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最終部:タワー・オブ・バベル

その274 大物

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 「準備は大丈夫か? サムライ衆を助けるとなると薬も必要だ」

 「大丈夫よ、いざとなれば私とセイラで回復しながら戻るわ」

 慌ただしく入り口へ集合していく私達。今回の目的は踏破ではなく、蒼希のおサムライさん達の救出がメインになるため、道具類を多めに持ってきた。五十二階で足止めされているのであれば、戻るのはそれほど難しくない、はずだしね。
 
 そしていざ出発、というところで向こうからシルバとラズベが走ってきた。

 「わんわん!」

 「きゅふふん!」

 「あ、シルバにラズベ! 来てくれたの? ……シロップは、居ないか」

 「くぅ~ん……」

 よしよしとシルバの頭を撫でてやると、耳を下げてか細く鳴いた。どうも説得はできなかったような感じだ。

 「たまには休ませておきましょう。シルバには頑張ってもらわないといけないけどね」

 「わん!」

 尻尾をぶんぶん振って頑張るアピールをするシルバ。うんうん、可愛い。

 「あれ? 帰ってきた……のか?」

 「慌ただしいですね?」

 町へ買い出しに行っていたソキウスとチェーリカが不思議そうな顔で聞いてくるのを、バスが代わりに答えてくれた。

 <今回は救出だにゃ。先に行った人達が追いつめられているそうなのにゃ>

 「あちゃあ……最悪のパターンだな。俺も行こうか?」

 「いや、今回は蒼希のニンジャが部隊でついてくるからソキウスとチェーリカはすまないが留守番を頼む」

 「レイドさんに言われたら仕方ないです。みなさんも気を付けてくださいですよ」

 「ありがとう。それじゃ行きましょう!」

 私の声で転移陣を目指し、歩き始める。

 私、レイドさん、パパ、ママ、セイラ、カームさん、ファウダーにジャンナ、リリーとニールセンさん。女神姉妹にサイゾウさんとニンジャさん達が今回のメンバーとなった。程なくして5つ目の転移陣に入り50階へと足をふみれるとそこには……。

 「む、やはり来たか。サムライ達に何かあったな?」

 お父さんが寝ているヴィントとホーゼの前で座っていた。

 「うん、これから救出に向かうんだけど……お父さんも来るよね?」

 「勿論だ。だが、カイムは置いていくぞ」

 「え? ……ああ!? カイムさん!?」

 お父さんが花畑の方に目を向けたので私もそっちを見ると、ボロボロになったカイムさんが倒れていた。お腹は上下しているから恐らく寝ているか気絶しているだけみたい。

 「……一体何が……」

 レイドさんが呟くと、お父さんが階段のある方へ向かいながら口を開いた。

 「稽古をつけて欲しいと言うので俺が相手をしただけだ。いい腕をしているがまだ若いのと実戦経験が少ないのが分かるな。単純な力勝負なら見た目は少年だがソキウスの方が強いはずだ」

 「何と……カイムは我々の中ではかなりの使い手じゃが……」

 「あなたは?」

 サイゾウさんが驚いた様に言うと、お父さんがピタリと止まって尋ねた。

 「わしは蒼希のニンジャ部隊を任されてきたサイゾウと申す」

 「これはご丁寧に。私はヴァイゼ。そこにいるルーナの父で、一応、魔王だ」

 「……なるほど、カイム一人では太刀打ちできんのは無理もありますまい。いや、いい経験をありがとうございます」

 頭を下げてシュっとお父さんの横に並び、色々と話始めるサイゾウさん。カイムさんは身寄りが無いって言ってたし、親代わりだったのかな?

 そんなことを思いながら階段を登り、五十一階へと辿り着いた。そこで怪訝な顔をしながらポツリと言ったのはエクソリアさんだった。

 『この家屋にビル……道路は……』

 「随分きれいな建物ね、あの箱みたいなやつすごく高いし、地面も歩きやすい」

 セイラが言うように、見たことも無い建物に綺麗な道がずらりと並び、どうやら町を模しているフロアのようだった。

 『ここは神裂が生前いた世界の建造物ね。こんなものを創り出せるとは、ズィクタトリア様の力はそれなりに使えるとみていいわね』

 「これが別世界の……」

 そこで、報告をしてきたニンジャさんが私達の前へ立ち、話しはじめた。

 「サムライ衆は上の階です。魔物が出ない訳ではないのでお気を付け下さい。階段までの道は私が……こちらです」

 軽やかに前へ進んでいくニンジャさんの後を、警戒しながらついて行く。静かな町の中を歩いているようだけど、建物の中から窓ガラスを割って魔物が現れたりしてきた。

 グォォォォ!

