パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その322 恐怖の隻眼ベア、再び

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 なぜここに死んだはずの隻眼ベアがいるのか? それを考える余裕もなく、隻眼ベアは襲いかかってくる!

 「こっちに来た……! 頭を狙えば!」

 ユウリとアイリのところへ駆け出してきた隻眼ベア。アイリは熊なら威力の高いライフルで、とスコープ越しに隻眼ベアを見据え、眉間を狙ってトリガーを引いた。

 チュイン!

 「げ!? 弾丸をはじいた!?」

 ユウリが驚いたのも無理はない。射速のあるライフルの弾をなんと隻眼ベアは片手でハエを振り払うかのごとく弾いたのだ。

 そのままカバーに入ったニールセンとカイムを蹴散らし、突き進む隻眼ベア。 

 「ぐあ……!? 止められないだと……!?」

 グォォォォン!

 「きゃあ!? こ、こっちにくる……な、何とかしないと……聖魔光で……!」

 咆哮を上げ、視線の先にはフレーレがいた。メイスを構えて応戦する態勢になってはいるものの、腰が引けてしまっている。それを見たユウリがナイフを手に隻眼ベアへ攻撃を仕掛けた。

 「こいつ、狙いはフレーレか! させるか!」

 ガキン! 硬い毛に阻まれてナイフが通らない。

 「硬すぎるぞこいつ……フレーレ逃げろ! うわ!?」

 隻眼ベアに振り払われ地面を転がるユウリ。その前に、大盾をかまえたカルエラートが隻眼ベアを止める。グググ……と、競り合いになったが、ずるずると押されているのはカルエラートだった。

 「逃げるんだフレーレ。狙われているのが明確なら、手の打ちようはある……ぐっ」

 グルォォォ!

 さらにパワーをあげて押し切ろうとする隻眼ベア。そこへフレーレが横へ回り込み、輝くメイスを振り降ろす。

 「で! これで、と、止めて見せます!」

 ドグン! 鈍い音が隻眼ベアの頭に直撃する!

 ぐるん!

 だが、隻眼ベアは標的を見つけたとばかりに、フレーレへと顔を向けた。

 「え!? 効いていないんですか!? あう!?」

 ぐるりとフレーレの方を向いた隻眼ベアは、剛腕でフレーレを攻撃。咄嗟に飛びのくが、左肩を掠めてローブが引き裂かれた。

 「う、うう……」

 だらりと左腕を下げて、呻くフレーレ。掠ったことにより、肩が外れてしまったのだ。

 「シールドバッシュだ!」

 グオ!

 追撃をしようとした隻眼ベアを、カルエラートのシールドバッシュが阻みバランスを崩す。その隙をレイドは逃さなかった。

 「うおお!」

 「援護するわお兄ちゃん! ≪ブリザーストーム≫!」

 ピキピキ……足元から氷が根のように張り、背中をレイドが斬りつける。セイクリッドセイバーなら、と思ったが――

 ガキィィン……

 「通らない!? 馬鹿な、前はディストラクションで背中を貫いたのに……!」

 「ならこれならどうだ『煉獄剣』」

 ヴァイゼの必殺技が、弾かれたレイドのすぐ後に放たれた! すると、この攻撃に対して隻眼ベアは呻き声をあげた。

 グォゥォォゥ……!

 そしてめちゃくちゃに腕を振り回し、近づいていたヴァイゼの頭部へ腕が振られる。

 「……チッ、避けきれんか……!」

 「せい!」

 シュルル……

 グォ!?

 ノゾムのワイヤーで振り降ろされる腕を力任せに引き、ヴァイゼの頭部は難を逃れた。チャンスとばかりにもう一撃、煉獄剣を放つと、ブスブスと焦げた匂いが立ち込めた。足元の氷をかち割り、ノゾムを力任せにぶん投げた!

 「……ぐあ……」

 エクソリアの近くの木にぶつかったノゾムを見ながら、エクソリアは声をあげる。

 『……なるほど、分かったぞ……! その隻眼ベアはアンデッドだ! 硬い毛が強化されているからただの攻撃だと歯が立たないぞ!』

 「そうか、ヴァイゼさんの煉獄剣は炎を纏っている。だから効いたのか。くそ、セイクリッドなんて名前がついてるんだから、この剣も何かないのか!」

 ガキン! キン!

 ガォォォォォン!

