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最終部:タワー・オブ・バベル
その258 奮起
しおりを挟む「おはよう……」
「がう……」
「わんわん!」「きゅきゅん!」「きゅふぅぅん!」
「ルーナ。今日は早いですね? いつも寝坊するのに……」
余計なお世話だけど、フレーレにはよく起こしてもらっているので私は顔で不満を出しつつテーブルに着いた。
「昨日はご飯も食べないでレジナ達と眠っちゃったからお腹が空いてね。チェイシャが居なくなったのはショックだし、まだ引きずってるけど、メソメソしててもチェイシャは帰らないし……」
「神裂は倒せないですもんね」
私の言いたかったことをフレーレは真面目な顔で続けて言う。よく見れば目が赤い……私と同じく部屋で泣いていたのだと思った。
「うん。チェイシャの故郷、サンドクラッドを救うことにもなるしね」
フレーレの用意してくれた朝食を食べながら私達はチェイシャとの思い出を語り合う。寂しいけど、全てが終わるまで立ちどまる訳にはいかない。
だから今は、ありがとうチェイシャ。
◆ ◇ ◆
――神裂が世界を破壊するまでの日数は二ヶ月と少し。
改めて数えてみるとバベルの塔に到着してからそれなりの日数が経過していた。塔の中で数日いることもあるし、拠点で過ごしたりもするので感覚が鈍っていたけどそれだけしかないのだ。
チェイシャやお父さんが無理をしたのも恐らくこの日数によるところが大きいのだと思う。期限が過ぎれば、問答無用で世界は破滅……犠牲を出すつもりはないけど、急ぐ必要があるのはその通りなのだ。
「お昼には出発しようと思うんだけど……」
朝食は(何故か)広い女性専用の食堂に集まっていたので、私がその中で手をあげて提案をすると注目が集まった。
「疲れは大丈夫か? 急ぐのは必要だが万全でないと意味が無いぞ?」
パンをむしって口に放り込みつつ私に言うパパ。続けてレイドさんもその意見に賛同していた。
「ディクラインさんの言うとおりだ。後一日は様子を見た方が……」
それに異を唱えて私に賛同してくれたのはママだった。
「私はルーナの意見に賛成よ。一ヶ月程度で四十階まで来れたのは良かったけど、単純計算で次の一ヶ月で八十階しか行けないことを考えると悠長にしている暇は無いわね」
「そうですね、少なくともボス部屋までは一気に行けるように動かないともたもたしていると気が付いたらリミットオーバーということもありえます」
「確かに……」
フレーレとカイムさんも私とママの意見に賛成のようで、深く頷いていた。それを聞いていたパパが目とつぶって考えた後口を開いた。
「分かった。実を言うと、俺はすぐにでも出るつもりだったんだ。チェイシャのことで消沈しているならルーナ達は置いていくつもりだった」
「そうなの!?」
「……昨日、ディクラインさんと話していていてね。本気で行けば勇者二人が全力で進めばいけるんじゃないかと思っていたんだ。もちろん、行きたい人は連れて行くつもりでね」
二人とも気を使ってくれたみたいで、とてもありがたいと思った。でも、私とフレーレは同時に想いを口に出す。
「チェイシャのことは悲しかったけど、今はそれどころじゃない……でしょ(ですよね)?」
「フッ、少し見くびっていたか。よし! それじゃすぐにでも出発だ。昼までに準備を怠ったやつは置いていくからな!」
パパが面白おかしく宣言して、緊張した空気が少し緩和したので私はレイドさんの所へ行く。
「というわけでよろしくね♪ いざとなったら頼りにしてるんだから!」
「ふう……よく言うよ。助けられるだけのつもりもないんだろ?」
「流石! でも、私に何かあったらレイドさん、お願いね?」
「そうならないために俺がいるんだろ、大丈夫だよ。それじゃ準備をしよう、置いて行かれたらたまらないからな。また後で」
