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最終部:タワー・オブ・バベル

その263 警戒

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 「ガォォォォン!!」

 アゥ!? アォォォ……

 ザシュ! ブシュ!

 「わぉぉぉぉん!」

 バシャ! ザブリ!

 レジナとシルバの鋭い爪と牙が、レジナよりも少し大きい白い狼の身体をズタズタにしていく。先程ケガを負ったのは恐らく不意打ちを受けたからなのだろう。それくらい二匹の気迫と攻撃は鋭く強かった。

 「たあ!」

 「こんのぉ!」

 「囲まれるなよ、一斉にかかられたら流石に危ない」

 フレーレとセイラ、パパがしんがりを務めながら少しずつ前進をしながら戦闘を続けているが、どこからともなく湧いてくるのでキリが無かった。

 「それほど強くないですが、一向に減りませんね!」

 キャン!?

 カイムさんが白い狼の首を刎ねながらボヤく。

 「もう何体倒したか分からんな……! でやあ!」

 レイドさんが二体同時に胴体を切り裂いた所で、ファウダーが巨大化し氷のブレスで数体を凍らせ、叫んだ。

 <埒があかないからここは逃げよう! 空までは追い掛けてこないはずだよ! カァァァァ!>

 ギャン!?

 「ルーナ達が先に乗れ、俺は最後でいい」

 「ありがとうお父さん! フレーレ、セイラ、ママ!」

 「分かりました!」

 ピューイ!

 私もファウダーの背中に乗りながら、戦い続けるレジナとシルバを口笛で呼びもどす。

 「レジナ! シルバ!」

 「……ガウ!」

 「わん!」

 フレーレ達とファウダーの背中に乗っていると、ジャンナも巨大化し、レイドさん達を乗せる準備ができていた。

 <こっちも早く!>

 「助かる! ……しつこいぞ!」

 「仕上げといこう、極・煉獄剣」

 キャン!?

 ギャワン……!

 お父さんが剣を振ると、地面に炎が走り追尾するように狼達を燃やしていきジャンナの背中へと飛び乗った。

 <みんな乗ったね? 飛ぶよ!>

 バサ……バサ……



 「ふう、危なかったわね」

 「あ、でもまだ追ってきてますよ。本当にしつこいですね」

 私が一息つくとフレーレが下を見てうんざりした様子で呟いた。私も下を見ると、確かに五十は越える狼の群れがずっと追跡してきていた。

 「少し減らしておけないかしら? ……それ!」

 ビシュ!

 アォォォォォン!!

 弓で何頭かの眉間を撃ち抜いて絶命させるが、焼け石に水状態で、むしろ怒らせてしまったかもしれない。
 
 「これじゃ下に降りられないわね」
 
 セイラも魔法で攻撃をしてくれていたが、キリがないと諦めていたその時、ジャンナが声を出していた。

 <大丈夫、前に断崖と林があるわ>

 ジャンナの言うとおり、断崖や木が入り組んだような場所になっており、身を隠しながら進む事ができそうだった。崖と崖の間は若干迷路みたいにも見える。

 「まさか本当に五十階まで直通なのかしら?」

 ママが上を見上げていると、横で並走してたパパが同意する。

 「恐らくそうだろうな。これは勘だが、ここは一つの『山』を想定して作られているのかもしれない。気付きにくいが、雪原は緩やかではあるが坂になっていたからな」

 確かにそう言われればジャンナのいた神殿の霊峰によく似ている気がする。もっとも、ここのように断崖は少なかったけどね。


 ――その後しばらく上に向かって飛んでいると、やがて狼達の姿が見えなくなった。流石に断崖を飛んで移動している私達には追いつけなかったようだ。

 ホッとして時間を見ると、すでにお昼はゆうに越えており、緊張状態で時間の感覚が無かったのを実感するとともにお腹がぐぅ……と鳴った。

 <丁度いい洞窟があるね。あそこで休憩しよう>

 ファウダーが休むのに丁度いい洞窟を見つけ、レイドさん達が先に降りて危険がないことを確認してくれたので、ジャンナもゆっくりと羽を降ろした。

 「俺が表を見ておくから、ゆっくりしていいぞ」

 「すまないな、ヴァイゼ」

 「後でお茶の一杯でも出してくれればいいさ。ついでに付近も見ておくか」

 「ガウ」

 お父さんが洞窟の外へ行こうとすると、レジナがそれに着いていこうとしてひと声鳴いた。尻尾が不安定に揺れているのでシロップ達が心配なんだと思う。

 「……そうだな、お前はじっとしていられんか。行くぞ」

 「ガウ!」

 お父さん達が外に出ていくのを見届けてから私達は遅い昼食を始める。献立はビーフシチューにパン、それにサラダとシンプルだけど温まるものをチョイス。洞窟の中なので匂いが漏れることも無いとふんでのことである。冷えて疲れた身体にシチューが入ると一息つけたと感じることができた。少し落ち着いてきたところで私はポツリと口を開く。

 「それにしてもどうしてシロップとラズベだけ連れ去ったのかしら?」

 「わん! わん!」

 シチューでべたべたになったシルバの顔を拭いていると、ニールセンさんが顎に手を当てて考え込む。

 「若い雌、だからでしょうか? あの真っ白い狼達は生物ではなさそうでしたが、もしかするとボスがそれを欲していたというのは?」

 「今までにいなかった動物型のボスってことか。そうなると本能で襲ってくる魔物は手ごわいからな注意が必要だな」

 レイドさんが最後の一切れを口に放りこみながら言うと、パパが物騒なことを言いだす。

 「もしくは餌、か……」

 「わん!? わんわん!」

 「あ、痛っ!? 冗談だ! 噛むことはないだろ!」

 「今のはディクラインが悪いわね」

 ママがため息を吐いてあきれた声を出し、私達はシルバに噛みつかれたパパを見て笑っていた。

 昼食を取った後、まだ夕方にもなっていないので再び上を目指す。ファウダーとジャンナの活躍のおかげで、結構距離を進むことができ、ある程度登ったところで下を見るとパパの推測である『山』になっていることが確認できたりもした。

 今は何階にいるんだろう……四十五階ならまた何かいるはずだけど……。


 <暗くならないのも考えものね。時間は? 野営をするならいい場所を見つけておくけど>

 ジャンナが時間を聞いて来たので確認するとすでに二十三時を回ろうとしていた。山だけど、ここはあくまでも塔という扱いらしく、暗くなることは無いようだ。

 「そうね……狼が襲ってこないとも限らないし、さっきみたいな洞窟があればいいんだけど……」

 私達が下を見ていい場所が無いか確認すると、フレーレが叫んだ。

 「あそこでどうですか?」

 フレーレが指さした先は木々の間から少し開けたようになっていて、テントを立てるには問題なさそうな地形だった。

 <洞窟も無いし、あそこにする? 開けているから警戒は必要だと思うけど」

 「交代で見張りをすれば大丈夫だろう、狼の群れに襲われるようなら最悪テントを捨てて逃げるしかあるまい」

 <オッケー! それじゃ降りるよ>

 レイドさんの言葉で降下し、私達はせっせとテントを作り、火をおこす。

 『……生き返る……』

 「大人しいと思ったら寒かったんですね?」

 『ああ……シロップが誘拐されたのに情けないと思うが女神も万能ではないからね……』

 エクソリアさんが鼻水をすすりながらシロップとラズベの心配をしてくれていた。

 無事でいてくれるといいけど……。

 だけど今は進むしかない。そのための体力を回復させるため、しっかりと休むことにした。

 しかし、やはりというべきか。この山越えを一筋縄で通してくれる気はないようで……。
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