パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その284 拷問

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 ゆっくりと休息を取った私達は、五十四階のフロアへと足を踏み入れた。ノゾムに情報を聞きだしてから、という案もあったが全然目を覚まさないので、ロープでぐるぐる巻きにしたまま、ファウダーの胴体にくくりつけてぶら下げる形にした。それなりに高さもあるので暴れる心配は多分ない。

 <このフロアは背の高い建物が少ないわね>

 「そう言われればそうね、どちらかと言えば畑が多いかな?」

 「この畑は水が入っているな……」

 『水田だね。お米を作る時はこうするんだよ。そっちのサムライならわかるんじゃないかな?』

 エクソリアさんがそう言うと、ザイチさんが口を開く。

 「うむ、下の階は面妖な作りじゃったが、こっちは馴染があるわい。それにしても見事な水田じゃ。収穫時期の夕暮れはこの穂が黄金色になって綺麗なものだがな」

 故郷の蒼希の村と似ていると、ザイチさんが言う。かくいう私も、パパと住んでいた村もこんな感じなので、懐かしいと思っていた。

 <まだくらくらする……>

 ふわふわとノゾムをぶら下げて飛んでいるファウダーは、最後に女の子を追った後、墜落させられたらしい。頭から落ちたとのことでジャンナが心配していたけど、とりあえずは問題がないそうな。

 『田舎ねー。山は無いけど、ザ・村って感じ』

 『家屋は平屋で見通しがいい……狙撃地点が限定されるから楽だけど……何を思ってこんなフロアを作ったのか気になるね』

 「それもこいつが起きれば解決でしょ」

 アルモニアさんとエクソリアさんが周囲を見ながら感想を言いあい、ママがロッドでぶら下げられているノゾムを突きながらそんなことを言う。

 「とりあえず背の高い建物を探そう。この田舎道ならすぐだと思うけど……」

 「次が五十五階だから、このまま女の子が出てこなければ二人と戦うことになるのかな?」

 「そこで倒してしまったらボス部屋はどうなるんだろうな……? 六十階は別のヤツがいるのか……?」

 レイドさんが腕組みをして首を傾げていると、上空から呻き声が聞こえてきた。どうやらノゾムが目を覚ましたらしい。


 「……ん……ここは……? 俺は……」

 「どうやら目が覚めたみたいね。あなたは私に負けて捕まったのよ」

 「……そうだったな。あの補助魔法には恐れ入った。それで、俺をどうするつもりだ?」

 特に慌てた様子も無く、冷静に自分をどうするのか尋ねてきた。こういった事態に慣れているのかしら? とりあえずファウダーにお願いして地上へと降りてもらう。

 あぐらをかいたまま見上げてくるノゾムに、私は中腰で顔を見ながら話しかける。

 「私達の邪魔をしないで欲しいからこのまま連れて行くつもりよ。だけど、あなた達のことを少し尋ねたいと思っているの。時間が無いから手短にするけど……」

 「……俺は何も知らんし、言わん」

 プイっと子供みたいに顔をそむける。そこにお父さんが声をかけていた。

 「ディクラインに『父さんと戦ったことがあるのか』と言っていたな? 同じ技のようだが、お前は神裂の息子なのか?」

 「残りの二人も神裂の子供か? 神裂はレイドとあまり変わらない年齢に見えたんだが、お前はいくつなんだ?……」

 『このフロアの意味はなんだい? 君達の故郷のようだけど?』

 「……」

 お父さんやパパ、エクソリアさんの質問が続いたけど、顔をそむけたまま無言を貫き続けるノゾムへレイドさんも声をかけた。

 「俺は別にお前達に興味はない。が、ルーナに付きまとうなら話は別だ。それに神裂を父だと言うなら、それを止める俺達の明確な敵。お前の首を持っていったら動揺くらいは誘えるかな?」

