パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
303 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その324 やってきた男

しおりを挟む


 「これで終わりよ! ≪連魔弾≫!」

 ドドドド! と、私の手から魔力の塊がウェンディに襲いかかる。長剣でそれを弾きながら向かってくるウェンディだったが、数時間前と比べて使いこなせるようになったチェイシャの魔弾はディレイをかけて撃ちだすことができるようになっていた。

 「ぬおおお! 後少し……きゃあ!?」

 「おーウェンディが可愛い声を出したねー」

 近くの岩に座っていたイリスが尻餅をついたウェンディに向かってにやにや笑いながら言う。私はウェンディを助け起こしながらウェンディに告げる。

 「力は強いけど、接近されなかったらそこまで脅威じゃないのよね」

 「腕力馬鹿だと言いたいのでありますか!?」

 「そこまでは言わないけど……世の中にはずる賢い人間も多いから、直線的な攻撃以外も使えるようになったほうがいいわよ?」

 「うーむ……確かに……で、ではもう一本!」

 ウェンディが剣を構えて私に言うが、流石にそろそろお腹もすいてきたし、お昼ご飯の用意も必要だろう。

 「今日はこれくらいにして拠点に帰りましょ? レイドさん達、大丈夫かなぁ……」

 「よっし! カルエラート様が居ないけど、食事は楽しみだよね~♪」

 イリスも岩から立ち上がり、私達に並んだ。その瞬間、木陰から人の気配と、声が聞こえてきた。

 「ガルルルル……」

 「うぉん!」

 レジナとシルバが威嚇すると、ガサガサと慌てて人が出てきた。


 「驚かせてしまって申し訳ない、今『レイド』と言いましたかねお嬢さん」

 金髪で目の細い、無精ひげを生やして大きなリュックを背負ったおじさんが片手を上げながら姿を現す。さて、なんと答えるか――


 「……ええ、言いましたけど。あなたは誰です? 見た感じ商人さんのようですけど、魔物がいるこんなところに何の用ですか? それにレイドさんのことを知っているのはどうして?」

 「ははは、手厳しい! けど、俺みたいに怪しい人物を警戒するのは正しいね、うん」

 うんうん、と、満足そうに頷く謎の人。この笑い方はどこかで見たことがあるような……? そう思っていると、ウェンディが私に耳打ちをしてくる。

 「(どうするでありますか? 倒すでありますか?)」

 「(や、そこまでする必要はないと思うけど……)」

 と、ひそひそ話していると、謎の人が口を開き、その内容に私は驚愕する。

 「ああ、自己紹介がまだだったね。俺の名前はヘスペイト。どうしてレイドのことを知っているか……それは俺がレイドとセイラの父親だからだよ」

 「ちち……おや……? えー!?」

 まさか、そんな……

 「な、亡くなったって聞いてますけど?」

 「ああ、うん。そうだよ」

 あっさり言ってくるヘスペイトさんに私達はガクッと膝を崩す。

 「信じられるわけないじゃないですか。証拠はあるんですか?」

 「そう言われると立つ瀬も無いけど、あまり時間もないし、これでどうかな?」

 「……!?」

 笑いながらヘスペイトさんが近くの木にぶつかる! ……ということは無かった。なぜなら木をすり抜けたからである……

 「どうだい? いわゆるゴーストってやつだね。母さんは聖女だったから精霊になったんだけど、俺は普通の恩恵しかなかったからね」

 「あ、あわわ……ゆ、ゆうれい……!」

 イリスが腰を抜かして目を回していた。どうもこの子はアンデッドの類に弱いらしい。

 「そうでしたか……それじゃあ拠点に案内しますよ。レイドさんとセイラもその内帰ってくると思いますし。≪ストレングスアップ≫っと……」

 私が補助魔法を使い、イリスを背負っているとヘスペイトさんが呟いた。

 「……以外と肝が据わっているね?」

 「そうですか? ウチのお父さんも魔王でスケルトンですから特に気にならないだけですよ!」

 「なるほど。同じ父親同士、是非お会いしたいね」

 「それもおかしいであります……」

 ウェンディが疲れた顔で歩き出した。


 ◆ ◇ ◆


 <拠点:お昼>


 「みなさーん! 今日のお昼は生姜焼きですよ! これで元気をつけてくださいね!」

 夜はチェーリカに任せることにして、昼は私が作った。まずは好物から入るのが無難だろう。カルエラートさんほど料理は上手くないからね。

 「おお、美味しいな」

 「うん、カルエラートさんのも美味しかったけど、たまには違った味付けもいいな」

 うんうん、概ね好評のようで何よりだ。

 ……まあ、100人単位の食事だからかなり時間はかかったけどね……

 それはともかく、広場に残してきたウェンディとイリス、それとヘスペイトさんの元へ生姜焼き定食を持って戻ると――


 「わおん?」

 「きゅきゅん」

 「きゅふん?」

 「……わふ……」

 「ははは、困惑しているね」

 シルバ達がヘスペイトさんの体にじゃれようとして体を近づけるが、ふわっとすり抜けてしまい、何度も体当たりをしたり、シロップがちょんちょんとヘスペイトさんの体を触ろうとしていた。とてもかわいい。

 二人の前にごはんを置きながら、ヘスペイトさんへと尋ねる。ちなみにイリスはヘスペイトさんと一番遠い所へ座っている。

 「それで、どうしたんですか? 確かセイラの中にお母さんがいるとか言ってましたけど、会いに?」

 「近いかな? とはいえ、本当は成仏するつもりだったんだけど、どうも世界の危機ってやつみたいだし、レイドは勇者だから行くだろうな……と思ってここまで」

 「死んでるのに無理しましたね……」

 「……そうだね……君の父上も相当だと思うけど……それで、レイドには俺の作った剣を一振り渡してるんだけど、もう少し強化できそうだから、最後の仕事をしにきたんだ。今は塔の中かい?」

 「ええ、いつもの調子なら三日、四日くらいで転移陣のあるボスを倒しているから、ちょっと待たないといけませんけど」

 私がそう言うと、ヘスペイトさんは顎に手を当て、考え始める。それを生姜焼きを食べながら見ていると、やがて口を開いた。

 「帰って来るなら待ってみるか……鍛冶場はここにあるかい? 帰ってきたらすぐ試せるようにしたいんだけど……」

 「うーん、鍛冶場は流石にないですね。ブラウンさんに相談してみましょうか」

 私は昼食後、もはやシーフの面影がないブラウンさんを訪ねると、二つ返事で了承してくれた。明日にはできるとか言ってたけど……

 ともあれ、まさかの来訪者を迎えた私は、みんなが帰ってくるのを待つ。

 「ふふ、帰ってきたら驚くだろうね、レイドさんとセイラ」

 「わんわん♪」

 「きゅきゅん♪」

 「きゅふーん!」

 シルバ達ものんびりと私と拠点の中を散歩する。

 ヘスペイトさんが父親ということもあり、パパ達のことを少し思い出して胸が痛む。怒りで心がざわつくことは無かったけど、きっと神裂を見たら飛び掛かるに違いない。

 「次は一緒に行かないとね」

 ベッドに寝転がり、目を瞑ると心地よい睡魔に襲われる。みんなの無事を祈りながら眠りについた。



 ――しかし、レイドさん達はこの時、まさかの苦戦を強いられていた。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。