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最終部:タワー・オブ・バベル
その259 買物
しおりを挟む「魔物は居ないし、天候も悪くない……俺は寒さなどには影響されないからルーナ達は戻って準備を進めてくれ。狼達ははしゃいでいるからしばらく戻るまい。面倒を見ておくよ」
「うーん……気をつけてね? レジナ! ちゃんとシルバ達を見ておくのよ!」
「ガォォン!」
「わんわん♪」
「きゅふん!?」
<オイラも残るよ。コールドドラゴンに寒さは関係ないし>
<ぴー。ならわたしも残るわね。一応炎の鳥だから寒くないの>
羨ましいことを言いながらファウダーとジャンナ、それとまたお父さんが居残り、私達は防寒対策をしに階段を降りる。こんなことで時間を取らせてくるとは……本当に嫌がらせに近くなって気がする……。
「あれ!? もう戻ってきたでありますか!?」
四十階へ戻ると、訓練の最中だったウェンディが驚きの声をあげて目をぱちくりしていた。それもそうだろう、まだ三十分も経っていないし……。
「四十一階が豪雪地帯で防寒対策をしないと進めそうにないの。最悪町に買いに行かないとダメかも……」
「ふうむ、この季節に防寒具を持ち歩く者はいませんからね。敵も考えているでありますね……隊長に聞いてみてはいかがでしょう? 隊員に色々持って来させていたと思うので、もしかしたらあるかもしれません」
「ありがとうございます! エリックさんは外に?」
「はい、今日は拠点にいるはずです!」
ウェンディに見送られ、早速転移陣へと入りすぐに拠点へと帰還。エリックはすぐに見つかった。
「あれ、随分早いねー? んー? 防寒具? 確か持ってきていたと思うけど……」
「ホント!? ちょっと貸してくれないかしら? 塔を進むのに必要なのよ」
エリックが頷き、部下に指示を出すと倉庫みたいな小屋へと走って行った。いつの間にかあんなものまで……。
「しばらく待っててー。それまで休憩しておきなよー」
ここは待つしかないので、お言葉に甘えて私達は焚き火のある拠点の中央に戻っていた。
「まさかいきなり足止めをくうとはね」
セイラが杖で地面をトントンと苛立たしげに叩きながら言い、それをフレーレが困り笑いを浮かべながら窘めていた。
「まあまあ。それにしても塔の中に雪は凄いですね」
「ああ、俺もルーナを助けに行くとき、雪山で吹雪に巻き込まれたけどあれは危なかったな……先に進むと吹雪があったりするかもしれないから気を付けるべきだ」
レイドさんが腕を組んで頷いていると、パパが何かを思い出したかのように声を出した。
「そういえばあの移動道具屋の親子。あいつら、霊薬を持っていたくらいだし防寒具くらいもってそうじゃないか? 何かいい物ないか聞いてみよう」
「あーそういえば居たわねそんなのも……」
「あはは……」
ママが辛辣なことを言いながらも道具屋へ移動を開始する。この道具屋も最初は魔物に襲われないように奥の方に置いていたけど、騎士や冒険者達が多いことを悟ったからか今は入り口付近で騎士達相手に商売をしている。
「おや、あんた達かい。珍しいな。何かいりようか?」
えーっと……イゴールさん、だっけ? が、ニコヤカに笑いながらこちらに話しかけてきた。その顔で笑うとちょっと怖い……。
「ええ、ちょっと豪雪の中を進みたいんだけど滑らない靴とか寒さをしのげる服とかあります?」
「豪雪……こんなに晴れてるのにか……? 塔ってのは分からんもんだな……まあいい、客の求めるものを提供するのが道具屋ってもんだな! あるぜ、割といいやつが」
イゴールさんが自信満々で出してきたのは男性には皮張りで裏地が毛皮の上着、女性には毛皮のコートが紹介され、さらに狐を模した襟巻に手袋や毛糸の帽子といった確かに防寒できるものだった。
とりあえず目を引いたのは体が温まるポーション『ヌクナール』で、飲めば一日寒さに対して抵抗が持続する代物だそうだ。これは奥さんが作ったらしい。
「ふん、要るならもっていくがいいさ。どうせ、大した材料は使っていないしね。コートはちょっと値が張るけど、女はいつでも身だしなみに気を使わないといけないわよ」
ヌクナールは一本銅貨五枚でいいそうだ。上着とコートは一着金貨五枚……人数分を買うと結構な金額になりそう……。
「アイディールに一着頼む」
「あら、いいの?」
「まあ……たまには……」
パパが羽振りよくコートを買っていた。
確かにパパは勇者パーティ時代で貯めたお金はあるけど……それ私が仕送りした分が入ってない……?
「ルーナは買うんですか?」
「うーん、手袋と厚手の服でいいかな……どちらかといえば滑らない靴が欲しい……」
「滑らない靴ならこれはどうだい?」
イゴールさんが出してくれたのはブーツだった。でも足の裏には金属のギザギザがいっぱいついていておろし金のようになっていた。
「これは?」
「このギザギザが氷や地面にしっかりと食い込んで滑らなくなるってブーツさ! お嬢ちゃんはブーツだから丁度いいんじゃねぇかと思ってな」
「へえ、いくらなんですか?」
「銀貨五十枚でいいよ」
それならと、私はお財布を出そうとしてカバンをごそごそしていると横からお金を払ってくれる人が……!
「俺が出そう」
レイドさんがお金をイゴールさんに渡し、毎度という掛け声とともに私の手にブーツが渡された。
「レイドさん、いいの? ぶっ!?」
「ああ、これくらいどうってことないよ。ディクラインさんじゃないけど、それこそたまにだからね」
と、私の大事な人が狐の襟巻を首に巻いてドヤ顔をしていた。何でも雪山でチェイシャを襟巻にしたことがあるそうで、それを思い出したらしい。やっぱりレイドさんも気にしているのね。
「あ、いいですねー。わたしも何か買ってみようかな」
「あ、あの、フレーレさん私が……」
「あー、こんなところにいたんだー。用意できたよ防寒具! 色々あるから自分に合うヤツを使って」
するとそれに気づいたフレーレが声をかけようとしたカイムの横を通り、物色を始めた。カイムさん、頑張って……。
私達も他に欲しいものがあるかもと、物色していると横からエクソリアさんが私達に声をかけてきた。
『時間は無いが万全な対策を取らないといけないからしっかり吟味するんだぞ?』
『妹ちゃんの言うとおりよ。私達は病気にならないけど、あなた達は風邪を引くだけでも戦力ダウンなんだから』
「はい! ありがとう……ござ、います……」
珍しくいいことを言うなあと、お礼を言うため顔を上げると、そこには着ぶくれしてもこもこになっているエクソリアさんとアルモニアさんがいた。
そういえばずっと喋ってなかったけど……寒かったのね……風邪は引かないけど寒いのは寒いようだ。
さて、少し時間をロスしたけど、これで雪原は問題ないわね。
後はどんな罠が待っているか……私達は再び四十一階へと向かうのだった。
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