パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その321 次の階段の前に……

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 <バベルの塔:71階 深淵の森内部>

 

 「はあ……はあ……追ってきていないか?」

 「ええ……それにしても魔物の数が多すぎます……敵も本気だということでしょうか?」

 息を切らせて木にもたれかかるレイドと、後方を気にしながらレイドに話しかけるカイム。71階に到達してからすでに8時間以上経過していたが、まだ72階への階段を見つけることができていなかった。
 
 さらに、魔物が多すぎて前へ進むのも困難な状況もあり、焦りと疲労で一行の消耗はすでに限界に近いような状態でもある。

 『力が減るのは遺憾だけど、休憩をしようか。僕が気配をシャットアウトする結界を張るよ』

 『じゃあ次の休憩は私が張るわね』

 限界を感じ取ったエクソリアは、魔物の追撃が無くなった今がチャンスとレイド達を休ませるため結界を張る。そのことに安堵し、へたり込んだフレーレがレイドへと尋ねていた。

 
 「……深淵の森……わたしは入ったことがありませんけど、レイドさんは入ったことがありますか?」

 「ああ、ルーナ達と出会う前。それこそ腐っていた時期に自暴自棄になって入っていたことがあったよ」

 「そうなんですね。この森、確かに魔物が強力だと聞いたことがありますけど……」

 するとアルファの町を拠点にしていたシルキーが興味を持って話しかけてきた。レイドは頷き、話を続ける。

 「魔物か……確かに深淵の森の魔物は特殊だったな。北の森とも違う生態系があった。でも一番恐ろしいのは森そのものにあるんだ。目印をつけておかないと、一度迷ったらどこに居るのか分からなくなる……あ!」

 食事の用意を始めたセイラが叫ぶレイドを注意する。

 「ちょっとお兄ちゃん、あまり大きい声を出さないでよ? 魔物が寄ってくるかもしれないじゃない」

 「い、いや、すまん。ちょっと思い当たるというか、もしこの森が深淵の森を模しているなら迷路と変わらない。俺達が階段を見つけられないのも迷っているからなのかも……」

 「え、それじゃあ私達はここから出られないんですか!?」

 シルキーが絶望的な声をあげて叫ぶが、レイドはそれを否定する。

 「いや、深淵の森はちゃんと歩けば逆側に出ることは可能なんだ。行き先は――」

 と、レイドが言う前にエリックが口を挟んできた。

 「ビューリックだねー。僕たちの国では『帰らずの森』って呼ばれているよー。シーフなんかは近道にいいとかで使っているらしいから、カイム君なら集中すれば出口がわかるんじゃないー?」

 「頑張ってみます」

 カイムが返事をすると、剣を磨いていたヴァイゼが口を開いた。

 「ともかく階段だ。下の階からすると、どういう形で備え付けられているか分からないからな、魔物がいない間はしっかりチェックするぞ」

 そこで、カームとバステトが閃いたと、提案を始める。

 <空からも探してみるか。ノゾムのワイヤーを俺にくくりつけていれば見失うこともあるまい>

 <なら背中にわたしが乗っていくにゃ。二人なら早いと思うのにゃ>

 「……多分大丈夫だ」

 「ならノゾムは私が守ろう。正直、戦闘以外では役に立てないのが悔しいな」

 カルエラートがそう言うと、みんなが手元の料理を見て『食事があるのに』と、胸中で呟いていた。


 ――それから食事を終えたレイド達は数時間の仮眠を取り、再び行動を開始する。皆の足が軽く見えるのは結界のおかげでゆっくり休むことができたからである。
 ちなみにその間、結界の周りを魔物が何度も通り過ぎているがまったく気づかれなかったので、エクソリアの結界はかなりのものだった。



 「せい! ……しかし、こう魔物が多いと歩みが遅くなるねー。よくこんなのをこの短期間で登って来たよねー」

 魔物を倒してぼやくエリックに、フレーレが困惑気味に口を開いた。

 「今まではこんなに苦労はしなかったんです。今回だけがおかしいみたいな……」

 「そうよね。危ない目には合うけど、なんやかんやで無事だったことが多かったし、魔物も少し競り合うくらいだったわよ」

 セイラも便乗して会話に乗ると、エクソリアが呟く。

 『……何度か口にしたと思うけど、リリーの影響だよ。彼女は他の守護獣と違って人化の法を使わない限り戦闘能力は皆無だけど、代わりに『幸運』は不幸や危険を減らすことができたんだ。鏡のフロアでリリーが居なかったら何人か偽物と入れ替わってもおかしくなかったと言えばどれほどのものか分かるだろ?』

 「……なるほど、偽物がギャグっぽかったのも……」

 『そういうことだ』

 「偽物……そんなのも居たのか」

 カルエラートがノゾムの横でポツリと言うと、カイムが右手の木の間を見て声をあげた。

 「みなさん! あそこに!」

 「お! やったなカイム! 木の階段だ!」

 木々の間に広い場所があり、石の階段が目に入ったレイドが声をあげると、他のみんなも歓喜や安堵していた。

 広場に足を踏み入れながら、ノゾムがワイヤーを引っ張りカームを呼んだ。

 「カームさん! 見つけたぞ!」

 <む、そうか! 今そちらに向かう>

 <流石はニンジャだにゃー>

 二人が降下してくるのを見ながら、レイドやヴァイゼ、ニールセンが草を斬り払い、足場を確保しつつ進む。すると突然、横から岩の塊のようなものが飛び出し、レイドを襲う!

 グギャァァァァ!!

 「うお!? ……! こいつは……!」

 「レイドさん! ……ああ!? ま、まさか……そんな……」

 剣でガードしつつも、後ろに下がらせられたレイド。そして吹き飛ばした相手を見たフレーレが後ずさりをした。

 「こいつはデッドリーベアかい? 片目が潰れているようだけど……」

 グルルルル……

 「う……!」

 「どうしたんだいフレーレ? あいつがどうかしたのか?」

 「あいつってもしかして……!?」

 エリックが呟くと、フレーレがユウリの後ろへと逃げる。ここにいるメンバーで『隻眼ベア』を知っている者はレイドとフレーレとシルキーのみ。シルキーは隻眼ベアを直視していなかったので、恐らくという感じで叫んだ。
 なので、その他は経緯を知らないためフレーレが怯える理由がわからなかったのだ。

 「気をつけろみんな! こいつは隻眼ベアと言って、以前アルファの町を恐怖に陥れたとても賢い魔物だ。どうしてこいつがここにいるかのかわからんが……下の階のように恐らく偽物だろう」

 レイドが剣を構えると、ゆっくりと隻眼ベアが立ち上がる。そこでフレーレが震えながら口を開いた。

 「お、大きい……!? あの時よりも全然……!」

 グォォォォォン!

 「くっ、相変わらずの咆哮だな! だが相手は一頭だ、なんとでもなるはず!」

 隻眼ベアとの戦いが始まった!
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