パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その266 頂上

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 「ガウ!」

 「わんわん!」

 蛇との戦いが終わった後、蛇が逃げた先を追いかけるように進むと、来た道よりも広い通路になっていて屈んだりする必要が無かったのは幸いした。代わりに分岐路が多かったけど、レジナとシルバが蛇の匂いを覚えていたようで淀みなく進んでいく。時間はすでに二十時をすぎたところだった。
 
 「そろそろ代わりましょう」

 「ニールセン殿……申し訳ない、宜しく頼みます」

 「……ふう……はあ……」

 フレーレの容体は良くならず、ついに言葉を発することなくずっと目を瞑っていた。重い風邪だと肺炎を起こすかもしれないから私はとにかく心配で背負われているフレーレの手を握りながら歩いてるのだ。

 「頑張ってね、五十階までいけば転移陣で戻れるから」

 「ふう、ふう……あ、ありがとうございますルーナ……」


 さらに歩を進め、そろそろ二十二時になろうという時間に睡眠と休憩を取ることにする。私はカバンからハイポーションを取り出して寝かせているフレーレの身体を起こして口に含ませた。
 ヒールのようなケガを治す魔法と違い、ポーションは身体の中から回復を促してくれる薬であるため、飲ませておけば良くならなくても、酷くなることは無いはず。

 「んく……んく……すぅ……」

 「眠ったか」

 お父さんが声をかけてくれ、私は頷きながらフレーレの頭の後ろにカバンをおいてゆっくりと寝かせていた。

 「大丈夫かしら……」

 <……まだ大丈夫だっぴょん。まだ……>

 「リリー?」

 寒さで震え、大人しかったリリーがフレーレの懐に潜り込みながら呟くと、そのまま一緒に寝てしまった。シルバ達も心配なのか、みなフレーレに寄り添って寝そべっていた。

 『……』

 エクソリアさんがその様子をじっと見ていたのが気になったけど、パパの言葉で意識をそちらに向けさせられた。
 
 「どうだ、カイム?」

 「……このまま進めば外には出られそうですね。風の音が強くなってきました。ただ、出口に何もいなければいいんですが……」

 「なら俺とディクラインさん、ヴァイゼさんで前を固めよう。カイムとニールセンはフレーレやルーナ達を頼むよ」

 「分かりました」

 「さあさ、そうと決まったら休むわよ。白い狼に絡まれたらまた厄介だしね」

 「雪は腐らないからなあ……」

 ママがご飯を食べてすぐに寝転がり、セイラもそれに続く。フレーレの頭に布と雪を乗せて冷やし私もその隣でレジナの尻尾を枕にして寝ることにした。さっきよりも顔色が良くなっていたのはホッとしたかな?

 身体の疲れは正直だ……目を閉じるだけですぐに眠気が……ぐう……。



 ◆ ◇ ◆


 ――たっぷり、とはいかないものの五時間ほどの睡眠をとってさらに突き進む。毎回起きる度に補助魔法をかけてあるけど、上級はいざという時のためにとってあるので基本的に持続時間の長い初級で濁している。戦闘が多かったら考えないとだけどね。

 <あ! みんな、出口みたいだ!>

 あまり疲れがみえないファウダーが、振り返らずに叫んでいた。確かに先を見ると光が差していることが分かり、私達の足取りが少しだけ軽くなった気がした。

 「……ディクラインさん」

 「ああ、どうやら終点らしい」

 「どうしたの? ……!?」

 前を歩く二人がそんなことを呟き、何事かと聞こうと並び立った時、全身に鳥肌が立った! この先に何かいる……!

 『昨日の蛇がボクの思っているやつだとすると、この先にいるのは……』

 『遅かれ早かれ分かることよ、妹ちゃん。自分たちの目で確かめましょう』

 「寒いはずなのに冷や汗が出るわね……」

 女神姉妹が意味深なことを言い、セイラが杖を握りしめながら身を震わせていた。


 そして洞窟から出るとそこには……。


 「花畑?」

 ママがポカーンと口を開けて言葉を出すが、それはみんな同じだった。さっきまで雪山だったのに、今出てきた場所は広大な花畑で、嘘みたいに暖かかった。

 <痛っ!?>

 「きゃ!?」

 「どうしたの?」

 ジャンナとセイラが、外に出ようとすると見えない壁にぶつかり出ることができなかった。アルモニアさんとエクソリアさんも同様らしく、忌々しげに見えない何かを叩いていた。

 『しまった……!? 狡猾な罠を仕掛けてくれる! 気をつけろお前達! ここはすでに五十階だ、来るぞ!』

 「え!? ……一、二……そういうこと!?」

 「ガウゥゥゥ……!」

 エクソリアさんが叫んだ意味がすぐに解り、私は戦慄する。ファウダーが最初に飛び出た後、レイドさん、パパ、私、ママ、そしてカイムさんと後ろを守っていたニールセンさん……。これで六人。

 そう、この出口は……。


 【来たか】

 ゾクリ。

 声をかけられた途端、背中がむずむずとかゆくなり、ゆっくり振り向く。

 いつの間に居たのか? 道中で会った白狼を何倍にしたらいいのだろう? そんな巨大な体躯をした赤い眼の狼がそこに立っていた。


 「お前が、ここのボス、か?」

 レイドさんが声を振り絞って尋ねると静かに答えた。

 【左様。五十階を預かる……フェンリルのヴィント。そして……】

 【先程は世話になったな。我はヨルムンガンドのホーゼだ】

 空から急降下で降ってきた蛇と共に名乗りをあげていた。そして、ヴィントがさらに口を開く。

 【この世界に来たときにはぐれた私の娘を連れてきてくれたこと、まずは礼を言おう】

 「……娘? あ!」

 「きゅふん! きゅふん!」

 ヴィントの足元に、なんとラズベがいた! そういえば目が赤いのはそっくりだわ……。

 【神裂に捨てられたのだと推測していたが、ここから出ることが叶わなかったのでな。そうしているうちに塔の中で娘の気配がしたので、返してもらったという訳だ】

 「……なら、命の恩人ってことでここを通しちゃもらえないかね?」

 【悪いがそれはできん。ここから去るのを見逃すくらいはできるが】

 【我等のように人型でない者はテイムされているに等しい……神裂には逆らえないのだ】

 【余計なことは言うな、ホーゼ】

 【……】


 「……残念だ。なら、力押しで通らせてもらう!」

 レイドさんが構えたその時、私は重要な事に気付いた。

 「ちょ、ちょっと待って! シロップは……ラズベと一緒にさらった子はどうしたの!?」

 【それはな……】

 ヴィントが喉を鳴らすと、ガサガサと草むらを分けて私達の前にシロップが立ちはだかった。

 「きゅきゅーん……!」

 「わん!? わんわん!」

 「ガウゥゥゥ!」

 シロップは牙をむき出しにして私達を威嚇してくる。

 【その子狼は私の力で強化しているぞ。さあ、殺さずに戦えるかな? いけ】

 「目を覚ましなさいシロップ!」

 「きゅ! きゅきゅーーん!」

 シロップの遠吠えと共に戦闘が開始された! 
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