鎧は全然だな。この剣とか、確かに強いがこれくらいなら俺でも作れる」
目を細めて愛の剣の刀身を見ながら独り言のように呟く。腕輪と盾、指輪……
「さっき圧を感じるって言ってた装備は、それを司っていた守護獣が消滅している装備ですね」
「ふうん、ならこっちの剣と鎧、サークレットの守護獣とやらはまだ?」
「ええ、今は塔に行っています。でも、剣の守護獣……リリーは冥界の門に入ったから死んでいると思うんですけど……」
私が伏し目がちに言うと、ヘスペイトさんが口を開いた。
「この装備がどういった作られ方をしているのか分からないけど、恐らくその守護獣が消えることで力を解放するタイプの魔法装備みたいだ。まあ仮説だけど、剣が大したことないのは、リリーという守護獣がまだ消えていないってことなんじゃないかな」
「まさか……でも運はいいって言ってたっけ?」
あの空虚な門の中でパパとママを探しているのだろうか……? でも人化の法を使ったら時間で消滅するんじゃなかった? あ、でも全力を出していなかったらすぐに消えないんだ。もしリリーが生きているなら三人とも無事で帰ってきて欲しい。
「とりあえず解放されていない装備は置いといて……こっちの解放されたものから視様」
「? 何か分かるんですか?」
「どうかな。俺の分かる範囲でならもしかしたら……内側に刻印? 一つだけ削れている文字があるな……ルーナさん、ちょっとこの刻印に魔力を入れてくれないか?」
「どれですか? あ、本当だ。うーん……こう、かな?」
エクソリアさん達は何も言っていなかったよね、この刻印。もしかして切り札だったりする!? やっぱり止めとこう!
「ヘスペイトさん! やっぱり作成者のエクソリアさんが戻ってきてから――」
私は叫ぶが、そんな私をあざ笑うかのように腕輪は光り輝き始めた! あちゃーやっちゃったパターンかしら!?
やがて光がおさまると、シルバとシロップが腕輪を見て吠えだした。
「わんわん♪」
「きゅきゅーん♪」
「どうしたの? 腕輪が光ったのが嬉しいの?」
しゃがんで二匹を撫でると、どこからか声が聞こえてきた。
<ほほう……まさかこんなことになるとは、主も目を回しそうじゃな。……そして久しぶりじゃ、ルーナ>
「え!? チェイシャ!?」
そう言えば私の偽物に魔弾を撃った時にも聞こえたけど、あれって幻聴じゃなかったんだ。
そんなことを考えていると、腕輪チェイシャが話始めた――
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