 「くっ……盾が……闇の剣ならどうだ!」

 ザシュ! カルエラートの剣が少しだけ弱い腹の部分を傷つけることができた。

 「これもいける! 私とヴァイゼで足止めをする! 誰か属性魔法が使えないか!」

 「炎系は苦手なんだけど……≪フレイムストライク≫!」

 セイラのフレイムストライクがベアの顔面にヒットし、爆発が起こる。少し怯むが、尚もフレーレへ行こうとする足を止めない。

 「どうしてフレーレちゃんばかりを狙うんだこいつは。あの時、とどめを刺したのはルーナで、それを実行する手助けをしたのは俺だぞ」

 カルエラート、ヴァイゼ、ノゾムが何とか食い止めているが、全体的にダメージが大きくなってきていた。それをシルキーが魔法で治療しながらフレーレに聞く。

 「あの時、アルファの町にこの隻眼ベアが来たとき、私が大怪我をしたフレーレを治療したことがあったけど、あの傷ってどうやってついたの? しばらく消えなかったあの傷」

 そう言われて、ハッと気づくフレーレ。

 「そういえば、最後にルーナを庇って、隻眼ベアにやられたんでした。その時、血を舐めていたような……もしかしてわたしが餌ですか!?」

 グルォオォォン!!!!!!

 フレーレが叫ぶと、そうだと言わんばかりに咆哮を上げる。

 「なら、フレーレさんを逃がせば……!」

 「どこにだよ! この森、魔物だらけなんだぞ! こいつを倒すしかないんだ!」

 アイリとユウリが叫ぶのを聞いていたフレーレが胸中で考える。

 「(どうすればいいんでしょうか……あの傷、やっぱり恨み傷だったんですね……そういえば傷が消えたのって……)」

 と、ふと考えていた時、隻眼ベアがカルエラートの大盾をひしゃぎ、包囲を抜け出した。

 「フレーレさん!」

 「え? あ!?」

 ゴガァァァァ!

 一瞬考え込んでいたフレーレの前に隻眼ベアが迫り、爪を頭に突き立てようと腕を上げる。その時、カイムが駆け寄り、フレーレを抱きしめながらその場を離れようとした。

 「ぐ……!」

 「痛っ……」

 カイムは肩をバッサリと攻撃され、爪の形通りに血が滲み、さらに返す爪でフレーレの頬に傷をつけていた。そしてその血が、フレーレの胸元に下げていたクロスに飛び散ると急に輝きだした。

 「え!? これって!? ……いけない! ≪シャインウォール≫」

 ガキン! あわや、というところでフレーレの防御魔法が発動し、隻眼ベアが弾かれる。その後ろからセイラとニールセンが飛び出した。

 「フレーレ! ≪フレイムストライク≫!」

 「私も行きます! おおおお!」

 再びフレイムストライクを受けて顔の肉がでろりと剥げて、顔半分は骨が見えてくる。そこへニールセンが攻撃をするも、構いなしにフレーレへと攻撃をする隻眼ベア。

 「さっきのは何だったんでしょう……」

 <(ぴー。何やってるのよフレーレ! あんた、フォルサと学院でアンデッドドラゴンを消し飛ばしたのを忘れたの?>

 「その声……ジャンナさん!? ど、どこに……きゃ!?」

 ガンガンと隻眼ベアが涎を垂らしながら光の壁を叩きまくる。

 <どこでもいいわよ! ほら、早く倒してトラウマを克服しちゃいなさいな>

 「は、はい! そうでした、わたしはフォルサさんの教えを忘れていました……!」

 メイスを捨て、隻眼ベアへ片手を突きだすフレーレ。

 「隻眼ベアさん……まさかこんなところで再び会うとは思いませんでした。元はと言えば、わたし達があなたを攻撃したせいなんですよね……あなたに倒されるならそれもいいかと思います。ですがわたしにはまだやることがあるんです。だから……安らかに眠ってください……!」

 パリン! 光の壁を自ら打消すフレーレ。

 「フレーレ! 何を……!?」

 焦るユウリ。だがフレーレは手を突きだしたまま、隻眼ベアの懐へ潜りこみ、お腹へピタリと当てる。

 「二度も倒してしまうわたし達を許してとはいいません。ですが、今はこれで! ≪リザレクション≫!」

 キュボ!

 「回復魔法それでどうする―― え、嘘……!?」

 シルキーが驚愕の声をあげる。だが、本当なら柔らかい光が包み込むはずのリザレクションが、隻眼ベア相手に青白い光を撒き散らした!

 グゴ……!? グォォォォ……!

 「……さようなら……次に産まれ変わる時は、幸せな生き方ができますように……」

 苦しみ、のた打ち回る隻眼ベアを寂しげな目で見つめるフレーレ。

 しばらくすると、隻眼ベアは塵となって消えるのだった――
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