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最終部:タワー・オブ・バベル
その307 動機とドキドキ
しおりを挟むビシッ!
リリーの指した先へ銃弾を撃ち込むと、壁でもなんでもない空間に裂け目ができ、ガラスの破片のようなものがパラパラと落ちていた。
<もう一発いくっぴょん!>
「はい!」
アイリは再度、裂け目へと銃を撃つが、それをニールセンさん(偽)が立ちふさがり銃弾をモロに受けた。
「くっく……目の付け所は良かったが、そうはさせん」
<お前の相手は俺だ!>
カームさんが空中から襲いかかるが、ニールセンさん(偽)は避けもせず、カームさんの攻撃を受けながらカームさんに反撃をしかけていた。
<ぬぐあ!?>
「今だ!」
カィン!
「はっはっは、甘いな。そら、もっとだもっと撃ってこい!」
銃の威力は生半可なものでは無いので、鎧は徐々に壊れ、血も出ている。だが、笑顔を絶やさず、裂け目に撃ちこむ弾丸を体に受けていた。
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……」
「はっはっは! そこな娘! いいぞ! もっとだ!」
ニールセンさん(偽)がそう言うと、私と戦っていたセイラ(偽)が苛立たしげに叫ぶ。
「チッ、他の女に目移りしないでくれる? あんたはアタシのモンなんだけど!」
「そ、そういうわけじゃ……あひん!?」
私の前から移動してニールセンさん(偽)のお尻を引っぱたくセイラ(偽)。
「……
『本物』の二人はぼんやり好きあってたりするのかな? って感じだったけど、裏は堂々としたもんだ。というかやっぱりそうなんだなと思ってつい頬が緩んでしまう。
「何笑ってんだテメエ! ≪フレイムストライク≫!」
「おっと……! いやいや、口は悪いけどその人のこと好きなんだなぁって」
<これもまた愛だっぴょん>
「あ……!? テメエらそこを動くな!」
「今です!」
顔を真っ赤にしたセイラ(偽)が杖をめちゃくちゃに振り回しながら襲いかかってきた!? しかし、その隙にアイリの銃弾がひび割れた空間に吸い込まれるように消え……
チャリィィィン!
粉々に砕け散った!
「しまった!?」
「馬鹿! まんまと乗せられたのよ! くそ、邪魔をするな……!」
ママ(偽)が忌々しげに見るのは、ワイヤーで腕を絡め取っているノゾムだった。彼のおかげでセイラ(偽)に集中できたのは大きかった。
<やったっぴょん!>
「やったわね! 作戦通り」
「ぐぬぬ……」
作戦なんかまったくなかったのだが、そう言っておいた方が悔しそうだったのでとりあえずリリーとハイタッチしておく。すると案の定セイラ(偽)が激高しはじめた。
「お前がしっかりしないから! あんなおっさんくらいすぐ倒せよな!」
「ぐふ!? やはりお前のが一番イイ……!」
とばっちりを受けたニールセンさんが気持ち悪い顔で蹴られたり殴られたりしていると、裂け目があった付近から気配と視線を感じ、私はそっちへと目を向ける。
「あ!?」
「なに……あれ? 私?」
「隣にいるのは……私ですね……」
絶望の表情に彩られたセイラとニールセンさんだった。それはそうだろう、自分と同じ顔をした人物がとんでもない醜態を晒していたらこなるのも無理はない。
「あ? チッ、オリジナルが出てきちまった。いや、これはこれで……ほうらニールセン! 足を舐めるのよ! きゃはは!」
「ははー! 聖女様!」
「いやああああああ! 止めなさい!」
「聖女様、お供します!」
なにやら考えがあるのか、偽物が本物に見せつけるように羞恥プレイを始め、セイラとニールセンさんが突撃を開始した。
「……ちょっとドキドキするわね」
「ありゃ俺の偽物か? おい、レイド頑張れ。それに勝てなきゃルーナはやれんぞ!」
「あ、パパとママ! それにフレーレ達も! 無事だったのね!」
「オリジナルか。一旦集まるぞ!」
鏡の中に入れられていた皆が戻ってきた! すると、セイラとニールセンさんの偽物以外が一か所へ集まった。
「さて、向こうは勝手にやらせておくとして、お前達はここで倒すぞ」
パパが剣を構えてそう言う。まんま同じ顔なので、混ざったら見分けがつかないわね……するとパパ(偽)も剣を構えて呟く。
「こうなったら総力戦だな。……俺達はここで終わりかもしれんが、愛しているぞアイディール!」
「ええ、私もよディクライン」
何と偽物同士が愛の言葉を語らっていた!? 驚いたのはパパとママで、大声を上げて叫んでいた。
「んな!? 人の顔で何言ってるんだお前ぇ!!」
「羨ましいわね……!」
「え!?」
ママがぼそりと呟くと、パパ(偽)が、ママ(偽)にキスをしながらこちらに向かって言う。
「俺達ぁ、お前等の『抑圧された心』から産まれているんだよ。だから欲望には素直に従っているってところだな」
それを聞いて私はつい声を上げてセイラ達の方を見る。
「何ですって! じゃあ、ニールセンさんは相当抑圧されているのね……」
「……それにはノーコメントだ。個体差があるから俺にもわからねぇよ」
と、無責任発言をするあたりやっぱりパパの偽物なんだなと思っていると後ろから声がかかった。
「うーん……あれはちょっと違うと思うよ……セイラはどうか分からないけど」
パパ(偽)と戦っていたレイドさんも合流し、そんなことを言う。あ、本物のセイラが偽物の二ールセンさんを杖で殴った! ……やっぱり気持ち悪い。
「まあ、そういうことよホンモノさん♪ ……で、あなた達を倒せば私達が本物になる……だから、死んで頂戴? ≪ケイオスフレア≫!」
「……! そっちがその気なら!」
ゾクリとする声を出し、属性の上級魔法を使ってくるママ(偽)それを合図に全員が攻撃を仕掛けた!
「上級魔法までしっかり使ってくるなんて、やるわね」
「ママも使えるの? いつもマジックアローばっかりだけど」
「魔力自体は多くないから節約しているのよ。でも私の偽物なら自分で倒すべきかしらね? ≪フォーリングディストリビューション≫!!」
ボジュウ!
偽物の放つ魔法に対し、水属性の魔法で反撃をするママ。魔法がぶつかり水蒸気があがる! そこでフレーレがマジックアローを使いながら声をあげた。
「流石アイディールさんです! 水蒸気だけに期待(気体)ができそうですね!」
ガクッとこける私。それを聞いてユウリが言った。
「アホなこと言ってないで片付けるぞ! 僕達やここにいない偽物も出てくる可能性がある! うおっと!?」
ユウリに攻撃を仕掛けるパパ(偽)。そこへパパがフォローに入った。
「へっ、ホンモノの勇者様のお出ましか。俺を倒すことが出来るかな?」
「倒すさ。ま、お前の言うことも肝に銘じておくぜ。最近確かにアイディールとイチャコラしてないからな!」
ガキン! 剣を叩きつけると偽物が笑いながらそれを受けた。どちらも何となく楽しそうに見える。
「オッケーだ! 死んで影として生きろ!」
65階、最後の戦いが始まった!
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