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最終部:タワー・オブ・バベル
その269 覚醒
しおりを挟む時間にして数秒。
シルバが呆然としていた時間。
レジナはぐったりし、ママが走るのをすごくゆっくりに見えた気がした。たかが数秒、されど数秒。事態が変わるのに時間は関係なかった。
「アォォォォン!」
【何だ!? ぎゃああああ!?】
刹那、シルバの姿が掻き消えたと思ったら、ヴィントの鼻に噛みついていた! その衝撃でレジナを取り落とすと、ママが即座に回収して回復魔法をかけてくれた。
【おのれ!】
シルバを振り払うため、前足を伸ばすとそれを見たジャンナが急降下してくちばしでブロック。
<させないわ>
ゴキン、とねじるように口を動かしたシルバはそのまま着地し、唸り声とも遠吠えとも分からない声をあげてビヴィントを睨みつける。
【子供だと思って甘くみておったが、もう容赦はせんぞ! 母親共々朽ち果てるがいいわ!】
ヒュ……!
ヴィントが本気でシルバを敵と認識し、姿を消す。レイドさんとカイムさんが目を泳がせながら音と気配で姿を追う。
「焦っているのか? 動きは速いがシルバを狙っているのが丸わかりだ!」
「そこです!」
【小癪!】
「ワォオン!!」
レイドさんの剣を前足で受け止め、カイムさんのシュリケンを口でキャッチし投げ返すという驚異の動きを見せ、シルバの体当たりに対し、体当たりで反撃をしていた。
「ガウゥゥ!」
【むう! 互角だと!?】
怯むことなくそのまま突っ込んだシルバはガサガサと地面を転がるが、ヴィントもまたその場から動くことができないようだった。
「す、すごい……」
「きゅきゅーん!」
「もう! シロップは大人しくしてなさい!」
私に襲いかかってきたシロップを空中でキャッチし、そのまま頭を押さえて拘束すると、ジタバタともがきはじめた。そこに後ろからエクソリアさんが珍しく驚いた声で呟くのが聞こえてきた。
『あれは……あの力はルア様の世界の……まさかソレイユが……』
『だとしたら他意はないでしょうね、天然だもの。前世の力を呼び覚まされたのは本当に偶然だと思うわ』
私には何のことか分からないけど、前にチェイシャがレジナのことを別世界で死んだという話を通訳してくれたことがあった気がする。その名残、ということかしら?
足を止めてレイドさん達の攻撃を凌ぐヴィントが、シルバのみを標的に変えたようだ。
【この強さ、何があったか分からぬが危険だ……一撃で仕留める……!】
「……!? まだ上の速さがあったのか!? どこだ……!」
「オォォォォン!」
レイドさんが完全に見失い狼狽えていると、シルバが一度吠えた後……姿を消した。
「あれ!? シルバ!」
【馬鹿な!? この私の全力に追いつくだとぉ!?】
「ガウゥッ!」
声はすれども姿が見えず、重い打撃音が円を描くようにそこかしこで聞こえてくる。戦闘能力はほぼ互角、こっちにはレイドさんや私がいるけどこのスピードじゃ手助けができない……!
「せめて補助魔法が使えれば……」
私が呟くと、エクソリアさんが何かに気付いた様に魔法障壁を叩きながら声をかけてきた。
『そうだ! 今のシルバはフェンリルと互角、ならシルバを元にした補助魔法として使って見たらどうだ!?』
「え、ええ?」
素早い象徴としてフェンリルが存在するなら、互角であるシルバなら理屈は通るけど……ええい! いいや! やってみるだけやってみる!
「げ、幻狼王、アクセラレータ? 何かしっくりこない……何だろ、速いシルバ? う、うーん……」
その時、何故か頭に浮かんだのはフレーレだった。
ダジャレが多いけど、ネーミングを色々つけるのは彼女のお得意技……フレーレなら何てつけるだろう……?
ファスト……スピード……あ! これだ!
私は意を決して、自分自身に新しい補助魔法をかける!
「≪クイック・シルバ≫!」
その瞬間、ぐっと体に力が湧いてくる! フェンリル・アクセラレータよりも魔力が減るのを感じたけど、これならいける!
シロップを抱え込んだまま私は足に力を入れ、見えるようになったシルバの元へ一気に駆け出した! だけど……!
……げげ!? は、速すぎる!?
「シルバ! ちょっと離れてぇぇぇ!?」
「わぉん!」
「ルーナ!? あれ、どこだ!?」
速すぎて見えないらしく、レイドさんがきょろきょろしている中、シルバはしっかりこちらを認識してくれていた。一歩下がったのを見計らって私はダン! と、地面を蹴って飛び蹴りを放った!
「このブーツは痛いわよ!」
【んなにぃぃぃ!? ぶあ!?】
グシャっと首根っこにヒットし、いい感触が足に伝わるが、毛が厚いせいか致命打にはなっていないと実感する。
「痛っ!?」
「あそこですレイド殿!」
「いつの間に!?」
動きが止まり、私はバランスを崩して地面に倒れ込む。ヴィントは少し怯んだものの、私への反撃に移るには十分な距離だった。
【邪魔をしおってからに……! 死ね……!】
ヴィントが倒れた私に噛みつこうとし、シルバがそれを阻止しようと動く。だが、一瞬ヴィントの方が早い、これはやられる……そう思った時、ヴィントの体がガクン、と、後ろへつんのめった。
「きゅふふぅぅぅん……!!」
【な、なんと……!? ハッ!?】
見ればラズベがヴィントの尻尾を噛んでぐっと踏ん張っていた! フェンリルの娘だけあって、一瞬動きを止めるくらいには力があったらしい。
――たかが一瞬。だが、その一瞬が勝敗を決した。
シルバにはその一瞬があれば十分だったのだ。
「アォォォォン……!」
<ええ!? 嘘でしょう!?>
【しま……】
ゴキン!
シルバは空中にいるジャンナを蹴って加速し、右前足を全力でヴィントの顔面へ叩きつけた! 鈍い音がした瞬間、ヴィントは白目を剥いてぐらりと体を横に倒した。
ズゥゥゥゥン……。
地響きにも似た音を立てて巨体が倒れ、腕の中にいたシロップがビクンと跳ねて大人しくなった。
「きゅきゅーん……」
「シロップ?」
目を瞑ったシロップはそのまますやすやと寝息を立て寝てしまった。これで呪縛も解けたかしらね?
「た、倒したのか?」
レイドさんがゆっくり近づいて来て私とシルバに声をかけてくると……。
「わん!」
尻尾をパタパタ振りながらシルバは元気よく鳴いた。
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