 「この程度!」

 「ナイス、ニールセンさん!」

 オークにゴブリンといった地上でもよく見る魔物が多く、魔物との戦闘はさほど苦労しなかった。しかし、ニンジャさんの言う中間付近の時にそれは起きた。

 ガシャァァァン!

 ギシャァァアア!

 ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持った見たこともない魔物が襲いかかってきたのだ!

 「でかいな!? だが、でかいだけなら……!」

 パパが即座に前に出て応戦し、剣で牙を止めると、口をカパッと開け……炎を吐きだした!

 「どわ!? 熱っ!?」

 「ディクラインさん! ≪フリージング≫!」

 ゴロゴロと転がるパパに追撃を仕掛けようとした魔物へ、セイラの氷魔法が発動して動きを鈍らせる。そこへレイドさんとお父さんが斬りかかった。

 「たあ!」

 「むん」

 「わぉ~ん!!」

 グギャガ!?

 右と左からの斬撃、そしてシルバが尻尾へと噛みつき慌てて下がる魔物。こちらが優勢に見えたが、次の瞬間、サイゾウさんが叫んだ。

 「邪悪な気配! 皆のもの、散れ!」

 「何だ?」

 「え、え!? とお!」

 それぞれバラバラに建物の影に隠れたり、その場を離れると地面に火花が散った。
 
 チュイン!

 え? 今のは何?

 『鎧に小さな穴が空くと聞いてまさかとは思ったけど、こんなものまで持ち込むとは……皆、一旦建物の影に隠れるんだ! 広い所にいると狙い撃ちにされる!』

 「エクソリア、一体何なのこれ……きゃ!?」

 チュン!

 「ぐ……」

 話している間にも次々と何かが飛んでくる。ニンジャさんが何人か負傷したようで、呻きながら建物の中へと隠れていた。

 「レイドさん、あの大きな建物に行きましょう! 考えがあるわ……って、しつこいわね!」

 グオォォォ!

 今がチャンスと思ったのか、魔物も勢いを取り戻し再び襲いかかってくる。なるほど、注意を大物に向けさせて、影からとどめを刺すって訳ね。そうは行くもんですか!

 ザシュ!

 グォォォ!?

 「今だ、抜けるぞ!」

 「うん!」

 <ゴブリンもいっぱいでてきたっぴょん!? は、早く逃げるっぴょん!>

 「うわわ!?」

 リリーが慌てて私の所へ走ってきたので、抱きかかえて大きな建物へと逃れた。

 「無事のようですな」

 「サイゾウさん! はい、こっちはサイゾウさんだけですか?」

 「いや、何人かおりますぞ。ただ、ダメージを少なからず受けた者もいますがの」

 『ボクも居るよ』

 よく見れば窓際にエクソリアさんがいて声をかけてきた。私は何かを知っている風なので尋ねてみることにした。

 「攻撃してきているのは何です? 目に見えない速さで何かが飛んできているみたいですけど、矢じゃないし……」

 『……あれは神裂のいた世界の武器で『銃』というものだよ。威力は見ての通り、遠距離から狙撃できる利点を考慮しているっぽいけど、脳天に当たれば即死は免れない。ようするに回復魔法封じって訳だよ』

 それを聞いて私を含め、ニンジャさん達とごくりと喉を鳴らす音が聞こえる。

 塔も半分を過ぎて神裂も焦ってきたのかしら……? 気にはなるけど、でも今はここを突破することを目標にしないとね。遠距離には遠距離をってことで……。

 「レイドさん、一番上まで登っていい? 上からどこにいるか探して、こっちも弓矢で攻撃を仕掛けるわ。補助魔法を使えば一発ではやられないでしょうし」

 「なるほど、このまま足止めを食らいよりいいか。行こう、俺が盾になる」

 「無茶しないでね!」

 そう言って、私とレイドさんは早速建物を駆けあがり始めた!
 
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