珍しく肩を竦めて冗談を言いながら荷物を取りに食堂を出ていく。レイドさんもチェイシャのことは一旦頭から離したようだ。
バタバタと食料や薬、そしてもう使わないであろうテントなどの道具を私のカバンに収納し拠点入口へとフレーレ、セイラと共に向かった。パパとママはカルエラートさんと話をしてから来るらしい。
「カルエラートさんが抜けるの痛いわね」
「盾だったもんね、こっちは守りが少ないから助かってたんだけど」
私とセイラがぼやいていると、少しずつ集まってくる。最後にパパとママが駆けつけ、全員集合となった。
「俺が遅れそうになるとはな。危ない危ない……これで全員か?」
ソキウスとチェーリカはクラウスさんとシルキーさんについて買い出しへと向かったので不在だった。この四人で出ていった理由が……。
<オイラとジャンナが次から参戦するよ!>
<ぴー。よろしくね>
「ありがとう、二人とも。でも無理はしないでね?」
<ははは、オイラ達の心配は大丈夫だよ。これでもかなり強いし、大きさも変えられるからね>
「バステトが残るんですね」
<だにゃ。この最強の虎を力を見せられないのは残念だけど、こっちは任せておくのにゃ!>
<またワイバーンのお肉を頼むっぴょん>
<あまり相手にしたくないにゃあ……>
それじゃ、とバステトに手を振りながら転移陣をくぐり四十階へ出ると、お父さんがあぐらを組んでいた。元の姿で。
「怖いな!? お前がここのボスだって言われたら信じるぞ!?」
「む。ディクラインか。生前の姿を維持するのも疲れるからな、たまにはいいだろう?」
「うん……お父さん……」
「ルーナまで苦い顔!?」
『……冗談はそこまでだ、早く行こう?』
「今回自分はここでお留守番であります。何かあったら呼んでほしいであります!」
ウェンディはビューリックの騎士達とここで待機になった。いざという時に戦力が必要になった時、呼ぶつもりで話しているので準備は怠っていない。
お父さんと合流、ウェンディと別れて登り階段へと足を運んだ。
<オイラが元に戻っても通れるくらいの階段……広いんだなあ>
「とっとと五十階のボスを倒して神裂をびびらせてやりましょ! 罠なんか蹴散らしてやるんだから」
<ぴー……ドラゴンの背に乗って気が大きくなってるわね>
ファウダーが恐る恐る階段を上り、ママがその背に乗ってなんか息巻いていた。それを見てニールセンさんとカイムさんが苦笑い……恥ずかしい……。
そして辿り着く四十一階。
「開けるわよ!」
どんな罠が待ち受けていても押しとおる! 気合十分で臨んだつもりだったけど……
ヒュゥゥゥゥ……
「わん!? わんわん!!!」
「きゅきゅーーーーーん♪」「きゅふん♪」
「ガウ!?」
「あ! シルバ! シロップ! ラズベ!」
扉を開けた瞬間、大喜びで子狼達は中へと入っていき、それを慌ててレジナが追いかけていく。
子狼達は喜ぶだろう……だって、そこは一面の銀世界……雪に覆われたフロアだったからだ。やはり狼も庭駆けまわるのね。
「今度は豪雪地帯か……」
「よっ、と……きゃあ!?」
ステン!
「ルーナ!? 気をつけてくれよ……」
深さはそれほどないけどちゃんと冷たいし、滑りやすい……これは……。
「これは行けるか……?」
お父さんが恐る恐る進むが、この移動ではまるで進んだとは言えない。
「よし!」
「どうした?」
私が気合いを入れて声を出すと、パパが声をかけてきたので振り返って力強く宣言する。
「戻りましょう! これは……無理よ!」
「そ、そうですね。ルーナの足がガクガクしてますし……」
キリッとしながら言ったものの、滑らないようにレイドさんの腕を掴んで足を震わせていたのでかなり情けない。
いきなり出鼻をくじかれる形になり、とぼとぼと雪山などに対応できる装備を整えに拠点へ戻るのであった……。
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