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最終部:タワー・オブ・バベル
その323 負を生みだすということ
しおりを挟む<バベルの塔:71から72階へ続く階段>
――隻眼ベアはフレーレの希望で階段付近に埋葬された。あの時聞こえていたジャンナの声はもう聞こえてこなかった。今はみんな無事だったことを喜ぼうと、一行は72階を目指していた。
「隻眼ベアのアンデッドとは驚いたな……」
「そうですね。隻眼ベアを倒した後、お肉はお鍋にして食べましたし、素材はルーナの装備に生まれ変わったはずだからアンデッドとして蘇ることはできないはずなんですけど……」
フレーレは埋葬前に剥ぎ取った隻眼ベアの爪を見ながら呟く。怖い思いをしたが、ここまでくると何かの縁があるように思え、お守り代わりにと持ってきていた。そしてそこにシルキーが会話に混ざる。
「ただのアンデッドならそうだけど、ここは何があってもおかしくないんじゃない? だいたい、どうしてエクセレティコにある森が塔の中にあるのよ?」
「シルキーの言いたいことは分かる。トリスメギストスは神裂に反乱を起こしたからあいつの手は伸びなかったが、ここは神裂のテリトリーのはず。妙な仕掛けは十分考えられる」
「父さん、完全に悪役だね」
「……まあ、性格は悪いから仕方ない」
「や、優しいところもあるわよ!?」
「あいつ、子供を実験台にしてたらしいから、言いたくはないが極悪人だぞ……神裂」
「え……!? と、父さんが……まさか……」
ヴァイゼの言葉に、ユウリ達が肩を竦めながらそんなことを話しあっていた。「神裂が子供を実験台」とレイドが言った後は大人しくなっていた。
そのまま早足で階段を上り、72階の扉へ到着する。
「カイム、どうだ?」
「……問題なさそうです。開けますよ?」
全員が頷き、カイムが重い扉を開ける。そしてレイド達の目に飛び込んできた光景はまたしても驚愕するものであった。
「ここ……どこ?」
「どこかの庭みたいですね、危ないですから私の後ろに」
セイラが前へ出てキレイに手入れされた花を見て呟き、ニールセンが随伴する。少し歩いたところで、辺りを眺めていたシルキーが誰にともなく呟いた。
「ここって、エクセレティコのお城の庭だわ」
「え? そうなんですか?」
フレーレが聞き返すと、カルエラートも頷いて口を開く。
「言われてみればそうだな。私もディクライン達とヴァイゼを倒しに行ったあと、エフィクセレティコの国王に討伐報告をしたことがある。確かにこんな感じの庭だった」
「森の次は城の庭か。一体どういうつもりだ、神裂は? どうも城に向かう以外道も無さそうだ」
「みたいですね。寄り道ができそうなところがありません」
ヴァイゼの言葉にカイムが茂みや花壇を調べながら進んでいく。
一本道を歩くだけで、視界も開けているため奇襲はされないだろうと、城の門に到着する少し前で一行は休憩することにした。
「それにしてもキレイな庭ですね。平和になったらこういうところでピクニックでもしたいです」
まだ隻眼ベアと戦いの疲れが抜けていない顔をしているフレーレが、冷たいお茶を飲みながら少しだけ微笑む。
「あーいいわね……私はみんなで海とか興味あるわ」
セイラも元気づけようと話を合わせるが、シルキーがそわそわしていることに気付く。エリックが首を傾げてシルキーに訪ねた。
「どうしたんだいシルキーさんー? お手洗いなら僕がついていくけどー?」
「アホか貴様は! ……大丈夫か? お手洗いなら私がついていくが……」
「ち、違いますよ!? お手洗いじゃありません! えっとですね、この庭……あまりいい思い出が無いから、ちょっと気持ちがね? クラウスがいたら多分同じことを言うと思うの」
シルキーが目を泳がせると、バステトがとてとてとシルキーの前に来て言う。
<何かあったのかにゃ? このバステトに話すといいにゃ。話すだけでも気が楽になるにゃ>
「猫が気を利かせるなんて……」
<バスは虎だにゃ! カルエラートは放っておいて、ささ、早く>
何故か正座をして聞く態勢になるバステト。シルキーは、ほう、と息を吐いて口を開く。
「……ここは以前、魔物にされた国王と戦った場所と同じなの。ゲルスという男に操られていたみたいだけど、結局倒すしかなかったの。回復は国王に遮られてそのまま亡くなられたわ……」
「シルキーさんにもそんなことがあったんですね……」
フレーレもゲルス・神裂に回復魔法を封じられたことがあるので気持ちがわかると呟いていた。そこでエリックが口を開く。
「それでニコラス王子が継いだのかー。僕達の国もルーナちゃんやレイドさん達に国王が倒されて、王が変わったからねー偶然ってあるもんなんだねー」
「ええ……そう、ね……!?」
シルキーがエリックに振り返ると、エリックの後ろに、あの時戦った、竜人と化した国王……グラオベンが立っていた……!
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:100階>
『おっと、もう遭遇しちまったか。さっきの熊公といい、早いねえ。ちょっと想像をかきたてる景色にすればすぐだな。あのフレーレとかいう嬢ちゃんも、エフィクセレティコの森と熊公には嫌な思いをしていたみてぇだしな。しかし、ルーナが居ないのは誤算だった。なあ?』
と、声をかけるが、トリスメギストスが倒れた今、この100階には神裂しか残っていない。
『……ふん、寂しいもんだな神様ってのも。まあいい、俺の選んだ道だしな。……さて、あのフロアは不安や思い出を具現化するというタチの悪いギミックだ。恐らくあいつらには解けまい。よしんば解けたとして、対策できるとは思えないほどの山場だ。人数が多ければ多いほど、旅をしていればいるほどな。少しでも負のイメージを思い浮かべたらそれは全てその身に降りかかる……魔王のルーナが居ればかなりの負を生めると思ったんだが、まあ、元とはいえ魔王ヴァイゼと、ビューリックの坊ちゃんもいるし、楽しめそうだな。あいつらも相当苦労しているはずだし』
神裂はお茶菓子とコーヒーを持ってモニターの前に座りなおすと、もう一度呟いた。
『ま、それでもあいつらは突破するだろうな。ヴィオーラの国王様にゃ悪いが、俺の計画の踏み台になってくれや……』
ゲルスの身を奪っていた時代から進めていた計画を遂行するため、神裂は一人、モニターに映る三人の義理の子達を見つめるのだった。
『(俺は……)』
そしてそのころ、拠点に残されたルーナは――
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