 「……」

 やはり無言だったけどノゾムはレイドさんの顔を見た。このままでは話が進まないので私は例の作戦で行くことにする。

 「そっか、何も言わないなら仕方ないわね。まあ父親のことや兄妹? のことだから無理もないよね? 私もお父さん達や……おいでシルバ、ラズベ」

 「わんわん♪」

 「きゅふん♪」

 「この子達に危機が迫るかも、って思ったらそうなるわよ。どうしたのシルバ、くすぐったいわ」

 「……!」

 来た……! 私と狼達を目で追ってくるノゾム! やっぱりシルバ達が気になるのね。ここぞとばかりに私はシルバを可愛がる。

 「よしよし、最近かまってあげてなかったからねー。エクソリアさん、あれください!」

 『ん? ……これか?』

 エクソリアさんが何となく握りしめて持ってきたという、異世界の犬用ドッグフードを受けとり、手の平にカリカリした餌を乗せる。

 「はい、おいで!」

 「わんわん!」

 尻尾を大きく振って私の手にのった餌を食べ始める二匹。

 「……俺の時は噛まれたのに……」

 「え? なに?」

 「……」

 わざと聞こえないふりをして尋ねてみるもノゾムはまた無言になった。だが、二匹から目を離さない。

 「ほらほら、がっつかないの。まだたくさんあるわよ」

 「きゅふーん♪」

 ラズベもご満悦で私に甘えてくるので可愛くて撫でまくっていると、その内ノゾムに変化が現れる。

 「……ば、いい……」

 「どうした?」

 レイドさんが声をかけると、ノゾムは目を離さないまま言葉を続けた。

 「……俺はどうすれば? どうすればあの二匹を可愛がることができる……!」

 「……」

 今度はレイドさんが呆れ顔で無言になった。こいつは一体どういうやつなんだ、と言わんばかりである。するとママがノゾムの肩に手をおいて優しい顔と声で言った。

 「洗いざらいこっちの聞きたいことを全部言うのよ。そしたらいくらでも可愛がらせてあげる」

 「わおん!?」

 その言葉にシルバは『聞いてない』という反応をしたが、私達の意見は一致している。さらにセイラが追い打ちをかける。

 「……実は拠点に帰れば母狼ともう一匹子狼がいるの。私達に従えばそれはもう可愛がりほうだい……」

 「……ごくり……」

 ノゾムの顔から汗が噴き出す。後一押し、というところで私はシルバを抱いてノゾムへ近づいていき、シルバを頬でふかふかさせてあげた。

 「あ……ああ……」

 「どう? 話してくれる?」

 この時ばかりは自分が魔王だな、って自覚した瞬間だった。多分悪い顔をしていたと思う。

 

 そして――







 「神裂は義理の父親か、ディクラインみたいなもんだな」

 「他の二人も血がつながっていないけど、兄妹同然で育った、か」

 
 ノゾムは割とあっさり喋った。

 とりあえず自分達のことと、三人とも倒さないと六十一階には行けないという所まで聞いた。そのノゾムは今、エクソリアさんとアルモニアさんに監視されながらシルバと遊んでいた。

 「ほらほらほら、こっちだ! ……よーしよし、偉いなお前は……」

 「わ、わん……」

 フリでもいいから遊んであげてとシルバに言い、困惑しながらもノゾムに大人しく撫でられていた。ノゾムの顔はキリッとしている時はカッコ良かったけど、今はかなりだらしない。その光景を横で見ていたエクソリアさんが口を開いた。

 『君達が義理の親子というのは分かったけど、どうやってこの世界に来たんだい? 神裂の力は生きた異世界人を召喚できるほどの力はないと思うけどね? それに銃器を扱うのに長けすぎている。君達はいったいどういう存在なんだ?』

 そこでノゾムの動きがピタリと止まり、シルバを抱きかかえる。

 「わおう?」

 「……俺は……俺達がここにいる理由は、あんたが一番よく知っているだろう……? 俺達は死んでから父さんに呼ばれたんだ」

 死んだ……? 向こうの世界で?

 「どういうこと? 神裂に連れてこられたわけじゃないの?」

 ノゾムは首を振り、言葉を続ける。

 「……この世界で父さんに再会したのはたまたまだ……俺達三人は、向こうの世界で殺されたんだ。そして気付いたら父さんが目の前にいた……」

 なんだか複雑そうな話……そう思いながらも私は彼の話を聞いた。 
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