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最終部:タワー・オブ・バベル
その271 事情
しおりを挟む「パパ、レイドさん!」
「何とか倒したぞ」
「セイラ、ニールセンを頼む」
「うん」
バッサバッサとファウダーとジャンナが降下し、背中から二人が降りると体を小さくしていた。
<いたた……最後にいいのもらったよ……>
<派手にいったな。だが、よくやってくれた。空を飛ぶ相手なら俺がいればもう少し楽だったかもしれん>
こちらも同じく飛んできたカームさんがファウダーへと労いの言葉をかけ、ジャンナがファウダーへ寄り添う。
<ぴー。ちょっと、大丈夫? ほら、治してもらいなさいよ>
ジャンナに連れられて、ファウダーがママの所へ飛んでいくのを見ながら、私はフレーレを背負って近づいてきたお父さんに声をかけた。
「どう?」
「今は眠っている。勝利の余韻もいいが、フレーレは早く休ませた方がいい」
チラリとお父さんが目をやった先には転移陣があり、拠点へ戻るよう無言で促していた。私は頷き、今度はレジナの元へ向かう。
「……どう、レジナ?」
「くぅん……」
意識は戻っているみたいだけど、鳴き声はか細い。シルバとラズベが心配して寄り添っていた。そこにカイムさんが口を開く。
「こいつら消えませんね……私が残りますから、皆さんは一度拠点へ戻ってください。フレーレさんをゆっくり休ませないと……」
分かりやすい提案だけど、その言葉には一理ある。するとお父さんがカイムさんに並び立ち、残ると言いだした。
「俺も残ろう。再び暴れ出さないとも限らないし、その時は引導を渡してやる」
「わん!」
「お前も疲れただろう、一晩休んでおけ。今後はお前も戦い続けることになんだからな」
「わ、わぉん!」
シルバも尻尾を振って残ろうとしたけど、お父さんに窘められて渋々私の所へと戻ってきた。
「よっと……ニールセンは俺が連れて行こう。それじゃ、お父さんお願いします」
「……う、うむ」
「どしたの?」
「……早く行け」
レイドさんに声をかけられてからお父さんの様子がおかしかったけど、具合が悪い訳じゃないみたいだからいいかな? 転移陣に向かおうとしたところで、何とヴィントが目を覚ましてヨロヨロと伏せのポーズで話し出した。
【ボーゼも負けたか、やはり人間は侮れんな】
「まだやる気? 悪いけど私は全力でいけるから容赦しないわよ?」
「ぐるるる……!」
セイラが杖を突きつけながら言うと、ヴィントは大きく首を振ってゆっくりと口を開いた。
【案ずるな、私達はもう戦う気は無い】
『君達はどうしてこの塔に? ヴィントは南の大雪山、ボーゼは東の海を根城にしていたはずだけど?』
【神裂だ。あやつに連れてこられたのだ。この世界は滅ぶ、が、自分に協力すれば人間の居ない楽園をやろうとな。逆らっても勝てんことは分かっていたから、この塔に来るであろうエクソリア殿達を待っていたのだ】
『戦う必要はあったの?』
もっともな意見をアルモニアさんが聞く。
【私の後ろにある五十一階へ通じる洞窟、他の階だと扉になるのか? は、『私達と戦って勝つ』。そうすることで開くようになっていてな。こちらの目論見がバレていたのか、あるいは初めからそのつもりだったのか……三十階でも協力者と戦ったろう? あの男は修行の意味もあったようだが、お前達と戦ったのはその事情が一番大きいのだ】
「なら手加減してくれても良かったじゃない。おかげでレジナがあんたのせいでボロボロになったわよ」
「くぅん……」
【それでも構わなかったが、私達に勝てないようでは神裂を倒すことなど夢のまた夢。神裂を信用することはできんが、ここで終わるようなら結果世界は滅ぶ。そうであれば、楽園とやらに賭けてもいいと思わないか?】
あえて、ってことか……色々な結果を吟味したうえでの戦いなら仕方ない気もするけど、私はちょっと怒っていたりする。
『とりあえず君達の事情は分かった。ボク達は一旦拠点に戻るけど、どうする?』
【外の世界に興味はあるな……少し休ませてもらってから追いかけるとしよう。そこの娘、私の子を何と呼んでいたかな?】
「え? ラズベのこと!? 勝手に名前をつけちゃったけど、本当の名前があるならそっちで呼ぶわよ!」
急に話を振られて慌てていると、ヴィントは笑いながら私に言った。
【フフフ、私の子に名は無かったのだ。だから『ラズベ』で構わない、私もそう呼ばせてもらおう。さて、話が長くなったな。また後ほどな……】
そう言って目を瞑ると、すぐに寝息を立てはじめた。無防備だな、と思っているとエクソリアさんが誰にともなく言った。
『眠って回復をはかるんだよ。ボク達は勝者だから、その辺りは割り切っているんだろうね。このままトドメをさされてもそれは、それってところかな? どうする?』
「うーん……とりあえず保留で。事情があっても、レジナが死にかけたり、フレーレの具合が悪くなったのは許せませんし……」
「はは、ルーナらしいな。こいつらも気にはなるけど早い所戻ろう。フレーレが心配だ」
私が眉をへの字に曲げて口を尖らせていると、レイドさんが笑って肯定し、すぐに真顔に戻った。背負ったニールセンさんもぐったりとしているので、早く休ませたいようだ。
「こいつらが攻撃しなくなったようだが俺はこのまま残る。カイムは?」
「私も残りますよ、フレーレさんを頼みます」
おじぎをして私達を見送り、カイムさんとお父さんを残して私達はひとまず五十階を後にした。
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