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最終部:タワー・オブ・バベル
その260 行軍
しおりを挟む「お、帰ってきたでありますな」
四十階へと舞い戻るとウェンディが再び出迎えてくれた。
「また行ってくるわ、今度こそしばらく戻らないから! ……ちょっと時間が勿体なかったけど、ここできちんと準備をしておけば大事にはならないと思うし」
せっかく朝イチで出たのに大きなロスになってしまったことの言い訳のようにも聞こえるけど、実際あのまま進んでいたら風邪では済まないと思うしね。
「男性陣は中々おしゃれに……女性陣は可愛くまとめたでありますな……うう、自分も可愛いのを着たかったであります……」
「ま、まあ機会はあるわよ……ウェンディは背が高いし、色々似合うと思うわ」
さめざめと泣くウェンディを尻目に私達は階段を登っていく。最初はまだ寒い所では無かったので暑かったけど、四十一階に到着した途端、一気に涼しい状態へと変化する。
「わん♪」
どうやら入り口付近で遊んでいたらしく、シルバが私の足元でぐるぐると回り始め、ブーツの先を噛んで引っ張ってきている。
「遊ばないからね? もう十分遊んだじゃないの?」
「くぅーん」
少し先を見れば、雪の塊に穴をあけて家のようにしたかまくらの中でお父さんとレジナがくつろいでおり、シロップとラズベは疲れたのかぐでんと転がっていた。
「帰ったか」
「ただいまー!」
「戻りましたよ!」
<ぴー。おかえり。暖かそうな格好になってきたわね>
「はい! この服、裏が羊の毛を縫い込んでいて暖かいんですよ。手袋も買っちゃいました!」
フレーレはローブに合わせたのか、コートほど長くない白い上着で、前にポンポンがついている可愛らしい感じの服だ。
ママはパパに買ってもらったコートで、セイラはフード付の青い上着という感じである。
『ふう……ふう……。さ、進みましょう。シルバは遊んで疲れてるみたいだから私が抱いて連れて行くわ……ふう、ふう……』
「わん! ……わん……」
『ならボクはシロップとラズベを……ふう、ふう……』
「きゅ、きゅん……」「きゅふん……」
女神姉妹がゆっくりと狼達を抱きにやってくるが、一瞬喜んだシルバ達は女神二人の姿を見て後ずさっていた。それも仕方ない。あの後さらに着込み、もはやもこもこではなく、ただのおデブさんなのだから……。
「わんわん!?」
『あ!? ちょっとシルバちゃん!? 待って……ぶべ!?』
『ははは、姉さんはドジだなあ……ぎゃ!?』
「あーあ……流石にそれは無理ですよ、少し減らしましょう? 服はカバンに入れておきますから……」
どたどたとシルバ追いかけようとしてすっころぶアルモニアさんを笑いながらエクソリアさんも顔から雪へとダイブした。
とりあえずここまではスルーしてきたけど、やはりあの状態ではまともに動けるはずもない……しかし提案に対していやいやと首を振るので私とフレーレで最小限の防寒具まで身ぐるみを剥がした。
『さ、寒い……!? 女神にこんな仕打ちをするなんて、鬼! 悪魔!』
「魔王ですけどね。で、お父さん、ここはどう?」
かまくらに逃げ込んで抗議の声をあげるアルモニアさんを無視して私はお父さんに何か変わったことが無かったか聞いてみる。
「気になる点は今のところないし、魔物に襲われることも無かった。が、見ての通りそれ以外も何も無いから階段を見つけるのが最大の難関だろう」
「そうですね……風があるから目印になるものを置くのも難しいですし」
カイムさんが目を細めて遠くを見ているが、本当に何もなさそうだった。それに合わせてエクソリアさんが話しだした。
『こういうところだと人は無意識に円を描くように歩いてしまうことがあるから、そこのかまくらみたいなものを途中で作っていくといい。雪ダルマでもいいかもしれないな』
「やれやれ……塔だからどこかで壁に当たるのが幸いか……時間も惜しい、行こう」
「では前は私が行きましょう。前回お役に立てませんでしたからね」
ニールセンさんがレイドさんの隣に立ち、前へと進み始め、私達がそれに着いて行く形になった。ざくざくと一時間ほど歩いたが、特に何も見えなかった。するとフレーレが立ちどまり手をポンと打った。
「そろそろここで、目印の雪ダルマを作りましょう♪」
何かフレーレの中で楽しいと感じることがあったのか、いそいそと雪ダルマを作り始め私達はその間休憩をすることにした。
「ごめんねファウダー、結局、子狼達を連れてもらって」
<大丈夫だよ。こいつら軽いからね>
<楽できるっぴょん! 最初からファウダーを連れて来るべきだったぴょん>
<ぴー。ファウダーの背中はわたしのよ! あんたは降りなさい!>
遊び疲れてしまった三匹は歩きながら途中でうとうとし始めたので、カバンに首だけ出して詰めてからファウダーに大きくなってもらった後、狼が入ったカバンを首から下げさせてもらったのだ。そしてその背にはリリーとジャンナがじゃれあっていた。
「しかし見事に何もないな」
「そうねー。でもこれだけ寒かったらそれだけでかなり体力を持っていかれるし、魔物が出ない内に進んでおくべきね」
「そうですね。後、今後は雪ダルマが見える距離で次の雪ダルマを作った方がいいですね。じゃないと真っ直ぐ進んでいるかどうか分かりませんし」
パパとママ、それにカイムさんが暖かいお茶を飲みながら進むべき方向を見て呟く。これが五十階まで続くと思うと結構しんどいので確かに魔物が出ないのはありがたい……。
「できましたよ♪」
しばらく温まっていると、フレーレが雪ダルマを完成させたようで手を振って私達を呼んでいた。何がそんなに楽しいのか……寒いのに……と、思っているとレジナがフレーレの元へ駆け出した。
「ガウ!」
「あれ? レジナ、どうしたんで……きゃあ!?」
「レジナ!? フレーレ!」
駆け出したレジナはフレーレに体当たりをし、フレーレは尻餅をつく。そのままフレーレの襟を咥えてからその場を離れた。
その瞬間……
ゴッ!
「ああ!?」
フレーレの立っていた場所が盛り上がり、巨大な腕が現れて雪ダルマを粉々に吹き飛ばした! あのまま立っていたらフレーレも一緒に吹き飛ばされていた。
「あ、ああ……雪ダルマが……」
『! 何か出てくるぞ』
フレーレががっくりとうなだれている横でエクソリアさんが声をあげる。すると、ゴゴゴ……と音を立てながら、氷で出来た巨人? が、全身を出していた。
『アイスゴーレム、ってとこかしら。やっぱり一筋縄では通してくれないようみたいね』
「ゴーレムにしてはでかいがな……まあ一体ならいけるだろ」
「足を狙って崩しにいくぞ、ニールセン」
「ええ!」
オオオォォォォ!!
「……許さない……!」
「ちょ、落ち着きなさいよ!? ああ、後から手伝ってあげるから!」
「ホントですか!」
今までに見たことがない顔でアイスゴーレムを睨みつけるモーニングスターを握りしめたフレーレをセイラが宥めていた。あのままだと特攻していきかねない感じだった……。
オオオォ!
ドスン!
「ひゃ、危な!? まったく、休憩中なんだから空気を読んでよね! 煉獄剣!」
私は剣に炎を宿し、それを合図にアイスゴーレムとの戦闘が開始された!
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