パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その276 少年

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 「あそこだ、お前達は先に行け。俺がやつらを止める」

 「分かったわ、お父さんも無理しないでね」

 建物から溢れるように出てきた魔物達はとどまる所を知らず、キリが無かったので囲まれないよう移動しながら階段を目指していた。幸い、ママとセイラの回復魔法が全員に行き渡ったのでニンジャさん達が全力で雑魚を蹴散らしてくれ、階段まで辿り着くことができていた。

 「ヴァイゼ! 早く来い!」

 「フッ! ハァ! よし、すぐ行く」

 「援護します!」

 階段の場所は分かりにくかったけど、建物の中にあった。先行していたニンジャさんが居てくれたおかげで迷うことなく行けたけど、上の階も同じようならかなり面倒くさい……。
 私とセイラでお父さんを援護し、全員が中へ入ると魔物達はそれ以上追ってこなかった。

 「建物から出てくるくせにここには入って来ないんですね」

 『気にしないでいいと思うわ、どうせ神裂の遊びのひとつよ。前にもあったと思うけど、逆に言えばこういった所で休憩ができるから利用できる内は使う方がいいわ』

 私達と違って消耗が激しいのだから、とアルモニアさんがニールセンさんに言うとママがそれに呼応した。

 「なら、少し休む? ニンジャさんはケガの治療はできているけど、疲れがあるんじゃない?」

 「いや、我等ニンジャはそれほど柔な鍛え方はしておらぬゆえ、お気づかいは無用」

 サイゾウさんが言うと、ニンジャさん達は全員頷いた。

 「私も大丈夫よ」

 「わん! ……ぷるっしゅん!」

 「きゅふふん!」

 ぷるぷると体を震わせながらシルバも元気よく答え、苦笑しながらレイドさんが階段に足をかけた。

 「なら先へ進もう。サムライ達も心配だしな」


 反対意見もなく、そのまま階段を登り進でんでいると、途中、カームさんがポツリと呟いた。

 <あの銃、というのは厄介だな。空を飛ぶと狙われるから、俺は役に立てん>

 『仕方ないさ、ファウダー、ジャンナ、カームを見越しての配置と見ていいと思うからね。ここはこちらの銃とも言うべき魔法の出番かな?』

 あの武器は遠距離で効果を発揮するけど、離れすぎても当たらないらしい。なので一定の距離を保っているはずだから人数で追い込めば一人なら対応できないとエクソリアさんは言う。

 <いざとなればオイラが盾になっていぶり出すよ>

 「あんまりしたくない手だけどね……あ、五十二階……」

 色々と雑談をしている内に五十二階へ到着し、フロアへ通じる扉を開けると、そこは先程と同じような景色だった。

 「ふむ、相変わらず、か。それでサムライたちは……」

 と、サイゾウさんが先行していたニンジャさんに話を聞こうとしたところで、フッと先行していた別のニンジャが二人現れた。すごく慌てているけど……?

 「サ、サイゾウ様! 良かった……」

 「そんなに慌ててどうした?」

 「敵です! 見えない敵が居なくなっていたので、救援が来るまで待っていたのですが、強襲を受けました!」

 「負傷していない者も居るだろうに……」

 「は、話は後です! このままでは全滅してしまいます!?」

 「分かりました! 案内をお願いします!」

 ただごとではないと思った私達はニンジャの後を着いていくと……

 ドン! タタタタタ……!

 「何? 何の音?」

 何か爆発のような音や、小刻みに規則正しい音がする方へ近づいていくと、先程見た女の子とは違い私より年下に見える男の子がサムライ達を蹂躙している所に出くわした。

 「あの長いのも……銃?」

 『これは……また恐ろしいものを出してきたね。皆、散れ! 固まっていたら一瞬で行動不能にされるぞ!』

 エクソリアさんが叫び、私達はそれぞれ散りながら、少年の声が聞こえる付近まで接近した。まだこちらに気付いていないようで、若いサムライが少年に斬りかかっていく。

 「おのれ……!」

 「あはははは! この世界にも侍がいるんだね! でも、時代遅れなんだよ!」

 バスン!

 少年が右手に持った長いものをサムライに向けた瞬間、血が吹き出した!

 「ぎゃああああ!? 腕がぁぁぁ!」

 「何!?」

 レイドさんが驚愕の声を上げたのも無理はない。サムライはしっかりとした鎧を纏っていたし、音は凄いけど大した攻撃には見えなかったからだ。

 ――よく見れば、あちこちに血まみれのサムライが倒れており、地面は血で濡れていた。さらに少年は笑いながら倒れたサムライへ攻撃を仕掛けていた。

 「フフフ、痛いかい? 死ねば楽になるよ」

 「う……」

 「いけない!?」

 頭に銃を押し付け、ニヤリと笑う。鎧ごと腕を吹き飛ばしたような威力だったら頭なんて……!? と、思い、弓を構えたところで少年の背後から影が飛び出した。

 「たぁああ!」

 「何!?」

 サイゾウさんだ!

 いつの間に回り込んだのか、ニンジャ二人と同時にシュリケンを投げつけながら接近する!

 「ハハ! 今度はニンジャかい! バラエティに富んでいるね! チッ……ちょっと近いからこっちっと!!」

 !?

 左手に持っていた小型の箱のようなものを腰に当てると、エクソリアさんの言っていた『弾丸』が発射された。

 タタタタタ……!

 「ぬう!?」

 「ぐ……」

 「何の!」

 サイゾウさんは身をひねって躱し、一人はダメージを負った。しかしもう一人は刀を抜いて斬りかかっていった。

 「近づけばその奇妙な道具も使えまい」

 「別に僕は銃しか使えないなんて言ってないけどね?」

 ガキン!

 「ナイフで止めた!?」

 ヒュ……

 「うーん、やっぱり銃よりこっちがいいね! 手ごたえがあるのはいいよ、うん!」

 受けたナイフがいつの間にか肩の収納? に収められていた。斬りかかったニンジャは血を吐きながら倒れ、地面に血が滲んでいく。

 「……速い……」

 私と一緒に行動してくれたレイドさんが冷や汗をかきながら呟き、続けて言う。

 「恐ろしいのは殺すことを何とも思っていない感じがすることだ。同じ人間相手ならかならずどこかで躊躇する。だがこいつにはそれがまるで感じられない」

 レイドさんの言葉で背筋が寒くなったが、とりあえずエクソリアさんの指示でバラバラに動いていた私達は、少年を取り囲んだ状態を作り出すことに成功。足元に倒れている二人以外はママとセイラが駆けまわって回復に追われていた。

 「小さい傷がいくつも……息はあるわね≪リザレクション≫」

 
 「ありゃ、ちょっと調子に乗りすぎたかな? 囲まれているのに気付かなかったよ」

 人懐っこい笑顔と明るい声でそんなことを言う……今まで出会ったどんな人間とも違う……。

 「僕はユウリ。五十一階から六十階の中ボス兼ボスだよ。さっき戦った女の子は僕の姉で、同じく中ボス兼ボスさ。ラッキーだね、ここで僕を倒せば先に進めるよ?」

 「……なら、そうさせてもらおう」

 「へえ、お兄さんは中々強そうだ。楽しめるといいな、こいつらじゃ相手にならなくって……さ!」

 パン!

 急に後ろへ振り返って手を動かすと、その先にいた、シュリケンをかまえたニンジャが手を抑えて蹲った」

 「ははは! ざまあないね! ……それじゃ、行くよ?」

 ニタリ……そう表現するのがおそらく正しいと思える笑みをしながら、ユウリは銃を構えた。 
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