パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その325 続く悪夢

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 「はぁ……はぁ……な、なんだいあの化け物はー」

 「シルキーさん、何か知ってそうですけど……はぁはぁ……」

 「チッ、追いつかれるか……!」

 エリックとフレーレ、ユウリがたまに振り返りながら通路を走る。少し後ろにシルキーと最後尾にカルエラートが追うように走っていた。


 ――ここはエクセレティコ城に模した城内。

 庭園で竜人グラオベンに襲われた後、戦闘に入った。だが、隻眼ベアと同じくグラオベンは驚異の強さで、竜の鱗へのダメージはそれほど与えられておらず、さらにファウダーと同じ氷のブレスは範囲が広く、庭園では不利だと城内へと逃げ込んだのだった。


 「くっ……図体がでかい割に素早いな。もう追いついて来たか」

 ビュオォォォ……

 グラオベンがニヤリと笑い、冷気の渦が最後尾でガードしているカルエラートへ襲いかかる。あっという間に盾や鎧に霜が降りはじめ、セイラが得意の氷魔法で切り返しを図った。

 「カルエラートさん! ≪ブリザーストーム≫!」

 「助かるセイラ。しかし、こうも的確に追いついて来られたら休む暇もない! ここで倒すぞ」

 【さて、それができるかな? む? 数が足りないようだが……】

 「しっかりした口調……この国王は一体何なの……? ……!」

 シルキーがカルエラートを治療しながら呟くと、グラオベンの背後から、無言でレイドとニールセンが斬りかかる!
 一旦姿が見えなくなった瞬間、二手に分かれていたのだ。狙いは背中にある翼で、必ず飛んで追いかけて来るのを見ていたカルエラートの案を採用した。

 「たあ!」

 「翼までは硬くあるまい!」

 ズバ! ズシュ!

 【ぐお!? やりおったな! アイスナックル】

 「ぐ!?」

 「冷える……!?」

 それぞれ鎧にダメージを受け、一部が凍るり、バックステップで一旦下がる。しかし、翼を斬った効果は大きく、二人の戦意が失われることはなかった。そこでレイドの声が廊下に響く。

 「ノゾム! アイリ!」
 
 「いい位置だ」

 「狙うはこめかみ! 行け!」

 窓の外にはアイリを背負ってワイヤーにぶら下がるノゾムが居た。そしてノゾムの背中からスコープを除くアイリが引き金を引く!

 ターン!

 ビッ……!

 【ぬぐ!? こしゃく! 私をここに引き入れたのは罠だったか!】

 「浅い!? ライフル弾がめり込まないなんて!?」

 「構わない! このまま押し切るぞ!」

 レイド、ニールセン、カルエラートの三人が一斉に斬りかかる。一方は壁。ここなら逃げられることはない、一気に切り伏せるつもりだった。だが、グラオベンはノゾム達の方へ駆け出した!

 【ジャァァァァ!】

 「む! いかん!」

 「ちょっと兄さん!?」

 グラオベンが窓に向かってブレスを吐くと、危機を察知したノゾムが振り子のように動き、隣の窓からグラオベンと入れ違いに城内へ戻り、難を逃れる。アイリは咄嗟の動きについてこれずずり落ちかけた。

 「逃げるのか!」

 【フフフ、まだ鬼ごっこは終わりではないぞ? 翼が再生したらすぐに追いつく。楽しみにしていろ】

 そう言ってグラオベンは庭園の茂みに姿を消した。

 「くそ……! 見た目より知恵が回るやつだ……一体何なんだあいつは」

 レイドが毒づくと、シルキーがレイドに近づいて話しかけた。

 「あの魔物はさっき少し話した魔物にされた国王よ……あの時確かに死んだはずなのに……」
 
 「あれがエクセレティコの国王なんだー。結構ファンキーな感じだよねー」

 「馬鹿にしてるの!」

 「いーや、ウチの元・国王も中々おかしな人だったからねー。ヴィオーラの国王も神裂の味方についたし、みんなおかしいのかなって思ってさー」

 シルキーの激昂に、エリックは冷静に返す。だが、エリックの後ろにスゥっと影が現れた。

 「……蒼希の君主はおかしくありませんよ」

 「うわあ!? びっくりしたー!? なんだい、カイム君かー。まあ、そうなんだけどね。サンドクラッドとアクアステップもまともだと思うよー。ただ、少し歯車がずれていたらどこも危なかった……そんな気はするね」

 「ゲルスと神裂の足跡が、たまたまビューリックとエクセレティコだったからな。もしビューリックで逃がしていたら次はどこかで暗躍していたハズだ」

 「こっちの世界の事情はよく分からないけど、敵味方がはっきりしている分、地球よりマシかな。で、何かわかったのかい?

