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最終部:タワー・オブ・バベル
その300 本格的な折り返し地点へ
しおりを挟む「そうか、二人は逝ってしまったか……」
お風呂から上がると、いそいそと広場で朝食の準備をしてくれていたカルエラートさんに出会い、ことの顛末を告げると、表情を曇らせながら呟く。重い雰囲気の中で、アイリがぺこりとおじぎをしてからカルエラートさんへ自己紹介を始めた。
「あ、あの、私、愛理って言います! その、ドラゴンさんと鳥さんには、申し訳ないことを……責任をもってお父さんを説得してみます!」
「フフ、あまり気負わなくてもいい。私も体調が治ったから次は一緒に行くことにするから、その時はよろしくな」
「は、はい! (ルーナさん、カルエラートさんって女性だけどかっこいい人ね)」
愛理が耳打ちしてくるのに対して何と答えていいやら、私は苦笑するしかなかった。確かにかっこいいけど、意外と可愛いところも多いんだよね。家庭的だし。
「よう、ルーナ達も起きていたか! ……さっぱりしているな、風呂か?」
「あ、パパ! そうそう、お風呂に行ってきたの。疲れを取るならやっぱりお風呂よね。本当はレジナ達も洗ってあげたかったんだけど、まだ寝てたから」
「ま、あいつらは勝手に入るだろうさ。それより、どうだアイリ、ゆっくり眠れたか?」
急に話をふられてびっくりするアイリが、慌てて口を開いた。
「あ、はい! おかげさまで! いいんでしょうか、私達は敵だったのに……」
するとフレーレがアイリの肩を叩いて笑顔で言う。
「今更ですよ! ご飯も食べましたし、お風呂も入ったじゃないですか、もう仲間ですよ」
それに私ものっかって言う。
「ま、色々あったけど、ここにいる人の中にも敵だった人がいるしね。だから、普段通りにして欲しいかな?」
「うん……ありがとうございます……!」
アイリが笑顔で頷いていると、ぞろぞろと男性陣と、女神二人が広場に集まってきた。
『やあ、良い匂いだ』
『私にはコーヒーを』
さっさと席についてコーヒーを要求するアルモニアさん。この人もエクソリアさんも最初は敵だったんだよねえ……。
「女神と言えど働かざる者食うべからず。自分で注ぐんだ!」
『わ、分かったよ』
女神がカルエラートさんに怒られ渋々コーヒーを注いでいた。弱いなあ……。
そして昨日、険悪な雰囲気だったカイムさんとユウリも姿を見せる。もちろん……険悪なままだった。目の下にはクマができている。
「僕は彼女に興味は無いと何度言えば分かるんだ」
「いいや、私の勘はそうじゃないと告げている。抜け駆けするんじゃないぞ?」
「だから――」
「おはようございます! 朝から仲良しですね!」
「あ、ああ! お、おはよう! フ、フレーレ……」
「名前覚えてくれたんですね!」
ユウリは顔を赤くしてサッとフレーレから離れ、カイムさんは逆に近づいて笑顔で話しかける。
「おはようございますフレーレさん。疲れは取れましたか? 急に走っていくから驚きましたよ」
「すいません、ご心配をおかけして。でもおかげでシロップやルーナの助けになりましたから!」
「流石です、でも今度は私も一緒に行きますからね、危ないですし……」
チラリ、とユウリを見ながらニヤリと笑うカイムさん。いい人だけど、フレーレが絡むと残念になるなあ……今まではライバルがいなかったから焦っているのかも?
