263 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その284 拷問
しおりを挟むゆっくりと休息を取った私達は、五十四階のフロアへと足を踏み入れた。ノゾムに情報を聞きだしてから、という案もあったが全然目を覚まさないので、ロープでぐるぐる巻きにしたまま、ファウダーの胴体にくくりつけてぶら下げる形にした。それなりに高さもあるので暴れる心配は多分ない。
<このフロアは背の高い建物が少ないわね>
「そう言われればそうね、どちらかと言えば畑が多いかな?」
「この畑は水が入っているな……」
『水田だね。お米を作る時はこうするんだよ。そっちのサムライならわかるんじゃないかな?』
エクソリアさんがそう言うと、ザイチさんが口を開く。
「うむ、下の階は面妖な作りじゃったが、こっちは馴染があるわい。それにしても見事な水田じゃ。収穫時期の夕暮れはこの穂が黄金色になって綺麗なものだがな」
故郷の蒼希の村と似ていると、ザイチさんが言う。かくいう私も、パパと住んでいた村もこんな感じなので、懐かしいと思っていた。
<まだくらくらする……>
ふわふわとノゾムをぶら下げて飛んでいるファウダーは、最後に女の子を追った後、墜落させられたらしい。頭から落ちたとのことでジャンナが心配していたけど、とりあえずは問題がないそうな。
『田舎ねー。山は無いけど、ザ・村って感じ』
『家屋は平屋で見通しがいい……狙撃地点が限定されるから楽だけど……何を思ってこんなフロアを作ったのか気になるね』
「それもこいつが起きれば解決でしょ」
アルモニアさんとエクソリアさんが周囲を見ながら感想を言いあい、ママがロッドでぶら下げられているノゾムを突きながらそんなことを言う。
「とりあえず背の高い建物を探そう。この田舎道ならすぐだと思うけど……」
「次が五十五階だから、このまま女の子が出てこなければ二人と戦うことになるのかな?」
「そこで倒してしまったらボス部屋はどうなるんだろうな……? 六十階は別のヤツがいるのか……?」
レイドさんが腕組みをして首を傾げていると、上空から呻き声が聞こえてきた。どうやらノゾムが目を覚ましたらしい。
「……ん……ここは……? 俺は……」
「どうやら目が覚めたみたいね。あなたは私に負けて捕まったのよ」
「……そうだったな。あの補助魔法には恐れ入った。それで、俺をどうするつもりだ?」
特に慌てた様子も無く、冷静に自分をどうするのか尋ねてきた。こういった事態に慣れているのかしら? とりあえずファウダーにお願いして地上へと降りてもらう。
あぐらをかいたまま見上げてくるノゾムに、私は中腰で顔を見ながら話しかける。
「私達の邪魔をしないで欲しいからこのまま連れて行くつもりよ。だけど、あなた達のことを少し尋ねたいと思っているの。時間が無いから手短にするけど……」
「……俺は何も知らんし、言わん」
プイっと子供みたいに顔をそむける。そこにお父さんが声をかけていた。
「ディクラインに『父さんと戦ったことがあるのか』と言っていたな? 同じ技のようだが、お前は神裂の息子なのか?」
「残りの二人も神裂の子供か? 神裂はレイドとあまり変わらない年齢に見えたんだが、お前はいくつなんだ?……」
『このフロアの意味はなんだい? 君達の故郷のようだけど?』
「……」
お父さんやパパ、エクソリアさんの質問が続いたけど、顔をそむけたまま無言を貫き続けるノゾムへレイドさんも声をかけた。
「俺は別にお前達に興味はない。が、ルーナに付きまとうなら話は別だ。それに神裂を父だと言うなら、それを止める俺達の明確な敵。お前の首を持っていったら動揺くらいは誘えるかな?」
「……」
やはり無言だったけどノゾムはレイドさんの顔を見た。このままでは話が進まないので私は例の作戦で行くことにする。
「そっか、何も言わないなら仕方ないわね。まあ父親のことや兄妹? のことだから無理もないよね? 私もお父さん達や……おいでシルバ、ラズベ」