 レイドが分析をし、ユウリがカイムに声をかける。この場に居ないエクソリア、アルモニア、カイム、ヴァイゼ、バステト、カームはさらに分かれて城内を探索していたのだ。追われなかった方が探索、追われた方が対策という感じである。


 「ああ、城内の通路には魔物がいないが、部屋には稀に魔物が棲みついていることがあった。城に見えるけど、ここはあくまでも塔の中。一つのダンジョンと見ていいだろうな。ちなみに横に広いだけだから、階段があったらそれは73階へ続くもので間違いないだろう。レイドさん、向こうのパーティと合流しましょう」

 カイムの言葉に頷き、レイド達は一旦ヴァイゼのパーティと合流をすることにした。ほどなくして合流を果たした一行はシルキーから魔物の情報を得るため部屋を一つ確保。アルモニアの結界で、何とか一息つくことができた。

 「エクセレティコの国王か。しかし倒したのだろう?」

 ヴァイゼが腕を組んでシルキーへ尋ねると、椅子に座っていたシルキーが口を開いた。

 「はい。間違いなく、それは息子であるニコラス王子も知っていますし、埋葬も立ち会いました。だから本物ではないと思います」

 「……まるでファンタジーだな」

 「いや、ファンタジーの世界だからね、兄さん? ちょっと黙っててね?」

 アイリがノゾムを会話の輪から外していると、フレーレが手を上げて喋りはじめた。

 「あの、さっきの隻眼ベアもそうですけど、ここはそういう場所なのかも……もう確かめる術はありませんが、隻眼ベアはわたしの記憶を。あの魔物はシルキーさんの記憶から現れたんじゃないかなって思います。元より強いのはよく分かりませんが……」

 フレーレの言葉に、エクソリアが顎に手を当てて仮説に対して考えていた。

 『ふむ、下の階にあった鏡の通路……あれに近いものだとしたら……いや、あれは元の姿があったからこそ……ならフレーレの言うことが正しいか?』

 「エクソリア、考えても仕方がない。出て来たら倒す。それでいいな?」

 レイドが部屋をウロウロするエクソリアに脳筋な言葉を言うが、実際対策する段階はとうに過ぎていた。それはエクソリアも分かっているようで、レイドの言葉に同意していた。

 『まあね。ただ、増殖される恐れを考えると面倒だから、ボクは観察させてもらうよ』

 「分かった。それじゃ戦ったことのあるシルキーに質問だ。あいつに弱点はあったか?」

 「……弱点……そういえば、アントンが持っていた剣……ドラゴンスレイヤーはかなり効果があったわ。心臓にそれが突き立てられてとどめになったし」

 シルキーが言うと、レイドは口をへの字にして目を細める。

 「アントンか……今どこに居るか分からんし、そこは無理だな。でも煌黒龍を倒したことがあるディストラクションは通用するかもしれん。脳天も貫通すれば倒せるかもしれん。とりあえず通常の人間と同じ弱点を狙って攻撃、これでいこう」

 「……そうだな、ノゾム、足止めは頼むぞ」

 ヴァイゼがそう言うと、隅っこで体育座りをしていたノゾムがシャキッと復活した。

 「任せてくれ。手足の一本は貰うつもりで今度はかかろう」

 「現金なんだから……」

 <それじゃ私は攪乱するにゃ。虎は傷ついてからが本物なのにゃ!>

 お前は怪我をしていないだろ、と誰もが心の中でツッコんだところで、それは起きた。

 
 ……ゴォォォ!
 
 【まだそれほど進んでいないはずだが姿が見えんな……結界か? 小癪。どこだ?】

 グラオベンが追いつき、ブレスを吐きながら城内を飛んでいた。幸い結界でレイド達の居る部屋を通り過ぎた。

 「行ったか……? よし、部屋から出たら階段を探すことを優先するぞ。もし遭遇したら一気に叩く」

 全員が頷くのを確認し、レイド達は部屋を出た――
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