「大丈夫ですよ! わたしはわたしで身を守れますから!」
「プッ、断られてるし」
「くっ……!」
と、やはりカイムさんとユウリが睨みあっていると、ノゾムもやってくる。
「……おはよう!」
「やけに元気じゃない……ってシロップとラズベ!」
「きゅふん」
「きゅんきゅん」
両脇に狼を抱えてご満悦のノゾム。だが、その足には……
「がるる……」
シルバが噛みついていた。するとママが私の所へ来て顛末を話しだす。
「私が狼達を散歩に出したらノゾムが外でトレーニングをしていたのよ。そしたらそのまま補助魔法を使って二匹を捕獲して撫でまわしていたわ。シルバが怒って噛みつきまくってたけどまったく動じなかったのは凄かったわね」
すると私の足元にはレジナが来ていた。
「ガウ」
「あら、レジナ。どうしたの?」
「がぉう」
鼻の頭を摺り寄せてくるレジナ。これは……可愛がって欲しい合図だ! 私はすぐにわしゃわしゃとレジナの頭を撫でると、お腹を見せてきた。
「おーよしよしよし……」
「わふん……♪」
気持ち良さそうに喉を鳴らすレジナ。その光景を見たシロップとラズベが鳴きはじめた。
「きゅんきゅん!」
「きゅふん!」
「……お、どうした? ……ぐわ!?」
バリバリ!
「わん!」
ガブリ!
「うお……!?」
憐れ。ノゾムは抱っこしていた二匹に顔を引っ掻かれ、シルバに手を噛まれてシロップとラズベを取り落とす。そのまま三匹は私のところへ走ってきた。
「きゃ!? はいはい、暴れない暴れない。かわいいかわいい」
「わんわん♪」
「きゅきゅーん♪」
狼達を撫でていると、遠くでノゾムが恨めしそうな目で私を見ていた。
――とまあ、概ね平和な朝食風景だったんだけど、現実はそうもいかない。食べた後は塔へ向かうための話合いと準備になる。守護獣の犠牲もあり、なんとか60階までは踏破した。ここからが折り返し地点と言ってもいい。
残るボスは神裂を含め四人。
それに引き替えこちらは戦える者が多く、ノゾム達三人も加わったおかげで戦力的には負けていないと思う。そして相変わらず引率してくれるパパが口を開いた。
「次はヴィオーラの王と騎士団長ということだったな?」
「……ああ、予定ではそうなっていた。だが、気まぐれで変えることはあるから確実とは言えない。対応できるよう、俺達のように銃火器を使う者はいないから、全滅はしにくいと思う」
「情報があるのはありがたいな。ディクラインさん、今回も同じで?」
「ああ。ノゾム達も行くのか? 神裂のところまでここで休んでいてもいいぞ」
レイドさんの言葉に頷き、ノゾム達に声をかけるパパ。食パンを食べていたユウリがパパに答えを返していた。
「僕は行くよ。行かせてほしい、あの爺さんは僕の手で始末しないと気が済まない」
「わたしもジャンナのおかげで完治したから最初から行きますね」
「わ、私も!」
ユウリの後にフレーレが真面目な顔で告げ、慌ててカイムさんも行くとパパに言った。さらに後ろから声がかかる。
「今度は私も行くぞ! 私もこの通り完治だ! ファウダーとジャンナの弔い合戦だな」
はっはっは! と喜ぶカルエラートさんにパパが無情な言葉を投げかける。
「あ、カルエラートはまた留守番で。各方面から食事のレベルが落ちるのは耐えられないので、カルエラートはギリギリまで連れて行かないでください、と」
「そんな!?」
うーん、確かにここのところカルエラートさんの食事はどんどん美味しくなっているから、それも分かる気がする。それに私達もまだ戦える人が多いしね。
「皆が気持ちよく働くために、頼む」
「くっ……ディクラインに言われたら断れない……」
「その分、私が頑張って来るから、美味しいご飯を用意しておいて」
<……報われない愛と麗しき友情だっぴょん>
「うるさいぞ駄兎!」
<だ、ダメじゃないっぴょん! リリーがまだ出る幕じゃないだけだっぴょん!>
「謝れ! チェイシャやファウダーに謝れぇぇ!!」
泣きながらリリーの頬を引っ張るカルエラートさん。今回はノゾム達が入り、他は変わらなかった。ソキウスやチェーリカはクラウスさん達と買い出し部隊として他の町へ遠征。
バステトもカルエラートさんが残るなら、と留守番を買って出てくれたのだ。尚、サイゾウさんとザイチさんも一度休憩を取るため今回は見送りとなった。
私、レイドさん、フレーレ、パパ、ママ、お父さん、セイラ、ニールセンさんに、カームさん、リリーとノゾム達三人に女神二人。そしてレジナ達狼親子で塔へと向かう。
そして、私達は61階へ足を踏み入れた。
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