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最終部:タワー・オブ・バベル

その282 目的

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 「わん……!」

 「そこか……」

 鼻の調子が戻ったシルバの追跡により、ディクライン達はノゾムの居場所を特定することができ、建物の前で立ち止まっていた。
 
 すると建物からノゾムが出てきてディクライン達は身構えた。

 「観念したか?」

 『何か手に持っている、気をつけろよ……』

 「……」

 ディクラインが声をかけ、エクソリアが警戒する中、ノゾムは無言で片膝をついて手を差し出す。右手には何かの箱を持ち、視線はシルバを捉えていた。

 「……チッチ……」

 「わふ?」

 指を動かしたり手を叩いたりしてシルバの気を引こうとするノゾムに。ノゾムの手には何かお菓子のようなものが乗っていて、鼻をひくひくさせながらシルバが歩いていくと、ノゾムはニヤリと笑った。

 「何なのかしら……?」

 アイディールが呟いた時、それは起きた。

 「わん!」

 ガブリ!

 「ぐあ……!?」

 「ガウゥゥゥ……」

 シルバがノゾムの手を噛んだ! 予想外だったのだろう、シルバが噛みついたままにも関わらずのた打ち回るノゾム。

 『か、確保だ!』

 エクソリアが叫び、ディクラインとヴァイゼが走る。だが、ノゾムは態勢を立て直し、魔法を使って反撃に出た。

 「……≪パワフル・オブ・ベヒモス≫」

 「それも使えるのか!」

 「……ふっ!」

 ディクラインの剣がノゾムの肩を狙う。それをノゾムはあっさりと払いのけた。その横からヴァイゼが仕掛けるも、それを回避してヴァイゼを掌打で吹き飛ばした。

 「ヴァイゼ!」

 「チッ、文字通りあばらをやったか。いつもルーナに使ってもらってから戦っているが、敵に回すと厄介な魔法だ」

 ヴァイゼが立ちあがりながら呟くと、ノゾムも構えながら口を開いた。

 「……手荒なことはしたくない」

 「お前が言うな!? なら大人しく倒されるか捕まれっての」

 「わぉーん!」

 「ここは拙者にお任せあれ!」

 ディクラインとシルバ、そしてザイチが再びノゾムへと向かって行く。その隙に、エクソリアがノゾムの落とした箱を拾い上げた。

 『よし、これでヤツの武器は封じ、た……』

 エクソリアは手にした箱を見て驚愕した。

 「毒とか爆発するものだったら危ないわよ!?」

 『それが……』

 
 【わんちゃん大好き! カリカリドッグフード!(牛肉味)】

 
 「何、これ?」

 『これはドッグフードといって、彼等の世界でペットに与える餌だよ……』

 「分かるわよ! ペット……ならそれに毒を混ぜてシルバを殺そうとしたのね! 追跡を逃れるために!」

 憤慨するアイディールにエクソリアがポツリと呟く。

 「……いや、毒も入っていないし、爆発したりもしない……本当に普通のドッグフードだ……というかこの建物、ペットショップだ』

 「はあ!?」

 <アホなのかしら……?>

 一体どういうつもりで? と、三人はディクライン達の方を見ると、ノゾムがぶつぶつと呟きながら戦っていた。

 「……缶詰かウェットタイプの方が良かっただろうか……? 主人以外に懐かないなら難しいが、どうする……?」

 「ごちゃごちゃとうるさいヤツめ、ええい、逃げるな!」

 ザイチの刀を手で受け流し、ディクラインとヴァイゼの攻撃はゆるゆるとかわしていく。食らってはまずい攻撃はしっかり避けているようだった。

 『あいつ、ただ単にシルバを手なづけたいだけだ!? 馬鹿にして!』

 エクソリアが光の刃を出して戦闘に参加すると、徐々にノゾムが劣勢になっていく。足に噛みついたシルバを無下にできず動きが鈍かった。

 「……流石は勇者と魔王に女神、これ以上はこちらが持たないか」

 「お前も強いが相手が悪かったな。足の一本は覚悟してもらうぞ?」

 「聞きたいことが山ほどあるしな」

 「……」

 「ガウゥゥゥ……」

 四人がかりで建物の壁際に追いつめ、いかに素早かろうと逃げるのは困難な状況をようやく作りだして最後の一撃を繰り出すディクラインがさらに詰める。しかしその時、予想外のことが起きた。

 「この距離なら外さんぞ? くら――」

 パァァァァァン!!

