上 下
286 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その307 動機とドキドキ

しおりを挟む
 

 ビシッ!


 リリーの指した先へ銃弾を撃ち込むと、壁でもなんでもない空間に裂け目ができ、ガラスの破片のようなものがパラパラと落ちていた。

 <もう一発いくっぴょん!>

 「はい!」

 アイリは再度、裂け目へと銃を撃つが、それをニールセンさん(偽)が立ちふさがり銃弾をモロに受けた。

 「くっく……目の付け所は良かったが、そうはさせん」

 <お前の相手は俺だ!>

 カームさんが空中から襲いかかるが、ニールセンさん(偽)は避けもせず、カームさんの攻撃を受けながらカームさんに反撃をしかけていた。

 <ぬぐあ!?>

 「今だ!」

 カィン!


 「はっはっは、甘いな。そら、もっとだもっと撃ってこい!」

 銃の威力は生半可なものでは無いので、鎧は徐々に壊れ、血も出ている。だが、笑顔を絶やさず、裂け目に撃ちこむ弾丸を体に受けていた。

 「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……」

 「はっはっは! そこな娘! いいぞ! もっとだ!」

 ニールセンさん(偽)がそう言うと、私と戦っていたセイラ(偽)が苛立たしげに叫ぶ。

 「チッ、他の女に目移りしないでくれる? あんたはアタシのモンなんだけど!」

 「そ、そういうわけじゃ……あひん!?」

 私の前から移動してニールセンさん(偽)のお尻を引っぱたくセイラ(偽)。

 「……

  
 『本物』の二人はぼんやり好きあってたりするのかな? って感じだったけど、裏は堂々としたもんだ。というかやっぱりそうなんだなと思ってつい頬が緩んでしまう。

 「何笑ってんだテメエ! ≪フレイムストライク≫!」

 「おっと……! いやいや、口は悪いけどその人のこと好きなんだなぁって」

 <これもまた愛だっぴょん>

 「あ……!? テメエらそこを動くな!」

 「今です!」

 顔を真っ赤にしたセイラ(偽)が杖をめちゃくちゃに振り回しながら襲いかかってきた!? しかし、その隙にアイリの銃弾がひび割れた空間に吸い込まれるように消え……

 チャリィィィン!

 粉々に砕け散った!

 「しまった!?」

 「馬鹿! まんまと乗せられたのよ! くそ、邪魔をするな……!」

 ママ(偽)が忌々しげに見るのは、ワイヤーで腕を絡め取っているノゾムだった。彼のおかげでセイラ(偽)に集中できたのは大きかった。

 <やったっぴょん!>

 「やったわね! 作戦通り」

 「ぐぬぬ……」

 作戦なんかまったくなかったのだが、そう言っておいた方が悔しそうだったのでとりあえずリリーとハイタッチしておく。すると案の定セイラ(偽)が激高しはじめた。

 「お前がしっかりしないから! あんなおっさんくらいすぐ倒せよな!」

 「ぐふ!? やはりお前のが一番イイ……!」

 とばっちりを受けたニールセンさんが気持ち悪い顔で蹴られたり殴られたりしていると、裂け目があった付近から気配と視線を感じ、私はそっちへと目を向ける。

 「あ!?」

 
 「なに……あれ? 私?」

 「隣にいるのは……私ですね……」

 絶望の表情に彩られたセイラとニールセンさんだった。それはそうだろう、自分と同じ顔をした人物がとんでもない醜態を晒していたらこなるのも無理はない。

 「あ? チッ、オリジナルが出てきちまった。いや、これはこれで……ほうらニールセン! 足を舐めるのよ! きゃはは!」

 「ははー! 聖女様!」

 
 「いやああああああ! 止めなさい!」

 「聖女様、お供します!」

 なにやら考えがあるのか、偽物が本物に見せつけるように羞恥プレイを始め、セイラとニールセンさんが突撃を開始した。

 「……ちょっとドキドキするわね」

 「ありゃ俺の偽物か? おい、レイド頑張れ。それに勝てなきゃルーナはやれんぞ!」
 
 「あ、パパとママ! それにフレーレ達も! 無事だったのね!」

 「オリジナルか。一旦集まるぞ!」

 鏡の中に入れられていた皆が戻ってきた! すると、セイラとニールセンさんの偽物以外が一か所へ集まった。

 「さて、向こうは勝手にやらせておくとして、お前達はここで倒すぞ」

 パパが剣を構えてそう言う。まんま同じ顔なので、混ざったら見分けがつかないわね……するとパパ(偽)も剣を構えて呟く。

 「こうなったら総力戦だな。……俺達はここで終わりかもしれんが、愛しているぞアイディール!」

 「ええ、私もよディクライン」

 何と偽物同士が愛の言葉を語らっていた!? 驚いたのはパパとママで、大声を上げて叫んでいた。

 「んな!? 人の顔で何言ってるんだお前ぇ!!」

 「羨ましいわね……!」

 「え!?」

 ママがぼそりと呟くと、パパ(偽)が、ママ(偽)にキスをしながらこちらに向かって言う。

 「俺達ぁ、お前等の『抑圧された心』から産まれているんだよ。だから欲望には素直に従っているってところだな」

 それを聞いて私はつい声を上げてセイラ達の方を見る。

 「何ですって! じゃあ、ニールセンさんは相当抑圧されているのね……」

 「……それにはノーコメントだ。個体差があるから俺にもわからねぇよ」

 と、無責任発言をするあたりやっぱりパパの偽物なんだなと思っていると後ろから声がかかった。

 「うーん……あれはちょっと違うと思うよ……セイラはどうか分からないけど」

 パパ(偽)と戦っていたレイドさんも合流し、そんなことを言う。あ、本物のセイラが偽物の二ールセンさんを杖で殴った! ……やっぱり気持ち悪い。

 「まあ、そういうことよホンモノさん♪ ……で、あなた達を倒せば私達が本物になる……だから、死んで頂戴? ≪ケイオスフレア≫!」

 「……! そっちがその気なら!」

 ゾクリとする声を出し、属性の上級魔法を使ってくるママ(偽)それを合図に全員が攻撃を仕掛けた! 

 「上級魔法までしっかり使ってくるなんて、やるわね」

 「ママも使えるの? いつもマジックアローばっかりだけど」

 「魔力自体は多くないから節約しているのよ。でも私の偽物なら自分で倒すべきかしらね? ≪フォーリングディストリビューション≫!!」
  
 ボジュウ!

 偽物の放つ魔法に対し、水属性の魔法で反撃をするママ。魔法がぶつかり水蒸気があがる! そこでフレーレがマジックアローを使いながら声をあげた。

 「流石アイディールさんです! 水蒸気だけに期待(気体)ができそうですね!」

 ガクッとこける私。それを聞いてユウリが言った。

 「アホなこと言ってないで片付けるぞ! 僕達やここにいない偽物も出てくる可能性がある! うおっと!?」

 ユウリに攻撃を仕掛けるパパ(偽)。そこへパパがフォローに入った。

 「へっ、ホンモノの勇者様のお出ましか。俺を倒すことが出来るかな?」

 「倒すさ。ま、お前の言うことも肝に銘じておくぜ。最近確かにアイディールとイチャコラしてないからな!」

 ガキン! 剣を叩きつけると偽物が笑いながらそれを受けた。どちらも何となく楽しそうに見える。

 「オッケーだ! 死んで影として生きろ!」

 65階、最後の戦いが始まった!
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。