「わんわん♪」
「きゅふん♪」
「この子達に危機が迫るかも、って思ったらそうなるわよ。どうしたのシルバ、くすぐったいわ」
「……!」
来た……! 私と狼達を目で追ってくるノゾム! やっぱりシルバ達が気になるのね。ここぞとばかりに私はシルバを可愛がる。
「よしよし、最近かまってあげてなかったからねー。エクソリアさん、あれください!」
『ん? ……これか?』
エクソリアさんが何となく握りしめて持ってきたという、異世界の犬用ドッグフードを受けとり、手の平にカリカリした餌を乗せる。
「はい、おいで!」
「わんわん!」
尻尾を大きく振って私の手にのった餌を食べ始める二匹。
「……俺の時は噛まれたのに……」
「え? なに?」
「……」
わざと聞こえないふりをして尋ねてみるもノゾムはまた無言になった。だが、二匹から目を離さない。
「ほらほら、がっつかないの。まだたくさんあるわよ」
「きゅふーん♪」
ラズベもご満悦で私に甘えてくるので可愛くて撫でまくっていると、その内ノゾムに変化が現れる。
「……ば、いい……」
「どうした?」
レイドさんが声をかけると、ノゾムは目を離さないまま言葉を続けた。
「……俺はどうすれば? どうすればあの二匹を可愛がることができる……!」
「……」
今度はレイドさんが呆れ顔で無言になった。こいつは一体どういうやつなんだ、と言わんばかりである。するとママがノゾムの肩に手をおいて優しい顔と声で言った。
「洗いざらいこっちの聞きたいことを全部言うのよ。そしたらいくらでも可愛がらせてあげる」
「わおん!?」
その言葉にシルバは『聞いてない』という反応をしたが、私達の意見は一致している。さらにセイラが追い打ちをかける。
「……実は拠点に帰れば母狼ともう一匹子狼がいるの。私達に従えばそれはもう可愛がりほうだい……」
「……ごくり……」
ノゾムの顔から汗が噴き出す。後一押し、というところで私はシルバを抱いてノゾムへ近づいていき、シルバを頬でふかふかさせてあげた。
「あ……ああ……」
「どう? 話してくれる?」
この時ばかりは自分が魔王だな、って自覚した瞬間だった。多分悪い顔をしていたと思う。
そして――
「神裂は義理の父親か、ディクラインみたいなもんだな」
「他の二人も血がつながっていないけど、兄妹同然で育った、か」
ノゾムは割とあっさり喋った。
とりあえず自分達のことと、三人とも倒さないと六十一階には行けないという所まで聞いた。そのノゾムは今、エクソリアさんとアルモニアさんに監視されながらシルバと遊んでいた。
「ほらほらほら、こっちだ! ……よーしよし、偉いなお前は……」
「わ、わん……」
フリでもいいから遊んであげてとシルバに言い、困惑しながらもノゾムに大人しく撫でられていた。ノゾムの顔はキリッとしている時はカッコ良かったけど、今はかなりだらしない。その光景を横で見ていたエクソリアさんが口を開いた。
『君達が義理の親子というのは分かったけど、どうやってこの世界に来たんだい? 神裂の力は生きた異世界人を召喚できるほどの力はないと思うけどね? それに銃器を扱うのに長けすぎている。君達はいったいどういう存在なんだ?』
そこでノゾムの動きがピタリと止まり、シルバを抱きかかえる。
「わおう?」
「……俺は……俺達がここにいる理由は、あんたが一番よく知っているだろう……? 俺達は死んでから父さんに呼ばれたんだ」
死んだ……? 向こうの世界で?
「どういうこと? 神裂に連れてこられたわけじゃないの?」
ノゾムは首を振り、言葉を続ける。
「……この世界で父さんに再会したのはたまたまだ……俺達三人は、向こうの世界で殺されたんだ。そして気付いたら父さんが目の前にいた……」
なんだか複雑そうな話……そう思いながらも私は彼の話を聞いた。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。