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最終部:タワー・オブ・バベル
その256 別離
しおりを挟むほわん……
アサールが倒れたことで、出口付近の床に転移陣が浮かび上がる。だが、倒せた喜びよりもチェイシャを失った悲しみのほうが大きかった。
「う、うう……チェイシャ……」
「くぅ~ん……」
「わん……」「きゅきゅん……」「きゅふぅん……」
レジナ達が私を慰めようと頬に伝う涙を舌で舐め、鼻をこすりつけてくる。たまらず四匹を抱きしめると、そこにお父さんやリリー、セイラが駆け寄ってきた。
「無事か」
「うっうっ……お父さん……」
<泣いたらダメだっぴょん。チェイシャは前に進ませるために戦ったぴょん>
「分かってる……分かってるけど……」
すると、階下からフレーレやパパ達が上がってきたところだった。
「終わったみたいですね! みなさんの症状がすぐに良くなったからそうだと思いました!」
フレーレが嬉しそうにそう言うと、パパとカイムさんもそれに続いた。
「良くやってくれた。カルエラート、大丈夫か?」
「あ、ああ……でも……」
「レイド殿、流石ですね」
少し苦しげな表情でカイムの言葉を聞き、ニールセンさんもセイラへと話しかけていた。
「……」
「聖女様、どうされましたか? あまり嬉しそうではなさそうですが……」
「ルーナ、どうして泣いているんですか……? それにチェイシャが見当たらない……まさか!?」
「ひっく……うん……人化の法を……使っちゃって……」
「そ、そんな……」
ガクリと両手と膝をついてフレーレも泣き始める。
私とフレーレ、レイドさんは三人でダンジョンに行った時にチェイシャに出会って、そこからずっと一緒にいたんだものね。
私とフレーレが抱き合って泣いていると、エクソリアさんが私達の肩をポンと叩いて話しかけてきた。
『ルーナ達の気持ちも分かるけど、一旦戻って休もうか。ディクライン達も治ったとはいえ、完全ではないしね』
そういったエクソリアさんの顔は優しかった。そして少し離れた所でレイドさんとカイムさん、ニールセンさんが話していた。
「……そうでしたか……アネモネ殿に続き……私は自分が情けないです……」
「なんと、この獣達は女神様の……」
「わん?」
「あ、そいつは違う……」
レイドさんがカイムさんとニールセンさんにチェイシャが消滅したことと守護獣についての説明をしていた。シルバを抱っこしたニールセンさんをレイドさんが訂正する。
「……」
「どうしたのセイラ?」
「ん。あの杖……貰って行こうと思ってね」
<そういえば持ち主が死ねばまた新たな持ち主を探すとか言っていたな>
ママとセイラ、カームさんが魔杖フューネラルを前にしてそんなことを話す。使いようによっては確かに強力だけど……。
「これは私が使うわ。チェイシャの死を無駄にしないためにも使えるものは使わないとね。……正直、ルーナ達より一緒に居た期間が短いから割り切るのは難しくないの……それは謝っておくわ」
少しズキンと胸に刺さるが、私の顔を見てレイドさんが髪の毛を撫でながら口を開く。
「……俺も辛い。だけど、チェイシャは最後笑っていただろ? だから俺達も笑って見送ってやろう。あのポンコツ王女はあの世でも元気にやってるさ」
『えっと、チェイシャ達は……』
『姉さん』
『……』
アルモニアさんが何かを言おうとしたが、エクソリアさんに止められ口をつぐんでしまった。珍しい……それよりもレイドさんの言うとおり、泣いてばかりもいられない。
「レイドさん……うん……」
「そうですよね……」
「面白かったんだけどね、チェイシャ。サンドクラッドではだいぶお世話になったし」
「ミトとモルトに告げるのが辛いな」
サンドクラッドでチェイシャと一緒だったママとカルエラートさんも寂しそうに言う。
「ごめんね、キツイことを言っちゃって。でも、ここで泣いていても世界は救えないからね」
「うん……」
そこでレイドさんがみんなに合図を出す。
「よし、拠点へ戻ろう」
「ガウ!」
私達は束の間の休息を得るため、転移陣へと入っていった。
◆ ◇ ◆
<バベルの塔100階>
「アサールのヤツめがやられましたか……」
『そうだな』
「そうだな、ではありませんぞ!? もう次は五十階……半分は登られてしまいました! やつらが三十階で力をつけなんだらこんなことには……どうされるおつもりですか!」
爺さんが憤慨した様子で神裂に食って掛かると、神裂はくるりと爺さんの方を振り向き、ニヤリと笑った。
『どうするもこうするも無いだろうが。来たら倒す、それだけだ。それに何を心配している? どうせ俺の所まであいつらが来るということは、お前達が全滅した時だ。願いは聞いてやるが、それはお前達のいずれかがあいつらを倒した時だけなんだぜ? それを分かっているのか? 文句があるなら自分で行けばいいだろうが。次はお前が行くか?」
「い、いや……わしは……」
爺さんが口をもごもどさせたのは、戦場に出るのを避けているためである。あわよくば誰かが倒してくれればそれで良し。自分の番が来たときにはルーナ達の数が減っている所を狙いたいと考えているため、パワーアップを許す神裂は主でありながらも忌々しく感じていた。
『なあ、お前はストレスを知っているか?』
「は? え? まあ……」
急に違う話を振られ、爺さんは呆けた顔で曖昧な返事をする。それには構わず、神裂は言葉を続けていた。
『ストレスってのは、体に悪影響を及ぼすものでな。イライラしたり、思い通りにいかなかったりすると溜まっていき、体調を壊したり気がおかしくなったりもするんだ』
「それが……?」
『で、お前の言うあいつらのパワーアップ。それはもう俺に甚大なストレスを与えてくれるわけだ、お前の言うことは間違ってないぜ?』
「それではなぜ敵に塩を送るような真似をするのですか!?」
『そこよ。俺はまだ力が完全じゃない、この調子なら100階まで力が覚醒するまでに登ってくるだろうな。その時俺のストレスはハンパ無い事になる。今も正直ドキドキワクワクしている状態だ』
当たり前だ! わしのストレスもマックスだと、心の中で呟いていると、それを見透かしたかのように神裂がニヤリと笑う。
『そこで、だ。俺のストレスがとてつもないことになった時、そのストレスに『反転』を使えばどうなるかなぁ? 楽しみだとはおもわねぇか? ぎゃーはっはっはっは!』
「そ、そんなことを……だ、だったらわしらは捨て駒か!」
『いんやぁ? これはお前達が負けた時の保険だ。もちろん倒してくれるんだろ?』
「う、ぐむ……」
倒せない、などとは口が裂けても言えない。神裂は爺さん達が勝てるとは思っていないだろう。だが、『反転』を自分達が負けた時の保険などと言われればプライドの高い連中は意気込んで倒しにかかるだろう。
そもそも、倒すことで報酬が与えられるのだから。
「(この男……適当にものを言っているようで、人間の使い方を良く知っておる……)」
『まあ、お前は八十階にでも居てくれ。九十階は……もう任せるヤツがいるんでな』
「……わかりました。それまではわしも高みの見物と行きましょう」
『お、やっと分かったか! そうだ、それでいいんだ。どうせなら楽しまないと損だろ? ぎゃーはっはっはっは!』
「……」
底知れぬ神裂に冷や汗をかきながら、爺さんはモニターを見るのだった。
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