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最終部:タワー・オブ・バベル

その293 道標

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 <バベルの塔:56階>


 「54階と一緒でのどかな場所ねー」

 「わおん♪」「きゅふん♪」

 「きゅきゅーん……」

 少しだけ仮眠と食事を取って私達はすぐに先を目指し、55階を後にした。フレーレは無我夢中でシロップを追いかけてきたようで、倒れたのは疲れが主だったらしく、休んでから顔色は良くなっていたのはホッとしたかな。 シロップも目を覚ましてくれたので、ミルクを飲ませた後、私のカバンに頭だけ出して揺られていた。シルバとラズベが遊んでいるのに参加できないのが悔しいのか、ずっときゅんきゅん鳴きながらもぞもぞしていた。

 「シロップはダメだからね? 本当は帰って欲しいけどついてくるんでしょ?」

 「きゅきゅん♪」

 「……異世界の狼って人間の言葉が分かるのかしら……賢い子よね……」

 「きゅきゅん?」

 「はわ……! か、かわいい……」

 私と肩を並べて歩きながらアイリが顎に指を当ててシロップを見つめる。よほど好きなのか、首を傾げるシロップを見てだらしない顔をしていた。背中にはごつい銃を背負ったまま。

 それと同時に、意外なことにザイチさんとノゾムが歩きながら喋っていたりする。

 「……その鎧と刀は日本のものに良く似ているな……」

 「ん? そうなのか? 蒼希のサムライが一人前になれば祝いで一通りもらうのじゃがのう。わしは一応総大将ゆえ、少し程度がいいがの」

 「……やっぱり刀はこの世界でも最強なのだろうか?」

 「ほおう! いいことを言うわ。うむ、鍛え抜かれた刀は――」

 と、何か琴線に触れたのか、二人はもう私にはわからない話をしていた。まだシロップを見てはわはわしているアイリをよそに、パパとママ、お父さんが近づいてくる。 

 「馴染むのが早いな。若いってのはいいねえ」

 「まだパパも若いじゃない。お父さんなんて魔王でアンデッドよ?」

 「……ウチの勇利がとんだことを……あと父さんも……」

 「気にするな。戦いがあれば傷つくのは当然だからな。……こちらに来たとき、神裂のヤツには会ったんだろう?」

 勇利のせいでお父さんの骨が一度折れてしまったので、アイリが謝罪をしていると、お父さんが質問を投げかけた。

 「あ、はい。悪態をつくのはいつも通りでしたね。本当は私達を出したくなかったみたいなんですけど、勇利が役に立ちたいからって無理を言ってここに来たんです。……私もこの世界を壊す必要があるのか気になってたから止めなかったんです」

 「あなた達もある意味被害者ってところよね……神裂がお父さんって結構大変そうだし」

 「いいところもあるんですよ? 誕生日は必ずプレゼントとケーキを用意してくれたりとか」

 「あいつが、ねぇ……」

 ママが『うーん、世の中分からないものね』と唸りながらパパと一緒に先を歩いて行った。そこへファウダーとジャンナが空の偵察から戻ってくる。

 <とりあえず敵は居なさそうだね。二人が一緒にいるからかな?>

 <のどかな風景が続くだけだわ>

 「ええ、魔物は私達の誰かが合図をすることで出現するよう作られているから、私と兄さんはもうその気がないので、後それができるのは勇利だけになんです。出てこないところをみるともうこちらに攻めてくることは無さそうですね。それにしてもドラゴンやフェニックスを見ると、ここが別世界なんだって実感しますね……」

 「やっぱり元の世界に帰りたい、ですか?」

 アイリの呟きに質問を投げかけたのはフレーレだった。セイラとニールセンさん、アルモニアさんは念のためしんがりに、パパ達とレイドさんは前にいるのでここは私達三人しか居ない。

 「……実を言うと元の世界にはそれほど未練は無いんですよ。父さんと兄さん、勇利とまた暮らせたら場所はどこでも……」

 「そっか。なら、尚のこと神裂を説得して世界の崩壊なんて馬鹿げたことを止めさせないとね!」

 「そうですね! わたしも協力しますよ!」

 「……ありがとう、ございます……父さん達にまた会えて本当に嬉しかったんですよ」

 アイリの目から涙がこぼれ、戦いはそれほど好きではないんだなと感じた。とりあえず彼女達は進んでくる敵を倒す、という『仕事』をしていただけにすぎないのだ。

 だけど、同じ人間。話せばわかる。だからこの子達が一緒なら神裂も説得できるんじゃないかと、私は思った。


 「ところでルーナ、面白い服を着ていますね? セイラも。アイリとお揃い、ですか?」

 私が決意を新たにしていると、フレーレが私の服に興味を持った。そういえばセイラと私はそのままになっていたっけ。

 「下の階で着替えたのよ。どう? あ、アイリ、その銃を貸して」

 「え、ええ、どうぞ」

 アイリから銃を受けとり何となく構えてみると、それっぽく見える……ような気がした。

 「あ、カッコいいですね!」

 「似合ってますよ、ルーナさん」

 「きゅきゅん♪」

 「えへへ、そう?」

 フレーレとアイリ、それにシロップが褒めてくれ気をよくした私はアイリに銃を返そうとした。そこでフレーレも持ってみたいと言うので、そのままフレーレに手渡してみる。

 「じゃーん! ……どうですか!」

 「う、うーん……やっぱりその聖職者のローブだと……ちょっと……」

 「で、ですね……フレーレさんの容姿なら、元の世界だとそういったのが好きな人達のアイドルになれるかも、しれませんけど……」

 アイドルが何のことか分からないけど、一定の人に需要があるというのは何となく分かった。

 「この覗き穴はなんですか? ……あ! 凄く遠くが見えますよ!」

 「スコープですね。遠い獲物を狙う時に使います」

 「なるほどね。最初私達を見えない所から撃ってきたのはこれを使っていたからね」

 「ええ、あのお爺さんからあなた達は父さんの命を狙う敵だから容赦するなと言われていたので、すいません……」

 「私達は何とかなったからいいけどね。それでもニンジャさんやおサムライさんに被害があったから手放しで大丈夫とは言えないけど」

 「……はい」

 私がそう言うと俯いてしまった。

 基本的には素直な子だ、行き違いがあったけど何とか受け入れてあげたいかな……。私がそんなことを思っていると、レイドさんから声がかかる。

 「次の階段に着いたぞ、魔物が出てこないのは楽でいいな」

 「……この調子なら一日以内に60階へ到着すると思う。ボス部屋は6人までだが、俺達二人はその枠からは外れているはず。勇利が襲ってくるはずだから、何とか止めてみせる。アイリもそれでいいな」

 アイリがコクリと頷く。

 <60階は天井が高いのかい? もしそうならオイラかジャンナが入って、空からってものアリだよね>

 「……ああ、60階はかなり広く作られている。元々三人で迎え撃つようにしていたから縦も横もかなりのものだな。だから空からの攻撃も容易だと思う」

 「なら、ファウダーは欲しいわね……お父さんはちょっと休んでもらって、他は行きながら考えましょうか」


 そしてこの後も、魔物達は姿を見せなかったためすんなりと進むことができた。

 それでも丸一日はかかる道のりであったため、59階から60階へ進む階段の前で私達は一度休息を取ることにした。

 しかし辿り着いた60階で私達は――
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