 「うわ!? 何だ!?」

 「! ……すまない!」

 「きゃうん!?」

 ディクライン達の後方で光と音が炸裂し、一瞬身構えてしまう四人。その隙を縫ってシルバを引きはがしてノゾムが駆け出した!

 「逃がすか……!」

 ザン!

 「っく……!」

 すれ違い様にヴァイゼがノゾムの胴を薙ぎ、ノゾムは血を流してバランスを崩す。だが、ノゾムはそのまま走り去って行った。

 『花火の下に誰がいるか分からないが行くぞ! 血の跡もあるし、シルバが追える!』

 「わぉぉぉん!」

 <私達は上から追跡しましょう、乗って>

 「助かるわ!」

 ダッ! と、シルバが走り、巨大化したジャンナにディクライン達が乗り込み即座に追跡を開始した。

 「あいつ、本当に何なんだ?」

 「悪いヤツではなさそうだが、いずれにせよこちらを妨害してくるなら敵だ。捕まえられれば一番いいが、こうも混乱させてくるなら倒してしまうのもやむなしだな」

 『ユウリと女の子も控えているからね。ルーナが休めているといいけど』

 「新しい補助魔法なら対抗できるだろう。合流できれば一気にカタをつけるぞ」

 ヴァイゼの言葉に全員が頷き、眼下のシルバを見るのだった。

 


 ◆ ◇ ◆



 「これで終わり!」

 ぎゃぁぁぁぁ!?

 「よし、とりあえずはこれで安全が確保できたな」

 花火の影響で集まってきた魔物を一掃し、私達は建物の入り口へと集合する。追加で襲ってこない所を見ると、誰かに命令されて襲撃をしているわけではないようだ。

 「無駄な体力を使ったわね……だいたい、ディクラインさんにはシルバがついてるし、ニールセンさんにはラズベがいるでしょうが。匂いでちゃんとこっちに来れるはずよ?」

 「……そう言われれば、そうかも……」

 普通の狼なら無理かもしれないけど、セイラの言うとおり進化したシルバとフェンリルの娘であるラズベならできそうである。

 「……ごめんなさい……」

 「いいさ、無事だったしな。騒ぎを聞きつけて急いできてくれるかもしれないし」

 「甘いわね、お兄ちゃん……」

 セイラが腰に手を当ててため息をついていると、道の向こうから気配がした。

 「誰か来る?」

 私が呟いたと同時に、視界にその人物が入ってくる。

 「……見つけた……!」

 「あいつ!?」

 駆けてきたのは……ノゾムだった! 私を見ると一直線に走ってくる! レイドさんがすかさず前へ出て止めようと剣を抜いた!

 「速いな!」

 レイドさんが剣を振りかぶると、ノゾムが魔法を使った。

 「≪ドラゴニック・アーマー≫」

 「ええ!?」

 まさかの上級補助魔法だ!? レイドさんの剣が見えない壁に弾かれ吹き飛んだ。だが、パリンと音を立ててノゾムを覆っていた薄い膜も破れたので無駄な一撃では無かった。

 「……凄い威力だ……まさか一撃で……!」

 「くそ、待て!」

 吹き飛んで地面に転がったレイドさんが叫ぶがそのまま私とセイラの前で立ちどまった。

 「その速さ、フェンリルアクセラレーターも使ってるわね?」

 「……その通りだ。この力は短時間ながらも凄い。それが使えるルーナ。お前はここで倒しておく必要があると判断した」

 「なるほどね。睡眠妨害は回復させないため? でもそう簡単にはいかないわよ?」

 「……妨害だけでは埒があかないと判断した。殺しはしない、世界の破滅まで大人しくしていてもらう」

 狙いはあくまでも私みたいね、横にいるセイラには見向きもしない……。

 「破滅したら結局死んじゃうからお断りよ! ≪クイック・シルバ≫」

 「それは何だ……?」

 私は自分とセイラに最上級の補助魔法をかけ、愛の剣でノゾムへと斬りかかった!
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